空色少女 再始動編
279 S・スクアーロ
「待てよ!紅奈!」
「走ると水溜まりの上に転ぶよ」
「転ばねぇよ!」
なによ、と紅奈は追い掛けてきたディーノを振り返る。
「ホテルまで…連れと合流するまで送る!外国を一人で歩くのは危ねーし!」
「すぐそこら辺にいると思うから大丈夫よ」
ホテルに行けと言ったが、どうせ彼らは近くで待っているだろう。
彼らとディーノが顔を合わせたら、どうなることやら。
(………どうなるんだ?)
特に困ることはない。
単に紅奈がディーノをめんどくさいと思っているだけだ。
これは家族旅行。
+αで彼らもいるが構わない。
旅行を楽しみたいのだ。
そのαの中にディーノは含まれない。
「あ、あのさ…恋人って…」
「あ、いた」
いた。
予想通り彼らは待っていた。
姿を見付けて、紅奈は駆け出す。
ぱしゃりっと水面が揺れて雫が弾く。
その音に彼らは振り返り、紅奈を見る。
「スク!」
「!!!?」
紅奈は白銀の髪をゴムで束ねた少年の腹に飛び込んで抱きついた。
飛び付かれて少年は驚愕する。
これになんの意図があるんだ。
S・スクアーロはなにか裏があると警戒した。
しかし腹に抱きついた紅奈は、無邪気な笑みで見上げてくる。
こんな笑み、一年ぶりだ。
騙されてはならないと思っても、キュンとした。
「こ……こ…恋人…って!スクアーロ!?」
「跳ね馬!?」
声を聞いてスクアーロはディーノに気付いてギョッとした。
…?
今なに言った?
かつての同級生が叫んだ単語を思い出す。
(こ……?…恋人?…………恋人っ!!?)
一体どうゆうことなんだ!
スクアーロは未だに腹に抱き付く紅奈を見た。
紅奈が抱きついてきてその上同級生が現れただけでパニックだというのに、その同級生が紅奈の恋人だと誤解している。
「恋人のスクアーロ」
「「!!!」」
紅奈がさらりと紹介した。
スクアーロとディーノの中に爆弾が投下される。
「…………紅奈、なんの遊び?」
茅の外に出されていたスクアーロより年下の少年が不機嫌丸出しで口を開く。
金髪にティアラを乗せたベルフェゴール。
「ベル、虹見た?」
弾んだ声。紅奈はご機嫌にベルに問う。
紅奈のご機嫌の理由がわからないスクアーロとベルは首を傾げる。
明らかに数十分前と様子が違う。
短時間で嬉しいことでも会ったのか?
「綱吉待たせてるから、早く行こう」
紅奈が微笑んでスクアーロとベルの手を取る。
物凄く紅奈の機嫌がいいことはちょっと怖いが、紅奈の笑みが見れるならばこのあと悪巧みがあろうと構わない。
とか思ったスクアーロとベルは紅奈に手を引かれて続こうとした。
「あっ紅奈!」
呼び止めるのはディーノ。
「無事合流したけど」
もう用ないだろ、と言わんばかりに振り返る紅奈の顔に笑みはない。
自分だけ笑みを向けられていない事実にショックを受けるディーノ。
そう言えば一年前まで紅奈は無邪気な子供のフリをしていた。
紅奈の外キャラ。
今ではもう誰に対しても愛想を振り撒かなくなったが、今度は冷たい態度を取るようになったのか。
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