空色少女 再始動編
302
「スクアーロ、せっかく変装したのに名前で呼んじゃあ意味ないでしょ」
ルッスーリアがいう。
このバンの中には関係者しかいないが、他のルートで部下の隊員が向かっている。
紅奈だと知られないように変装をしたのだから、他の名前で呼ぼう。
「キングはだめ。王子以外呼んじゃだめ」
ベルはキングと呼ばせなかった。
「なにがいいかしらー、クロネコちゃんとか?」
「黒いけども…」
「モルテ」
「死神かい」
「ん、じゃあ…」
どれも紅奈はお気に示さなかったようだ。
ベルはつい癖で、思い付いた嫌がらせを紅奈にしてしまった。
「ローナ姫」
ブンッ
バンッ!!!
紅奈の手元に戻ったボールが、紅奈の手によりベルの顔面に放り投げられる。
間一髪避けたベル。壁を弾いてボールはバンの中を跳ね回った。
「う゛お゛ぉいっ!やめろ!紅奈!コイツ、血出したら暴れるんだっ」
「お前なに?今日は喧嘩売ってるよな?あ?なにか不満?」
「ご…ごめ……」
紅奈はベルの胸ぐらを掴み、ガン飛ばす。
紅奈と壁に挟まれたベルは本気で殺られると思ったため謝る。
ヒールでベルと紅奈の身長差はいい具合の身長になっていて、いろんな意味でベルは追い込まれた。
激しく近い。
紅奈の発育していない胸がべったりとついている。発育していなくても紅奈の胸であって、悲しいほどぺったんこでも紅奈であって。
ズトッ。
「う゛っ……なん…で…」
紅奈の膝がベルの腹に決まった。
密着していたためベルは紅奈に寄り掛かる。
紅奈は支えることを放棄して離れたため、ベルはその場に踞った。
「なんとなく」と紅奈はさらり悪気もなく言う。
「いいよ。ローナ姫で」
「え…」
「ローナ姫って?」
「ボンゴレ創立時代に、支援していた王族の姫」
紅奈はあっさりルッスーリアに答えた。
驚いてベルは顔を上げる。
「あら、初耳だわ。そんな人物がいたのね」
「それなら聞いたことあるぞ。ボンゴレ二代目が想いを寄せた相手だと聞いたことがある」
「ボンゴレ二代目?」
スクアーロから予想もしなかった情報が出て紅奈は目を丸めた。
「ああ、ヴァリアーの創立者が姫に恋をしていたってな。二代目の憤怒の炎は、姫が死んだ時に覚醒したとか」
「…それは初耳だ」
噂程度なため、スクアーロは曖昧に答える。
紅奈は元いた場所に座る。
あの海底で見た姫君の記憶しか、はっきり覚えていない。
ボンゴレ二代目も、姫君に会いに来ていたのだろうか。
しかも、姫君に恋か…。
ローナの死は、多くの者に悲しみを与えたようだ。
「大丈夫?紅奈。やっぱり疲れてる?」
何故かビデオカメラを向けているルッスーリアに訊かれて紅奈は顔を上げる。
「全然。ちょっと考え事。ルッス、紅奈じゃなくてローナだよ」
笑って見せた紅奈を、ベルは見つめた。
自分からローナ姫の話をするなんて。このまま前世の話までするのかと思った。
「いいわよねぇ、ローナ。肌つやつや」
「まだ子供だからね」
「だからって寝不足はだめよ!」
「普段はちゃんと寝てるよ」
「お肌の手入れは?」
「してないよ、子供だよ」
(こんなときだけ、子供発言…)
「まぁ!だめよ!今はつるぷるでも十年後は潤いがなくなるのよ!」
「十年後もまだ潤いがあるはずだけど……」
「だから今からケアが大事なのよ!」
今度はくどくどとルッスーリアが美容ケアについて話されるのだった。
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