空色少女 再始動編
507
(いやでも、紅奈が堂々とマフィアを名乗れるなんて………前進した実感が、ジーンと来るぜぇ…)
胸にジーンとする思いを覚えるスクアーロ。
「ま、いっか。楽しかった」
一応、正体を明かしての驚かしには満足した紅奈は、一つ頷く。
「それじゃあ、この子達を預かってくれて、ありがとう。これから、連れて帰るわ。連絡した通り、荷物まとめた? 行ける? あ、その前に、ちゃんと聞かないとね。あたしについてくる?」
「いや、まだそれどころじゃないだろぉ…」
もう少し待ってやれや、とスクアーロは呆れた。
「仕方ありませんよ、スクアーロ。人を驚かすことは、紅奈の人生の最大の娯楽と言えるでしょう…」
「お前は悟りでも開いてんのかぁ…骸」
「ししっ、いーじゃん、面白いしー」
人生の最大の娯楽。納得出来てしまう、スクアーロ一同だった。
ベルは、楽しんだもの勝ちだと思う。紅奈が楽しむことに乗っかり、楽しむまでだ。
「コー、お、お嬢さん、いや、ボンゴレの、えっと、ええっと……なんて、お呼びしたら?」
「変わりなくていいよ。態度も呼び方も。気にしないから、そういうの」
「……だ、だが…そのっ………」
軽く言い退けるが、そうはいかない。
本当に、格上のマフィアだったのだ。
しかも、その次期ボス候補と来た。
偉大なボンゴレの次期ボス候補に相応しい存在だと、至極納得出来てしまう。
「…それで……こちらへの要求は……なんだい?」
「ん?」
「……我がランチャーファミリーを……どうしたいんだ?」
ガチガチに固まったまま、ランチャー6代目は尋ねた。
一体、そんな紅奈は、何を望むのか。
自分のファミリーを、どうしたい?
知らなければいけない。このファミリーのボスとして。
「どうもしないけど?」
ケロッと、紅奈は言い退けた。
「ランチアお兄ちゃんに会ってみたかっただけだし、貸しを作っただけだし……悪いようにする気は一切ないよ」
「…だ、だが……」
「あたしは、カタギ育ち。例の目的を果たして、ようやく10代目候補者として、公になったばかりの身。他のファミリーを、どうこうする権限はないよ」
同盟を結ぶことだって、傘下に入ることだって、要求するつもりはない。
そもそも、紅奈にその権限がないのだ。今現在は。
「こうして明かしたから、今後はひょいひょいと遊びに来れないと思うけれど、貸し一つあることは覚えておいてね」
人差し指をくいくいっと左右に振って、明るく笑った。
「そういうことで、預けた子達、引き取るね」
「おおおっおおおいっ!! よよよけいっ、ダメだろっ!!!」
「その前に、ちゃんとした答えを聞かせてもらうね」
「今言ってる! 聞けって! 聞いて!! なぁ!? ダメだろ!? ダメだよな!?」
「膝の笑い具合すごい」
ダニーに支えられて立ったバルダは、一緒に膝を震わせている。
紅奈は、ただそれを笑った。
「そんな立場なら、ヤバいだろ!? オレという爆弾を、ファミリーに引き込んだら!! えっと! ええっと! そうだっ、コーさんは! 最強のボスを目指してるって言ってた! ボンゴレのボスってことだろ!? オレは、その障害になるじゃないっスか!! バレたらっ!!」
「バレなきゃいいよね!」
「んな!!?」
きゃはっ! と言わんばかりの弾ける笑顔で、紅奈は言い退ける。
「おい!! アンタ!!」
「あ”ぁん?」
「全力で止めなくていいのか!?」
「初対面で止めようとしたところ見たよな!? あれが全力だったぞ!!」
年上部下のスクアーロに、バルダは言うが、言い返された通りである。
確かに、目の前で、スクアーロは全力で止めようとしていた。
「う”お”ぉい! 諦めやがれ! てめーが、コウと出逢ったのが悪い!!」
「なっ…!?」
「迷惑かけたくなけりゃあ全力で隠し切りやがれ!! もしくは、全力で紅奈から逃げろ! 地球の裏側とかにな!!」
「理不尽かよっ!!」
スクアーロが、理不尽すぎることを言い放つから、バルダはガビーン! とショックを受ける。
本当に理不尽だ。
自分には、二択なのか。そんな二択しかないのか。
出逢ったところで、もうその選択肢するのか。
「この真夏に、首をぴったりと覆うネックウォーマーをつけている……貴方ですね。クフフ」
「!」
バルダに、骸が声をかけた。
思わず、指摘された首元を押さえる。
「僕達も、似たようなものですよ。おぞましいファミリーから逃げ出して、隠れて生き抜いていましたところ……コウに救われたのですよ。クフフ。同じですよ、拾われました。最も、僕達と違って、貴方は威力の強すぎる爆弾ですがね…」
「あっ……お前らが……。じゃ、じゃあ、止めてくれ!」
「それは無理です」
「なっ…!?」
「我がボスの決定は覆りません。もう差し出された手を、しっかり握って……死に物狂いで隠し通してください」
骸達のことは、ちょっぴりだけは聞いていた。
そんな骸も、紅奈は止められないと諦めている。
バルダは次に、紅奈の髪先を指に絡めて弄んでいるベルに目を向けた。
ダメもとである。
「んだよ、煮え切らないヤローだな。止めてくれって、何他力本願なこと言ってんだよ? 誰かの”やめろ”って言葉が欲しいんだろ。それさえあれば、コーに迷惑かけずに済むとか思ってんじゃねーよ。コーについていく決意が出来ねーなら、ちゃっちゃと地球の裏側まで逃げちまえ。そこまで逃げれば、コーだって面倒がって追いかけやしねーから」
刺々しく吐き捨てると、ベルはにんやりと歯を剥き出しに笑ってみせた。
ギクリ、とバルダは、肩を震え上がらせる。
「いや、そこまで逃げなくても、追わないし。」と、紅奈はひらひらと手を振って、否定しておく。
「はぁ? 嘘つけぇ。どうせもう、ファミリーに入れた気でいるんだろ?」
「……確かに!」
「う”お”い、自分で驚くな」
スクアーロが呆れるも、紅奈はケラッと笑うだけ。
もうすでに、紅奈はファミリーに入れた気でいる。
紅奈にとって、バルダ達は、すでに部下。候補と口で言っただけである。
そして、バルダ達も、答えは決めていた。
紅奈についていく、と。
ボンゴレという巨大すぎるマフィアのファミリーの次期ボス候補であっても。
紅奈に変わりない。
自分達を、拾い上げては、救ってくれた少女なのである。
そっと、背中に手が添えられたことに気付いて、バルダは振り返った。サーラだ。
大丈夫か、と目が心配している。
そして、ダニーも腕を掴んで、顔を合わせた。険しい顔付きで、真剣に見つめてくる。
ガブリも、目を合わせれば、コクコクと頷いた。
「………おう…すまん……」
バルダは、息を深く吐き出す。そして、謝った。
(……これか。紅奈が目に留めた、こいつらの絆ってヤツは…)
(ほう…? 紅奈のお目にかかった絆ですか…)
無言のやり取りを見て、紅奈が部下に求めた理由を目の当たりにしたスクアーロと骸は、チラッと紅奈を一瞥する。
それから、再び整列する四人を目を戻す。覚悟を決めた。
「コーさん!!」
ダニーがまだ緊張を持ったまま、呼んだ。
「「「「ありがとうございます!!」」」」
がばっと、頭を下げる。
「改めて、意思表明をします!」
「オレ達みんな! コーさんについていきます!!」
「わ、わたし達でお役に立てるなら!」
「尽くすっス!!」
「「「「ついていかせてもらいます!!!」」」」
選択をした。提示された選択通り、紅奈についていくことを決める。
正しくは、紅奈のファミリーの一員になることを選んだ。
「意思はしっかりと聞いた。よろしい。じゃあ、行きましょうか。ランチャーファミリーの諸君、この子達を預かってくれてありがとう。ほら、お前らも、お世話になった礼を」
満足げに紅奈はニッと笑ってみせると、ソファーから立ち上がった。
そして、ランチャーファミリーに、お世話になったお礼と挨拶を促す。
慌てて「お世話になりました、6代目!! ランチアさん!! 皆さん!!」と、声を上げてお礼を伝えた。
バタバタと、意識朦朧のランチャーファミリーの一同に、挨拶回りをしては四人は荷物を運び出す。
「コー。……ファミリーは、救えたか?」
「ん? うんっ。目的は達成。だから、ここに来たんだ」
玄関先。ランチアの問いに、紅奈は年相応に可愛らしく笑みで頷く。
「じゃあ、仲直りも……無事に?」
ランチャー6代目にも、恐る恐るだが、確認された。
「うん、したよ。相談に乗ってくれて、ありがとー」
ニコニコな紅奈の笑みを見て、ランチャー6代目もランチアも、ホッとする。
ちゃんとした仲直りをしたらしい。
「…まぁ、いつまで続くかは、わからないけどね」
「なっ! 期間限定だったのか!?」
「いや……溺愛がウザすぎて…あたしの我慢が待つか……わからない」
「溺愛されていたのか…!?」
げんなりする紅奈を見て、ガーンとショックを受ける二人だった。
溺愛していた娘に絶対許さないと激怒されていた父親は、さぞかし胸が痛かっただろう。三年もだ。
「さっき、カタギ育ちだって言ったでしょ? 隠れてマフィア活動してたこと、直前まで気付かなかったくらいの盲目の親バカ。こんな血の気の多い極悪面の少年に引っ付いてても、懐いてる程度にしか思ってなかったんだよ? アホすぎだよね」
「誰が極悪面だう”お”ぉいっ!」
紅奈が心底呆れ顔で、スクアーロを親指で差す。
極悪面呼びされたスクアーロは、青筋を立てた。
それから、ギロッとスクアーロはランチャー6代目とランチアを睨みつける。
放たれた殺気に、身構えた。ランチアは、自分のボスの前に立ちはだかる。
「う”お”ぉい! ……礼を言っておくぜぇ! ボスの相談に乗ってくれて、ごくろーさんだぁ!」
紅奈の相談に乗ってくれたおかげで、仲直りが出来て、その上で比較的、穏便に交渉が進んで、紅奈は望むものを手に入れた。
スクアーロには、出来なかっただろう。家光とボンゴレ9代目との仲直りという選択を取らせるなど。
これが精一杯の感謝の示し方である。
なのに、スクアーロとランチアは、険悪に強面で睨み合う。
「あれ。スク達の紹介し忘れてる」
「えー? 要らなくねー? 名乗る必要性ナッシング♪」
改めての自己紹介は、ランチア達には要らないとベルと言っては、紅奈の肩に腕を回す。
そんなベルを離そうとしたのは、骸。三叉槍の下の先で、突こうとしたのだが、ベルが紅奈を引っ張ったため、それが紅奈の横っ腹に当たる。
紅奈は胸倉を掴むと、骸の額に頭突きを食らわせた。そして、元凶のベルの腹部に拳を叩き付ける。
オロオロとしながらも犬と千種は、額を押さえる骸を支えた。
蹲るベルのことは、スクアーロは全く心配しない。
「ああ、そうそう。あたしのケー番、一応教えておくね。バルダ関連なら、すぐに連絡して。困り事でもいいよ。こっちも、貸し一つのチャラのために、連絡するかもしれないから」
紅奈は、新しい携帯電話の番号を教えた。
「……当分、会えそうにないな」
「寂しいの? ランチアお兄ちゃんってば、寂しがり屋?」
「い、いやっ! そ、そうではっ…!」
指摘されてしまい、ランチアは頬を赤らめて、慌てふためく。
正直言うと、紅奈と別れる度に、寂しさを残されてしまうのだが。
他のファミリーの者、しかも格上であり、ボス候補者。そう会える者ではない。
これから、会えることは少ないだろう。
この屋敷に宿泊することも、もうないかもしれない。
「じゃあ、またね」
準備を終えた紅奈達は、ランチャーファミリーの屋敷をあとにした。
「………ボンゴレ…ファミリー……か…」
ランチャー6代目は、遠い目で大型バンを見送る。
「その次期ボス候補…………大物すぎるっ……!」
「「「ボスぅうううっ!!!」」」
フラッとするランチャー6代目を、ランチアは受け止めた。そして、ランチャーファミリーは、心配して駆け付ける。
紅奈のとんでもないサプライズの衝撃波で疲弊し、一時間ほど、寝込んだのであった。
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