空色少女 再始動編
503 勝負
「てめーら、様子見ばっかしてんなよ。ちんたらしてると、紅奈の寝る時間になる。オールインしやがれ」
「XANXUSお兄ちゃんって、ホント態度デカすぎるよね。おじいちゃんってば、どうしてこんなにも甘やかしちゃったの?」
「おっ! 反撃か? 反撃だ!」
「面白がるな、ガナッシュ…」
夕食中の会話を聞いていたガナッシュは、今度はティモッテオの育て方について指摘するのかとワクワクした。
またもや、笑えそうなやり取りが見れる予感。
それをブランバンダーが咎めた。
「甘やかされてねーよ…」
「礼儀がなってないよね。もう成人したのに。冬眠中にだけど」
「……オールイン。」
「あっ! 勝手に! 酷い!」
憐みの眼差しを向けつつも、口元に嘲笑を浮かべた紅奈に、嫌がらせでチップを全部賭けさせた。
「負けたら、倍のチップ買わせてやる!」
「ぜってぇー買わねー」
「ケチ! おじいちゃん! XANXUSお兄ちゃんが、いじめる!」
「ははは。XANXUS、だめじゃないか」
「うるせー。ねだられたら、次はクソ親父が買ってやれ」
「わかったわかった」
ぷいっと、そっぽを向くXANXUS。
ティモッテオは、楽し気に微笑む。
紅奈がいると、普通に会話をするティモッテオとXANXUS。他人を巻き込む殺人未遂の大喧嘩が、嘘のようだ。
「むぅー。みなさんも、いっぱいチップを出してくださいよー」
「道連れ? しょうがないなー……じゃあ、三分の一だけ」
「そうなると、多額なチップになるな…」
「これに勝ったら、大儲けだ」
「では、私はオレンジのチップを三枚、出そう」
「「「「………」」」」
むくれた紅奈に、促されて、多めのチップをポットに出そうとする守護者。
すると、ティモッテオが300万円分のチップを、ポンと出した。
それは、どんな意図があるのだろうか…?
可愛い孫娘に促されるままに高額チップを出しただけなのか、勝つ自信があるのか。
様子見で少額チップを賭けながらの雑談をしていたが、これはポーカー。
心理戦も取り入れられるゲームだ。
いいハンドがあるからと、高額チップを出して、勝つ自信を示す場合があれば、それがブラフと呼ばれる騙しの場合もある。
ティモッテオが、本気で勝負し始めたのか?
……いや、待てよ?
紅奈の今手元にあるカードを知っているであろうXANXUSは、紅奈の勝ちを確信したからこそ、オールインした可能性があるのでは?
紅奈への嫌がらせ……に乗じた芝居か? これは罠では?
XANXUSの金で買ったチップだが、はした金と吐き捨てるのだから、ここで巻き上げられても痛くも痒くもない。
よって、ただの嫌がらせもあり得る……。
どっちなんだ。
いきなり、手強い心理戦になってしまった。
いや、高額チップが積み上がったのだ。当然かもしれない。
すでに、ポットにチップを三分の一出してしまったガナッシュは、早まったかもしれないと焦る。そこそこいいハンドが手元にあるのだが……。
隣のブランバンダーも、自分のカードを確認してしまう。
残りのコヨーテと家光は、躊躇した末に、四分の一ほどのチップを出す。
「えー? それだけー? あたしがオールインさせられたのにー」
紅奈は不満げな言葉を口にするが、両手で頬杖をついた顔は不敵に笑っていた。
今回の勝者が得るチップは、総額750万円となる。
それを、得るのは、誰になるのか。
コクリ、と誰かが、喉を鳴らす。
ハンドを見せ合う、ショーダウンの時。
「ホント、XANXUSお兄ちゃんって、ひどーい。フォー・オブ・ア・カインドで、オールイン勝負させるとか」
紅奈がめくって見せ付けたのは、10のカードが四つ揃ったハンド。
「十分強いって…。オレはスリー・オブ・ア・カインド」
「……ツーペア」
ガナッシュは5のカードが三枚揃ったハンドで、ブランバンダーは同じ数字のカードが二枚揃ったハンド。
次は、300万円分の高額チップを出したティモッテオ。そのハンドは、何かと注目が集まった。
「フルハウスだったんじゃが……」
苦笑するティモッテオは、三枚の数字と、二枚の数字が揃ったハンド。
一応強いハンドだったが、紅奈が一枚上手だったのだ。
「…ハイカードだ」
「……同じく」
コヨーテも家光も、最弱ハンド。
紅奈の勝利。
750万円が、紅奈のものとなった。
「んー! どーしよっかなぁー?」
「まだやんのか?」
「それを考えてるんだよ」
背を伸びをした紅奈は、XANXUSの胸に身を預けては、XANXUSの首の後ろに手を回す。
密着しすぎると、家光が激しく注意しようと、ガタッと立ち上がった時。
携帯電話の着信音が響いた。
紅奈が姿勢を戻して、ポケットから家光に持たされた携帯電話を取り出す。
「スクアーロだ、戻ってきたのかな。出てもいい?」
「どうぞ」
ティモッテオの許可を得て、紅奈は電話に出た。
「戻ったー? うん? ダブル親子ディナーは終わって、ポーカーしてもらってるとこー。はははっ、活動資金を稼ぎたかったんだもん。うーん、上々かなー。そっちは、見繕ってくれた? そうね……待って。
勝ち逃げになるけど、終わっていいかな? ポーカー」
「ああ。構わないよ」
「ありがとー。ついでに、XANXUSをベルと骸にチラッと会わせてもいい?」
ポーカーは、ここでおしまい。
XANXUSが軟禁された部屋には、紅奈とスクアーロしか出入りを許可されなかったため、同じ屋敷にいても、ベルと骸はまだ会っていなかった。
XANXUSが部屋を出ている今、戻るついでに会わせていいか。許可を求めた。
「それは見張りをつけないといけないな」
「あ、自分がつきますよ。坊ちゃんを部屋に戻しますんで」
「オレも、XANXUSを戻すまで同行をします」
「……チッ。ハエか、てめーら」
自由に出歩くことも出来ないXANXUSは、ガナッシュと家光が部屋へ押送する。
会う許可は、ゲット。
「わかった、廊下で少し挨拶するだけだから。
そういうことだから、スク、部屋の前にいてね。すぐ行く」
紅奈は電話相手のスクアーロに、そう答えて切る。
「じゃあ、おじいちゃん達、ポーカー相手、ありがとう」
「こちらも楽しかったよ。でも、そのお小遣いを活動資金にするそうじゃないか。次は、何をするんだい?」
「イタリアに活動拠点作って、アレコレするー」
「それなら、ボンゴレ所有の建物を…」
「それはアウトじゃない?」
今後の動きを決めている紅奈に、手助けで提案。
「ん? そんなことはない。孫娘のような紅奈ちゃんに、ちょっと大きな贈り物をするだけじゃ」
それが、立派な贔屓なのである。
「10代目候補者として、功績を立てるであろう活動をする拠点だよ? アウト。そりゃあ、あたしはカタギに身を置いていたから、他の候補者と比べれば色々不利が多い……それでも蹴散らすからお構いなく!」
にっこり、無垢な笑みなのに、発言が強すぎる紅奈であった。
「でも、紅奈ちゃんの10歳の誕生日が二ヶ月後……特別な贈り物をしたいな」
食い下がるティモッテオ。
「活動拠点は試行錯誤して決めたいから、却下ー」
「じゃあ、ボンゴレの所有の飲食店をいくつか任せよう。その収入の半分ほどが、今後の活動資金源になる」
「それは魅力的だけど」
「おい、もらっとけ。それなら有望視されてる証拠になるし、経営関連の知識も備わるだろーが」
「えー、でもー」
「そうそう、これくらいセーフだから、もらっておけばいいんだって。ちょっと可愛がられてる程度だから、これぐらい」
XANXUSとガナッシュが、受け取るように促す。
今後の活動資金源。
ちょうど今、800万円ほどが手元にあっても、お金は使えば減るものだ。資金源確保は、魅力的。
「ずるいですね、9代目。自分も、お嬢さんの10歳の誕生日プレゼントを贈りたいです。収入が得られる店を一つ、受け取ってくれるか?」
「あっ。ならオレも、直属の部下に管理させてるちっちゃな区画の店を、10歳の誕生日プレゼントに」
「いや、私が」
「いやいや自分が」
「オレが」
「なんか、店を贈る合戦になってるけど、プレゼントのセンス、ないね?」
……確か、に?
10歳の女の子の誕生日プレゼントにしては、いささか……。
「よし、わかった…! お父さんが、ダミー会社で買い取って、収入源となるジュエリーショップをプレゼントしよう!」
「そうじゃないよ、お父さん」
店を女の子らしくすればいいって話ではないのである。
店をプレゼントすることが、センスないのだ。
「うーん、でも、XANXUSから、絞り出すのもいつかは限界が来るし」
「おいコラ。絞り出すとはなんだ。」
「ボンゴレ所有の店で、資金源を得るべき、ね……。じゃあ、選びたいから、リストや資料くれるかな? 誕生日までに決めるから」
「それなら、紅奈ちゃん。直接、店を見るのはどうだい? ついでとなんだけど、ボンゴレのシマを案内して色々と教えたいな。おじいちゃんとして、ね」
「あっ! それいい! XANXUSお兄ちゃん達だと、全くもってシマの把握から、住人との交流経験とか、教えてくれないし出来ないからね。じゃあ孫として、案内してもらう!」
「では、スケジュール調整を?」
「この休み中は無理かな。シマ案内は、次にまたイタリアに来た時に、都合がよければ」
「わかったよ、そうしよう」
楽しみだ、とティモッテオはシワを寄せて微笑んだ。
「結局、技術者紹介について、考えなかったわ。明日の朝食で、また話そう」
「いいよ。おやすみ」
「おやすみなさいー」
XANXUSの膝から下りる紅奈は、ティモッテオ達に微笑みを見せては部屋をあとにしようとした。
「あ。そーいえばぁ、なんでずっとおじいちゃんの霧の守護者が部屋にいるの? 幻覚でXANXUSお兄ちゃんの見張りする必要ある?」
紅奈が指差す先には、娯楽ルームに入った時から、霧の守護者クロッカンがずっと待機していたのだ。
幻覚で姿を隠していた。
それを指摘したため、一同は驚く。
紅奈に見破られたのだ。
「ぷはっ! これで紅奈の超直感は、少しはわかったな」
XANXUSは噴き出しては、嘲笑った。
「お疲れ様です」
紅奈は無垢に笑って、ひらりと手を振る。そして、部屋をあとにした。
「そういえば、XANXUSには、何か店とか所有しているって聞いたことない」
「…オッタビオの奴に、管理させていた。今はどうか知らねーな」
「……はぁー、オッタビオ…」
「…なんだ? そのあからさまなため息」
「会う度に、取り入ろうとしてくるの。目障り。うざい。存在が嫌。」
XANXUSの手を握って歩く紅奈が、げんなりした顔で吐き捨てる。
「ぶふっ」と、オッタビオの嫌われっぷりに、後ろを歩くガナッシュは噴き出す。
「オッタビオは幹部で、お目付け役でスクアーロと今のヴァリアーを仕切っている者だな?」
「ええ。スクアーロ達を庇ってやって罰を軽くさせ、ヴァリアーの管理を任せられた新米幹部ですよ」
家光の問いに、ガナッシュは答えてやった。
「あ? なんでまた? てめー、気に入らなかっただろ。」
「いや、おじいちゃんを罵倒したあと、車奪うために気絶させたから、あたしの素を知ってるの。」
「紅奈!? 何をしてるんだ!?」
「車奪った? えっ? 運転した?? あの身体で???」
気絶させた。しかも、車を奪うため。つまりは、運転したはず。
家光も、ガナッシュも、慄く。
「帰国の際は、空港まで送ってもらったんだけど……スクアーロ達のことは、なんとか庇うって言ってた。物凄く、胡散臭い。新年早々に出会っちゃったら、ヴァリアーの屋敷に来る前に連絡してほしいとかほざいたの。おえってするぐらい気持ち悪い。」
「……復帰したら、近付けねぇーようにすればいいんだろ。ヴァリアーから蹴り出してやるよ」
「おい。そんな権限はないぞ」
お目付け役のボンゴレ幹部を、外すなんて権限はない。与えないのだ。
家光が咎める声を放つが、XANXUSは完全無視する。
「というか! 手を離せ! なんでベタベタするんだ!?」
先ずは繋いでいる手を離せ! と家光は怒った。
紅奈は振り返ると、しーっと、人差し指を唇に当てて見せる。
「お父さん。こうして構ってあげないと、XANXUSお兄ちゃんが拗ねちゃうから」
「ぶふふっ!!」
「…おい」
ガナッシュは、盛大に噴き出した。
ふざける紅奈の手を引っ張って、XANXUSは前を向き直す。
「ひー! ひー! もうオレ、今日だけで、一生分笑った……!」
笑いすぎなガナッシュ。
否定しないし、手も離さない。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]