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空色少女 再始動編
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「最後に、死ぬ気モードになったのは……あ。ゴールデンウィークだね。今回の件で、XANXUSを取り戻す勝負に出るって、覚悟を決めるためにも、死ぬ気モードになって……スクアーロとベルと骸を叩きのめした」

「ゴフッ!」


 ちょうど水を飲んでいた家光は、咽せた。


「カス鮫を叩きのめせるようになったのか?」

「あ。違う。大袈裟に言っちゃった。正しくは、三人を戦闘不能にしただけ」

「ゴフッゴフッ!」

「戦闘不能だと? 一対三で……骸って野郎は知らねーが、スクアーロとベルも相手にか?」

「うん、一対三。お世辞でも三人の連携はいいとは言えないけど、別に足を引っ張り合うほど悪くはないよ。前にXANXUSお兄ちゃんとスクアーロお兄ちゃんの酷い連携で、手合わせした時と違うよっ、ぷふふっ」

「うるせぇ。どう戦闘不能にしたんだ? あ?」

「ん。不意をつけたんだ。あの三人の中では、スクアーロが一番強いから、互角ぐらいの骸とベルを先に倒す戦法でくると思ったんだろうね。
 あたしは先ず、スクに真っ直ぐ行って、剣を蹴り折った。あ、稽古用でね、本番の戦闘用とは別物の真剣。前にも死ぬ気で折ったことある。次は隣にいたベルね。スクから行っては剣を一撃で折ったから、動転してたけど、まー、ちゃんとナイフで攻撃しようとはしたよ。そのベルをねじ伏せた。最後に、骸。骸の幻覚を一回攻撃しちゃった。今まで骸の幻覚はスルー出来たのに、腕を上げたなーって感心。お父さんの教育の賜物だね。すぐに、本物を回し蹴りを決めておしまい」

「ゴフッゴフッゴフッ!」

「お父さん、大丈夫?」


 家光は、大丈夫ではないかもしれない。顔を背けて、なんとか咳をおさめようとした。


 剣士のスクアーロが、剣を折られた。

 ベルの殺しの才能は聞き及んでいる。

 二人とも、暗殺者として働いているのだ。一筋縄ではいかないはず。

 そして、骸だ。

 厳しい教育をさせた家光だから、骸の強さは知っている。幻覚の腕前はもちろん、戦闘能力の高さも。

 その三人を、瞬殺で戦闘不能にした話。驚かずにはいられない。


「……だめだ。カス鮫どもが弱いのか、紅奈が強くなったのか……判定できねー」


 相変わらず、XANXUSは想像力に欠けていた。情報が足りないせいもある。


「そこはあたしが強くなったって思えばいいじゃん。そのあと、死ぬ気モードのまま、少し考えて、貴方の解放のために色々腹括って動くって決めた。功績を立てて、おじいちゃん達へ直接交渉をするってね。念のため、ローナ姫とジョットの話をカードにするかどうかも、迷いに迷って決めたんだ。貴方を解放するために、これ以上ない好機を全力で活かすために、ね」

「………」


 死ぬ気モード中の超直感で、これが最善だと直感し、そして決断したのだと、紅奈は告げる。
 その決断で、この結果を勝ち取ったのだ。


「そう言えば、聞いてなかった。おじいちゃん、お父さん。ジョットの話はともかく……ローナ姫の話は、他言した? あたしが生まれ変わりだって、誰かに言った?」


 ボンゴレの恩人、ローナ姫の生まれ変わり。

 その事実は、上層部に言ったのかどうか。


「いいや。他言はしてないよ」

「そっか。じゃあ、これからも、他言無用でお願いするね。あくまでも、あたしは……ソレをXANXUSの解放の切り札に出しただけだもの。他言する必要性はないから」

「……ああ、約束しよう。他言はしない。私の守護者達にも、口止めしておこう」


 XANXUSのためだけに、使われた切り札。

 むやみに、言いふらされたくはないのだ。

 ティモッテオが頷くのを見たが、紅奈は笑った。


「本当に他言しない?」

「本当だ」

「リボーンにも?」

「リボーン、かい?」


 急に出てきた名前に、ティモッテオは目を瞬かせる。


「アルコバレーノのリボーンか? 知り合ったのか? 跳ね馬とも知り合ったと聞いたが…」

「うん、おじいちゃんに罵声浴びせた日にね。それから、なんか付きまとわれちゃって……。おじいちゃんってば、あたしが10代目候補だって話した?」

「リボーンにかい? ……ああ、超直感があるかもしれない、とは言ってしまったね。はっきりと明言したわけではないし、非公式だからリボーンも誰にも言っていないはずだよ」

「言い訳だー。リボーンを信頼してるからって、あたしのこと、なんでも話さないでよね、おじいちゃん。お父さんもだよ」


 リボーンにも、口止め。

 本当に他言無用にしてほしいのか。はたまた、リボーンだけには、言ってほしくないのか。 


 XANXUSは、少し気になった。


 今、付きまとわれちゃって、と言ったしな…。


「そうそう。その死ぬ気モードで、勝負に出るって決めた時点では……お父さんとおじいちゃんと、仲直りする気はなかったんだ」

「えっ」
「えっ…!?」



 ガーン! とショックを受けているティモッテオと家光を見て、本当に紅奈に弱いな、とXANXUSは呆れた。


「い、いつ…!? なら、いつ仲直りを決めたんだ!?」

「”三日後に決行が決まった”って、連絡が届いた時。」

「本当に急遽だったんだな!?」

「そう言ったじゃん」


 ギリギリまで、二人との仲を修復するつもりはなかったのだ。


「……どうして、許してくれる気になったんだい? 何か、きっかけがあったのだろう? 死ぬ気モードでの覚悟を決めた時点では、そのつもりがなかったあとに……何かが促してくれたはず」

「その通りだよ、おじいちゃん。気付いたら成り行きで相談してて……それで、仲直りを決めた。ぶっちゃけ、XANXUSお兄ちゃんとおじいちゃんのその後を全く考えてなかったからねぇ……仲直りさせるなら、ボスであるあたしもするべきだなって」


 大人だな……。


「相談? 誰にだい? お礼を言いたい」

「それは相手が萎縮しちゃうよー。って、忘れてた。あたしもそこに挨拶しなくちゃいけないんだった」


 また忘れてしまっていたが、ここで思い出せた。


「お父さん、帰国延期することにしたの」

「え? 理由は、なんだ?」

「相談に乗ってくれた人に、部下候補を預けてるんだ。XANXUSお兄ちゃんの解放目的が達成出来たら、迎えに行くって約束したの」

「あ、預けてるって……ま、まさか…骸達みたいに、か?」

「うん。拾った。」

「拾った!? 人を拾ってはいけません!!」


 家なし子の骸達のように、また誰かを拾った事実に、家光は頭を抱えたくなる。


「はは。紅奈ちゃんは、ボンゴレ初代に似ているね。彼も気に入った者なら、何者であれ、ファミリーに入れたがったという話が残っている。戦闘スタイルも、額に炎を宿し、グローブで戦うものだったのだが……紅奈ちゃんもかい?」

「それは、迷い中。もちろん、死ぬ気モードで身体能力も超直感も上がるわけだから、体術も活かしていこうかと思案中。XANXUSお兄ちゃんがいなかったせいで、死ぬ気の炎を活かす武器、選べなかったし。流石にスクアーロ達には、それを教えられないもん」


 紅奈の戦闘スタイルも、初代ボスのジョットに似ているのか、という問い。

 死ぬ気の炎を活かす武器選びの参考なら、XANXUSの知識や意見が必要だった。

 軽く紅奈の頭を胸に押し付けられたが、XANXUSはスルーする。


「確かに、コウは現場で会った時、敵の銃を拾って軽く応戦した程度だったが……膝にプロテクターつけて蹴りを入れていたよな?」

「うん。膝蹴りブームで、ムエタイを習得してアレンジした戦闘スタイルが中心だね。しっくりする戦闘スタイルを模索中だから、オールマイティーでもいいかなーって、思ったり。スクアーロには、剣技叩き込んでもらってるし……あ、スクの技、使えるようになったんだよ」

「あのカスの技なんて覚えてどーすんだ…」

「スクアーロめっ…!」


 スクアーロに負の感情が、向かった。主に嫉妬である。


「膝のプロテクターか……そこに死ぬ気の炎を灯すことは、考えないのかい?」

「死ぬ気モードで本気で蹴ると……顔面が陥没するから、これ以上は破壊力はいらないかな…」

「「「……。」」」

 ちょっぴり、なんとも言えない顔をする紅奈。

 9歳でその破壊力は末恐ろしいのだが、本気を出すと顔面が陥没するというのは、例えだろうか、試したのだろうか。気になるが、聞けない三人だった。


「…そこは、加減の調節をすればいいだろうが。そっちも死ぬ気の炎を灯す武器にすることを視野に入れとけ。……帰国を伸ばすなら、武器チューナーに頼むか」

「武器チューナー?」

「ああ。ジャニーイチの野郎が、くたばってなければな」

「健在だ。って、何、武器を用意する気になっているんだ? お前は武装禁止だ」

「あ? オレじゃなく、紅奈の武器の話をしてんだ。耳腐ってんのか、このカス」

「だから、言葉遣い! そして、さっきからオレの娘の頭を度々鷲掴みにするのやめろ!! コウ! 武器チューナーのジャニーイチに会いたいなら、父さんが会わせてやるぞ!」

「は? 門外顧問が、次期ボス候補の一人を贔屓していいのかよ。オレが会わせる。引っ込んでやがれ」

「なんだと!? これぐらいセーフだ!!」


 なんか、聞いたことある名前だな、と首を傾げつつも、紅奈は食事を終える。


「愛娘に身を守るための武器を用意させて、何が悪い!?」

「私の方も、用意させてほしいな」

「てめーは、なおさら悪いだろーが! このクソじじっ、いて!?


 参戦するティモッテオ。
 次期ボス候補に、加担してはダメな二人である。

 XANXUSは、キレたのだが、テーブルの上に置いた拳に、紅奈のフォークが突き立てられた。


「XANXUSだって、起きたばかりだし、会えるの?」

「誰にモノを言ってやがるんだ」

「三年服役していた犯罪者」

「……。」

「仮出所中の身。」

「……。」



 XANXUSは刺された手をさすりつつも、明後日の方に目を向ける。

 家光は何も言えなくなったXANXUSを、ニヤニヤと笑う。大人げない。


「…オレ様の専属技術者は? くたばったか?」

「け・ん・ざ・いだ! 技術者なら、オレだって紹介出来る!」

「私だって、負けたくないな」

「紹介合戦? んー。ちょっと考える。滞在時間が伸びるなー。早く日本に帰らないと……XANXUSお兄ちゃんを連れて」


 XANXUSの専属となれば、銃だろうか。銃を手に入れたい紅奈としては、XANXUSの方がいいとは思うが、やはり仮出所の身が引っかかる。

 XANXUSを我が家に連れて行かないといけないことを思い出して、家光はこれ以上無理なほどのげんなりした顔をした。


「……ん? XANXUSお兄ちゃんって……日本の家庭的な和食、いけるの? ほぼ毎日食べることになるんだよ?」

「あっ!!」

「……」


 日本の家に転がり込むのはいいが、滞在中の食事に満足出来るのだろうか。

 疑問が湧いて、紅奈は尋ねた。


 XANXUSの沈黙は、肯定だろう。日本の庶民的な食事など、口にしたことがない。


「そうだ! お前、オレの妻の料理を粗末にするなよ!! する気なら、我が家に来るな!!」

「…高級食材なら……マシだろう」

「どんな食材だろうが、料理は美味いぞ! オレの妻の料理を食べれないなら、来るな!!」


 XANXUSが、我が家に来ることを阻止出来そうだと、家光は全力で防ぎにかかる。


「あ? …試してみないとわからないだろーが」

「試しに来るな!」


 物は試しだ。譲る気はなし。


「なら、明日の朝食は、あたしが作ろうか? お母さんと同じ味付けだし……調味料があるなら、和食作るけど。それで、お試し」


 紅奈の発言に、XANXUSが驚愕するし、ティモッテオも驚きの表情をする。


「…お前。料理出来たのか?」

「うん、習った。なんで驚く? 出来て悪いの?」

「紅奈ちゃんの手料理か。私も、ぜひともいただきたい」

「本当に妻と同じ味付けの料理を作ってくれるのです! 愛がこもっていて、美味しいですよ!」

「お父さんに愛を入れた料理は、振舞ったことない」
「ガーンッ!」



 娘の料理自慢をしていた家光は、その娘に思わぬダメージを受けた。

 それを、XANXUSは、鼻で笑ってやる。


「明日もいるの? 朝食は、愛も入れてあげるから」

「! いる!! オレも食べる!!」

「私もだ。調味料は、用意させよう」

「決まりね。あっ。まだ時間があるのなら………いる人達を集めて、一緒に遊んでくれないかな?」


 朝食も一緒だと決定。

 それから、紅奈はこの夕食後に遊ぶことを提案した。


「時間なら、あるが……」

「いる人達を? 何して遊ぶんだい?」


 家光とティモッテオは、不思議がる。


 XANXUSは、嫌な予感を抱いて、顔を歪めた。


 紅奈が遊びを提案など、付き合わされる相手は酷い目に遭うのは、三年経った今も変わっていないかもしれない。

 ……参加しないぞ。


「ポーカー」


 紅奈は、声を弾ませた。
 ピタッと、家光は手を止めて固まる。


「ポーカーだ? いつの間に、覚えて……」

「骸から教わった。本物のお金を賭けてのポーカーしよう? ちょっとしたお小遣い稼ぎがしたいから、ねっ? お相手して」


 ニコニコの紅奈が、笑って見せる。


 9歳の少女が、大人相手にポーカーで小遣い稼ぎ。


 愉快愉快、と笑いながらガナッシュは、ティモッテオの後ろへ移動した。


「はははっ。もう、本当にお嬢ちゃんは面白いなー。じゃあ、9代目、参加者を募りましょうか? ポーカー用チップもありますし」

「そうしようか。楽しそうだね。紅奈ちゃんの超直感も、お手並み拝見できそうだ」


 楽観的なガナッシュとティモッテオは、参加を決める。


「い、いや…」


 やめた方がいい。家光は、止めようとした。


 紅奈がこうしてイタリアにいるのは、ポーカーで家光に勝って、自由にイタリアに行く権利を勝ち取ったからだ。


 最強の一手である、ロイヤルフラッシュを決めて――。


「わーい。本格的なポーカー、楽しみっ!」


 無邪気な笑みではしゃぐ紅奈を見ると、もう、家光は止めることが出来なかった。


 うちの娘が、可愛いっ!!!


 そんなわけで、ポーカーゲームが、決まってしまった。





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