空色少女 再始動編
499
「…でも、そうだな。よく考えて、お父さん」
「なんだ? コウ」
「スクアーロとXANXUSだよ? 気性が荒い部下と話せば……同調するよ?」
「やっぱり悪影響じゃないか! 離れろ!!」
「余計なこと言うな…。家光。コイツは、こうやって人を弄ぶことが好きなんだ。…この三年で、悪化したようだな」
悪化したとは、酷い言いようだ。
「成長したと言って」
「んな成長すんじゃねーよ。カスどもは、何してやがったんだ…?」
「貴方がいない分も、頑張ってたよ。特に、レヴィ。……ベスターの世話係をね」
「おい。全然関係ない話だろーが。笑ってんじゃねー。ほら、これが証拠だ」
笑いを堪えて肩を震わせている紅奈が、緩ませているであろう口元を見せつけるために、XANXUSは掴んだ紅奈の顔を家光に向けた。
「オレの娘をそんな扱いするな!」と、家光はそれどころじゃない。
「それで、おじいちゃん。パーティーって、具体的にどんなの? 立食パーティーみたいな感じ?」
XANXUSに頬を掴まれたまま、紅奈
はティモッテオに尋ねて、話を戻した。
「そうだ。主に、今回の被害防止の功績を話題に交流をする、立食形式のパーティーとなるだろう」
「へーえ。XANXUSも、一緒に参加が出来るの?」
「それも議論中だよ、紅奈ちゃん。…XANXUSの処遇が、パーティーまでに決まるかどうか次第だ」
「そう。自己紹介なしでパーティー参加、かぁ……どうしようかな…。やっぱりXANXUS次第か。XANXUSは、どんな処罰の案が出てるの?」
「「………」」
サラダをむしゃむしゃと食べていると、家光とティモッテオが顔を合わせる。
「何…?」
紅奈が問うも、二人は気まずげな雰囲気で、口を閉じた。
「ここで言えないような、重たい処罰が出てるとか?」
「……それは、上に任せるんだ。紅奈」
「はっはーん? わりと残酷な罰? 軽いわけないもんね。どんな罰かしら?」
首を傾げた紅奈は、XANXUSの顎を摘まんだ。
その顔は、楽しげだった。悪戯っ子のように、にんまりと笑みを浮かべている。
残酷な罰。そうわかっていると言うのに、何故そんな笑みなのか。
家光は、顔色を悪くする。
そんな家光に、紅奈は掴んだXANXUSの右手を翳した。
ギクリ、と家光は強張る。
「手を切り落とすような罰が出てるの?」
「っ」
残酷な罰を、娘の口から出た。
動揺した家光だが、娘の方は、XANXUSと目を合わせると「ぷっ!」噴き出す。
「ぷははっ! XANXUSっ……! 手! 手だって!」
「……笑ってんじゃねー…」
「ひー! スクアーロに続いて……やだ、どうしてあたしの部下はマゾなのっ…! ぷはっ!」
「オレはマゾじゃねー」
XANXUSの膝の上で、紅奈はぷるぷると肩を震わせてはお腹を抱えて笑う。
イラッとした顔のXANXUSが、ぐりぐりと紅奈の頭を握っては揺さぶる。
「え? なんでスクアーロの名前が出るんだ…?」
「はーあー……無理、腹がよじれる…」
「なんで笑うんだ? コウ?」
笑っている理由が、手を切り落としたスクアーロが真っ先に浮かんだからだ。
忠誠の証のために、切り落としたスクアーロ。
XANXUSはどこを切り落とすのか、と尋ねたこともあった。
それが、今回はXANXUSの両手を切り落とすという方向に、持っていかれそうなのである。
ツボに入ってしまうのも無理はない。不謹慎であろうとも。
「…切り落としても……憤怒の炎出せるかな?」
「だから、コウ……何故笑ったんだ……そんな罰なのに…」
XANXUSの手を、また掴んでプラプラと揺さぶる紅奈は、不思議そうに首を傾げる。
「そうだね。食事中によくない話だった」
「う、うん、そうなんだが…」
「心配はしないよ。他がその罰を推しても、押し退けてくれるでしょ」
紅奈はそうわかりきったように笑って見せて、食事を再開させた。
ティモッテオが、息子の両手を奪うという罰を、決定させないだろう。そう信じている。
「XANXUSお兄ちゃん。もう自分で食べて。飽きた。」
「……チッ」
「「………。」」
飽きたから、食べさせてやることをやめた紅奈。
部下を想っているのか、いないのか……。
疑問を抱いてしまう態度である。
会話が途切れた。
食事の音が響く。
XANXUSが自分の手で、ステーキを切りながら、ティモッテオにチラッと目を向ける。
「おい、クソ親父……紅奈を、どう思う?」
XANXUSから、ティモッテオに声をかけた。
少し驚きつつも、ティモッテオはXANXUSから紅奈に目を向ける。
「…可愛いと思う」
「そうじゃねーよ、クソが。」
家光も、ティモッテオも、紅奈を溺愛しやがって。そうじゃねーよ。真面目な話だ。
「日本から遥々イタリアにまで駆け付けたんだぞ。普段から、紅奈は直感が鋭かったが………紅奈、死ぬ気モード中に、超直感でイタリアに飛ぶべきだと思ったわけじゃねーよな?」
「夢から飛び起きたんだってば。……胸騒ぎが酷かったなー…」
「…これを、どう思う?」
紅奈の”ボンゴレの血”に対しての能力に対する評価を、尋ねようとしている。
「ああ、それはあたしも聞きたいな。あの時、どう思ったの? それから、どう思っているの?」
ティモッテオに目を向け、それから家光にも目を向けて、紅奈は首を傾げて見せた。
「……あの時は……本当の兄妹のように親しくしていたXANXUSや親しい友人のために、働いたのかと思った。…今なら、大事なファミリーのために働いたのだと思う」
「…で?」
ティモッテオの言葉を、XANXUSが先を促す。
「その超直感は……並外れている。恐らく……歴代で一番、鋭く、優れている超直感だろう」
「…だそうだ。紅奈」
「褒められてる? ありがとう、おじいちゃん」
そうは言うが、特別紅奈は喜んではいない。平坦な反応だ。
XANXUSの言う、過剰なほどの自信家の面だろうか。自分の超直感は、優れているのだと、自覚済みなのかもしれない。
「……紅奈が、死ぬ気の炎を出したのは、9代目と同じ瞬間に見たのだが………そう、なのか?」
家光は、自分の額を指差した。
「まだ見たことねーのか? 呆れたな…。今回の件で、現場に乗り込んだって聞いたのに……死ぬ気モードじゃなかったのか?」
「うん。なる必要はなかったからね。逃げ足の早い危険思想を持つ犯罪組織の上層部メンバーを、追い込み漁しただけだもん」
そんな危険思想の犯罪組織を一網打尽にする任務に、部下を引き連れを突入して、大きな功績を立てたというのに、本気を出していなかった9歳の少女。
末恐ろしい。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]