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空色少女 再始動編
497 父子二組の食事


「そういうことで、マフィア学校とかに通わせるとか、言っても無駄だから。」

「いや……言わんが……………」

「……何よ。その目。あたしの覚悟は、もう伝えたはず」


 家光が何か言いたそうになったため、紅奈はそれも先回りをしておく。


「あたしが10代目ボスの候補の一人だって事実は変わらない。積極的になろうっていう本人の意志を、親であろうが阻んでいいものじゃないでしょ」

「っ……」


 マフィアのボスになること。その意志を、阻んでいいものではない。

 家光の立場ならば、余計に阻んではいけないのだ。

 例え、愛する娘の父親の立場があったとしても。


「死ぬ気の炎を出したところを目撃されて、10代目候補に加えられた日の夜。お父さんは後継者争いに巻き込まれることが嫌だって言っていたけど……それに自ら飛び込んで、ごめんとは言っておくよ」

「コウ…」

でも、ぶっちゃけると、幼い私が他の候補者を蹴落として、10代目ボスの座についてみせて、みんなに泡吹かせてやるってワクワクしてた
「ぶっちゃけないでほしいな!? それ!!」


 ガビーン! とショックを受ける家光。

 親の心子知らずとは、このことか!!?


「これからも、心配かけると思う。門外顧問の立場で、必要以上にあたしには手を貸せないから、父親の立場として苦しい思いもするかもしれない。それもまた……ごめんね、お父さん」

「…!」

「それでも、私の夢はこれだから……このまま進むよ。そんな娘を、よろしくね」


 親の心は、ちゃんとわかってくれていた。
 にこり、と笑って見せる紅奈に、家光は涙ぐむ。


コー!!! ぐあっ!!


 またもや、感極まって立ち上がったため、紅奈はまたテーブルを蹴り押す。

 家光の脛を攻撃して、抱き付きを妨害。


「だ、だから、コウ……暴力は…っ」

「急、接近、禁止。」

「じゃ、じゃあ……今から、近付くから、ハグさせてくれ」

「嫌だ、断る。」

「予め言ってもだめなのか!? どうすれば、抱き締めさせてくれるんだ!?」

「今、加減なく抱き締めるつもりでしょ」

「愛が溢れてるからな!」

「絶対に嫌だ。断る。」

「仲直りしたよな!?」

「だが、断る。」


 完全拒否である。この昂る娘愛で、抱き締めたいというのにっ!

 娘は、完全拒否であるっ!


「早く、仕事の話をしよう」

「だからもっと親子らしい会話をしよう!? な!? 頼む!」

「夕食の時でもいいじゃん。四人で積もる話でもしよう、楽しく」

「いや、楽しくなるのか…? それ…。なんでまた、ダブル親子ディナーをすることになったんだ…?」

「前とおんなじ。おじいちゃんとXANXUSお兄ちゃんの仲を取り持つ」

「……前も、そのつもりで、一緒に食事をしようとせがんでいたのか…」

「XANXUSも寝ていたとはいえ成人したのに……いい大人の二人を、なんで9歳のあたしが取り持たないといけないんだろうね?」


 心底呆れ顔になる紅奈を見て、家光は苦笑を零す。

 それは紅奈が、優しいからである。

 紅奈の優しさが、あのぎこちなくなった父子を結んでいるのだ。


 本当に、うちの娘は、優しい。


 家光は、誇らしく思えた。


「なんかXANXUSがウチに行きたいって言うから、その前におじいちゃんと会話させようと思って」


 ……ん?


「ちゃんと父子の時間を過ごせばいいのに。世話が焼ける。この先も、こうやって間を取り持つとかヤダなー……」

「……コウ? なんか、今、XANXUSがウチに行きたいって、聞こえた気がするが?」

「うん? 言ったけど?」

「ウチって………家のこと、か?」

「うん。我が家のこと。夕食の時にでも、話すよ」


 ケロッとした態度で、紅奈は答えた。
 家光は、わなわなと震える。


「XANXUSとだって積もる話もあるから、あたしとしても、家に泊まっても」

「許さんんんっ!!!」

「うっさ。そう言うと思ったけども……XANXUSも、断固として家に転がり込む意志があったよ?」

いやそんな意志を貫かれてたまるか!! オレは許さんんんっ!!!


 沢田家光は、断固反対を叫んだ。

 本当になんだ、家に転がり込む意志とはっ!!






 ボンゴレ9代目ティモッテオ。
 その息子、XANXUS。

 ボンゴレの若獅子と謳われた沢田家光。
 その娘、沢田紅奈。


 監視付きではあるが、四人は食卓についていた。

 そして切り出されたのは、沢田家にXANXUSを預ける話である。

 猛烈に家光が反対するのは、無理もなかった。


「ふざけるなよXANXUS!! 紅奈の部下だからって、泊まる許可を与えるわけないだろうが!!」

「うるせぇカス! 今更だろうが! 聞けば、三人のクソガキを居候させたじゃねーか! 半年も! それと何が違う!?」

「事情が違うじゃないかっ!! 大罪人の自覚をしろ!! そして、オレの娘を膝から下ろせ!」

「うるせぇ!!」



 家光とXANXUSの言い合い中も、紅奈はXANXUSの膝の上である。


 ティモッテオは懐かしいとほのぼの眺め、紅奈は黙々と食べていた。


 実は紅奈がXANXUSの膝の上に乗ったのではなく、XANXUSが紅奈を持ち上げては一緒に座ったのだ。

 誰もが愕然とした中、食事は開始された。


 紅奈を譲らないXANXUSである。


 監視と護衛で目的でいるガナッシュは、もう笑い疲れていた。笑いすぎの瀕死である。


「ヴァリアーの屋敷には、当分近付けないってことは決めたでしょ? XANXUSの別荘で監視と軟禁っていう方向で、次は償いについての話し合い中だったね。あたしの意見は変わらず、暗殺部隊ヴァリアーの忠誠心の完全回復のためにも、ボス復帰。落とし前はつけさせる形」

「だからコウ……それはコウの都合がいいだけじゃないか?」

「だめ?」

「くっ! 可愛い!」


 紅奈の償い案は、本当に紅奈の利益が多いにあるものだ。

 結局、紅奈直属の部下がヴァリアーを牛耳る。

 反対したい家光に、紅奈は潤んだ目と甘えた声を向けた。

 久しぶりなのである。家光には効果てきめんすぎた。


「落とし前をつけるには、先ずはそれがいいのは事実でしょう」

「……おい、紅奈。食わせろ」

「なんで?」

「怠い」

「はい、あーん」


 昼食は普通に自分で食べていたくせに、と思いつつも、紅奈は切り取ったステーキ肉をXANXUSの口に運んでやる。


ぬぁにぃ、あーんしてもらってやがるんだぁああっ!!!

「うるせぇ。カス。ヴァリアーの信用回復で、落とし前でつける。あとは……紅奈の後ろ盾になれって話。紅奈の支持者として、10代目候補を正式辞退。それでいいんだろ、クソじじんんっ………クソ親父」


 喋りつつも、紅奈に食べさせてもらっていたXANXUSだったが、クソじじぃ呼びをするなと、口の奥にステーキを突っ込まれた。


「公平に選ぶためにも、孫娘として可愛がっていようが、愛娘であろうが、手助けは出来ない。オレを邪険には出来ねーだろーが」

「後ろ盾であり、あたしの顔を遮る盾にもなるじゃない。この顔、使ってやろうよ」


 自分もステーキを食べては紅奈は、XANXUSの顎を掴んだ。ぐいぐいっと、XANXUSの顔を揺さぶる。不快そうに顔を歪めるも、XANXUSはされるがままだ。


「コウに……怖いものはないのか?」

「え? わりとXANXUSお兄ちゃんも、スクアーロお兄ちゃんも、顔怖いから近付くなって初対面は思ってたけど?」


 ガン、とXANXUSは初めて聞いたと、ショックを受けた。

 いい気味だ、とニヤつく家光。

 ガナッシュも、またもやウケている。


「目付きと眉間のシワを直せばいいのに。整った顔をしてるんだから。ちょっとは優しい顔でもしたら?」


 振り返った紅奈は、そう笑いかけた。

 別に気に入らない顔ではないらしい。

 またもや、愕然としてしまう家光。


「ここに傷、残ってる。男前は台無しではないけど、怖さは増したんじゃない? 綱吉と再会したら、失神しちゃうかもね」

「………」


 凍傷の痕が残る頬を撫でられるXANXUSは、クスクスと笑う紅奈を静かに見つめる。

 家光は、ガタンッと立ち上がって、声を上げた。


「コウっ……! 紅奈っ!! そいつの膝から下りなさい!」

「お母さんへの説明を思いついた。XANXUSお兄ちゃんは、アルプス山脈の真冬の湖に間抜けにも落っこちて、凍死寸前で、奇跡的に生き延びたってぷふふっ!

「……自分で言って笑うんじゃねぇーよ」


 紅奈は自分で言いながら、ツボに入ってお腹を抱える。想像の中のXANXUSの間抜けっぷりは、おかしい。
 それで紅奈の家に泊まれるなら、それでいいと、XANXUSは割り切る。


「じゃあ、休養という名目で、家光。よろしく頼むよ」

「っ……!?」


 ティモッテオは、そうお願いした。


「いや、待ってください! 本当に大丈夫だと思っているんですか!?」

「……」


 XANXUSが大人しく過ごすのか否か。

 家光が問い詰める勢いで尋ねれば、ティモッテオは二人を見た。

 大人しく膝上の紅奈に食べさせてもらっているXANXUS。ティモッテオには、大丈夫にしか見えないのだ。

 紅奈に、すっかり手懐けられている。


「……紅奈は、猛獣使いなのか?」

「猛獣といえば、ヴァリアーにベスターを飼わせてる」


 スクアーロを始め、XANXUSやベル、暗殺者を手懐けている猛獣使いな紅奈が、心配でならない家光に、紅奈はケロッと言い出す。


 飼わせている。


 強制的か。


「ああ……前に家に連れてきた大きな猫だって、奈々が言ってたな」

「ベスターはホワイトライガーだよ、お父さん」

「へぇ、ホワイトライガーか。ライガー……ライガー……? ……え? ライガー??


 すぐに理解できず、家光は目を点にする。


「おや。ホワイトライガーだなんて、とても希少じゃないか」

「うん。ひょっこり出逢ってね。あたしに懐いたけど、やっぱり日本の家で飼えないから。今はヴァリアーの屋敷で、XANXUSの代わりに暴君やってるんだぁ」

「そうなのか。まだ子どもかい?」

「うん。会った時にはもうお肉は食べられたから……多分、三歳ぐらいかな。そろそろ立て髪が生えるかも。大きくなっても、可愛いーよ」

「そうかそうか、見てみたいな」


 ティモッテオと紅奈が、ニコニコと穏やかに会話する中、家光はテーブルに突っ伏した。


 正真正銘の猛獣が、我が家に来ていたのだ。恐ろしい。


「そうだ、紅奈ちゃん。パーティーに参加する気はないかい?」

「ん? ヴァイオリン演奏させたパーティーみたいに、何か試すの?」

「いいや。今回の紅奈ちゃんの功績を讃えてのパーティー。後始末を終え次第、開こうと思うんだ」

「あたしのお披露目を兼ねるの?」

「そこは難しいところなんだ。しっかり手柄を立てたことは、公表はする。10代目候補者としても、名を出す。だが、大々的に、パーティーの場で参加者に紹介は……しない方がいいと、私は思うんだ。まだ、ね」


 もぐもぐ。ティモッテオの話を聞いた紅奈は、XANXUSを振り返った。


「どう思う? XANXUS」

「……そうだな」

「コウ? どうして父さんじゃなくて、XANXUSに相談するんだ? コウ??」


 真っ先に、XANXUSに意見を求めた娘を見て、家光はショックを受ける。


「元々、こういう相談……というか、教えをもらってたんだもん。頼れる年上の部下に、教えを乞うのは間違いではないでしょ?」

「……。」


 ぷいっ、とXANXUSがそっぽを向いた。

 頼れると言われて、絶対に照れたな。

 ガナッシュは、本当に笑いすぎが死因になりそうである。


「父さんだって! 父さんだって!! そのくらいの相談を受けられるぞ!? XANXUSより年上だからな!?」

「歳で張り合わなくていいから。
 さっきも言ったように、お父さんやおじいちゃんに可愛がられても、贔屓にアレコレしちゃまずいでしょ? 次期ボス候補者は、平等にしないと。それでも、一番幼いあたしへのハンデのように、XANXUSの後ろ盾を提案してくれた。……まぁ、すでにXANXUSはあたしについてるから、提案されなくても、だけどね!」


 ティモッテオに向かって、紅奈は勝気な笑みを見せ付けた。

 XANXUSは、自分の口に運ぼうとした紅奈のステーキを、紅奈の肘を上げさせて、それにかぶり付いた。


「それは、わざわざ言わなくていい。
 そのパーティーだが……お前の登場でざわめくザコどもを見てもいんじゃねーか? 前も言ってたろ。他の10代目候補者と会っておきたいって。その機会だ」

「あ。そっか。来るの? おじいちゃん」

「ボンゴレの一大事を防いだ功績だから、参加するはずだ」

「別に挨拶する必要はねーぞ、紅奈。そんな価値のねー、カスどもだ」

「それは、あたしが決めるから。他に覚えておくべき顔もありそうね」


 偵察も兼ねての参加もいいとのこと。

 確かに、ライバルとなる他の10代目候補者の顔を見るいい機会。

 そうなると、他にも重要ポジションにいるボンゴレファミリーの把握もしやすい場になるかもしれない。


 

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