[携帯モード] [URL送信]

空色少女 再始動編
496




「……お父さん。貴方の娘の始まりは、闇」

「……闇、か?」

「叫んでも、声は響かないどころか、出しているかもわからない……時間の経過もわからない、自分の存在の有無も自信がない……そんな暗闇の無の空間にいた」

「……」


 紅奈の目を伏せた顔を見て、家光は口を閉じる。


「孤独なそこで凍えていたら、温かな光が差し込んだ。青年が、手を差し出した。あたしは、その手を掴んだ。目を覚ませば……赤ん坊の綱吉が隣にいた。その青年が、初代ボスのジョット。どういうことで、ローナ姫の生まれ変わりであるあたしを、自分の子孫へと誕生させたかはわからないけれど………でも約束があったから、果たしたまでだと思う」

「…約束? 初代ボスのジョットと、約束?」

「おじいちゃんから聞いてない? 二人の約束は、語り継がれなかったんだね。ローナ姫は、病弱だった。最期の記憶はあるって言ったよね? 覚えてる?」

「あ、ああ……そこは、はっきり記憶があるって…。ローナ姫の死んだ日の記憶、か」

「そう。ジョットとその守護者達と会って、いつも城の窓から眺めていた街を、初めて自分の足で歩いたんだ。もう自分の死期がわかっていたから……最後のワガママで街案内に付き合わせた。身体が悲鳴を上げても、ジョットにすら倒れるギリギリまで隠し通して、ジョット達が守る全てを目にしようとしていたんだ」


 よそを向いて、紅奈は話を続ける。


「守護者達が見守る中、愛した庭園で、ジョットの腕の中で息絶えた。生まれ変わったら、愛するボンゴレの史上最強のボスになりたい、とローナ姫は願った。ジョットも……その生きざまを魅せてくれ、と言った」


 息を呑んだ家光。

 ボンゴレリングから現れたジョットが、そう紅奈に告げていた。


「そんな記憶は、飛行機事故で海に沈んだあとに、やっと蘇ったの。本当に、そこで………ジョットにブチギレた」
は!? ブチギレただと!?



 静かに語られていたのに、目を合わせたかと思えば、イラッとした顔で紅奈が言い放つため、家光はギョッとしてしまう。


「だって。覚えてもないのに、勝手に自分の子孫に転生させて、勝手にボンゴレX世と呼んで……勝手にアイツに決められたようなもんじゃん。XANXUS達がクーデターのせいで失ったとも思ったわけだから……夢の中で…………まぁ、今となっては別にいいんだけどね。ローナ姫の生まれ変わりであっても、ローナ姫の願いが源でも、それでも沢田紅奈として、最強のボンゴレボスを目指す。そう決めた」


 ふくれっ面をしては、へそを曲げた態度を見せたが、紅奈は真面目に告げた。


「話を戻すけど、ローナ姫の性格を引き継いでいる自覚ならない。あたしは、あ・た・し。ローナ姫の生まれ変わりだからって、おしとやかなお姫様のイメージを押し付けないで。………元から、あたしはお父さんが嫌いだって言ったじゃん。昔から冷めた目で見てるの、気付かなかったの?」

「うぐっ!! また、そんなことを言って……! 確かに、昔からクールな子だったが……それでも可愛さが上回ってたから!!」

「親の欲目が酷すぎる。」



 遠回りをしてしまったが、ちゃんとこれが紅奈なのだと答えておく。

 再びの、嫌い発言に、ダメージを受けた家光は、娘に盲目すぎる。


「お父さんからの話は、もういい?」

「えっ。いや。まだ……イタリアに来る度に何をしていたのか、聞きたいんだが…」

「何って……マフィアのボスになるために、スクアーロとXANXUSに鍛えてもらってた」

くそぉおおっ! だから傷が!! うちの娘に傷を! 正気なのかアイツら!? 会ったの6歳だったよな!?

「年齢は関係ないでしょ。惚れたんだから、もう」

ぶふっ!? ほ、ほほほっ、惚れた!?

「ボスとしてついていきたい存在ってことで、惚れて選んだってこと」

「あっ……そ、そっちか…」


 ホッと息を吐いて、胸を撫で下ろす家光を、紅奈は呆れいっぱいの目を向けた。


 なんでそんなに紅奈の周りに寄ってくる男達は皆、恋愛的な意味で惚れたと思うのだろうか。

 親の欲目も、度が過ぎる。

 まぁ………否定しきれないが…。


「もういいよね」

「い、いや、まだっ」

「早く、これからのこと、話そうよ。あたしとお父さん。同じ秘密を共有することになったんだ」

「!」


 もう食い下がらせず、紅奈は次の話へ持っていく。


「おじいちゃんにも言ったけど、綱吉に話すつもりはない。お母さんにだって。隠し抜くつもり」

「……そうか」

「うん。……流石にもう最初の頃みたいに、襲撃されたあと、目を閉じてもらうだけじゃあ……隠しきれないから」

「ちょっと待とうか、紅奈。その話を詳しく聞かせてくれないか?」


 カッと目を見開く家光。

 全然、知らない話である。

 紅奈と綱吉が、襲撃に遭ったってことなのか? 本当に聞いていないのだが??


「綱吉も、超直感があるわけではないとは思うんだけど……」

「紅奈? スルーしないでくれ」

「なんか、離れようとすると……引き留めてくるんだ。察したみたいに、いかないでって、泣きじゃくったの」

「? それは……いつものことじゃないか?」


 その話についてはスルーされたが、家光は綱吉の話に意識を向ける。


「ううん。XANXUSを救うために、大きな手柄を立てるって、一年ぶりにイタリアに来た冬休みに決意を固めたの。……例えそれが、綱吉と離れ離れになる結果になっても、ってね。おじいちゃんがピザ屋で会いに来た時、飛び出したあたしを綱吉が追っていったでしょ? いかないでって、言い続けて泣いたの。ひたすら……離れていかないでって」


 目を瞬かせた家光。
 そして、怪訝な顔になっては、首を傾げた。


「…でも、去年の冬休みも目の前で見たが、春休み、それからこの夏休みだって、イタリアに送り出してくれたんだろ? ツナの奴」

「うん。骸達を見付け出したいってイタリアに行こうとした時も……引き留められると思ったんだけど……綱吉はちゃんと帰ってくるなら、待ってくれるって言ってくれたの。なんか、ちゃんと帰ってくるって約束すれば、しぶしぶながらも送り出してくれるような感じになった」

「それは……ツナが、成長したってことじゃないのか?」

「………ううん。そういうわけじゃないんだ。本当に、強い覚悟を決めたら……必死で…必死で……本当なんだよ、お父さん」


 紅奈は、上手く言えないが、そう答える。

 成長したから、離れがたい双子の姉を送り出せたわけではない。そうではないと、思うのだ。


「……そうか。それで……それが?」

そういうことで、綱吉とは離れないつもりだから、よろしく。


 ずっこけそうになる家光。


「そ、それは、お姉ちゃんとして、離れたくないからでは?」


 紅奈の綱吉への愛は、家光も父親としてよく知っている。
 姉の方が、離れがたいのではないか。


「私は確かに双子の姉として綱吉と離れたくないけど………無理に離れると、あたしの二の舞を踏むことになりかねないよ?」

「ん? 二の舞って?」

「…あたしが寝込んでいた時のような一年を、また繰り返したい?」

「!?」

「冗談抜きで、それくらいあり得るって話」


 家光が暗くなった顔を歪めた。

 うん、と紅奈は、深く頷く。

 それほど、深刻な反応をしたのだ。だからこそ、紅奈は綱吉と離れるべきではないと、ここで伝えた。


「XANXUS達のクーデター事件を感じ取って、イタリアまで駆け付けたように、あたしの超直感は並外れていると自負しているから………私が10代目候補者として公になっても、変わらずあの家で過ごすべきだって、思うんだ。あたしだって……また、お母さんと綱吉から、笑顔を奪っては苦しめたくない。そこのところを、理解してほしいんだ」

「……っ。そう、か…。そうだな……」

「うん。まぁ……理解されなくても、お父さんが何を言おうが、あの家から出ていってイタリアに移住とかしないんだけどね。」

「オレの意見は、最初から聞く気なかっただと!?」



 紅奈の意思は、何を言われようが変わることは、始めから予定にない。

 むしろ、変えないことが、決定事項だ。


「なんで、そんな……横暴にっ…!」

「元からだけど」

「元から!? 元から横暴って、なんなんだ!?」

「横暴っていうか……我が強い?」

「我が強い…?」

「うん。格別なほど。」

「格別なほどに、我が強い!?」



 グッと親指を立てて見せる紅奈に、びっくり仰天した家光。




[*前へ][次へ#]
[戻る]

[小説ナビ|小説大賞]