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空色少女 再始動編
494 NINFEA (ニンフェア)



「そんなわけで、骸。よろしく」

「え? どんなわけで、ですか?」


 紅奈が、なんだか話を終えたみたいに告げる。
 脈絡ないですよね? と、骸は戸惑う。


「骸達がCEDEFに入れなかった場合、あたしの組織を立ち上げる案も、頭にあったんだ」

「「「!!」」」

「CEDEFに入れて、半年分だけだけど、ちゃんと教育を受けたし、それを活かしての活動をしてもらいたい。新顔も、同じように教育してほしいな。組織の活動内容的には、CEDEFと大差変わりないかもしれないけど、あたし直属の諜報活動組織ってことで、どう?」


 バッと、紅奈を、食い入るように身を乗り出して見る三人。


「ん? どした?」

「う”お”ぉいっ!! 紅奈! それオレに任せやがれ!!」

「え?」

「いや、オレ! キング! オレ!」

「は?」

「何を言っているのですか? 紅奈は、僕によろしくと言ったのですよ? 僕が任されるのです!」

「三人して、何を興奮してんの?」


 またスクアーロが、紅奈の頭をわし掴みにした。そして、揺さぶられる。


う”お”ぉいっ! そんな重要な仕事! 第一部下に任せるべきだろうがぁ!!

「うっさ。適材適所でしょうが……CEDEFの潜入経験のある骸に、任せるべきでしょ」

「ヴァリアーは!? お前の直属に!!」

「それは無理だろうが………独立暗殺部隊だし、今は信頼回復が優先事項。お前の仕事」


 今度は剥がせなかったため、紅奈はぺしぺしとスクアーロの手を叩いて宥めた。


「ええー! オレは紅奈の直属の組織がいいー!」

「暗殺者が性に合ってるベルは、ヴァリアーの幹部をしっかり務めなさいよ」

「そっちの組織に暗殺者の一人ぐらい必要じゃね? オレが仕切るよ。出来るから。だってオレ王子だもん」

「だから、適材適所だってば。暗殺の仕事は、させる気全くないから。戦闘員が必要な時に動いてもらいたけど、今はヴァリアー優先。スクもベルも、クーデターの罪を忘れてないだろーな? とやかく言うのは、過ちの清算してからにしなさい」

「くっ……!」
「…………むぅ。」


 立ち上げる組織に関しても、紅奈が決めること。

 今は、裏切りの償いが優先だ。
 XANXUSだけではない。スクアーロ達もだ。


「組織構造はおいおい考えるとして……とにかく、CEDEFを抜けた骸と犬と千種、それから新顔四人が、そっちに属して、動いていく方向でいい? 骸」

クフフ。もちろんです、お任せください。我がボス


 紅奈直属の真新しい組織が、骸に任されてしまう。

 キラキラと輝んばかりのオーラを放つ、ドヤ顔の骸を見て、嫉妬で殺気立つスクアーロとベルは睨み付けた。
 今こそ、睨み付けるだけで人を殺したい。


「その紅奈直属の諜報活動組織に、名前はもうあるのですか?」

「名前? あー……全然考えてなかった………… んー。」


 やはり、紅奈が命名すべきだろう。
 骸達は、待つ。


「……コクヨー?」

「何故、僕を見て、それが出たのですか? コクヨーって、なんですか…?」

「とても、なんとなく」


 骸達に任せるとなると、自然と浮かんだのは、黒曜だった。

 原作では、黒曜ズだもん。


「しししっ。春休みん時の別名もそうだけど、もしかして、コーってば、ネーミングセンス、ナッシング?」


 ベルが、おちょくる。

 紅奈の苦手な点なら、わりと楽しい。今後、つつきたいと悪戯心が疼く。


「あ? でも、ベスターって、すんなり決めたよな? あれはなんだったんだぁ?」

「…響きで、なんとなく。」

「響きの前に、どっからきたんだよ……」


 ついてきたため、飼うことになったホワイトライガーの命名は、紅奈がしたと、スクアーロは思い出した。


「ほら。ローマ神話に、そんな名前の女神がいたよね? なんだっけ……かまどの女神?」

「ああー、聞いたことあるなぁ。ウェスタとか、ベスタとか……。でも、女神じゃねーか。アイツは雄」

「だから、響きで決めたんだってばー。ベスター。かっくいーもん」


 本当は、原作の未来編で、XANXUSが従えていたライガーがそう呼ばれていたのを覚えていたため、拝借したのだ。

 でも、やっぱり、響きがかっこいいので、嘘ではない。


「よし。骸。ベスターをそっちで飼え。活動拠点がどこになるかは知らんが。」

「押し付けないでくださいよ。言う通り、活動拠点が未定です。ベスターは、ヴァリアーで飼育し続けてください」


 ベスターを押し付けたかったスクアーロだったが、骸に突っぱねられた。クソが。


「んー……。じゃあ、組織名は」


 その間、考えていた紅奈が、口を開く。
 三人が注目した。


「ニンフェア。NINFEA。うん。NINFEAにしておこうか」

「ニンフェア……日本語で、睡蓮か? 意味や由来とか、あるのか?」


 ニンフェア。日本語に変換すれば、睡蓮。


 スクアーロが問う間、骸の脳裏には、沢田家の骸達の部屋の壁飾りが浮かぶ。

 あれは、睡蓮の形をしていた。

 そこからきたのだろうか…、と小首を傾げる。


「睡蓮ですか。花言葉は、確か…」

「滅亡。」

「「「えっ。」」」

「冷淡。そして、終わった恋。」


 腕を組んだ紅奈は、そう骸より先に花言葉を口にした。


「コウ? その組織名で、ダイジョーブ???」

「紅奈? 他にも、花言葉はありますよね? 何故マイナスな意味の花言葉を…?」

「う”お”ぉい、どんな活動方針させるつもりなんだぁ?」



 物凄く心配になってしまったベルと骸とスクアーロ。


「やだなぁ。言ってみただけじゃん。この花言葉って確か……ギリシャ神話から出てきたってね。終わった恋の話で、冷淡な態度の野郎のせいで、身投げした妖精が睡蓮になったって話。滅亡は、身投げってところから

「そ、そうなんですね……」

「そういえば、ドイツでは、睡蓮の葉の下には魔物が棲む……って脅しの言い伝えもある

「だから、紅奈? その組織は、何を目指そうとしているのですか? 実は、睡蓮の下にいる魔物のような組織を作れ、と言う意味なのですか?

「やだなぁ。冗談だってば」


 焦る骸を、紅奈はケラケラした態度で笑う。
 うむ。弄ばれた。


「花言葉は、他にも色々あるよねー。清純な心、信頼、無垢、愛情……だったかな。この組織名に、込めた意味なら、大事なものを包んでくれるように花咲く睡蓮の花言葉、愛情と信頼だ。あたしの大事なファミリーを守るために、情報を集めては動く組織」

「………それで、NINFEA、ですか…」


 信頼が厚く、愛のある組織になりそうだ。

 それを主に任されるであろう骸は、少々胸の奥が熱くなってきた。

 立ち上げる組織を任されるだけでも、浮き立つのに。

 信頼を勝ち取れた証に、思えてならない。


「…チッ。その睡蓮の知識、一体どこの記憶のモンだ?」


 やっぱり気に入らない。スクアーロはムカムカしながらも、骸を睨みで殺したい気分を紛らわせるために、ちょっとした質問で逸らす。


「去年、好きな花について詳しく調べろっていう、しょうもない授業内容があったんだよ。……まぁ、前世から、好きな花なんだ。睡蓮より、蓮の花が好きだけど。折り紙も折れる!」

「そうかよ。今度見せてみろ、見てーえ」

「見たいんだ?」


 キリッと、どうでもいい情報を言ってみたのだが、スクアーロはどうでもよさそうな言葉を返しつつも、一応見たいと言っておく。


「活動拠点……普段生活する場とは、別にしておく? 骸達には、住居の当てがあるって言ってたけど、そこに住む気はまだあるの?」

「ええ。一応、買い手がつかないように、CEDEFの方で押さえてもらっていました。ゆくゆくは三人で普段住む場所として」

「あと四人住める?」

「それは、流石に無理です。紅奈を加えた四人で暮らすに、十分な一階建ての家、ってだけなので」

「まぁ、そうなるよね。やっぱり、骸達とあの四人の住居を二件、からの活動拠点にする建物を一件にすべき、か。いや、活動拠点も、住めるスペースがあれば、あの四人に常にいてもらえるようになるわけだから…」


 肘掛けに頬杖をついて、紅奈はどれがいいかを考えた。


「今ある活動資金は、70万しかないからなぁ……あ、いや、XANXUSから絞り出せるわ」

「アイツの利用価値が、金になってるぞ、紅奈。」

「いいじゃん。あたしを裏切ったんだよ? 首謀者なんだから、財産の一つや二つ、あたしに差し出すべきでしょ?」

「横暴論だが……まぁ、いいか。好きに絞り出せぇ」


 そこは止めるべきではないだろうか、と骸は、指摘しかしなかったスクアーロを見てしまう。


「でも、ソッコーで動くわけじゃないんだし、今は仮の活動拠点がいいんじゃねーの? オレもそこに部屋欲しいから、そこそこ大きいトコがいい」

「来る気満々ですか、ベルフェゴール」

「は? 文句あんの? 紅奈が行くなら行くしー。なんなら、そこにある紅奈の部屋に入り浸るー♪」

「クフフ……ベルフェゴール、出禁です。」

「うしし。やれるもんなら、やってみろよ」



 バチバチ。相変わらずの火花散りをする骸とベルだった。


「んー。じゃあ、せめて、アイツらのためにも、仮の活動拠点兼住居を決めてやらないとじゃん……明日帰国は変更だ」

「やったー! んじゃあ、王子と新居探しデートな♪」

「どんなデートだ! ふざけんなよクソガキがぁ!」

「二人で同棲するような言い方、不快ですね。一人で帰ってください、今すぐに」


 予定変更。


「明日、ランチャーところ行って……しっかりと正式に挨拶しよう。素性名乗ったら、どこまで驚くかなぁ?」

「お前はどんだけ驚かしたんだよ…」

「紅奈は本当に人を驚かせることがお好きですよね…」

「え? あたしは他人を動揺させたりするのが好きなだけ…いや、間違えた、人生にサプライズは必要じゃん? 人にそんな楽しみを与えたいだけなんだ

「ただ人を弄びたいだけなんだな? よくわかったぜぇ。」


 好んで人を弄ぶ小悪魔だ。

 もう、脳に刻んでおく。

 紅奈が息を吐くようにすることなのだと。


「XANXUSが起きるまで待ってたら、八月中旬になっちゃったし……そんな時間かけられないんだよな………綱吉の宿題を見ないと」

「ここまで来ても綱吉ー? コウってば……いい加減、綱吉に独り立ちさせないと、今後アイツ、一人じゃ生きてけなくなるぜー?」

「まだ小学生なのに?」

「オレ達は、仕事してんじゃん」

「だから、自分を基準にしないの」


 ベルが、こっそりとスクアーロに視線を向ける。


 紅奈にとって、綱吉は第一と言っても過言ではないのだ。


 ここまで来たとしても、変わりっこないのだ。

 この中で、スクアーロが、一番わかっているつもりでいる。

 だから、もう言うな、とスクアーロはベルに首を軽く振って伝えた。


「手に入れたいのは、骸達の住居、新顔の四人の住居兼の仮活動拠点……あと、新しい連絡手段が欲しいね。堂々とお前達と連絡は取れるから、盗聴防止を加えた携帯電話」

「はい! 王子のケー番が最初に登録! 一番いいの用意する!」


 パッと、ベルが挙手。


う”お”ぉいっ! 携帯電話ならオレが!

「オレが用意するー、だってオレ王子だもん♪」

「あっ! コラ、ベル!!」


 シュバッと、ソファーから飛び降りると、ベルは部屋を飛び出してしまった。

 スクアーロが叫んだところで、ベルは戻らない。

 紅奈は放っておくことにした。


「貯めた資金は、スクに預かってもらっているから………それで足りるかな? でも、当分の生活費はどうすべきか……いや、それも、XANXUSから絞り出す」

「その、絞り出すって言い方、やめません?」

「絞り出す。」

「やめる気ないですね…」


 キリッと言っておく紅奈。


「スクも、骸も、今すぐ手配するために動いて。見繕っておいて」

「はぁ? お前を、ここに残してか? オレは残るぞぉ」

「僕も、ボスを残せませんよ」

「なんで? 別に危険なくない?」

う”お”ぉいっ! 大ありだろうがぁ!! 武器なしじゃねーか! ここにいるのは、お前の味方のボンゴレとは限らねーだろ!

「敵とも限らないでしょ。夕食には、9代目も来るし、ついでに守護者だっているはず。ヘーキヘーキ」

「平気ではありませんよ、紅奈。XANXUSの解放をよく思わない上層部だっていますし、紅奈は10代目候補者として明るみになりましたので、他の支持者に狙われるかもしれません。油断は、禁物、です! よって、一人にはしません!」

「骸も、過保護部下〜。じゃあ……なんか、その辺の9代目の守護者にでも引っ付けばいい? XANXUSの見張りのためにも、誰かしら待機してるんでしょ。サッと行って、サッと戻って来ればいいじゃん」

「はぁあ? どの守護者に引っ付くってんだ? あの9代目の右腕の一人かぁ? 一番若めの、紅奈がおちょくりまくってる野郎」

「んー。そっちじゃない右腕がいいかな、せめて」

「どっちでもだめだ」

「結局、だめなのかーい。さっさと行ってよー」


 紅奈は自分のポニーテールの髪の先を、くるくると指に絡めた。

 このやり取りが、ダルそうになってきたようだ。これ以上、続ければ、紅奈はキレかねない。






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