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空色少女 再始動編
492 膝上




「……いくつだ?」

「ええ? 訊いちゃう? イタリア男のくせに、女子の体重を訊く? もうすぐ28キロになる」

「28だぁ? ……まだ軽いだろう」

「んー、そうかもね。昨日おじいちゃんが抱っこしたくらいだもん」


 見た目も普通に細身なのだから、十分軽い。
 よって、膝に乗せても問題ないだろう。

 いや待て。今さらっと、何を言った?


「はっ……!? じじぃの腰はどうなった!?」

「あたしも心配した。さっきも会ったけど、別に痛めてなかったよ。あと、せめて親父と呼べ」


 この物言いだと、紅奈からせがんだわけではなく、ティモッテオから抱っこをさせてほしいと頼んだと察せた。


「………ほらよ」


 ティモッテオも、腰を痛めることなく抱っこが出来たのだ。紅奈の重さを確かめてやる。


 XANXUSは、腕を伸ばした。


 その腕を見てから、紅奈は仕方なく、XANXUSに近寄る。


 紅奈の脇に手を入れては、XANXUSは持ち上げた。


「てか、もう力出るんだ?」


 持ち上げられたあとではあるが、紅奈はもうそんな力が出せることに不思議がる。


(重い、な……)


 記憶の中にある紅奈と比べれば、やっぱり重い。

 でもちっとも苦ではない重さ。

 XANXUSはそのまま紅奈を持っては、自分の膝に横向きに座らせた。


「重い…」

「だから言ったじゃん」


 心の声が出てしまったが、紅奈は怒らない。


「そうじゃねぇよ……成長、したな」

「そりゃあ三年も経てば、成長もする」


 目を覚ませば、三年。成長をして、長く伸びた髪。触れてみれば、柔らかい。

 その感触を楽しむように、弄ぶながら、顎を紅奈の頭に乗せた。


「…問題ねぇー重さだ」

「遠回しに膝の上に座ってろってこと?」

「………」


 笑っている紅奈に、それ以上は言わない。


「お前の父親は、相変わらずか?」

「相変わらずって?」

「過保護で溺愛してんのか?」

「そうね。貴方とおじいちゃんの前に、仲直りしておいたから……デレデレ状態が悪化した」

「……悪化…」



 紅奈が家光と仲直りしたとは、意外である。

 冷たくあしらわれていたかと思えば、コロリと態度を変えて甘えられては鼻の下を伸ばし、そしてワガママに振り回されていた家光。

 変わっていなさそうである。むしろ、鼻の下が伸びまくっているもよう。


「そんな父親が、よくもまぁ……同い年の男どもを家に居候させたな?」

「だから言ったでしょ。お母さんが家なし子だったから心配して、しばらくは面倒見るって言い張って、譲らなかったの」


 あのおっとりした母親が。

 意外と強かったのか。


「骸達も遠慮してたけれど……とりあえず、一年も待たせたから、一年居候すればって言ったら、本当にそうなりそうになった」


 いい加減に言っただけで、居候が半年も住みついた、だと……?


「まぁ、骸達も、あのイタリアで過酷に生き抜いただけあって、稽古相手には十分だったから、好都合だったよ」


 またもや骸の高い評価を聞かされて、イラッとする。

 稽古相手でも不足なし、か。

 好かない野郎だ。


「……お前、戦闘スタイルは決めたのか?」

「んー、今のところは、蹴りを中心に戦うスタイルが定着しつつあるね。でも、なんか、定着する気には思えないというか……やっぱりジョットの武器がしっくりくるのかしら」

「初代か? グローブかよ……」


 髪をいじっていない紅奈の手を取って見る。

 成長はしたとはいえ、小さいという印象を変わらず抱く。


「………別の武器でも、いいんじゃねーのか?」


 思わず、にぎにぎとしてしまう柔らかい手である。本当に肉付きがよくなった。

 これで拳を振るうのは、少々もったいない気がする。


「そうねぇ………別にジョットの戦闘スタイルにこだわらなくてもいいとは思うけれど……歴代ボンゴレボスの中なら、やっぱり2代目と7代目の武器を合わせたものもいいよねー。XANXUSみたいに、憤怒の炎で死ぬ気弾の炎をチャージして撃つのは、出来ないってわかってるよ。でも、7代目の改良版の死ぬ気弾が使えないわけじゃない。でしょ? 死ぬ気弾を込めた銃でぶっ放して、蹴りを繰り出す。そんな戦闘スタイルを試してみようかな。そういうわけで、完全回復したら、死ぬ気弾に、チャージの仕方を教えてよ」


 自分の戦闘スタイルに、似せてくるのか。

 手の柔らかさも失われにくいだろうし、悪くはない。


「…なら、余計オレ様が紅奈の家に泊った方がいいだろうな」

「それは好都合ではあるけれど……許可が出ると思うの?」

「絶対に泊まる。絶対だ。」

「意志強いって」


 XANXUSはいつまでも紅奈の手をにぎにぎしつつも、髪をすくように撫でている。無意識だ。


 紅奈はなんだろう、と思いつつも、放置しておいた。


「う”お”ぉい。紅奈……あ”?


 ノックもなしに、スクアーロが入室。

 目にするのは、XANXUSに膝の上に乗せられては、手を握られている紅奈の姿。


「……てめぇええ……何枚におろされたいんだぁ?」


 あいにく、このボンゴレの屋敷内で、武器の所持を禁止されている身。


 現在、剣を持っていないのだが、これ以上ないくらいに殺気立つスクアーロは、紅奈を奪還次第、剣を持って戻っては叩き切る所存である。


 ぷいっ、と顔を背けるが、XANXUSは紅奈を放す気はさらさらない。


 今度は意識的に、手をにぎにぎしては、髪をサラサラと撫でる。


「何? スク」


 紅奈は紅奈で、自分の状況に無頓着だった。


「ベルが飽きたって騒ぐし、骸が今後の方針を固めようって話がしたいそうだぁ……さっさと下りろ。来い」

「そうね。XANXUS救出も成功したわけだし、次を決めないと。んじゃーまた夕食ね。ダブル親子で」


 さっさと用件を言えば離れると思い、スクアーロは右手を伸ばす。


 思った通り、紅奈はXANXUSの膝から、ひょいっと降りた。


 スクアーロの手を取る前に、がしりっ。


 腕を掴まれてしまう。

 XANXUSである。


「はあ? 行くんじゃねぇよ」

「なんで?」

「まだ積もる話があるだろうが」

「あとででいいじゃん。休んで」


 紅奈が行こうとするも、XANXUSは引っ張って留める。

 なんだよ、とめんどくさい顔をする紅奈。


「もっとオレ様に構いやがれっ!!」

「え。いきなり素直かよ。びっくりだ。」


 くわっと必死の形相で、構えと言われても、ときめきも何もない。

 お前も駄々っ子か。


「ふざけんなっ! コウ、行くぞ!」

「わっ」


 スクアーロが紅奈の手を掴もうとしたが、XANXUSが引き寄せる方が早かった。


 XANXUSの元に戻った紅奈を、スクアーロは奪還しようとしたが、取っ組み合いとなる。


 紅奈の奪い合い。


 間に挟まれた被害者紅奈は、ブチギレて、XANXUSの腹に拳を、スクアーロの腹には膝を食い込ませて撃沈させた。


「あれ? なんか既視感……まぁいいか」


 前にも似たようなことがあったが、思い出すことはあっさりとやめておく。


 結構な大ダメージを受けた二人が、プルプルしている間に、紅奈は考える。


「今、XANXUSの部屋に入る許可をもらっているのは、あたしとスクアーロだけ。あたしが引き連れてベルと骸まで入るのは、またよからぬ企みをするんじゃないかっていう無駄な心配をされるわけだからぁ……うん。XANXUSは大人しく休んでおけ。また構いに来てやるから。行くぞ、スク」


 床に蹲るスクアーロの肩をポンポンと叩いては、紅奈はXANXUSを置いて部屋を出ていってしまった。


(………ぜってぇ、紅奈の家に行ってやる)


 紅奈の家に、転がり込む。

 そう、しょうもないと思われかねない決意を、XANXUSは燃え上がらせる。






 その後。
 部屋を訪ねてきたティモッテオに挨拶もなしに言った。


おい! クソジッ……いやクソ親父! どうせ軟禁と監視が続くんなら、紅奈の家でもいいだろうが!! 許可出せ!!


 ブチギレ状態で、紅奈の家に行く許可を求めたXANXUS。


 そんなに紅奈が好きなのか、と微笑ましいと見つめるティモッテオ。


 ついてきた右腕守護者、コヨーテは呆気にとられて、ガナッシュはツボに入ってしまいお腹を抱えて、笑い死にそうなる。


 やけくそなXANXUSは、ただひたすら、紅奈の家に転がり込む許可を、求めるのだった。







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