[携帯モード] [URL送信]

空色少女 再始動編
491




「んー。じゃあ、あたしの話をしようか? どこからするかなぁ……あっ。あたしの前世の前世の記憶が、はっきり蘇った話をしようか。ローナ姫。ベルから名前を聞き出したんでしょ?」

「……ああ。ベルの奴は、一体いつから知ってた?」

「XANXUSに話した日に、盗み聞きしてたんだよ」

あ”? ……あんのクソガキ


 XANXUSにだけに明かされた紅奈の話だったというのに、ベルが聞いていた。怒りが沸き上がる。


「じゃあ……前世のことも、アイツは」

「聞いているね。ベルはローナ姫と同じ王族の末裔で、あたしは初代ボンゴレが曾曾曾祖父。ウケるね」

「は? なんの関係がある?」


 ボンゴレ初代が話に出てきて、XANXUSは意味がわからないという顔した。


「あ………ジョットの話は、してなかったね」

「……初代がどうしたんだ? あ?」


 またもや何故か憐みの目をしてきた紅奈に、イライラしつつも急かす。


「あたしの前世、まぁ、生まれてくる前かな。初代ボンゴレのジョットと会った。手を差し出して来たから、掴んだ。そのあと、気付いたら……まぁ現世の人生が始まっていたの。初めてイタリアに来て、それから死ぬ気モードのあとに気を失ったら、夢に出てきた。あたしをボンゴレX世って呼ぶし、それから”オレの姫”だとも呼んだ」


 ペラッと話されたことは、なかなか呑み込めなかった。


 初めて前世や前世の前世の話を聞いた時よりも、衝撃は計り知れない。


 初代ボンゴレとローナ姫の関係。

 弟と姉になるという約束。

 そして、生まれ変わりである綱吉と紅奈。


 紅奈は「記憶もないあたしに押し付けやがってムカつくよねー。でもまぁ、現状は不満ないし、生き方を変える気もなし。最強のボンゴレになるあたしの生き様を魅せつけてやる」なんて、勝気な笑みを見せた。


 聞かされていた間、XANXUSはポッカーンとしていたのだが、紅奈に度々口の中に食べ物を突っ込まれては、それを咀嚼して飲み込んだ。


 気付いた時には、食事は完食。


「まぁ。そんな感じだ。XANXUSの別荘は、あたしが10代目ボスに就任したらくれるって話は、当然生きてるよね? まだXANXUSに所有権あるから、あの庭園ごともらう」

「………もう10代目同然じゃねーか。くれてやるよ」

「は? 話をちゃんと聞いてなかったのか? ジョットの一存で決まるわけないだろうが。実力を見せ付けて、蹴散らして、認めさせるんだよ。正々堂々とあたしは、ボスの座につく」


 紅奈が未だに握っているフォークが鋭利に光って見えたから、XANXUSは押し黙ることにした。

 紅奈の性格を考えれば、おいそれと差し出されれば、ブチギレるだろう。

 ローナ姫の願いが根源ではあるが、前世の影響もあって、紅奈は頑固だ。妥協することなく、強く成長していく。


 これまで以上に、魅了をする。
 これまで以上に、きつけて放さない。
 これまで以上に、れさせる。


 結局は、変わらないのだろう。


 ジョットと似たようなものだ。


 紅奈の生き様を魅せられる。
 このまま、紅奈についていき、その光を見つめ続けるのだ。


 見そびれた紅奈の様子や成長。その三年分の話。

 聞くには時間が、足りない。

 それでも、引き留められないだろう。

 紅奈が帰る場所は、ジョットの生まれ変わりであろう綱吉の元。……気に入らない。


 どうしたものか…。


「………おい。オレは罪人扱いのまま、軟禁と監視がつくんだよな?」

「ああ、そうだね。まだお父さんとおじいちゃんを中心に、上層部が具体的な償いを話し合い中の段階。あたしとしては、引き続きヴァリアーのボスとして、コキ使うだけでいいと思うんだけどね」

「コキ使うな」

「ヴァリアーは、現状ではボス代理のポジションで、スクアーロとお目付け役のオッタビオが動かしていた。今回の功績で名誉挽回とはなったけど、信頼回復にはまだまだ。それに関して、責任持ってヴァリアーを動かし、本来の忠実な独立暗殺部隊に戻す」

「……」


 それが、紅奈が望むXANXUSへの償い。

 紅奈にとっての好都合でしかないのだが……。


「お父さんは嫌々ではあったけれど、おじいちゃんは後ろ盾になることも償いに含めたらどうかって言ってたね」

「後ろ盾だと?」

「あたしに逆らう形になったじゃん? 当分は……まぁ、後ろ盾とはちょっと違うか。10代目候補だって公けになった私の顔よりも、XANXUSの顔を前面に出して、盾にするってことだよ。これからの成長で力を蓄えるためにも、XANXUSに守られろってところでしょ。あたしに手を出せば、支持している上に、ヴァリアーのボスであるXANXUSが黙っちゃいないっていう牽制にもなる。むしろ、弾除けになるんじゃない?」


 ケラケラと、紅奈は明るく笑い退けた。


「………」


 役得だ。

 とか、思ってしまったXANXUS。

 堂々と紅奈の支持者であり、部下である事実を公にするのは、誇らしいような、気恥ずかしいような……。


「正式な決定が下されるのは、まだ先になりそうだねぇ……」

「………おい。紅奈の家に、カス鮫が泊まったらしいじゃねーか」

「うん? ベルも泊まるよ。押しかけてくる」


 スクアーロだけではなく、ベルまで押しかけては寝泊まりしているのか。


「………軟禁と監視なら、紅奈の家でもいいじゃねーか。泊まらせろ」


 我ながら無茶な要求ではあるが、紅奈のそばにいるには、自分が紅奈の家に行くしかない。


「………まぁ、骸達の部屋を使えば、泊まれることもないが。許可が下りるかどうかだよね」

「ボンゴレの屋敷やイタリアにいるより、反逆の恐れを感じずに済むだろうが。……おい待て、誰だ骸は」


 もっともらしい言い訳を突き付けたが、危うく聞き逃すところだった。誰だ。部屋を与えられたらしい骸とやらは。


「ああ、紹介がまだだね。ほら、XANXUSに潰してほしいって頼んだファミリーから、抜け出した子達だよ。スクアーロに続きをやらせて、無事潰し終えては、スカウトして、あたしの部下にした」


 紅奈はニッと笑うが、XANXUSは不快だった。

 あれほど苦戦したクソファミリーの殲滅を、スクアーロが見つけ出しては潰した、と。


 オレが頼まれた仕事だったと言うのに……クソが。


 これもまた、自業自得なのだろう。


「学校の休みでもないのに、お母さんが三週間もイタリア滞在を許可してくれたんだけど……家なし子だって話したから、心配しちゃって、当分家で預かるって言い出したから………半年居候した」

「……達って、言ったよな」

「ん。三人。骸と犬と千種。今回の功績は、骸のおかげね。妙に父親がピリピリしてるなーってことで、考えた末に、骸がCEDEFに入っていい活躍の場を探ってやるって言ったんだ。大当たりー。今回の大手柄を、掻っ攫えたってわけ………何キレてんの?」

「……キレてねぇ……」


 流石、紅奈が求めただけある人材だとは思う。

 CEDEFに、紅奈のために潜入しては、虎視眈々と大手柄の任務の情報を流した。いい人材なのは、間違いないだろう。


 だが、しかし。

 だが、しかし、だ。

 気に食わない。


 怒りのオーラが、丸出しになるXANXUS。


「………全員、野郎、だよな?」

「うん」

「……歳は?」

「ん? 骸は一個上で、犬と千種は同い年。え? ……何怖」


   ブッチン。


 怒りの形相になるXANXUSに、紅奈は頭を鷲掴みにされた。


「てめぇーの家に泊まる。絶対だ。絶対」

「意志つよ」


 紅奈のたった一つ歳上でしかないくせに、あまりにも活躍した骸に、湧き上がるドス黒い嫉妬。


 骸達の部屋、と称される部屋を、自分が乗っ取ってやる。XANXUSは大人げない発想を、実現させることにした。


「許可をもぎ取れるかはさておき……父親との時間はどうすんの?」

「………今更必要か?」

「はぁ……。まったく。今夜はおじいちゃんとお父さん、ダブル父子で夕食をとるか」


 呆れたため息を零す紅奈によって、まだまだ気まずいティモッテオと過ごす羽目になるのか。


 ダブル父子の食事。


 思い出すのは、小さな紅奈が膝に乗っていたことだ。


 ……流石に、もう膝には乗ってこないだろう。


 XANXUSは、じとっと、紅奈を見下ろしてしまった。

 その視線に気付いた紅奈は、きょとんとしたが、やがてなんの視線か気付き、ニヤリと笑う。


「膝に乗せたいなら」

「言ってねぇ。」

「別にいいよ」

「言ってねぇ。」


 何故バレた。クソが。


「でも、三年前と違って肉付き良いから、それなりに重いからね」


 肉付き、と言われて、また紅奈の絶対領域を見てしまいそうになったが、XANXUSは堪え切った。







[*前へ][次へ#]
[戻る]

[小説ナビ|小説大賞]