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空色少女 再始動編
489 可愛



 スクアーロは次のビデオを見せるために、少しいじっては再生した。


「……あ?」


 とっさにXANXUSは、停止ボタンを押す。


 映ったのは、ヴァリアーのコートをまとう少女。

 やさぐれたようにヤンキー座りをしては、不機嫌な顔をしている少女は、毛先が内側と外側にはねた短い黒髪。唇は真っ赤な口紅が濡れていて、目元の黒いアイラインで、つり目を強調している。


 しかし、その目は。

 紛れもなく、紅奈のものだ。

 睨みつけるような眼差し。

 紅奈じゃないか。


「………任務に……?」

「……っ」

「てめぇええークソ鮫!! アイツに何やらせてやがんだ!?」


 胸ぐらを掴み、顔を背けたスクアーロを振り回すXANXUS。


「うるせぇえっ!! 紅奈のワガママを拒否出来れば、こうなってねーんだよ!! 寝てた奴に文句言われる筋合いはねぇえっ!!」

「なんだとクソ鮫がぁああっ!!」

「だいたいっ! 紅奈は、単に現場に行きたいって言っただけで! 手なんて汚させてねぇし、邪魔もしてねぇよ!! 任務は無事成功したぁああっ!!」



 怒るとは思っていたが、スクアーロはポチッと動画を再生した。


 現場に行く最中のバン。

 黒髪の紅奈とベルが、掌サイズのボールを床にワンバンさせるキャッチボールをしていた。


 黒髪の紅奈。……慣れない。


 ビデオを撮っているであろうルッスーリアが、紅奈の呼び名を決めようと言い出した。

 候補が挙がる中。

 ベルが、ニヤリと笑って言った。


〔ローナ姫〕


 XANXUSは、目を見開く。

 ベルから、ローナ姫の名が出た。その名をベルから聞き出したが、紅奈の呼び名に出すとは何故……。


 疑問に思ったのも一瞬。


 紅奈の手にあったボールが、ベルの顔面に向かってぶん投げられた。

 間一髪、避けたベルだったが、紅奈が胸ぐらを掴んでは壁に叩きつける。スキーの最中からちょっかいを出していたベルにお怒りである紅奈。結局、ベルの腹に膝が食い込んだ。

 それから、紅奈はあっさりとローナ姫呼びを許可した。

 ローナ姫の話が、少しされる。

 2代目が想いを寄せていて、死を知った際に、憤怒の炎を覚醒させた姫。

 XANXUSもそれを教えようと思っていたのに、スクアーロが先に教えるとは。不服だ。


「この時点では………知らされてなかったわけか」

「ああ」


 しかし、最初にローナの生まれ変わりかもしれないと話をされたのは、XANXUSである。その優越感で、少しは機嫌が直った。

 任務の最中のビデオは、撮っていない。


 実は紅奈が行方をくらましたかと思えば、キャバロッネファミリーのディーノに車で轢かれては、何故か悪夢病に罹った状態で返された事件があったのだが………それは言わないでおこうと決めた。


 次のビデオが、再生される。

 ヴァリアーの食卓だ。ご馳走が並んでいて、紅奈が手を伸ばすが、スクアーロが止めた。

 何かコソコソしていて、紅奈が首を傾げている。

 マーモンが隠していた白い生き物が、紅奈に飛びついた。

 猫とは違うようだ。それが紅奈に懐いている。


 任務初参加の報酬。そう言って、その白い生き物を渡したようだ。


 任務初参加。大袈裟である。


 これは……別の祝いだろう。


 紅奈の快気祝い。または、和解祝い。


 そこにいない自分。少々、胸くそ悪い。


 しかし。


 ビデオ越しに、紅奈と目が合って気付く。


(ちっ。……オレに遠慮したってわけか)


 紅奈も任務初参加の祝いの真意に気付いて、ビデオカメラを見た。


 見ているであろうXANXUSを、そこから見ている。


 その場にいられないXANXUSのためにも、別の口実で祝っているのだ。


 その気遣いが、逆に胸くそ悪い。そう思っていれば、画面越しの紅奈が微笑んだ。


 しっかりと、目が合っている気がする。


 そして、紅奈は白い生き物を、ヴァリアーで飼えと言い出した。


 紅奈以外に、懐かないという白い生き物。よくよく見てみれば、縞模様を持っている。

 白い、虎の子?

 凝視していれば、その白いのをXANXUSだと思って飼えばいい、と紅奈は言い出した。


 扱いは、XANXUSと同じ。

 ひくり、と口元がつり上がった。

 喧嘩売ってんのか、コイツ。


〔暫く会わないと扱いがわからなくなるじゃん? なぁ? 名前はXANXUSにしとく?〕

〔…奴が戻ったらぶちギレるぞ〕

〔だろうな、このビデオを見たアイツの顔を早く見たいな〕


 紅奈は意地悪く喉を鳴らして笑っていた。


(喧嘩売ってんな!?)


 スクアーロはとっくに、ベッドから離れては、知らん顔をしている。

 ビデオの続きを見れば、拒否は許さず、ヴァリアーでその猛獣を買う決定が下された。

 危うくXANXUSの名前がつけられかけたが、ベスターと名付けられた。


「この獣は……」

「ベスターは、ライガーだぁ。……本当に紅奈にしか媚び売らねー猛獣だぁ……」


 遠い目をしているスクアーロの様子からして、相当手を焼いているようだ。


 ライオンとタイガーの間の子。しかも、アルビノときた。

 なんて希少で高価なものを、手に入れているのだろうか。


 しばらく他愛もない会話がされながらも、ご馳走が減っていく。


 そんな画面を眺めていれば、スクアーロがスススーッと戻ってきては、覗き込んだ。


 その行動が気になったのだが、それよりも、画面の中だ。


 妙に、紅奈の頬が赤いことに気付く。


えへっ


 ドアップに映し出された紅奈は、へらりとした笑みを零した。

 にこ、としては、ぐびぐびと両手に持つコップの中身を飲み干す。

 そして、その空になったコップをスクアーロに押し付けては、おかわりをねだる。


 眠たそうに目を細めた紅奈に、画面の向こうのスクアーロは警戒心を剥き出しにしていた。


 XANXUSだって、そうなるはずだ。甘えた声を出している紅奈は、何かを企んでいるに違いない。


…んぅ…ちょーだい


 ちょこん、と首を傾げて、上目遣いで微笑む紅奈。

 頬は赤く染まり、可愛らしい猫撫で声。


「は……可愛……は?」


 可愛い。

 率直に思ったことを言ってしまいかけたが、わかるわかるとスクアーロは深く頷く。

 とりあえず、XANXUSは二回、同じシーンを再生してしまった。


 うちのボスが可愛い。


 その後、紅奈のオレンジジュースにウィスキーが入っていると発覚。


 スクアーロをとっ捕まえようにも、すでにベッドから離れて、避難済み。


 銃声が響いたかと思えば、画面の中の酔った紅奈が、銃を持っていた。

 間違いなく、XANXUSが部屋に隠していた銃である。

 今度は、スクアーロに銃について責められた。念のために、教えただけである。


 オレは悪くねぇ。


 その後も、酔った紅奈の可愛さが炸裂。

 可愛さが撒き散らしているというのに、猛獣が暴れるかのような騒がしさだ。


 堪え切れずに、XANXUSは笑い出した。


 確かに、そこは。


 紅奈の幸せな場所の一つのようだ。









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