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空色少女 再始動編
487 空白の三年



 目を開けば、暗い部屋の中にいた。


「紅奈……? おいっ、紅奈っ!」


 掠れた声で、XANXUSは紅奈を呼んだ。


 暗い中で、焦ってしまった。


 光を探してしまう。紅奈を、探してしまった。


「紅奈なら、休んでるぞぉ」


 そこに低い声が響いては、電気がぱっとつけられる。


「っ……カス鮫……」

「う”お”ぉい。久しぶりなだなぁ、御曹司。つっても、てめーは仮死状態の冷凍されてたんだから、久しぶりには感じねーか?」


 白銀の髪と鋭い目付きのスクアーロを、XANXUSはベッドから起き上がって睨みつけた。


 紅奈への誓い。願掛けのためにも伸ばした髪が、長くなっている。


 紅奈と同じく伸びていることを見て、本当に三年が経ったことを思い知った。


 それから、紅奈がここにいたことも。

 成長した紅奈が、夢でもないことも。


 理解したXANXUSは、自分の頭をガシガシッと頭を掻いた。


「………何してやがる?」

「あ”? お前が寝てる間に、撮ってやった紅奈の姿。見たくねぇーのか?」

「…………」


 ポンと置かれたノートパソコンには、三年見なかった紅奈の姿があるらしい。


「マーモンはマーモンで、お前に売りつける気だ。アイツが撮ったヤツが見たければ、買えよぉ」


 あのクソチビは、相変わらずか。

 代わりにスクアーロを睨みつけていれば、スクアーロは気にすることなく、パソコンをいじっては動画を再生した。


「最初は、クーデターから一年後に、紅奈が久しぶりにイタリアに来て、スキーしたやつだぁ」

「一年後だと?」


 何故一年後なんだ。


 聞き返されて、スクアーロは驚いた顔をする。

 それから、パタンッとノートパソコンを閉じた。


「あ!? なんだカス鮫! 見せるんじゃねーのか!?」

「いや……まだ聞いてねぇーなら……オレから言うのはまずい」

「はっ!? なんのことだ!? さっさとそのパソコンを渡しやがれ!!」


 サッとノートパソコンを持って身を引いたスクアーロを、XANXUSは捕まえ損ねる。

 病み上がり状態では、ベッドから降りれば無様に転倒しかねない。


「かっ消すぞ!?」

「パソコンごと消す気か!?」

「っ……」


 手を光らせたXANXUSだったが、憤怒の炎を放てば、目当てのノートパソコンが壊れてしまう。意味がない。


「まったく。どこまで聞いたんだぁ? 今回は紅奈が率いたオレ達でCEDEFの任務に加勢して敵をぶっ潰したデカい手柄を突き付けて、家光や9代目と仲直り、そんでもってローナ姫の恩返しもカードにして、お前の解放を勝ち取ったことは?」

「………なんで……ローナ姫のことを知ってんだ、てめぇ」

「聞いてねぇのかよ……」


 一体、紅奈は何を話のだか。

 スクアーロは、自分の眉間をぐりぐりと指で押し込んだ。

 しかし、仕方ないことかもしれない。病み上がり状態のXANXUSとは、少ししか話せなかったのだろう。


 XANXUSの方は、驚愕していた。


 紅奈がXANXUSを解放した手段もだが、ローナ姫の話をしたことも、驚いてしまう。

 XANXUSだけに話したものだった。

 三年寝ている間に、紅奈は明かしたのか。

 苛立ちが込み上がる。


「じゃあ逆に何を聞いてたんだ、ぶっ!?


 スクアーロの顔に、枕が直撃した。


う”お”ぉいっ!! 何しやがる!?

「先になんでローナ姫のことを知ってるか、言え! 紅奈から聞いたのか!?」

「はぁあ? 当たり前だろうがぁ。つっても、最近知ったんだがなぁ」


 紅奈本人以外から、聞けるわけがない。

 スクアーロは肩を竦めながらも、投げつけられた枕を拾った。


「まったく。なんでてめぇが、第一部下のオレより先に前世や前世の前世の話を聞いてやがんだよ……ちぃっ」


 スクアーロの不満を聞き、XANXUSはまた沸々と怒りが湧き上がる。
 全部、聞いて、知っているのか。


「念のためにも、紅奈は恩返しを押し付ける切り札にするためにも、今回動く前に聞かせてくれたんだぜ。……あとはぁ……クーデターの直後に、ローナ姫の記憶をはっきり思い出したとか……」


 無駄に声がデカいスクアーロが、語尾を弱める。そして、気まずそうに目を逸らす。


 ローナ姫のことは、最近知ったばかり。


 それから、紅奈はクーデター直後に記憶が?

 ローナ姫の記憶を?


 何度か、紅奈の記憶に関して気にしては、調べたが……。


 自業自得ではあるが、その話を真っ先に聞いてやれなかったことに腹が立つ。


「んだよ? その反応は」

「……これ以上は、紅奈本人から聞けぇ……」

「はぁあ? 何を隠してやがるカスがっ!!


 イライラをスクアーロにぶつけるためにも、もう一つの枕を投げつけた。

 またもや顔面で受けたスクアーロは、青筋を立てる。


「だからぁ! てめぇは何なら聞いたんだ!? あ”あん!?」
「あ”あんっ!?」



 喧嘩腰の二人は、バチバチと火花を散らす睨み合いをした。


 何って。

 父親と仲直りさせられては、幸せを勝手に決めるなと言われては、紅奈が望む幸せを叶えろと命令されただけである。


「……ちっ! 紅奈の幸せを勝手に決めるなと言われた! 全部チクリやがってクソ鮫がっ!」


 絶対に紅奈にクーデターの動機を話したのは、スクアーロだとXANXUSは睨みつけた。

 事実であり、それを後悔していないスクアーロは、言葉の続きを待つ。


「それから……アイツの夢を叶えろ。そう言われた」

「夢だぁ?」

「ちぃっ! 本物の絆の最強のボンゴレファミリーのボスだ!!」


 やけくそでXANXUSは、答えた。

 スクアーロは、目を眇めて見据える。


「……で? てめーは、どうするんだ? その答えは、言ったのか?」


 スクアーロに問われて、気付かされた。


 そういえば、返事をしていない。


 ちゃんと、紅奈に、その夢を叶えてやる。

 それを言っていない。


 ……いや、待て。



 オレの光を手放さない。



 そう言ったじゃないか。


 それを承諾だと受け取ったはず。


 ………………。


「……この三年で、あの横暴さが変わってなきゃ、拒否なんて認めるわけがねーだろーが」

「………」


 どちらにせよ、紅奈が拒否を認めるはずがない。返事は、イエスのみ。


 選んだボスは、そういう少女なのである。


 横暴さが変わっていない。スクアーロは、重く頷いた。


「じゃあ……この話を聞いても、またバカな真似をしねーな?」

「もったいぶんじゃねーよ、カスが」

約束しねーと、これをおろすぞ!!

「っ!」


 紅奈の成長記録が入っているであろうノートパソコンが、脅迫材料にされる。

 今スクアーロは武器を持っていないし、そもそもそのパソコンのみにデータがあるとは限らない。

 しかし、寝起きのXANXUSは、そこまで頭が回らなかった。


「バカな真似は、しねーから………さっさと話せや、ドカス!」


 怒りをまといながらも、一応約束したXANXUS。


「紅奈に、ブチギレられるかもしれねーなぁ……」


 嫌々ながらも、スクアーロは話すことにした。


「クーデターのあと。オレ達は、当然処罰を受けた。まぁ、一年ほどの軟禁からの監視付き生活だがなぁ。当然、その間、紅奈に会ってねぇ」

「………」


 XANXUSは、眉間にしわを寄せる。

 スクアーロ達にも、紅奈と会えなかった一年の空白があった。


 裏切りを嫌う紅奈が、切り捨てても当然だ。


 それでも、紅奈は……。


 裏切り行為のクーデターを起こしたXANXUSに、それらしき怒りなど、見せなかった。





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