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空色少女 再始動編
483 答え






「まだまだ未熟なあたしの出せるカードを全部出した。この場を設けた功績も含めて、今出したカードを考慮に入れて決断してもらおうか」


 そして、紅奈は、またもや決断を急かす。


「あたしが目指すボンゴレは、本物の絆で結ばれた最強のファミリーだ。そのファミリーの一員を、解放してもらいたい。
 あたしの。大事な。ファミリーを。返せ」



 強く強く強調した。

 大事なファミリーを返せ。


「十分に力をつけてから、10代目候補として名乗りを上げては表舞台に出るつもりだったが、そんな悠長はしていられない。だいたい、解放するためにはボンゴレリングが必要なんだから、継承式で渡されるまで閉じ込められるってことになる。そこまで待つ気はないし、もう持つ気もない。腹はくくって、ここに来た。
 さぁ、幼い10代目候補者の覚悟は聞いたんだ。答えを聞かせてもらおうか?


 大事なファミリーを取り戻すために、表舞台に足をかけた幼い少女。


 決意は固い少女に、催促される。決断を。

 彼女が望むのは、要求を呑むことだ。

 XANXUSの解放をする。その答えのみを待っているのは明白。

 持てる全てで、紅奈は交渉に来た。


 その覚悟に、トップの二人は選択を迫られる。


 ティモッテオと家光は、互いに目を合わせた。


 守護者達は、沈黙。二人の答えを待つ。


 葛藤するように俯く二人を見つめながら、紅奈も黙って待った。


 静まり返った応接室に、時計の針の音が響く。



――――XANXUSの解放をしよう



 ティモッテオは、そう告げた。

 見つめた紅奈は、家光にも目を向ける。



ハーフボンゴレリングを用意しよう



 真剣な眼差しで、家光も答えた。

 XANXUSの解放のために。


「今回の功績の報酬、またXANXUSの処罰の見直し、そのためにXANXUSを解放する。異論はないかね?」


 ティモッテオは、自分の守護者を振り返ることなく尋ねた。

 守護者達は重く頷いては、反対を意見を唱えない。


 少しだけ。紅奈は、肩の力を抜いた。


「それでは、すぐにとりかかろう」

おじいちゃん


 ティモッテオは、目を大きく見開く。


 あの日を境に呼ばれなくなったそれを、耳にした。


 親しみを込めたその呼び方に、込み上がってくるものがある。


「あたしだけでもいい。立ち会ってもいい? お願い」


 仲直りというわけだ。

 紅奈からの早々のおねだり。


 無邪気な笑みでなく、ただ真っ直ぐに見つめてくる紅奈だが、それでもティモッテオは顔を綻ばせずにはいられなかった。


 穏やかな眼差しで頷く。

 頷き返した紅奈は、スクアーロを見上げるようにして振り返る。


「わかったぞぉ。お疲れさん、ボス」

「流石、キング」

「お疲れ様でした。では、お待ちしていますね」


 一人で立ち合いをすることに、スクアーロ達は納得して見せた。


 そして、XANXUS解放を勝ち取った紅奈を労う。


 ファミリーだったのか。


 紅奈達の関係に、全く気付けなかった家光は、反省する。

 娘を見ていなかった。ちゃんと見てやれなかったのだと。













 ハーフボンゴレリングが届くなり、XANXUSの解放が始まった。

 合わさったボンゴレリング。


 紅奈は、それを少し離れたところで一人で立ち、見ていた。


 周りを囲った鉄の壁が取り除かれ、氷の柱の中に、閉じ込められたXANXUS。


 熱に魘されたあの日。深刻そうな顔をして見下ろしたXANXUSが、脳裏に浮かぶ。あれ以来だ。


 ボンゴレリングに、火が灯る。


 すると、彼が現れた。


 金髪の髪と、黒いマントを揺らしたボンゴレ初代ボスのジョット。


 ボンゴレリングから現れた幻のような存在に、家光もそして守護者達も、息を呑んだ。


 ジョットはただ、紅奈を見ていた。


 紅奈だけを見ている。


 ローナの最期の記憶を見て以来。


「ジョット。邪魔」


 しっしっ。紅奈はそう冷たく言い放っては、手を横に振った。


 心なしか、ジョットはしょんぼりしている。


 家光は同族意識を、持ってしまった。


……ありがとう


 つんっと、そっぽを向きながらも、紅奈はそう礼を呟く。

 変えられなかったと泣き喚いていた紅奈に、決められた運命を変えるのは楽ではない。そう叱っては、ちゃんとスクアーロ達の心を変えたのだと教えてくれたジョット。ジョットだけが、紅奈を突き進ませた源ではないが、それでも糧になってくれた、その一人だ。

 その礼である。



「ボンゴレX世」



 ジョットは少しだけ微笑むと、紅奈の前に跪き、そして手を差し出す。

 それをちらっと見てから、紅奈は嫌々な様子ながらも、手を出した。

 その手を取るようにしては、手の甲に口付けを落とす。

 感触があった気がするが、夢の中とは違うだろう。目の前にいるのは、実体などない。


 紅奈が顔を向ければ、ジョットは愛おしげに見つめていた。



「オレの姫。これからも、生き様を魅せてくれ」



 微笑み、そして、炎が吹き消えたかのように、静かに消えていく。


 オレの姫。


 そうボンゴレ初代ボスの幻が、呼んだ。


 立ち会った一同は、本当にこの少女が、ボンゴレ創立の資金援助をしたローナ姫の生まれ変わりなのだと、理解した。


「何をボケっと突っ立っているのですか? XANXUSを運んでください」


 冷めた目で、紅奈が言い放つ。


 氷の柱はとっくに消えていて、XANXUSは床に倒れていた。


 慌てた一同の手で、XANXUSが運ばれる。


 それを、紅奈は黙って見つめていた。ジョットに口付けをされた手を握り締めながら。


「ありがとう。お父さん。おじいちゃん」


 横に立つ二人の顔を確認することなく、紅奈は礼を告げた。


 それから、左右の二人の手を取っては握る。


 ボンゴレ創立の援助をした姫君の生まれ変わりであり、初代ボンゴレにボンゴレX世と呼ばれた少女。


 とんでもない愛娘。とんでもない孫のような存在。


 彼女の手を、握り返した。











せた覚悟。

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