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空色少女 再始動編
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 戦いが収まり、制圧を終えた。

 取り逃がした者は、いないか。その確認をする。


「紅奈ちゃん!?」

「あ。オレガノさん。お久しぶりー」


 合流した家光の部下、オレガノを振り返り、紅奈は呑気に挨拶をするが、すぐに確認作業に戻った。

 オレガノは、オロッとして家光に目をやる。家光は何も言えないまま、スクアーロを一点に睨みつけていた。

 スクアーロは知らぬふりで、黒い髪のウィッグを外した紅奈の横にいる。


「どういうことだ? 暗殺部隊ヴァリアーが乱入したかと思えば……手柄を横取りだと? しかも、家光の娘が率いた? …ふざけるなよ。ナツメグ。内通者として、処分される覚悟は出来ているんだろうな?」


 ガチャリッ。

 ショットガンを持った赤ん坊が、骸に鋭く問いながら、銃口を突き付けた。

 微笑みを浮かべたまま、骸はオッドアイを細めて見下ろす。


「裏切り行為には、入らないでしょう? ナツメグは、増援を呼んだだけ。結果、敵を一網打尽の捕縛に成功。同じボンゴレ。敵じゃないんだから、ピリピリしないでよ。アルコバレーノ」


 紅奈がするっと骸の肩に腕を滑り込ませては、寄り添う。自然と骸を押し退けて、自ら銃口の先に立つ。

 ゴーグル越しに、アルコバレーノと呼ばれた赤ん坊は睨みつけた。


「……オレは、アルコバレーノのなりそこないだ。そう呼ぶな。手柄の横取りのための情報漏洩。それを正当化するな!」

「ラル・ミルチ! 銃をおろしてくれ。そして、ナツメグはコウから離れろ!!」

「寄り添ってきたのは、コウの方なのに?」


 理不尽です、と骸は悲しげな素振りを、わざとらしく見せる。だがしかし、離れようとはしない。


「というか、アルコバレーノって……! そんなことまで知っているのか!?」

「いや、アルコバレーノのリボーンに訪問許可しておいて、驚くなよ……。なんでアイツに許可を出したし」

「そ、それは……リボーンが、病気で倒れたところを助けたとかで、全快祝いと話を少ししたいとか……」

「……信じたんだ?」

「違うのか!?!?!?」


 紅奈は呆れた眼差しを家光に注いだ。そういう経緯で、リボーンは沢田家訪問の許可をもらっていたのか。

 なんだか、偶然病気で倒れたところを発見しては助けたようなことになっているらしい。

 リボーンの教え子が、運転練習中に轢いたあと、寒空の下でぶっ倒れさせたのに…。


「家光! そんな話をしている場合じゃないだろう!? そもそも、このナツメグを任務に加えたのはお前だ! この組織に入れたのもな!」


 お怒りなラル・ミルチ。
 確かに場違いだと、家光は我に返る。


「今回は、結果が全てじゃないの? ラル・ミルチ。今回こそは逃がしてはいけない相手だったっていうのに、戦闘準備されては迎え撃たれた。失敗しかけたところを、あたし達が加勢してはとっ捕まえた……いや、尻ぬぐいとも言えるんじゃない? 甚大な被害が出る前の阻止をした。つまり、手柄はあたし達にあるべきというのは、至極当然なこと」

「っ! だから! 正当化するな!!」

「やめろ!!」


 紅奈の言葉に、引き金を引いたラル・ミルチだったが、家光がショットガンを払い上げた。
 スクアーロも紅奈の肩を掴んで、後ろへ引く。


「そんな過保護な反応をしなくても……ラル・ミルチは、単に威嚇射撃しただけじゃん」


 ぺいっと、全く動じていない紅奈は、スクアーロの手を退けた。

 確かに、狙いは紅奈の頭上を狙っていただけだ。


 見抜いていた紅奈に、ラル・ミルチは顔を思いっきりしかめた。


「それで? スク」

「おう……最優先に捉えるべき上層部は、がん首揃ってるぜぇ」

「っ!! この内通者め!!」

「落ち着いてくださいよ、先輩」


 紅奈側が上層部の把握を済ませられるほどの情報を持っていることに、またもや頭に来たラル・ミルチは、今度は情報源の骸に銃口を向ける。


 クフフ、と笑う骸は、悪びれてもいないし、反省の色などない。火に油な態度。


 まだ紅奈が骸に引っ付いているため、家光は被弾しないようにと壁となる。


「下っ端も鎮圧したー……って、何くっついてんだよ!


 部屋へとやってきたベルは、ナイフを投げた。

 サッと骸がよければ、通り過ぎていき、捕縛されて身動きの取れない敵の一人に突き刺さる。


「うが!」

「こら、ベル。生け捕りだって言ったでしょうが。殺すな、んぐっ!」

「ちゃんと誰も殺してねーし! キング褒美ー!!」


 突進したベルに捕まった紅奈。


「何かあれば、その都度、ご褒美を要求するのですね。まったく。ほとほと呆れますよ、ベルフェゴール」

「は? 黙れよ。用無し。死ね」

「死にませんね、クフフ。放しなさい」


う”お”ぉいっ! 邪魔すんじゃねーぞぉ!! まだ第一関門突破しただけだ!! じゃれてんじゃねーぞ!!


 ひょいっと、スクアーロは火花を散らすベルと骸の間に挟まれた紅奈を奪還。


「第一関門…?」

「ここは、一件落着。至急、9代目と面会する場を設けてくれる? 今回の功績の報酬をもらうために、直接交渉するから」


 スクアーロに下ろしてもらってから、紅奈はそう家光に告げる。


「ボンゴレ10代目候補の一人として。ボンゴレ9代目と会う」


 9代目ティモッテオと面会。

 最後に会った時の紅奈の険悪が過ぎる家光。


「裏切り行為ではないと言ったな? 沢田紅奈。暗殺部隊ヴァリアーを率いて、CEDEFの内通者からの情報で、重要な任務に乱入。正当化など許されるものか! 前科持ちのヴァリアーのその動き! 9代目と面会など、また過ちを犯すとしか考えられない!」


 ラル・ミルチの鋭い言葉は、もっともだ。


 9代目の命を狙った前科のあるヴァリアーを率いては、手柄を理由に面会を求めたのなら、裏があると疑う。


 家光も、わかっているのだ。そう疑うべきだと。

 だが。

 他でもない。

 娘だ。


 娘の紅奈が、誰かの命を狙うとは、考えたくないのだ。


「……ヴァリアーは、確かに前科持ちだ。だからこそ、こうして加勢して、味方だって証明した。名誉挽回のためにも」

「それが手段だろう!? 名誉挽回を装った! CEDEFにスパイを送って! 9代目と接触する計画的犯行! そうだろ!?」


 追及するラル・ミルチを見下ろす紅奈は、ニヤリッと笑ってみせた。


「計画的犯行、ねぇ?
 たまたま偶然、家に転がり込んだ居候が元マフィアだった。
 たまたま偶然、門外顧問チームの親方様の判断で引き取り教育した。
 たまたま偶然、その一人が優秀だったため重要な任務に参加させた。
 そして、たまたま偶然、ヴァリアーを率いたあたしが近付くにいたため加勢からの万事解決。面白い偶然の重なり合わせよね?」

「っ!! ふざけるのも大概にしろ!!


 そんな重なり続けた、たまたま偶然など、あってたまものか。

 またもや、ラル・ミルチはぶっ放しそうなため、家光は間に入る。


「功績は、事実! これはボンゴレボスとして、無視出来ない功績のはず! 襲われることが怖ければ、あたしと同行者の身体検査をして、武器を一切奪えばいい。9代目の守護者全員を立ち合わせればいい。
 そこまでしても……この幼い10代目ボス候補が怖いか?」


 紅奈はラル・ミルチを見据えたあと、家光を見上げた。


「面会を申し込んでもらおうか。あたしと、この部下の三人。門外顧問チームCEDEFの親方の沢田家光。9代目へ、今すぐ、連絡を」


 強く押す娘と、家光は向き合う。


「連絡をするだけしてもらいたい。面会を受け入れるか否かは、9代目の判断に身を委ねよう。ボンゴレの者じゃなくても、ボンゴレの者。ボンゴレの者として、ボンゴレの現ボスに、報告を」


 紅奈は、威風堂々と告げる。

 冷たい眼差しではない。

 真剣な眼差し。本気だ。


「………一理ある。9代目に、報告をし、面会を申し込む」

「…親方様」

「家光…!」

「これは、義務だ」


 家光の決定に、オレガノもラル・ミルチも異論を唱えたそうではあったが、義務でもあるのだ。


「ありがとう、お父さん」

「…んんっ!!」


 紅奈がにっこりと笑ったため、家光は胸をズキュンと撃ち抜かれた。

 耐えきれなくなって、家光は紅奈をがばっと抱き締める。


「コー!!」

「あ! てめっ、放せ! クソが!!」

「家光! 絆されてるだろ!?」



 紅奈がジタバタと暴れるが、家光のハグから逃れられない。

 ラル・ミルチは、まともな判断が出来てないのではないかと疑う。


図に乗んな!! 急接近はやめろっつーの!! 放せーっ!!! 取り消すぞ!?

「ハッ!!」


 仲直りの取り消しを脅され、家光は紅奈を解放。


「ゴホン! それでは、オレは大事な連絡をする。後片付けをしよう」

「チッ…!
 後片付けなら、ヴァリアーの連中も使っていい。人手が足りないでしょ。ああ、でも、流石に犬と千種は帰してやって。疲れただろうから。
 鉄は熱いうちに打て、だ。セッティング、優先。最優先。超優先。死ぬ気で急げ」


 舌打ちを零す紅奈は、せっせと身なりを整えつつも、そう急かす。

 フンッ、と鼻を鳴らして腕を組んでは睨み付けた。ふんぞり返る態度。


「うちの娘がっ…! まるで暴君に! S・スクアーロ、貴様!」

「う”お”ぉい! まだマシだぞぉ…ブチギレられたくなきゃ、いきなり抱き締めたりすんな。死ぬ気モードで暴れた挙句、今度こそ絶縁されるぞぉ。あと、正真正銘、暴君だ」

「オレの娘を暴君言うな!!」

「今お前から言ったよな!?」

「ししっ。お父さん、落ち着いて」

「いい加減オレをお父さん呼びすんなベルフェゴール!! いや待て、スクアーロ? 死ぬ気モードになるほど暴れ出すってなんだ!?」

「自分の胸に聞けや」


 わーぎゃーとやり取りをする中、ラル・ミルチはプルプルと震える。


「真面目にやれーっ!!!」


 またもや、ショットガンから火が噴いた。














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