空色少女 再始動編
477 父娘の遭遇
「何!? ヴァリアーが加勢!?」
爆風の最中に、家光は確かにその報告を耳にした。
「なんでヴァリアーが!?」
確実に捕縛しようと慎重に誘導しては、一ヶ所に追い込んだはずの敵犯罪組織の反撃にあって、激しい抗戦状態と化した現場。
廊下は硝煙で満ちていて、どこかで火が付いたらしく天井には灰色の煙が這う。
曲がり角を出る前に壁に身を預けては、情報の整理をする。
仲間と繋がった通信機で報告されたのは、確かにヴァリアーの黒い制服を着た者が加勢したという報告。
ヴァリアーと名乗っては、敵を返り討ちにしている。しかもその特徴を聞いて、家光は眉間に深いしわを寄せた。
一人は、白銀の長髪の少年。左手に長剣を振り回しては、怒声を轟かせて、敵の注意を引き付けている。
もう一人は、金髪のまだ幼い少年。ナイフを放っては、戦闘不能にしている。
スクアーロとベルフェゴールに、特徴が一致しているじゃないか。
暗殺部隊であるヴァリアー隊員が、何故またこんなところにいるんだ?
そもそも家光が率いる門外顧問チームのCEDEFは、諜報活動がメイン。ボンゴレの者であり、ボンゴレの者ではない。
こちら側の人間の顔を、ヴァリアー側が、知るわけがない。
ボンゴレ側だと、知っていて加勢をしているのか!?
スクアーロ達が、懇意に加勢するわけがない。せいぜい乱闘して、どちらも攻撃しかねない。そんな連中だ。
なのに、加勢。
こちらを助けている。
味方をしているのだ。
わけがわからないが、今は二人の目的を探っている場合ではない。
家光の仲間は、少数だ。敵はその十倍と言ってもいい。捕縛目的で、バラバラな配置で行動している最中に始まってしまった交戦。しかも、武器は必要最低限。
味方なら、このまま押すべきだ。
三度も逃した犯罪組織。
今、壊滅させなければ、のちに厄介だ。ボンゴレファミリーだけではない、一般市民も巻き込まれかねない大惨事になる。
そのまま、作戦続行で協力を得つつの動きをするように、指示を下す。
仲間の返事を聞いてから、家光は移動を再開し始めた。
上の煙を吸い込まないように、そして前方も後方も、警戒しながらも進む。
戦闘の音を聞きつけた。
構えていた銃を突き付けて、慎重に進む。
見えたのは、黒い制服だ。
ガツン、と鈍い音が響く。男が三人、倒れた。黒い制服を着た小柄な人物の仕業だ。
ベルかと思ったが、違う。彼よりも、身長も低い。何より、黒髪だ。
間違いなく、ヴァリアーのエンブレムがつけられた制服。
「おいっ! ボンゴレの者だ! 何故ヴァリアーがここにいるんだ!?」
無駄な交戦を避けるためにも、すぐさまにボンゴレと名乗っては、ここにいる理由を問いただす。
不意に、身体が固まる。息まで止まった。
振り返ったのは、少女だ。娘と同じぐらいの少女。
否――――娘じゃないか。
黒髪に包まれていても、その顔を間違えるわけがない。
親である家光だって。
まともに目を合わせてもらえなくたって。
その顔を忘れるわけがないのだ。
橙色を宿したブラウンの大きな瞳が、真っ直ぐに見上げてくる。
立てた襟のせいで、顔だけ振り返る娘の口元は隠れてしまい、表情がわからない。
しかし、久しぶりに、射貫くように見上げられた瞳に、呆けてしまう。
黒髪の娘が動く。
それでも、家光は動けなかった。
コートを靡かせて、飛び上がっては、右の壁に二歩上に向かって歩いたかと思えば、家光の顔を横切る。
そこで初めて、家光は背後に敵が迫っていることに気付く。振り返ると同時に、銀色のプロテクターをつけた膝が、男の横っ面に食い込んだ。
「――――ボンゴレの若獅子と呼ばれた男が」
倒した男の上で、娘が口を開く。
「娘が現場に現れただけで動転して、背後を取られるとは……。そんなもんなの?」
ニヤリ、と不敵に笑う黒髪の娘。
その声だって、紛れもない、娘のものだ。
「コウ」
「うっせぇえっ!」
名前を呼ぼうとしたが、紅奈が声を上げた。
思わず、ビクッと家光は震える。
「通信機に向かって声を上げるなって言ってんだろーが!! ツッコミ入れんな! 黙って片付けろスクアーロ!!」
耳に手を当てる姿からして、家光ではなく、通信機で繋がっているスクアーロに怒っているらしい。
スクアーロは、カタギのはずの娘が現場に現れれば動転もする、とツッコミを入れた。大声で。
それを家光は知る由もない。
「紅奈っ! お前っ! アイツに連れて来られたのか!?」
「はぁ? どこまであたしをガキ扱いすんだよ」
スクアーロの仕業なのか。
動揺した家光が伸ばした手を、紅奈はパシッと払いのけた。
「あー。…ちっ。これは条件反射。ごめん」
「え……あ、ああ……」
振り払った手をイラついたように睨んでは、紅奈はバツが悪そうな顔だ。
謝られて、ますます家光は混乱に陥る。
「アイツに連れて来られたわけじゃない。あたしがアイツらを連れて来た」
きっぱりと、紅奈は言い放った。
紅奈が、ヴァリアーを引き連れてきた、と言う。
ヴァリアーの制服を着た紅奈が、引き連れてきた。
「おっと」
「!」
紅奈が横にずれたかと思えば、弾丸が飛んできたのだ。
悠長に話している場合ではない。
一刻も早く紅奈をここから連れ出さないといけないと、紅奈の腕を掴んだ。
引っ張ろうとしたが、逆に引っ張られた。
次の瞬間には、廊下の先から横殴りの弾丸の雨が降る。
物陰へと紅奈が引っ張らなければ、反応に遅れて、怪我を負ったかもしれない。
「そういうことでさぁー」
紅奈の手に、銃があったため、家光はギョッとした。
奪い取ろうとしたが、紅奈がひょいっとかわす。
「仲直りしようっか」
…………へ?
家光は声も出なかった。
未だに放たれる横殴りの弾丸の雨の横で、娘の声はしっかりと聞き取った。
カッチャン。
紅奈は装填を確認した銃を、廊下の先に構えた。曲がり角から男が飛び出して、銃口を向けてくる。
家光が撃ち抜くより早く、紅奈が二発撃った。
幼い娘が人に向かって銃を撃った事実に、言葉を失う。
冷たい恐怖に襲われたが、撃たれた男が呻いたことに気付く。
紅奈が撃ち抜いたのは、膝と銃を持っていた手だ。的確に撃ち抜いて、戦闘不能にした。
「ちっ。弾詰まりとかありえない。二人来る」
くいっと顎で差しては、紅奈は銃の弾詰まりを解決しようといじり始める。
手入れ不足だ、と持ち主にぶつくさ文句を言う様子からして、銃はこの交戦の最中に拾ったと理解しつつ、紅奈が言うように曲がり角から飛び出した敵を二人撃ち抜いて戦闘不能にした。
「あたし。元からアンタのこと、嫌いだった」
「え”っ」
はっきりと言われた言葉に、絶句した家光。
「元々、父親ってのがよくわからなくてさぁー。愛されているのはわかるんだけれど、それを受け止めるのはわからなくて。どうにも受け入れられなかった」
弾詰まりを直したであろう銃で、頭をごしごしと掻くものだから、家光は止めたかった。
しかし、紅奈の直球の嫌い発言のショックのあまり、動けない。
「その上、秘密主義ときた。お母さんを何から何まで騙してへらへらしているのが、正直、胸くそ悪かった」
グサリと突き刺される娘の本音。涙目になる。
「まぁ。あたしも全く同じになったんだけどね。カエルの子はカエルってやつだ」
言いながらも紅奈は、左右の廊下を確認。いつの間にか、弾丸の雨は止んでいる。
しかし、紅奈は移動する気がないようで、壁に寄りかかったまましゃがんでいた。
家光も銃を構えて、片膝をついたまま。
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