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空色少女 再始動編
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「コー。用が済んだんだし、もうホテル行こうぜー?」

「んー、だねー」


 紅奈は連絡用にスクアーロから渡された携帯電話を取り出して、時間を確認。

 しょぼんとするサーラ。


「もう帰ってしまうのですか?」

「うん。ホント、懐き具合がウケるー」

「だからなんで、ウケるんッスか……」


 拾い主に懐いても、不思議ではないだろうに。

 正直、つつかれる度、恥ずかしいバルダ。


「そんなに急ぐのかい? コーお嬢さん」

「いや? 連絡待ちなだけ。ホテルで、合図待ち。今日になるか、明日になるか……または来週になるか。待機中」

「おや? それなら、ウチに泊まるのはどうだい? 構わないが」

「いいの? でも、それで貸しはチャラにしないよー?」

「はは。そんなケチだと思わないでくれ」

「やったー。ホテル代、浮くー。サーラのお菓子も食べ放題ー」


 ランチャー6代目がそう提案してくれたため、紅奈は甘えることにした。


「ム。お嬢、困るよ。スクアーロにお目付け役を頼まれたのは、僕だよ? 勝手に、よそのファミリーの屋敷に滞在なんて…」

「じゃあ、バルダ達。暇なら、手合わせしよっか。力量を確かめるよ」

「!!」

「はい!」

「ウッス!」

「お嬢ってばー!」


 幻覚で姿を隠したマーモンなど、無視である。

 ひょいっと、紅奈はソファーから降りた。


「…ガブリ。最初に会った時より、お腹膨れてない?」

「うっ!」


 しっかりと太っちょになったガブリ。図星のようで、自分のお腹を擦った。



 裏庭に案内された場所で、手合わせ。


「ええー? なんでキング直々に相手すんのー? 信じらんね」

「気分」

「気分屋キング」


 むくれたベルは、頭の後ろで腕を組んで、ベンチで観覧をすることになった。

 その膝の上で、マーモンもむくれている。


 紅奈達の手合わせが気になり、ランチャー6代目もランチア、そしてランチャーファミリーの何人かが覗く。


「あれ? あの夜みたいに、膝にプロテクター……つけないんスか?」

「ん? 要らないかな。ベルー。ちょっと一本、ナイフ貸して」

「ほーい」


 双剣を手にして向き合ったバルダは、怪訝な顔をした。


 紅奈はオレンジのラインの入ったナイフの他に、ベルから投げ渡されたナイフと一つ、シュッと手で受け取った。

 腕ほどの長さの双剣相手に、掌ほどのナイフ二つで挑む。


 明らかに、弱いと思われていることに、バルダはまたムッとしかめてしまう。

 ダニーは、恐る恐ると声をかけた。


「だ、大丈夫ですか? オレ達、一応、ランチアさんに手合わせしてもらって……鍛えてもらってたんですけど」

「ああ、連絡で聞いた聞いた。まー、リーチは心もとないけど……なんとかなるっしょ」


 めちゃくちゃ楽観的判断だー!


 すると、バルダに向かってナイフが飛んできたため、後ろに飛び退く。

 キッ、とバルダは、投げてきたベルを睨みつけた。


コーを怪我させるとか、心配してんなら、それ侮辱だからー。オレがサボテンにしてやんよ

「っ……」

「コラコラ。バルダ。相手は、あたし」


 紅奈に声をかけられて、バルダは向かい直る。


 そして、ダニーの始まりの合図を聞き、動き出した。

 ザッと懐に入る紅奈の速さに驚きながら、片方の剣を振り下ろしたのだが、二つのナイフにより止められて、押し弾かれる。

 手を、紅奈が蹴り上げてしまえば、剣など簡単に離れてしまった。


「握り甘いし」


 スチャッ。

 交差させたナイフの刃先が、バルダの首元に突き付けられる。


「真正面から来たなら、こうして挟み込むべきじゃないの?」

「っ…!」


 一瞬で、バルダは負けた。

「ザコー」と、ベルはケラケラと笑う。


「双剣を使い出して、どれくらい?」

「……一年、半ぐらい、ッス」

「独学ならしょうがないかなー? 何、その顔。暗い」

「………足元に及ばないので……役に立てない、と…」

「あはは。そこは頑張って成長しなさいよ。あたしは最強の最強を目指してるから、武器慣れしてないお前にかすり傷つけられてちゃ、先行き不安になる」


 顔を曇らせるバルダを、紅奈は笑い退けては、ナイフの先を上に向ける。

 紅奈の言う最強は、遥か高い。


「そんな顔しない。シャキッとしな。顎を蹴り上げるわよ?」

「! は、はい!」


 わりと強めな脅しに、ビシッとバルダは背筋を伸ばした。


「はい、次。ダニー」

「お、オレは! バルダより弱いんで…」

「尻込みするな、蹴り飛ばすよ? ちゃっちゃと来る」


 ダニーの力量を自己申告するも、紅奈に言われて、しぶしぶと前に出る。


「武器は?」

「…元々、バッドぐらいしか振ってきてなかったんです。ここに来てから、体術をランチアさんに指南してもらってて」

「わかった。それで行こう」


 紅奈は、ロングブーツの中にナイフを差し込んで、しまう。


 向き合ったダニーは、もう負けを確信した。勝てる気、ゼロである。

 それなのに、ダニーから動けと、指でくいっと招かれてしまった。


 自分より背の低い紅奈に向かってパンチを落とすが、ヒュッと避けては、紅奈は腕を掴むと背負い投げる。


 自分の身に何が起きたのか、ダニーは背中に食らった衝撃も忘れて、ポカンと呆けてしまった。


「はい。次、ガブリ」

「う、ウッス……」


 二人が瞬殺されたため、ガブリは嫌々ながらも、紅奈と向き合う。


 ガブリも体術で行くのだが、パンチを落とせば、避けた紅奈に腕を掴まれては、それを軸のようにして、ぐるりと背中の方に回られて、背中を膝で叩き付けられて倒された。


「瞬殺ー。激よわー。要らなくね?」

「…相変わらずだね、お嬢は」


 見応えない手合わせだ。


「ふむ。パワーは出そうだよな、ガブリ。何か、武器を持つなら、ランチアお兄ちゃんみたいに重量武器を持ってみたら? ハンマーとかさ。パワー重視。痩せる気ないなら。でも、筋肉に変えてきなよ」

「う、ウッス……退いてほしいッス…」


 ガブリの背中から降りた紅奈は、やっと起き上がったダニーの元に戻る。


「ダニーは、武器持たないままでもいいけど……まぁ、ガブリの代わりにスピード重視がいいんじゃない? もうちょっとスピード出せると思うよ」

「スピード、ですか…?」


 それだけ言うと、紅奈は次にバルダに行く。


「武器変えないなら、もっと長所を活かせる攻撃を学ばないと。左右交互に振り回すと、逆がガラ空きになるから、大きな隙になる。その点も注意」

「あ、ああ。隙に、注意……はい」


 コクコク、とバルダは頷いた。


「…何あれ。お嬢って、いつから他人の指導をするようになったんだい?」

「オレにも、アレコレ指摘してくることあるけど……。物覚えが悪すぎな綱吉と骸達のせいじゃね? 未熟な奴らの指導をしていた賜物? ししっ」


 そんな会話をするマーモンとベル。


 屋敷の窓から観覧していたランチャーファミリー達は、やはり異質な少女だなーと改めて思い知っては、何事もなかったように解散した。


「それで、バルダ。お前は、本当のところ、どうなんだ?」

「何がっスか?」

「ここでの扱い」

「……」


 ランチアは悪いようにはしていないのは、わかっているが、他はどうなのか。

 紅奈は、本人に尋ねた。


……ビックリするほど、親切にしてもらってます…!

「本当に心底困惑した顔をしてるよ…。よかったね」


 てっきり腫れ物扱いされるとばかり思っていたのに、他と同じような扱いらしい。

 ビックリするほど。


 困っていないのなら、それでいいのだ。


「コー。連絡が来るまで待機って話だったが……何か暇を潰すことは考えていたのか?」


 ランチアがやってきて、紅奈に仮の予定はあったのかと、問う。


「観光するぐらいしか考えてなかった。ここに滞在するなら、バルダ達を扱こうかな。暇だし」


 し、扱かれるっ……!

 スパルタ稽古の気配を感じ取ったバルダ達。


「他は? 何か遊ばないのか?」

「遊び? …ポーカーするっ?


 ムッ! 大金の匂いがするっ……!

 耳にしたマーモンが、大きく反応した。


「あ、やめておこう。バルダ達を預かってもらってるのに、ランチャーファミリーからお金を巻き上げるのはよくないね…」


 お金を巻き上げる前提だっ……! でも良心があったっ!

 紅奈のその発言を耳にした一同の心の声は一致。


「暇潰しなら、音楽プレーヤーやゲームと……あとヴァイオリンを持って来てる」

「おお! ヴァイオリンが弾けるのか! コーの曲、聴かせてほしいな。あ、そうか。荷物がないな。取りに行こう」


 そうだった。荷物荷物。

 もうランチャーファミリーの屋敷の滞在が確定したため、マーモンは諦める。
 どうせ、マーモンでは紅奈の決定は覆せない。
 スクアーロには、発覚するまで黙っていよう、と決めた。






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