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空色少女 再始動編
472 夏休み突入




 リボーンの突撃訪問がないまま、やっと夏休みを迎えた。

 スクアーロはイタリアに着くまで、紅奈と同行していたが、ベルとマーモンとバトンタッチ。ヴァリアーの仕事へ、戻った。

 ベルとマーモンを連れて、紅奈が訪れたのは。


ciao! おっじゃましまーす! ランチャー6代目!

「ははっ……どうぞ、コーお嬢さん」


 予め連絡を入れていたランチャーファミリーの屋敷だ。

 ランチャー6代目は、乾いた笑いを零しつつも、迎え入れた。


「おや? 連絡では、三人で来るって言ってなかったかい?」

「んー?」


 初めは、紅奈が一人でランチャーファミリーの屋敷に行くと言ったのだが、過保護鮫が強く却下。

 じゃあ、ベルが行く、と志願したのだが、唇を二回も奪った前科のあるベルと二人きりは、許さんっと過保護鮫がまたもや強く却下。

 妥協案として、ベルのお目付け役でもあるマーモンが、ちょうどスケジュールが完全に空いていたこともあり、つけられたというわけだ。

 今回は、紅奈とベルのお目付け役としての同行。ベルのお目付け役の延長として、特別手当て金なし。むくれつつも、マーモンはついてきたわけだ。

 そんなマーモンは、幻覚で姿を消したまま、浮遊中。


「ベルの見えない友だちが、一人いるの」

「コー? オレをイタイ奴にしないで?」

「じゃあ、私とベルの見えない友だち」

「そ、そうか……」

(納得しちゃうんだ…)


 ランチャーファミリーは、紅奈が掌握しているようなもの。そうスクアーロから聞いていたマーモンは、同情してしまった。


 猛獣のような威圧感を放つ支配者の紅奈に、目をつけられたのが運の尽き。


 それでも、紅奈の身を案じろ、とのお達しである。

 ボスの紅奈を、同盟ファミリーでもないマフィアの元に行かせるなんて、気が気ではないだろう。例え、紅奈が強かろうが、敵陣のど真ん中となれば、無謀。


 よって、紅奈を一人にさせないように、と命令を受けた。
 ちなみに、紅奈が悪癖の発動で失踪した際、捜すための念写代は要求するつもりである。

 一番危惧しているのは、ベルがヘマして血を出しての暴走して、紅奈に迷惑をかけないためではあるが…。


「コー! 久しぶりだな! 元気だったか?」

「ランチアお兄ちゃーん。サーラも。そっちも元気?」


 ランチャー6代目が応接室に案内する前に、サーラを連れたランチアがやってきたため、紅奈は笑いかけた。

 ランチアは強面な顔で、嬉しそうに笑い返す。


「お、お久しぶりです! コーさん!」


 緊張しつつも、金色のボブヘアーのサーラも挨拶。

 そんなサーラに冷えた飲み物を運んでもらいながら、応接室で紅奈達は話をした。

 ソファーで足を組んで、紅奈は早速告げる。


「残りの貸し一つ。出来ればでいいけれど、ランチアお兄ちゃんを、戦力として借りたい」

「戦力? ……どんな戦いとなるんだい?」

「それは言えない。敵を捕縛する目的で、力でねじ伏せる。その手伝いをお願いしたいんだけど……ランチアお兄ちゃんは、そちらの用心棒。用心棒が不在なのは、都合が悪いだろうし、こちらもこちらで特大の不安要素の子をここに預けている。だから、任意の答えでいいよ」


 ここに来た目的は、ランチアの協力を得られるかどうかの確認。それから、部下候補の四人の様子見だ。

 任意。

 紅奈に言われても、信用ならない言葉である。


 自分の要求を押し切る少女なのだ。


 ランチャー6代目は、渋い顔をした。
 紅奈の言う通り、不安要素の子も預かっている今、ランチアを不在にさせるのは、危険。


「……こちらの守りが薄くなるのは、危険すぎる。だが、話によれば、コーお嬢さんにとって重大な目的を果たすためなのだろう? その件は。大きな貸しがある身としては、拒めない……」

「その通りだけど、本当に6代目の判断で答えを出してくれて構わない」

「………」


 本当に、こっちの判断の答えを聞き入れてくれるのだろうか。ランチャー6代目は、まだ疑っていた。

 そこでノック音が扉の方から聞こえていたため、ランチャー6代目の目配せを受けたランチアが、扉を開いて中に入れる。


 ゾロッとやってきたのは、長めの黒に染めた髪の少年、バルダ。

 金髪の少年、ダニー。

 黒髪の太めの少年が、ガブリ。

 元ギャングの四人が、整列した。


「「「コンニチハ!! コーさん!」」」

「あ! コンニチハ!」


 バルダ、ダニー、ガブリが揃って頭を下げると、サーラもハッとした顔で遅れて頭を下げる。


「うん。コンニチハ? なんで、日本語で挨拶?」


 首を傾げる紅奈。
 四人揃って、日本語で挨拶してきたのだ。


「えっと、コーさんが、日本人だと思い……学ぶのは、必要かと」

「あたしは、指示してないのに?」


 チラリ、とダニーが、ランチャー6代目を見てしまう。
 ランチャー6代目は、気まずげに目を背ける。


「うっししー。オレ達が、日本語で内緒話するから、それの対策とかー?」


 紅奈の隣のベルが、おかしそうに笑い出す。

 ギクリ、とするランチャー6代目だが、紅奈は責める気はなく、目の前のイタリアのドーナツ、ボロボーニを食べ始める。


「別にそんなことしなくても、目的を果たせば、四人を引き取るのに。悪巧みだってしてないよ? ランチャーファミリーに、害は与えない与えない」


 ケラッと笑う紅奈だが、バルダという害をもたらしかねない爆弾を預けた。説得力がない。


「美味っ。このボロボーニ、どこの店の?」

「あっ。サーラの手作りですよ。ここに来てから、お菓子作りを始めて…」

「ホント? サーラ。あたしのために、一生お菓子作ってくれない?」

「「「プロポーズ!?」」」

…!


 さらり、と紅奈がプロポーズまがいなことを言い放つため、サーラがポッと顔を赤らめた。


「……人たらし」

(人たらし…)


 ボソリ、とベルが呟けば、マーモンも同意して頷く。


「(それで? どこまで日本語、理解したの? 名前を言ってみて?)」

「「「「うっ………」」」」

「あははは、まだまだじゃん。あとあと、日本語を学んでもらうよ。
 お察しの通り、あたしは日本人。日本語で内緒話もしてたよ」


 日本語で問えば、言葉に詰まったため、全然学べていないようだ。

 ランチャー6代目にも、向かって答えた。


「あとあと…とは? もうオレ達を引き取りに来てくれたんッスか?」


 バルダは、尋ねた。


「あっはっはー。バルダがすっかり礼儀正しくなってんのー。ウケるー」

「っ、わ、笑うことないじゃないッスか!」

「めちゃくちゃ、ついてくる気満々だしー」

「っ!!」


 真っ赤になるバルダ。

 もう選択が、紅奈についてくるの一択なのである。


「秋には迎えに来るとは言ったけど、まだ目的を果たしてないから、今日じゃないよ。頼みのついでに、お前達の顔見に来ただけ」

「頼み?」

「それで? 答えは? ランチャー6代目」

「またスルー……」


 バルダはまたもや質問をスルーされたが、潔く諦めた。


「……ランチアは? 力を借りたいと頼まれているのは、お前だが…」

「オレの意思、ですか……?」


 ランチャー6代目に、尋ねられたランチアは戸惑いを浮かべながら、紅奈に目を向ける。


「………その目的とやらは……誰かを救う、とことなんだよな?」

「ん? 言ったっけ?」

「スーが、あの夜、口にしていただろう? アイツを救う目的…だと」

「……あー、言った言った」


 スクアーロが、確かに言ってしまったな。
「ミスしてやんのー」と、ベルはうししと笑う。


「……力を使って救う、となると、脱獄……としか、思えないのだが……」

「ある意味、脱獄ー」


 紅奈は、あっさりと言い退けた。


「お嬢……からかうのも大概にしなよ…。協力を得たいんじゃないのかい?」


 マーモンが、苦言を呈する。

 聞こえていても、紅奈は気にも留めないまま、ボロボーニを渡す。

 マーモンは、黙って食べることにした。レモン風味。美味い。もぐもぐ。


「強引に牢獄から出すために、襲撃しに乗り込むわけじゃないよ」


 顔色を悪くしたランチアとランチャー6代目に、紅奈は明るく笑って見せる。


「正当に、解放してもらうために、とあることを片付ける。そのための力を借りたい。ただそれだけの話」

「正当に……解放をしてもらう…?」

「わからないって顔してるけど、手を貸してくれれば、ちゃんと詳細を話すよ? 一足先に、あたしの正体も知れる、お得!」

「お、お得、なのか……?」


 またもや話は不鮮明ではあるが、目的を果たすためなら、流石に明かしてはくれる。

 紅奈の素性も、だ。


「……。…すまない、コー。人助けをしたいのだろうが……知っての通り、大事なファミリーだ。用心棒のオレが離れるわけにはいかない……」


 じっくりと考えたが、ランチアはそう答えた。


「わかった。そんな謝らなくていいよ」


 あっさり。紅奈が引き下がる。


 本当に、こちらの意思を尊重してくれた。今回は。


ファミリーは大事だ。あたしだって……だからこそ、今回、救うために動く


 強い眼差しで、紅奈は告げる。


 ファミリーのため。


 救いたい相手は、紅奈のファミリーなのか。


 それなら、手を貸すべきじゃないのか、とランチアは後悔する。


「そんな顔しなくても、いいって。必要なら、欲しいってだけだったから。今のところは、計画には支障はない。ランチアお兄ちゃんの参加で、成功率を上げたいだけだったから」

「マジでー? コーがいいなら、いいけど」

「ベル。くっ付くのは、禁止だよ。罰金」


 紅奈にべったりと引っ付いたベルを、マーモンは止めた。ベルは、振り払う。


「あのっ。戦闘員が必要なら……オレ達は、どうッスか? ランチアさんほどでなくても…」

「オレ達で、何か、お役に立てるなら……」


 バルダとダニーが、控えめに挙手して、手伝いを申し出た。


「はー? 戦力になれるとか思ってんのー? 図に乗るなよ」

「……」



 ベルが挑発するため、バルダはムッとしかめっ面をする。


「ベル、やめな」

「あ。オレの名前呼んだー。ししー、コーも、ミスしたー」

「もうすぐ明かすから、その辺はもういい。ぶっちゃけ、バルダの力量を知らないし、何より本当にお前だと、別の危険度が上がる」

「っ……そう、スね…」


 肩に顎を乗せるベルの頭を押し退けてから、紅奈は左の首を指差した。

 シュン、と肩を落とすバルダ。


「四月から会ってないのに、お前らの懐き具合がウケるー」

「笑わないでくださいって!」

「いや、これもランチャーファミリーが、よくしてくれているおかげでしょ? ありがとう」


 紅奈へ恩返しがしたくなるのは、それくらい預かってくれているランチャーファミリーによくしてもらっているからだろう。

 紅奈はランチャー6代目とランチアに、お礼を伝えた。


「後片付けで忙しい最中も、よく働いてくれたからな。悪い子達ではない。ランチアの子分も同然だ」


 なんて、ランチャー6代目は笑った。

 肯定にバルダ達がコクコクと頷くため、ランチアは気恥ずかしげに頬を掻く。


「え〜? あたしの部下候補が、ランチアお兄ちゃんに取られちゃう〜」

「そ、それはないぞ? コー。コイツらは、コーのためにも頑張ってくれているんだ」


 紅奈の冗談だが、苦笑してランチアは言っておく。


「コーさんが拾ってくれたおかげで、ここにいますしね」


 そうダニーは、はにかんだ。


「拾ったって……そんな捨てられた物みたいに自分達を言うんだ?」

「いやっ、拾い物扱いしたのは、コーさん達が先だけど!?」



 ツッコミを入れたら、笑われた。
 紅奈にからかわれたのだ。








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