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空色少女 再始動編
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 今まで以上に、慎重に慎重に、水面下に動き、そして計画を組み立ていく。


 それでも、紅奈は小学校に通わないといけない。


 正直言って、だるいのだが、一人焦っていてもしょうがないのだ。

 気を紛らわせるために、ギリシャ語の勉強をしつつも、授業を受ける。





「夏服! 買いに行きましょう!」


 休みの日も、平穏な日常。

 本格的な夏に備えての奈々からの提案により、洋服ショッピング。

 娘がすっかり女の子らしくなったというわけで、奈々の娘とのショッピングは楽しみとなってきたのだ。


「コーちゃん、コーちゃん。これは、どうかしら?」

「んー。子どもっぽすぎるよ。それなら、これがいいかな。ツナくんは、どう思う?」

「どれも可愛いと思う!」


 レディースのショッピングだ。ついて回る綱吉にも、意見を求めては退屈させないように、心掛けた。


「お母さんには、これ似合いそう」

「あっらー! いいわね! …でも、着る機会があるかしら? 普段着にはお洒落すぎよね?」


 奈々は、苦笑を零す。
 そんな奈々を、紅奈は見上げる。


「……今年も忙しいって言ってたもんね。デートの暇、ないね」

「そうなのよね〜。夏休みも丸ごと帰れるのは、難しいみたい。…でも、しょうがないわよね! 世界中で石油を掘っている泥の男だもの!」

「え? 交通せいり、じゃなかったの??」


 くりん、と綱吉は首を傾げた。買い物カゴを持つと息巻いていたが、持つことに疲れてしまったのか、床に置いている。


「そうよ! お父さんは、工事現場の交通整理だって、やってのけちゃうのよ! かっこいいわよねー」


 夢心地な母と、ほげーと口を開いたまま、よくわからないときょとんとした弟を見ては、紅奈は肩を落とす。


(…昔は、こういう嘘にイチイチ、イラッとしてたけど………あたしも結局、似たような嘘をついているんだよなぁ…………………アイツと同じなんて、イラッとするだけじゃあ、すまないなぁ? おい)


 怒りオーラが溢れてしまう紅奈だった。


 紅奈の場合は、頑張って嘘をなるべく回避した理由を伝えて、イタリアに行っているのだ。


 ちなみに、家光へ過去についた嘘など、全く持って罪悪感など覚えていない。


「犬くん達も、電話出来ないって……さみしいね?」


 しゅん、と眉を下げて、悲しげな顔をする綱吉。


 うっ…! さみしげな綱吉を残して、夏休みはイタリアに長期滞在する予定の紅奈は、罪悪感が湧いた。


 今回は、綱吉は見送ってくれるのだろうか?


 これが成功すれば。

 いや、掻っ攫って手柄を立てた時点で。

 紅奈は、マフィア界の表舞台の階段を上がる。


 別にイタリアに移住しては、綱吉と奈々から離れることは、視野に入れていない。選択を迫られようが、一蹴するつもりでもある。


 ポン。


 紅奈の頭に、いい案が一つ浮かんだ。


(……これなら、あながち嘘にはならないな………ふむ。夏休みのイタリア行きは、これを理由にしよう)


 一つ、深く頷いた。


「お母さん。このワンピースなら、どうかな? 可愛いよ。普段からでも、素敵でいいと思う」


 空のようなスカイブルーのワンピースには、雲が浮かんだ模様が浮かんでいるフリル。薄い生地で、夏に相応しい。

「まあ! いいわね!」と奈々は、はしゃいで喜んだ。


「あとさ。さっきの店にあったワンピースも、お母さんに似合うと思うの。もしも、お父さんが夏休みに帰って来れた時に、デートに行けるためにも買っておいたらどうかな? お父さんも、お母さんがとびっきり素敵にお洒落してくれた方が、喜ぶだろうし……お母さんもお洒落するの、楽しいでしょ?」


 くいくいっと、紅奈は奈々のシャツの裾を引っ張って言う。


「うふふ! コーちゃんが、そこまで言ってくれるなら、買っちゃおうかしら! コーちゃんも、お洒落、楽しくなった?」


 奈々が覗き込んで笑いかけてくるから、紅奈は目を瞬かせる。


「んー……? 普通?」


 首を捻って、そして答えた。特段、楽しいと思っていない。


「ええー? 楽しみましょうよー!」


 むぎゅーっと抱き締めてくれる奈々に、紅奈は笑ってしまった。


「コウちゃん! コウちゃん! ゲームセンター!! ゲームセンター!!」


 大興奮した綱吉に手を引かれて、続いてゲームセンターで遊ぶ。

 そこで、ばったりと正一と会った。


「わー! 正一くん!!」

「綱吉くん! 紅奈ちゃん!」


 いつもは塾などで勉強漬けな正一も、気分転換にゲームセンターに遊びに来たのだ。


 大はしゃぎした二人に付き合って、紅奈は音楽ゲーム中心にプレイした。その間、奈々は暇だろうから、カフェで一人、まったりしてもらう。


「あれ? この曲、前にコウちゃんが弾いてた曲?」

「ん? ああ、そうそう」

「え? 紅奈ちゃん、ピアノ、習ってたの?」

「ううん。ヴァイオリンを独学で弾いてるだけ」

「うええっ!? ヴァイオリンを弾けるの!?」


 初耳な正一は、びっくり仰天した。


「えっ! ええっ!? で、でもっ! この曲、新曲だからっ、楽譜なんてまだ売ってないんじゃ…?」

「持ってる楽譜は、練習のためにもらったクラシック音楽のものとか、音楽の教科書にあったものくらいだね。そういうJ-POPの曲は……耳で聴いて、テキトーに弾いただけ」

耳コピ!!?


 口あんぐり。またもや、びっくり仰天した。


「なに? みみこぴって?」

「えっと、えっと! 聴いただけでも、楽器で弾けちゃうってこと!」


 綱吉に教えてあげた正一は、頬を赤らめるほど興奮。


「ど、独学で! 耳コピ! で、でもっ……趣味、なんだよね?」

「うん。ただの趣味」

「紅奈ちゃんはっ…!! 出来ないことないの!!?

「そんな、おののかなくても……」


 ガビーンと、衝撃を受けてしまう正一に、こちらが困ってしまう紅奈。


 ヴァイオリニストを目指しているわけでもなく、ただただ趣味で弾いているだけではあるが、耳コピする技術を持ち合わせている。


 スポーツも勉強もそつなくこなす。そんな紅奈の多才さに、おののいてしまうのは、しょうがないのだ。


「えっ、ええっと!! ええっと!!」

「?」

「ヴァイオリンで弾いてほしい曲があるんだけど!!」

「…どんな曲?」


 必死に拳を作った両手を振って、正一は言い出す。

 頼みたいってことだろう。

 紅奈に貸してくれた音楽プレーヤーに入れて、それを聞いて練習したのちに、弾いて聴かせるという約束をした。





 後日。


 ちょうど、入江家が不在の間に、ヴァイオリンケースを持った紅奈と綱吉は遊びに来た。


 完璧主義者な紅奈の練習により、耳コピによるアレンジ入りのクオリティーの高い曲を弾いてもらった正一は、感激でわなわなと震えながらも、録音のために、もう一度弾いてほしいと土下座で頼み込んだ。


 そこまでしなくても……。









 アレンジと言えば、紅奈の髪型である。


 ただ単に、片方の耳の後ろに束ねて、肩から垂らすだけで、天然ゆるふわカールする紅奈の髪型はお洒落。


 真似をする女子生徒が続出。


 気分屋なため、コロコロと紅奈は髪型を変えるが、要チェックされる人気者である。


 もちろん、ファッションも注目された。


 ベルが購入したブランド物も、たまに着るが、その辺の店で買った服のコーデも、可愛いだのお洒落だのと話題になっては、やはり真似をする女子生徒達。



 あたしは、ファッションリーダーか。



 キャッキャッと、髪型のコツやら服を買った店やらを聞いてはしゃぐ女子生徒達を見ては、紅奈は首を捻った。





 また小学四年生は、高学年の仲間入り。

 クラブ活動が新たに加わるのだが、参加は自由。
 スポーツ万能かつ頭が良すぎる人気者な紅奈は、引く手数多だったが、当然の如く、全てお断り。


 学校が終わったあとからの時間帯に、スクアーロから連絡が来るのだ。クラブ活動をしている暇はない。




 そんなこんなで、六月は大した問題は起きることなく、過ぎ去っては七月に突入。


 骸がスクアーロに送信した情報を元に、大まかな計画はこちらも練ることが出来た。


 CEDEFが一網打尽にする現場の候補が二つに絞られていて、どちらかに誘導して集める動きが続いている。


 その現場の見取り図も、ランチャーファミリーを間に挟んで受け取り、沢田家に一度訪れた際に、紅奈とスクアーロとベルで意見を取り合っての配置や攻め方をザッと決めた。


 ヴァリアーの方も、夏休み中は、いつでも動かせるように、大きな任務は前倒しで片付けさせて、大半が待機出来るように調節中。


 準備は、着実に、進んでいった。








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