空色少女 再始動編
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「よし。骸が寄越す情報を基に、こちらも準備を整える。ヴァリアーの挽回のためにも、幹部は参加必須。決行するであろう夏頃は、いつでも動けるようには調節して、スク」
「おう。了解だぜぇ。ボス」
「はーい、王子も手を尽くす。キング♪」
ヴァリアーの方は、スクアーロとベルで動けるように備えてもらう。ヴァリアーの幹部が、特に名誉挽回のためにも、動くことが必要がある。
「情報次第で臨機応変に計画を立てるが……今のところ、先回りして捕縛をする。逃げ足の速い相手だと考えると、CEDEFの動きも迅速だろうが、出し抜くぞ」
「う”お”ぉいっ! 任せろや! CEDEFの野郎どもを追い抜いて、獲物を食ってやるぜぇ」
紅奈はシュシュを掴むと、引き抜いては栗色の髪を下ろした。
「交渉の場で、最低でも、あたしと家光と9代目が揃う。可能ならば、スク、ベル、骸に同席してもらうと思う。そうなれば、9代目の守護者もついてくるだろうが……その点は、気に留めなくていい。交渉はあたしがするから、まぁ、同席なんて必要性はないんだけど」
「お前はほんとに、必要性の有無で切り捨てんなよぉ…。ボスが大事な交渉するんだ。その場には居させてもらうぜぇ」
「同じくー」
「部下としては、ボスを一人に出来ないです」
同席を求めるスクアーロとベルと骸。一瞥をした紅奈は、軽く頷く。
「その交渉だが……切り札として、使おうと思うんだ。本当は、これを使うなんて嫌なんだけど……大きな勝負だ。持ってるモンは、全部使うって決めた」
「持ってるモン?」
「ソレ、さっきも言ってたけど……なんのこと?」
「ああ。それを交渉の場に同席する可能性のあるお前達にも、予め話そうと思う」
つまり、スクアーロ達の知らない切り札なのだろう。
「因果応報。過去が現在に、何をもたらしてくれるのやら……」
骸をちらっと見てから、紅奈は腕を組んだ。
「聞き手によっては、意志が変わるかもしれない話だ。これを聞いて、気が変わっても咎めやしない。あたしから、離れて結構。あたしは、本物しか要らない」
「は…? 何を言ってやがる」
意志が変わる? 気が変わる? 離れる?
侮辱にしか聞こえず、スクアーロは不機嫌にしかめた。
「前置きだ。昔のあたしが何者であろうが、何があろうが、あたしはあたし。今、現在、ここにいる沢田紅奈だ。きっかけがあれど、誰がなんと言おうが、あたしはあたしの意志で、最強のボンゴレボスになると決めた。実力を見せつけて、蹴散らせて、認めさせた上で、堂々と10代目ボスの座につく」
威風堂々と言い放つ紅奈。
強烈なほどに、沢田紅奈という存在を、10代目ボスになる意志を、表明する。
「―――まぁ、今更、お前達があたしから離れるとは思っちゃいないけどね」
なんて、ニヤリと紅奈は笑う。
「あたしの、本物の絆で結ばれた最強のボンゴレのファミリーの一員が、ここで抜けるなんて思いやしないけれど、念を押しての前置きをしたまで」
自信満々な強気な笑み。
「う”お”ぉいっ!! 不要だな、そんな前置き! こちとらヤワな意志でついてきてねーんだぞ!」
「クフフ。離れるという選択肢があるだなんて、金輪際思わないでください」
「うししっ。ホント、今更すぎー。ずっとキングは、オレのキングでいるって言ったじゃん。離れるとか、なーい♪」
紅奈の笑みに応えるように、スクアーロと骸とベルも、笑みを返す。
「切り札とやら。さっさと話せや」
「……ダメ押しのための切り札だ。んじゃあ、話す。先ずはそうだな……前世だ。あたしに前世の記憶があるって話は、XANXUSを抜けば、この三人が知っている」
「……」
「………」
「……マジで? なんで?」
何故か、注目はベルに集まる。
どうして自分とXANXUS以外にも、知っている者がいるのだ。ベルは、ポッカーンとしてしまった。
「ベルが話題にした時、骸が盗み聞きして知ってた」
「は? 死ね」
紅奈が教えれば、ベルはすぐさま骸に一本のナイフを投げ付けたのだが、骸は三叉槍で叩き落す。
「スクアーロは、知らないはずでは?」
自分が盗み聞きした事実より、スクアーロまで知っている反応が気になると骸は問う。
「この前、なんとなく、話した」
「「なんとなく!?」」
自分達には、直接教えてくれなかったというのに、スクアーロには直接話したのか。
しかも、深い理由はなしで、なんとなくである!
スクアーロは、腕を組んでふんぞり返る態度を見せつけた。
ギッと妬む睨みで、見上げるベルと骸。
「んで? 紅奈の前世がどうしたってんだ?」
マウントしている場合ではない。重要な話を聞くのだ。
「あたしの過去の話が切り札」
紅奈は、ようやく、話した。
三人に口を挟む隙を与えることなく、ザッと切り札の内容を明かす。
風が吹いて、木の葉を擦り合わせた音を奏でては、紅奈の髪を靡かせる。
終わったあと、紅奈は腕を組んで三人を眺めて、待ってやっていた。
「……前世だけではなく、前世の前世…?」
骸は、伏せた顔を片手で覆っている。
「ローナ姫って……だから、話題に出て……マジかぁ…」
スクアーロは逆に、真上に向けた顔に右手で押さえた。
「…プリーモ……確かに、ローナ姫と顔見知りだけどさー……ししっ…」
ベルはしゃがんだまま、頭を抱えている。
「大丈夫? キャパオーバー?」
前世の記憶があるって話だけでも信じられない話だ。
それを上回っては、さらに上回って、またもや上回るような話を、ここで明かした。
紅奈は、情報処理が間に合っているのか、と首を傾げる。
「…気、変わった?」
「変わらねぇーよ!!」
「変わりません!!」
「変わんないから!!」
必死の形相で、三人は力強く、答えたのだった。
そんな疑いはやめてほしい。もう本当に。
先ず、事実を飲み込ませてほしい。
時間をかけて、受け止めようとする。
こんな事実を聞いてもなお、意志は変わらない。
そんな三人を見て、紅奈はこっそりと笑う。
「……障害は、リボーンによる探りのせいで活動がバレることだな」
「いや、もうちょっと待て!!」
「リボーンとシャマルに阻ませないよう先手を打つべきか…」
「だから待てって!!」
「五月から七月まで、動かないでくれればそれでいいんだが……。あと、前倒しになることだな」
「話聞けう”おいっ!!」
「上手い理由を作ってイタリアに飛んで、取り掛かるとなると……なかなか難易度が高い」
「う”お”ぉいっ!! クソがぁああっ! あと、クワトロのガキだ!!」
一人で話を進めてしまう紅奈に、もう諦めてスクアーロは残る障害を挙げた。
「クワトロ? あの孤高のマフィアと、なんの関係が?」
情報処理中から、意識が戻った骸は、その名前に反応。
こちらから連絡が出来なかったため、骸は知らない。
「ランチャーファミリーに匿わせてる。部下候補の一人。あと、元ギャングの子が、三人な」
「……はい???」
紅奈に四本の指を突き付けられても、目を点にするしかない骸。
「え? クワトロ? 何故? 今? え?」
思考回路が、ショート寸前。
「クワトロの件は気にするな、骸。何が起きようとも、骸はこの獲物に集中していい」
「いや、えっ……わ、わかりました…」
と、とにかく。この度の獲物に集中である。
骸は無理矢理、無視が難しすぎるファミリーの名前を頭の中から追い出すことにした。
「ハッ! しまった! 犬や千種に、リボーンの前で下手踏むなって釘をさしてなかった! 今鉢合わせしたら、まずい! 骸、先に帰れ! アポなしで不定期にやってきやがるアルコバレーノのリボーンに、疑われているんだ! 絶対にあたし達の本当の関係を探られちゃいけない! 特に、お前達の潜入だ!!」
「っ、はいっ!」
そう言えば、骸にこれも言いそびれていたと、紅奈は急いで指示を飛ばす。
びくっと震え上がりながらも、骸は沢田家へ、一人戻った。
買い物してから、家に戻ってみれば、問題なし。
リボーンは突撃訪問していたかったので、一先ず、胸を撫で下ろした。
その後、家光が帰ってくる前に、情報の共有についての見直しをする。
骸は今まで通り、情報をスクアーロの連絡用携帯電話にメールで送信。または、電話。
見取り図など、役立つ物は、ランチャーファミリーに一度送っておけばいいという話になった。
スクアーロが信用出来る部下に、取りに行かせて手にして、必要なら紅奈にも届ける。
ランチャーファミリー、またいいように使われるという……。
格下ファミリーなのでしょうがない、とスクアーロは同情することをもうやめた。
「そういえば、骸。幻覚の腕、上がったね。見破れなくて、攻撃しちゃった」
「クフフ……僕だって成長するのですよ? 紅奈だけでは、ありません。……ところで、紅奈。そのゲーム、僕が去年に贈ったソフトですよね?」
「うん。すんごいスローペースで進めてる。元からボリュームあるストーリーだし、素材集めで作業すること多いし、レベル上げたいし……まぁ、今年の夏休みが終わる頃にクリアするんじゃないかな」
「そうですか……楽しんでいただけで、何よりです。……新作が、今年の末に出る予定だそうですが、欲しいですか?」
「そうなの? んー。あたし、この主人公が一番気に入っているからなぁ……主人公は同じ?」
「ええ。ちゃんとした続編となります」
「へぇ? 続編が翌年に出るとか、早いね。クリアしたあと次第かな」
「なーなー。どんなゲーム?」
「ぐえっ」
「紅奈の上に乗ってんじゃねーぞぉ!!」
骸にもらったゲーム機で、ベッドに横たわって遊んでいた紅奈の上に、ベルが飛び込む。
スクアーロはすぐさま、首根っこを掴んで、引き剥がした。
「あたしに買う気満々だね、骸」
「当然ですよ。今回の任務、前払いをいただけるので」
「あたしより、来月、骸は11歳の誕生日じゃん。何がいい? ……チョコ地獄?」
「プレゼントに、何故地獄と名前がつくのでしょうか……そこまで、チョコ尽くしにしなくても…」
「なんかほっぺ赤くない? どした?」
「なんでもありませんっ」
頬を赤らめた骸は、そっぽを向く。
変な反応だと、スクアーロとベルも、怪訝に見た。
「任務のせいで、こっち帰って来れないし、連絡も難しそうじゃん。まぁ、お母さん達と一緒に送りつけるだろうけれど、受け取るのはいつになるかわからないもんね。生ものは、だめだ……夏が来るし」
「だからチョコ尽くしは、結構ですよ…」
「ベルとスクにもブローチをあげたから……フクロウのブローチを見付けておくよ。流石にオッドアイのフクロウのブローチはないかな…」
「何故に、フクロウ?」
そんな他愛ない会話をして、過ごす。
ゴールデンウィークが終わる前に、仕事のためにスクアーロとベルは帰国。ベルは粘ったが、スクアーロに引きずられて帰った。
そして、ゴールデンウィークが終わり、学校へ行く日。
家光に連れられて、骸達もイタリアを発った。
綱吉はグスンと鼻を啜りながらも、紅奈と登校。
何事もなく、6月に突入。
6月9日の骸の誕生日。
なんとか連絡が出来た骸の誕生日を祝うために、クラッカーを鳴らす奈々と綱吉。
「Buon Compleanno」
紅奈からも、祝福の言葉をもらった骸は、後日。
本当に、白いフクロウのブローチを受け取った。
瞳は、水色の宝石。
「……サファイア…ではありませんね」
宝石に詳しいわけではないが、サファイアではないと思った。
水色。
確か、霧の守護者のカラーだったはず。
それ故の選択だろう。
別に深い意味などないと思ったのだが、そのあと偶然、この宝石がブルートパーズじゃないか、と知ったので、ついでに石言葉は何か尋ねてみた骸。
石言葉は、友情、知識、そして――――希望。
目を瞬かせたあと、骸は口元を緩ませた。
必ず。
僕を救ってくれた希望の光である貴女のために。
差し出しますよ。我がボス。
弓を引いて、音色を奏でる紅奈。
去年、誕生日にXANXUSのために、弾いた曲。
偶然が偶然重なり続けた傑作な運命。
獲物という名の好機を逃さずに掴まえて、救い出す勝負に出て勝つ。
それが出来るか否か。――いや、やり遂げてみせる。
ジャジャジャジャーン!
ベートーヴェンの運命の曲に、急に切り替えると、紅奈のヴァイオリンの練習を眺めていた綱吉が、びっくりした顔になった。
紅奈は、優しい笑みを浮かべて笑う。
。
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