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空色少女 再始動編
468 下された決定




 この中では、一番スクアーロが強い。

 ならば、先に倒せるであろう、骸かベルを狙うべきはずが、スクアーロへ来た。

 これでは、スクアーロと戦っている間に、ベルと骸に挟まれるのがオチ。
 この三人の連携は、いいものとは言えないが、紅奈を追い込むくらいには、ともに戦える。


(どういうつもりだぁ?)


 向かってくるならば、相手するだけのこと。スクアーロは、左の剣を振るった。

 サッと横に移動してかわした紅奈は。


   パキンッ!


 スクアーロの左手に拳を叩き付けると同時に、左膝のプロテクターを下から突き上げて、剣を蹴り折った。


「なっ…!」


 上下からの衝撃で、一発で折れた剣。

 宙を舞う折れた剣を見ている間に、叩き付けた拳が、左手を握っていた。そのまま、紅奈がその手を軸にして勢いよく、一回転。


 着地先は、スクアーロの右隣にいたベルだ。


 初手が、スクアーロ狙いで困惑し、一発で剣を蹴り折ったことに動転したが、ベルは構えていたナイフで、降ってくる紅奈になんとか攻撃をしようとした。

 しかし、呆気なく、ナイフを突き出した右手は掴まれた上に捻られては、腕に足を絡められて、回転しながら地面にねじ伏せられたのだ。


「ぐっ、あっ!」


 ついでに、溝には膝が入って、大ダメージにより、撃沈。


 紅奈の動きは、止まらない。


 ブンッと勢いをつけるためにも、下半身を回転させつつも立ち上がり、骸に向かっていく。

 予想外の動きに、同じく動転したが、骸も迎え討つ準備は整えていた。

 勢いをつけた胴回し回転蹴りは、骸の幻覚を突き抜ける。幻覚と気付かないままの攻撃。


 だが、紅奈は、やはり止まらない。


 そのまま、姿を隠していた骸の腹に回し蹴りを決めたのだ。


 三叉槍での防御はし損ねた。

 強烈な一撃に吹っ飛び、骸は後ろにあった木に背中をぶつけた。


「っ、うっ!」


 もう、骸は動けない。


 一瞬にして、三人を戦闘不能にした。


 スクアーロは、愕然と紅奈を見る。

 まだ額の炎は、揺らめく。


 てっきり、複雑に考えたせいでストレスが溜まり、その発散がてらに、死ぬ気モードで思いっきり動き回って暴れたかったのかと思ったのだ。


 一撃で、スクアーロの剣を蹴り折り、間入れることなく、ベルをねじ伏せるとともに撃沈させて、骸の幻覚にも動じることなく、蹴り飛ばした。


 無駄な動きを一切せず、一瞬にして、勝負を終えた紅奈。


 額の炎と同じ色に燃える瞳は、空を見上げた。

 死ぬ気モードで、黙考中だ。

 スクアーロは、立ち尽くして、それが終わることを待つ。


 フッ。


 吹き消されたように、死ぬ気の炎が消えた。


よし、決めた! 持ってるモン、全部出して、勝負に出る!


 腰に手を置いて、紅奈は仁王立ちで言い放つ。


「勝負に出る…?」

「この案件で功績を立てて、その功績の報酬に、XANXUSの解放を要求する」

「!!」


 スクアーロは、目を大きく見開いた。

 地面に転がったベルも、紅奈を見上げる。


「大きな、っ、案件ではありますが……その、要求は…通りますか?」


 骸が確認のために問う。立ち上がろうとしたのだが、腹部の痛みが走って、まだ動けそうにないため、諦めてそのままでいることにした。


「この件で、直接9代目と交渉する」

「えっ…!」


 紅奈の答えに、ベルは驚いて頭を上げる。


 ベルは、9代目と紅奈の再会の場にいた。紅奈の完全拒絶を目の当たりにしたのだ。紅奈は一言も話すことなく、激怒した顔で睨み付けていた。

 そんな相手に、紅奈は直接会って、交渉すると言い出したのだ。


「功績で9代目から直接報酬をもらう場を、家光に設けさせて、そこで大勝負の交渉だ」


 大勝負の交渉。

 紅奈は、ここぞという時の勝負に強い。

 交渉だって、押しが強く、自分の意思を貫く。

 だが、しかし、だ。

 今回は、相手が悪い。


「…出来んのか? 家光と、そして9代目相手に」


 XANXUSの件で、その二人を許さないと憤怒した紅奈。


 他でもない、XANXUSの件で、向き合い、交渉するのだ。

 それを、冷静に、出来るのか。


「それを今、決めたところだ」


 紅奈は、スクアーロに向かって、答えた。


「遅かれ早かれ、現ボスの9代目と口を聞かないといけない機会が来るんだ。次期10代目としても、な。昔のように戻らなくても、義務的には接する。いつまでも、子どもぶって口を聞かない絶交状態は、不可能。
 何より、アイツを解放させるためだ。激昂しやしない。全力で交渉して、要求を叶えてもらう」


 憎むほど嫌いな相手だろうが、XANXUSの解放のためにも、遅かれ早かれ対面する必要がある相手だ。


 腹を括るためにも、紅奈は死ぬ気モードで、冷静に考えて、それから覚悟を決めた。


「その大勝負に挑みたいわけだが……
 先ずは、ヴァリアーの名誉挽回にもなり、あたしの派手な表舞台登場の踏み台にもなり、そして大勝負のためのチケットになる案件だ」


 スクアーロから、骸へ、紅奈の視線が移る。

 三叉槍を支えにして、立ち上がった骸は、紅奈の元まで歩み寄った。


「骸」

「はい、紅奈」

「その獲物に食らいつくための情報。あたしに、差し出せ」


 命令だ。


 興奮が高揚することを、確かに感じた。


 責任重大な任務だ。


 それでも、目の前で真っ直ぐに見据えてくる眩しい光の少女のために、応えたくなるのだ。

 信じてもらっているのだから。

 橙色を込めたブラウンの瞳に、骸は微笑む。


「仰せの通りに、差し出しましょう。我がボスのために」


 胸に手を当てて、恭しくお辞儀した。


 決定は、下されたのだ。


 この獲物に、食らいつく。


 興奮が高揚するのは、骸だけではない。


 10代目候補として、やっと表舞台に乗り出すのだ。10代目ボスになるために、紅奈が表で動き出す。


 欠けていた部下のXANXUSを取り戻したその時。


 この一歩で、大きく動き出すのだ。


 ゾクゾクと高ぶるのは、しょうがない。


 血の気の多い、ベルも、そしてスクアーロも、ニヤッと笑みを吊り上げた。








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