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空色少女 再始動編
466 バタフライエフェクト




「…ヴァリアーのクーデター直後? 三年前からの案件だと?」


 紅奈は、眉をひそめる。


「はい。ヴァリアーの名は直接出されてはいませんが、暗殺部隊に依頼出来なかった、と口にしていました。
 すでにその組織の存在は、三年前に気付いていて、マークをしていたそうです。ボンゴレのシマを狙う、危険な思想を持つ指導者が一人で束ねた小規模な組織」


 三年前の時点では、小規模だった。


「危険思想の指導者一人を暗殺さえすれば、よかったのですが……その仕事を渡す前に、三年前の秋に大きなトラブルが起きて、そちらに集中が出来なかった故に、そこで取り逃し、見失ったということです。クーデターの件で、主要メンバーがかかりっきりになってしまったせいで、完全に見失った……とのことですよ」

「…オレ達を、責めてんのか?」

「いえいえ、まさか。
 CEDEFの先輩の話によれば、親方様こと家光さんも、満足に指揮が出来なかったそうです。自分から現場に出ては、動き回る方だと言うのに、その際は動かなかったとか……不思議そうに言っていましたね。つまり、ヴァリアーだけのせいではありませんよ」


 睨みつけるスクアーロを、骸は軽く笑う。


「次に痕跡を見付けて辿ってみれば、三倍の大きさの組織になっていたそうです。上層部がしっかりと出来上がった立派な犯罪組織化したというわけです。なんとか一網打尽にしようと動きましたが、トカゲの尻尾を切っては逃げおおせてしまった。
 それが、去年の六月頃。つまり、紅奈と再会した頃ですね」


 二回目の取り逃し。
 その際に、家光は怪我を負ってしまい、奈々と連絡が取れなくなったのだ。


「そして、去年の末頃に、再び見付け出したその組織を、また捕まえようと手を伸ばしては、するりと手をすり抜けてしまったわけです。
 ちなみに、今もヴァリアーに頼まない理由が二つあります。
 一つは、確実に仕留めることが出来る確証がないからです。三度も逃げ足の速い連中なので。
 もう一つは、暗殺ではなく、生け捕りに決定したからです。その点については、聞かされていませんが、まだ情報を得たいとか、そんな目的があるのでしょうね」


 一つずつ指を立てて、二つの指を見せる骸。
 暗殺部隊を動かさない理由が、しっかりとある。


「今度こそ、確実に、上層部メンバーを取り捕まえるため、長期に渡り準備をしている最中です。一部を捕まえるだけでは、残りが雲隠れをするでしょう。なので、一ヶ所に集め、そこを狙ってまとめて捕縛する計画を進めている…の、です……が……?」

「……コウ?」


 骸は話すことに夢中になっていたのだが、ベルとスクアーロが、紅奈に注目していることに気付いて、顔を向けた。


 紅奈の様子が、おかしい。


 大きなクッションに、片方の肘を乗せた手で、目元を覆って俯いている。

 ベルが呼ぶも、すぐには反応をしなかった。


………ふっ…


 やがて、紅奈は口元を緩ませては、軽く噴き出す。


「…ふふっ………クッ……クククッ!


 肩を震わせて、笑い出した。


あはっ! あはははははっ!


 顔を伏せたままの哄笑。


 何に対しての笑いなのか。


 どうして、顔を見せないのか。


 わからず、三人は笑う紅奈を、怪訝な顔になって見てしまった。


「何それ、傑作っ!」


 目元を隠していた手で、紅奈は前髪を掻き上げる。ようやく、紅奈の表情が見えた。


 ニヒルな笑みだ。


 口角を上げて、眉を寄せては、眉間に軽くシワを寄せていた。


 愉快そうにも見えるが、不快そうにも見える。


あたしのせいじゃん


 紅奈は、そう口にした。


「…紅奈?」


 少し焦った骸は、止めるように名を呼ぶ。

 クーデターを起こした暗殺部隊のヴァリアーであるスクアーロ達を遠回しにからかっただけで、紅奈のせいだとは言いたかったわけではないのだ。

 動機の一つが、紅奈だったため、責めたと受け取ってしまったのかもしれない。


バタフライエフェクト


 紅奈は骸を横目に見ながら、人差し指を突き付けた。


「……因果応報、ですか?」


 骸が、首を傾げる。


「は? バタフライエフェクトって、些細なことが徐々にとんでもなく大きなことになっていく……って意味じゃねーの? 簡潔に言うと」

「簡潔に言い換えれば、因果応報です。どのような行いも、自分に返ってくる、と言う意味もあります。紅奈が、自分のせいだと言い出したので……」

「あ? 紅奈は、何が言いてーんだ?」


 ベルと骸の談義を聞くより、紅奈本人に意味を聞く方が早いと、スクアーロは問う。


「因果応報ねぇ? 過去の善悪の行為が、現在の善悪の結果を招くって言葉だ。さてはて……その過去って、一体どこまで遡ればいいのやら。
 前世? それとも、前世の前世?」


 前世。前世の前世。

 それをここで口にしたから、ピクリ、と三人は反応した。


「ほんと、傑作だぁーなぁー……」


 愉快そうに、吊り上がる笑みの紅奈。

 しかし、機嫌がいいとは言い切れなくて、不気味さが拭えない。


「バタフライエフェクトの名前の由来って、どっかで一匹の蝶が羽ばたくと、のちにそれがどっかで竜巻を引き起こす……って感じだっけ? ベルが言った通り、些細なことが徐々にとんでもないほどに大きな現象の引き金になるっていう、考えのこと」

「…で?」


 どういう意味で、その言葉を出したのか。スクアーロは、急かす。


「この案件は、三年前から始まっていた。その組織を発見し、マークをしていた。のちのちに、暗殺部隊ヴァリアーに依頼するつもりが……それが叶わなくなった。XANXUSが引き連れてってクーデターという過ちによる機能停止のため。CEDEFもそのクーデターの件でかかりっきりで、その案件については疎かになっていたせいで、見失ってしまった。特に、CEDEFの親方様こと沢田家光が、満足に出来なかったことが、さらなる大きな要因じゃない? そもそも……奴は、不在だったんだろうな」


 紅奈は整理するように言いながら、自分のカールした髪を、くるくると指に絡めた。


あたしのせいだ


 また、紅奈は自分が、悪いと言い出す。

 解せない、と三人は顔を歪めた。


「XANXUSのクーデターは、あたしが動機の一つだ。あたしのせいで、暗殺部隊ヴァリアーは機能停止を余儀なくされた」


 スクアーロが口を挟もうとしたが、紅奈はその前に黙れと言わんばかりに、人差し指を突き付ける。


「そして、CEDEFも、またクーデターの後片付けに駆り出された、ってところだろう。その際、沢田家光は不在だった。娘であるあたしが、飛行機事故で死にかけていたんだ」

「「「!」」」

「ボンゴレのとんでもない事件のあとでも、9代目も家族の元にいることを許可したはずだ。あたしが何度も心肺停止に陥って生死を彷徨っていたし、退院しても部屋からまともに出ず、酷い状態。少なくとも、仕事なんて出来ず、しばらくの間は家にいたはず。覚えてないけど」


 淡々とした声で、語られた。


「あたしが動機のクーデターにより、その組織の始末をし損ねて、その後にあたしが死にかけてはしばらく家から離れなくなった家光の指揮もなかったことにより、その組織を完全に見失ってしまった。
 つまり、あたしのせいだ。
 あたしが取り逃す元凶を生み出しては、徐々に大きくなってしまった犯罪組織が、ソレってこと。バタフライエフェクトってヤツ」


 紅奈は、ケラケラと笑って見せる。

 一緒に笑うべきなのか、わからない。


「あたしが元凶で大きくなった犯罪組織を潰して、それが大きな功績になるとしたら―――傑作な運命だよなぁ?

「「「!!」」」


 妖しい光を宿す目を細めて、不敵に笑う紅奈。


 だから、傑作傑作と、笑っていたのか。


 紅奈が、傑作な運命と笑っているには、他にも理由がある。


 XANXUSが率いる暗殺部隊ヴァリアーのクーデターは、原作とは時期がずれているはずなのだ。

 始まりは、紅奈が偵察代わりにイタリアへ行ったことで、人質として拉致されて逃げ出す時に、スクアーロと出逢ったことか。10代目候補だと密かに決まったことを伝えて、スクアーロが味方となって忠誠を誓った。

 その後、再びイタリアに行けば、XANXUSとバッタリと遭遇。あわよくばではあったが、味方につけた。そして、二人に暗殺部隊ヴァリアーを掌握することを命じて、見事遂行。そのまま、鍛えてもらっていた。

 原作とは違う動きにより、時間がずれていき、そして偶然が偶然重なって、生み出された案件がコレである。



 しかし、始まりなんて、もっと前なのかもしれない。



 前世の死後、暗闇の中からジョットに手を差し出されて、その手を掴んだ瞬間か。


 はたまた、前世の前世で、ローナ姫とジョットの約束から、始まったのか。


 考えたら、キリがない。それに、きっと正確な答えなどでやしないだろう。やめておこう。






 

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