空色少女 再始動編
465 再会と報告
四年生に進学した春。
クラス替えはないまま小学校生活が、また始まる。
平穏な日常。
朝は、ジョギング。一度だけ、ベルが訪れて、稽古相手をしてもらった。
時たまに来る、家光経由の骸達の連絡に、変化はない。
警戒していたリボーンも、家には来なかった。
嵐の前の静けさのようだ。
ゴールデンウィークが間近に迫っていたある日。
「ゴールデンウィークに、帰ってくる?」
〔はい。家光さんは仕事の予定が合わないとのことですので、代わりにスクアーロが引率してくれて、日本に帰ることになりました〕
家光経由の電話で、骸からそう告げられた。
〔イタリアでは、六月から夏休みなのですが、僕達がお世話になっている施設では、夏休みを楽しむイベントがたくさんありまして……それで、そちらの夏休み中は行けそうにないのです。だから、お休みの許可を得て、日本の休みであるゴールデンウィークに合わせて、沢田家に帰ろうと話になりました。そうすれば、紅奈達と過ごせますしね〕
イタリアでは六月から九月まで夏休みが、たくさんある。
スピーカーで一緒に聞いていた綱吉は「お休みいっぱい! いいなー!」とびっくり仰天しながらも羨ましがる。
同じく聞いていた奈々も「まあまあまあ! いっぱいご飯作って待ってるわ!」と嬉しそうにはしゃいだ。
骸は「いえ! いっぱいは…いっぱいは用意しなくていいのです! 奈々さん!」と焦って奈々を止める。
犬が楽しげに綱吉と話す間、紅奈はこの帰省について考えた。
(早いな……もう情報を十分に得た? それとも、そろそろ骸達を綱吉達に会わせるべきだと、本当に気を遣ったのか…?)
骸達との再会。
スクアーロに頼んで、この家に一度帰す。
骸がコードネームをもらって、大掛かりであろう任務に参加することになったのは、つい先月に聞いたばかり。
てっきり、情報を掻き集めて渡してくるのは、早くても六月辺りだと思っていたのだが……。
不都合が起きた合図はないし、家光も帰ってこないタイミング。
潜入中の骸と、直接話すなら、今か。
「じゃあ、ゴールデンウィーク。楽しみに待っているよ」
〔はい。お土産を、楽しみに待っていてくださいね、紅奈〕
意味深な声だ。お土産は、期待が出来そう。
そして、四月末。
ゴールデンウィークの初日の昼に、スクアーロに連れられて、骸達が沢田家に帰ってきた。
先に来ていたベルも、ちゃっかりとお出迎え。前日からそわそわし続けた綱吉は、大喜びの大はしゃぎで飛び跳ねる。
奈々も、骸と犬と千種を三人まとめて、ムギュッとおかえりなさいと抱き締めた。
三人揃って、照れくさそうだ。
骸が制止したにも関わらず、並んだ大盛りの料理を見るなり、顔を引き攣らせたが……。
昼食後。
奈々は、一人で片付け。
久しぶりに会ったのだから、みんなで遊んでいいとのこと。
三十分ほど、綱吉達とトランプでババ抜きをしていたが、終わったタイミングで、骸の肩をポンと叩く。
「ちょっと来て。骸」
「はい。犬と千種は、綱吉くんと遊んでいてください」
「はい、骸さま」
「はい、骸さん! 綱吉、次何やるら?」
「えっとね! えっとね! 落ちゲーたいせん!」
「スク、ベル」
「おう」
「うしし♪」
綱吉を犬と千種に任せて、紅奈と綱吉の部屋に移動。
紅奈は窓際のベッドに座り、スクアーロには、脇の机の前の椅子に座らせ、ベルと骸には床に座るように指差した。
窓の外を見る紅奈。
「大丈夫ですよ」
「盗聴器の類いも、念入りに確認したぞぉ」
骸は尾行などはない、と紅奈の心配を先回りして言う。
スクアーロも、三人の服から荷物まで、しっかりと確認したのだ。
「じゃあ、先ずは、コードネームを手に入れて、ご苦労様、骸」
「クフフ、ありがとうございます」
「次の報告は、情報をまとめて集めてからって話だったけど、今回の帰宅は偶然? 意図的?」
早速、話に入った。
「偶然であり、意図的でもありますよ」
骸は、そう微笑んだ。
「少々、情報量は心もとないのですが、こうして情報を直接渡すには、最適なタイミングでした。家光さんとしては、本格的に動くため、その前に沢田家に帰らせて会わせておきたかったのですよ。家光さんの偶然の提案に、便乗して来たわけです」
「…つまり。こっちの夏休み中の間に、片を付ける予定?」
「ご明察」
骸に参加させる大きな案件。本格的に動いては、片を付ける腹積もり。
夏休みはどうしても、骸を帰らせられないため、このタイミングで沢田家に一時帰宅。
秋前には、決着をつけるとは、聞いていた。七月や八月の夏休み中が、妥当だろう。
「で!? ボスのお気に召す案件なんだろうなぁ!?」
腕を組んだスクアーロは、急かした。
「はい。こうして、話すのですよ? 当然ではないですか」
骸は自信がある。紅奈の望むものだと。
「もったいぶらないで、さっさと言えよ」
「相変わらずですね、ベルフェゴール。何故貴方に、急かされなくてはいけないのでしょうか?」
「うしし、相変わらず目障りな奴。用が済めば、始末してやんのに」
「前髪で目元を隠しておいて、目障りと言うなんて…面白い人ですね」
「カッチーン」
「クフフフ」
ベルと骸は、四ヶ月ぶりに顔を合わせたというのに、相も変わらず、バチバチと火花を散らせている。
紅奈の部屋ではなければ、ベルはナイフを投げ付けていただろう。
「骸」
「はい、ボス。これは、ボンゴレにとって重要案件です。ボンゴレファミリーにとって、そしてシマにいる住民にも、害悪な犯罪組織」
「ボンゴレの害悪? それをCEDEFが、一任している?」
「ボンゴレに属していて、ボンゴレに属さない者、それが門外顧問チームのCEDEFです。CEDEFだけで、対処すると決定済み。ボンゴレの害悪問題ではありますが、標的がマフィアのボンゴレというわけではありません。狙いは、ボンゴレのシマになってしまっただけのようです。もうほぼカルト集団と化している現状ですが……そのくせに頭の回る組織となっていて、質が悪いのですよ」
ボンゴレの害悪になる犯罪組織。
「カルト集団? 洗脳か何か?」
「ほぼです、ほぼカルト集団ですよ。初めは指導者が一人でしたが……そのうち上層部が出来上がり、彼らの思想に従う人々が集い、今や大きな組織となったのです。偉大なボンゴレの存在は知っていますが、どれほどのものかはわからない、わかろうともしない。マフィアのボンゴレを排除して、その上、シマへの攻撃で浄化をすることを目論む……なかなかの過激なテロリズムです。
紅奈に救われなかったら、僕はその組織を乗っ取ったことでしょうね」
最後に付け加えた冗談は、冗談にしてはきつすぎると、スクアーロは目を眇めた。
骸がその組織を乗っ取り、そしてマフィア界をめちゃくちゃにしていた未来もあったかもしれない。紅奈と再会を果たしていなければ……。
「なんでそれ、ヴァリアーに回ってこないん? 犯罪組織なんて、上層部を殺せばいいじゃん」
ピッと、ベルは首を親指で切る仕草を見せた。
暗殺部隊ヴァリアーの出番だろう。ボンゴレの害悪の排除が、主な仕事だ。
「そうだなぁ。解せねぇーなぁ。CEDEFが情報を回しさえすれば、ヴァリアーが掃除した。去年、お前らを見付けた頃には、一度追い込めたんだろ? その前に、何故ヴァリアーに任せなかった?」
スクアーロも腕を組んで、ヴァリアーに暗殺依頼として回さなかった理由を尋ねた。
「時期が悪かった……それだけですよ」
目を細めて微笑みを深めた骸に、含みがあるとわかり、スクアーロは不快そうに顔を歪める。
「CEDEFが情報収集をしたのち、可能ならば、ヴァリアーに依頼したでしょう。……しかし、その時期、ヴァリアーは、処罰待ちによる謹慎処分で機能していない状態でしたからだね」
「「「!」」」
ピリッと、空気が張り詰めた。
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