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空色少女 再始動編
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 背凭れを倒して、紅奈は目を閉じた。

 あっさりと、眠りに落ちる。










 ぼやけた夢を見る。

 大きな椅子に、座っているのは。

 ジョット?

 金髪の青年に見えたと思ったが。

 綱吉?

 栗色の髪の幼い少年が、ちょこんと座っている。


「いかないで」


 その声は。
 少年のような、青年のような。












 フッと、意識が浮上した。前髪を掻き上げて、天井を見つめる。


「……ちゃんと帰るよ…」


 そう約束したじゃないか。
 今の夢は、なんだったのか。


「なんだぁ?」


 向かいに座っているスクアーロが問う。


「……イタリア。離れたよね?」

「とっくだぁ。ぐっすり寝ている間に」

「…そう」


 スクアーロが答えるように、イタリアからはもう離れた。


 ただの夢。


 あれ以来、ずっと夢には出ていないジョット。

 きっと、ただの夢だ。


 ローナの最期の日の記憶以来、夢で会ってはいない。


「………スク」

「ん?」

「…実は、前世の前世の記憶もあるんだ」


 そう告げると、スクアーロは口をあんぐりと大きく開いた。


「ふぁあ。もう一眠りする」


 毛布を肩まで引き上げて、紅奈が目を閉じる。


いや待てう”お”ぉおおおおいっ!!! 全部だ! 全部話せや!! 洗いざらいだぁああっ!!


 今回は、紅奈の眠りの邪魔をしたため、腹部に蹴りを食らったスクアーロは、床に倒れた。


「ごめん、余計だった。めっちゃ、なんとなく言っただけ。寝る」

「っ!!」


 なんとなくで言っていいわけがない!


 スクアーロはまた蹴られると思い、頑張って口を引き締めて堪えた。

 物凄く問い詰めたい。






 次に、紅奈が目を覚ましたのは、着陸した時だった。
 荷物を持って、タクシーで移動。

 タクシー運転手がいるのだが、知りたい。
 スクアーロは聞かれてもいい程度の聞き出し方を考えた。


「…コー。何歳だ?」

「は? 9歳だけど」

「いや、合計だ!」

「合計すんな、アホ鮫。それに年齢だって覚えてない」


 呆れ顔を向けれては、不機嫌な目付きをされてしまう。


「(前世なんて言うんじゃなかった。どいつもこいつも、根掘り葉掘りと聞きたがって……まったく)」


 紅奈がイタリア語で零すから、スクアーロはハッと気付く。

 タクシー運転手が、理解出来ないであろうイタリア語で話せばよかったんだった…!

 必死すぎて、考えが回らなかった。


「(いや言えよ!)」

「(そうやって気にするから、言うべきじゃなかった!)」

「(手遅れだ! 気になるから話しやがれ! 前世の前世は!?)」

「(そっちは死んだ日の記憶だけが、はっきりしているだけだ!)」

「(死んだ日だと!?)」

「(ああ! そうだよ! 病死した記憶がな!)」



 ちらり、と運転手が、乗せた二人が声を上げ合うため、気にしている。

 だが、スクアーロはグッと押し黙った。

 風邪だけでも苦しむ紅奈にとって、病死なんて……酷い話だ。


「これ以上、しつこく訊こうものなら……また口塞ぐぞ

「っ!」


 バッと、スクアーロは身を引く。


 約束が違う!!!


 ぶっすーっと口を尖らせた紅奈の横顔を見てから、スクアーロも舌打ちしてからそっぽを向いた。


 沢田家に、到着。

 タクシーから降りて荷物を持ち上げてから、スクアーロはふとした疑問が過った。


「…お前、経験ないなら、アレはなんだったんだ?」

「あん?」


 振り返った紅奈は、また質問なのかと、うんざりした顔で見上げる。


「……あー」


 ぱりくり、と紅奈は目を瞬かせたが、ああ、と頷く。


「何、変だった?」

「え? い、いや…」

「……上手すぎた?」


 ニヤリ。紅奈が、また妖艶に笑う。

 その手の経験もないし、記憶もないはず。

 なのに、あのキスである。


「ふぅん? 良すぎたんだ?」


 ニヤニヤする紅奈が、スクアーロが運んだ荷物を取った。

 わなわなと、真っ赤になってスクアーロが震えたあと。


う”お”ぉおおいっ!!! 今現在の年相応にしやがれ!!

あたしは、天才だから


 スクアーロが声を轟かせたため、沢田家の住人は、チャイムを鳴らす前に、帰宅を知った。









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