空色少女 再始動編
462 ブチギレキス
「ぶっちゃけ、前世については、語る必要性を感じないし、何よりめんどい」
「んな！？」
「ほんと、なんでこのタイミングで言っちゃったのやら……わかんないや」
「オレの方がわからねーんだが！！？」
スクアーロは衝動のまま、紅奈の座席に乗り込んだ。
片膝を置き、両手は紅奈の頭の上にドンとついた。
「今ポロッと言わなきゃ……ずっと言わなかったことか！？ オレが第一部下なのにっ！ どこのどいつがお前のソレを知ってやがる！？」
「……ある人が言ったんだ…」
「あ？」
紅奈が目を伏せたため、悲しげに見えたのだが。
すぐに、違うと知る。
「あのカスどもには理解出来ない、って…な」
「もしかしなくてもXANXUSだろう”お”ぉいっ！！」
「訊かれたから、話したんだよ、XANXUSに」
「オレが訊けば先に話したのか！？」
「いや、どう考えても、お前が”前世持ってるのか？”とか訊かないだろ。むしろ、誰もしないような質問だ」
「クソがぁああっ！！」
「うるさ。」
その壁ドン状態での近距離で大声を出された紅奈は、げんなりした顔で耳を塞いだ。
「いや待て！ じゃあ何か！？ XANXUSが、そう訊いたってことか！？」
「あー…違うな。悪夢に魘されたから、内容を訊いてきたんだ。ほら、アイツの父親の件があるだろ？ それで話なら聞いてやるって、あたしが言ってたから……まぁ、そのお返しに聞くって言うから」
「話したのか！？」
「うるさ。うん、まぁ……アイツの生い立ちと、前世のあたしの生い立ちが似てたもんだから、それもついでに話したんだ」
ハッとしたスクアーロ。
XANXUSは、父親だと思っていたボンゴレ9代目と血の繋がりがないと知り、憤怒していた。
それを紅奈は知っていたのだ。
XANXUSの怒りや憎しみを、紅奈が理解した上で、抑えてやっていた。
「それで、お前……父親が…」
同じような生い立ちがあったからこそ、紅奈のダメな父親に対する嫌悪感が強い。強烈なほど、強いのだ。
「XANXUSに話していたそれを、ベルが盗み聞きしてて、知ってる」
「ベルの野郎がっ…！？」
「去年、ベルがあたしの部屋で前世の話題を出した時に、骸が廊下で盗み聞きした」
「骸の野郎も！？ 盗み聞きされてばかりかよ！！」
XANXUSとベルと骸が、知っている。
自分だけじゃないかっ！！ 知らないのは！
「うん、XANXUSにしか話すつもりはなかったんだけど……盗み聞きされた。元々、誰にも話す気なかったんだ。…めんどくて」
「めんどくさがるな！！ それになんで第一部下のオレより、第二部下のアイツが聞かされてんだ！？」
「本当に必要性なくない？ 気が向いて、お前を理解出来るって話を、XANXUSにする必要があったってだけだし」
「なんでてめーはあの野郎に甘いんだ！？」
「いやだから、似た生い立ちだから………お前はXANXUSより甘やかしてほしいってこと？」
「うっ…うっ…うがぁあああっ！！」
「うっさ！」
ご乱心な叫びをするスクアーロの顎を押し退けて、紅奈は引き離そうとした。うるさすぎる。
「前世あってのお前なんだろ！？ お前の根源だろ！？ だから子どもらしくないんだろーが！？ オレにも話しやがれぇ！！」
「確かに、あたしは前世の記憶があるからこそ、思考回路も精神年齢も子どもじゃないが……そんなの些細なことだろーが、うるさいから離れてよ」
げしっと、紅奈はスクアーロの肩を足で押し退けて、引き離そうとした。本当にうるさすぎる。
「些細！？ 些細だと！？ お前の問題になってるのにか！？ 父親と険悪になるのは、前世が源だろうが！ 余計に死に対しても、過剰反応をするのも至極当然！！ それをっ！ それをだっ！ 第一部下として支えなきゃいけないオレに、なんで黙ってるんだぁああっ！！」
「もうっ、過保護！ うるさい！ お前のそういうところ、ホントきらーい」
足で押し退けるが、スクアーロは離れないように背凭れを握り締めて、踏み止まった。
「子どもみたいなワガママを言いやがって！！」
「いや、お前の方がワガママじゃね！？ うっさい！」
「足退けや！！」
「いやんえっち！」
「えっちで上等！」
「開き直り！？ ドン引きだ！」
押し退けようとする足を握っては退かすスクアーロが、いつもと”えっち”の言葉の反応が違う。
受け入れた。ドン引きだ。
紅奈の足を退かして、座席にしがみ付いたスクアーロは、一体何がしたいのだろう。
いや、これは迫っての問い詰めだ。
ギロッとスクアーロが睨むから、紅奈も睨み返す。
「洗いざらい話しやがれ！！」
「ああん！？ なんであたしがそんな命令を聞かなくちゃいけない！？」
「お前の全部を明かしやがれ！！」
「うっせぇえっつーてんだよ！！ この傲慢！！」
「傲慢暴君に言われたかねーよ！！」
互いの額をぐりぐりと擦り付け合いながらの睨み合いの怒鳴り合い。
「オレはお前の第一部下だ！ 特別扱いしやがれ！ 紅奈！！」
「どんな厚かましい要求だよ！？ 駄々っ子鮫！！」
ギッと、睨み合いの末。
紅奈はスクアーロの後頭部に腕を回すと、引き寄せた。それから、唇をグッと重ねたのだ。
紅奈と唇が重なった。
見開いた目を瞬かせたスクアーロだが。
キレていたせいもあったのか、理性なんて容易くプツリッと切れたのだ。
「んっ！」
スクアーロは噛み付くように、紅奈の唇を貪った。
食べるように、味わうように、本能のままに。
唾液も、吐息も、食らい尽くす勢いで。
「っ！」
まるで、反撃のように紅奈が、スクアーロをさらに引き寄せると舌を入れてきた。
その舌が、絡めとってきてスクアーロの舌の上を撫でては、吸い付かれる。
ゾクリ。
全くもって異性と関係を持たなかったスクアーロにとって、初めての行為。
酔いしれてしまいそうだ。
「ハァ、んっ、ハァ」
「ん、ふっ…」
右手で紅奈の柔らかな髪を握り締めては、スクアーロも顔を引き寄せる。
スクアーロも舌をねじ込んで、紅奈の口の中をそれで荒らしながらも、濃厚なキスを続けた。
ちゅく、ちゅくり、くちゃ。
激しい水音と荒々しい熱い息の音が、機内に響くようだ。
止まらない。止められない。
(だめだ……だめだろ、これっ……オレは、まだコイツにッ…！)
朦朧してきた意識に、理性が戻ってきたスクアーロ。
意識が朦朧としてきたのは、酸素不足だと気付いて、紅奈の額に自分の押し付けるようにして、顎を引きながら、唇を離して息を大きく吸い込んだ。
二人の唇を繋ぐ、唾液の銀色の糸。
それを紅奈が舌で舐めとり、切った。
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