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空色少女 再始動編
461 死が嫌いな理由




 ランチャーファミリーに、部下候補達を預けた。


 何かあればの連絡先は、スクアーロが持つ、骸用の携帯電話の番号とメールアドレスを教えておく。


 三月までは、ランチャーファミリーに滞在していたが、紅奈はスクアーロの同行で帰国。


 しっかりと、ダニー達を、ランチアに丸投げで預けた。

 全力で紅奈は、甘えた声で頼んだ。

 もちろん、ランチアは妹ポジションに収まった紅奈の頼みは断れず、全責任とともに引き受けた。


 帰りの機内の中で、紅奈は骸の連絡の内容を、スクアーロにやっと伝える。


「う”お”ぉいっ! 余計、邪魔になるじゃねぇかぁ!! そんな報告受けておいて、アイツを引き取るとか! てめーって、奴は!!」

「全部バレなきゃいい」

「問題ありすぎんだろうがぁ…!!」


 スクアーロは、頭を抱えることになった。


「ただでさえ、リボーンの野郎に疑われているのにっ! それの警戒もある!」

「バレなきゃいいよね」

「骸達の潜入だって! 家光に知られたら、終わりだ!」

「バレなきゃいいよね」

「挙句には、クワトロファミリーの脱走者を匿った! よそのファミリーにな!」

「バレなきゃいいよね」

「ケラケラすんな!!」


 ケラケラしている紅奈に、青筋を立てるスクアーロ。血管が切れてしまいそうである。

 問題が、山積みだ。


「…次に、イタリアに来た時……動くだろうな」

「!」

「………」


 頬杖をついた紅奈は、窓の外を見据えた。


 その目に映るのは――――目的。

 紅奈の目的を果たす時は――――秋だ。


 目の前の目的は、XANXUS救出。

 大きな活躍をして、派手に表舞台に上がる。

 ボンゴレリングを手に入れて、XANXUSを取り戻すのだ。


 紅奈の願いを叶える好機が迫っている。


「骸が情報を受け取り次第、計画を立てる。…準備期間からすると、大掛かりかつ大事な案件のはずだ。……人手が足りるといいが…」


 絶好の好機になり得る、大きな獲物。

 逃がさないように囲む人手が必要な場合は、足りるのか。

 紅奈の目が、スクアーロに向けられた。


「ヴァリアーの隊員。駆り出せるモンは、全部、動かしてやるよ」


 スクアーロは、真っすぐに見つめ返して、告げる。


「…オッタビオは」

「アイツより、オレの命令に従う奴らばっかだぁ。無論、野郎には伝えやしねーぜ。名誉挽回のためにも、出動は必然だしなぁ。
 忘れてねーだろ? 元々、紅奈の命令で暗殺部隊ヴァリアーを配下にするってことだった。いざって時には、動かしてやるぞぉ、ボス」


 今現在、独立暗殺部隊ヴァリアーを動かすのは、スクアーロ。そして、監視も兼ねているオッタビオと、実質のヴァリアーのボスのポジションに就いている。XANXUSの代わりだ。


 紅奈の最初の命令だった。

 暗殺部隊ヴァリアーの掌握。

 スクアーロはいつだって、紅奈のために動かせるように、手綱を握っていた。


「流石、右腕志望だな」

「フン、当然だぁ」


 ニヤッと、紅奈は笑みを吊り上げて見せる。強気な笑み。
 スクアーロも、同じような笑みを返した。


「必要なら、ランチャーファミリーの貸し、残り一つを使うのか? 確かに、最強の用心棒のランチアは、お前が欲しがる人材だぁ。戦力が欲しけりゃ、使うだろ?」

「必要なら、な。持ってるもの全て、使ってやるよ」


 紅奈は両手を広げて見せる。


自分の部下一人も救えないような奴が、最強のボスにはなれるかよ。ボンゴレ10代目候補としての派手な登場をして、最強のボンゴレボスになるために、突き進む

「おう。ボス。……だがよぉ、ボス」


 右手を伸ばしたスクアーロは、紅奈の左手を掴む。
 包帯が巻かれた掌。


「アイツのためだろうが……手を汚すんじゃねーぞ。まだ、はえぇーし……何より」

「わかってるさ。自分のためだと知ったら……アイツのやらかしたことは、全部アダになるだけ」

「………」


 微笑んだ紅奈は、儚く見えた。

 しかめっ面を深めたスクアーロは、その手を握り締める。

 紅奈は、ギュッと握り返した。


「悪かったよ」

「!」

「一芝居とは言え、心底焦らせただろ」


 人を殺めたと思わせ、両手で血に濡らした姿を見せたことの謝罪。


「……紅奈が、素直に謝るなんて………槍が降るのか!?

「いや鮫が降るんじゃないのか? ドアはあっちか? ん?」


 ギシリと、スクアーロの右手に爪を立てて握った紅奈。

 痛がるスクアーロのその手を、ペイッと投げた。このプライベートジェット機から投げ落とさないでやる。


「正直に答えてほしいんだけど」

「あ?」

「あたしの手が血で塗れた姿を見た時……どう感じた?」


 そんな質問の意図が、わからない。

 読ませないためなのか、紅奈はポーカーフェイス。心情が伝わらない無表情。


「…お前が言った通り、焦った。心底な」

「他には?」

「………」


 スクアーロは、躊躇する。

 迷いに迷って、答えた。


「胸クソ悪かった」


 その一言に、尽きる。


「……そう」


 紅奈はまた、頬杖をついた。


「…死は嫌いなんだ、スク」

「……知ってるぞぉ」

「死んだ記憶があるからだ」


 ぽす、と紅奈は、背凭れにに身を預ける。


「記憶? トラウマのことを言ってんだよな?」


 紅奈は、心肺停止状態を何度も経験した。その際に、生きたり死んだりした、辛い記憶があるのか。


 だが、それとは違う話のように聞こえる。


 スクアーロは少し、怪訝な顔になってしまう。


「お前には、言ってなかったんだが……前世の記憶を持ってる」

「…?」

「生きて死んで、また生まれ変わった。死因は覚えてないが、死後の世界なのか、真っ暗な闇の中、一人きりだったんだ。どのくらいかは、わからない。叫んでも声は聞こえなくて、孤独で凍えて、時間さえもない気がすら暗闇の中が怖くて……でも、温かい光が差し込んだあと、この世に生まれていた。目の前には、あたしと同じ、赤ん坊の綱吉がいたんだ…」


 静かに語られたそれに、スクアーロは目を見開いては、呆けた。何も言えない。


 そんなスクアーロを見つめてから、紅奈は一度目を閉じた。


 それから、橙色が秘められたブラウンの瞳を開いて、口も開く。


なんで今、お前に話したんだろうな?
「いや、オレが訊きたいんだが!!?


 紅奈に困惑した表情をされたが、スクアーロの方は大混乱である。


「……」


 よそを向いて、紅奈は少しだけ考えては、一つ頷いた。


「つまり、死後の記憶もあるから、死は嫌いって話だな。…多分」

多分でとんでもないことをいきなり明かすんだな!?!?!?

「だから、殺されるのも殺すのも、過剰なくらい嫌なわけだが……この世界に身を置く以上、覚悟は出来てるって話で」

待て待て待て! 待ちやがれぇ!! 先ずは前世の話だ!! それからだ!!


 話を締めくくる方向に進んでいるが、先ず戻ってほしい。

 死後の記憶について。前世の記憶について、だ。






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