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空色少女 再始動編
460 かっこ優しい





「んで!? 結局、そいつらはどうするんだ!?」


 運転席のスクアーロが、話を進める。


「クワトロのガキは、隠し通す! 迎えに行くまでランチャーに預ける! その後だその後!! どうせ、ひょいっと拾ったんだから……考えてねーよなぁ!?」

「だって、その場で決めたんだもん」

うるせぇええよ!! この気まぐれ屋ぁああ!!

「訊いたくせにうるさいとは、酷い。横暴だ」

てめーがこの世で一番横暴だから!?!?!?

「そこまで言う?」


 酷い言いようだ。この世で一番横暴とか。酷すぎ。

 まぁ、気にしない紅奈である。


「一応、前から考えていたことがあるんだ」

「あん!? 何か案があるのか!?」

「ナツメグ達の時だって、一応処遇は決めてたんだし、拾う前からどうするかって考えはある。考えなしなわけないだろう?」


 拾い物扱いだ……。

 ダニー達の心の声は一致していたが、声には出さずに、紅奈とスクアーロの会話の邪魔をしないようにした。


「ナツメグ!? 誰だそれ!!」

「あっ、言い忘れてた。コードネームだよ」

「コードネーム…? あ”あん!? アイツか!! コードネームを手に入れて前進か!?」

「まぁ、それの詳しい話はあとだ。
 夢を叶えるために突き進んでいるし、目的を果たすためにも動いている。どうするかなんて、自ずと決まるもの


 スクアーロはバックミラー越しに、紅奈の勝気なニヤリ顔を目にする。


 紅奈の夢。最強のボンゴレボスになること。

 叶えるために進む道の先で、出来上がる目的を果たしていく。そして、また叶えるために進む。

 考えなしのボスではない。


 少々落ち着きを取り戻せたスクアーロは、つられてしまったように、ニヤリと口元を緩ませた。


「だがぁ……そんなガキどものどこが気に入ったんだぁ? クワトロのガキの戦闘は見てねぇし、他の三人も戦意なしだった。なんの役に立つ?」

「絆。四人は、支え合って生きてきたんだ。これからも、その強い絆で生きていける。そう直感した」

「…直感、かぁ」


 彼らの絆を買った。人を見る目のある紅奈が、それで選んだ。


「クワトロの名前はもう出すなよ、スク。あ、間違えた。スー」

「いやもうスクでいいだろ、愛称で。言い直すの、めんどいだろ」


 もう手遅れと言える。スク呼びで構わないと、スクアーロ。


「ところで、クワトロにちょっと聞きたいんだけど」
「お前はその名前を出すんかい!!」


 紅奈は、バルダに向き直る。
 スクアーロには口に出すなと言っておいて、間入れずに名前を口にする紅奈だった。


「ガキィ!! 答えるんじゃねぇええ!」

「お前っ! さっきからガキガキ言うな!!」

「あん!? ガキだろうが!!」



 バルダが言葉で噛み付けば、スクアーロは言い返す。


「ん? 四人とも、何歳?」

「えっと…オレは13歳、妹が12歳……ガブリも13歳」

「……オレは、14歳だ」


 ダニーとバルダが、紅奈の質問にそう答えた。


「ほら。てんでクソガキじゃねーかぁ」


 鼻で笑うスクアーロに、バルダはムスッと唇を尖らせる。


「14歳と言えば、あたしと出逢った時のスクの年齢じゃん」

「…だったら、なんだぁ」

「あたしと出逢ったスクだって、てんでクソガキってことで、ブーメランだぞ」

「……。」


 自分へと言葉が返ってくる。ブーメラン。


「ちなみに、あたしは9歳」

「「「「!?」」」」


 10歳にもなっていない!


 少年達は、驚愕した。あの場を凍らせて支配していた少女は、10歳になっていなかったのだ。


「こっちの……えっと、ビーか。11歳だ」


 ポンポン、とベルの頭を叩いて、教えてやる。


「スクの方は、17歳な」

「おい、それこそ情報漏洩じゃねぇかぁ…」


 スクアーロの後ろ姿を見て、ダニー達は頭の中で計算する。


 スクアーロと紅奈が出逢ったのは、14歳。つまり3年前だ。


 紅奈、当時………6歳!?


 わなないた。

 6歳の少女に、スクアーロはつき従うことにしたのか。


 その頃には、もう、こんな少女!?


「クワトロファミリーは、大昔から他のファミリーの協力を得ておいて、裏切っては壊滅させた悪逆非道のマフィア。今現在は、その過去の罪により、孤立している故にファミリー内の結束は強い。よって、ファミリーにあだなす者に残虐な制裁を下す……とまでは聞いた。拘束力もまた強いってことだから、追手が来る可能性もある。脱走の場合は、捕まった時、バルダはどんな罰を受ける?」

「……正直、知らないんだ。今までいたと聞いたことが……どんな罰を下されたかは、知らない」

「そう。…タトゥー、消せないんだっけ?」

「うっ……そうだよ。特殊なものだ……一生、消えない」


 紅奈はバルダの顎をまた掴んでは、ハイネックを捲ってまたタトゥーを見た。


「元々タトゥーは、消すためには死ぬほど痛い目に遭うんだっけ? 隠すようなタトゥーを新たに入れるとか?」

「それも無理なんだ…どんなタトゥーを重ねようが、浮き彫りになる」

「最悪なタトゥーね。ガーゼでも貼ってれば?」

「……おう」


 コクリ、とバルダは頷く。そうやって隠すしかない。


「これも理解していると思うけど、預かってもらうランチャーの扱いは、いいものじゃないはず」

「…わかってる」

「でもランチアお兄ちゃんは、面倒見がいいから、頼ればいいよ。鋼球を振り回していた人」

「……あの男?」

「うん」


 また押し付けられていやがる……、とスクアーロはランチアを憐れんだ。


「あたしが迎えに来るまでは、ちゃんとランチャーのボスさんとランチアお兄ちゃんに従ってなさい。ちゃんと償いのために、誠意を込めて……こき使われて」


 誠意を込めて、こき使われるって、なんだ……。

 ケラケラする紅奈に、そのツッコミはしなかった。


「……その、迎えに来るって……いつになるんですか?」

「そうねぇ……目安としては、今年の秋、までかな」

「秋?」


 パチクリ、と尋ねたダニーは、目を瞬かせる。


「本当にこのタイミングで、お前達をどーこー出来ない理由は、ある目的を果たすためだ。秋までには………目的を果たす。迎えに来るなら、そのあとだ」


 紅奈が、車内の空気を重くした。


 瞳に宿る橙色の光は、鋭利。

 恐ろしいほどの強い意志があると、ヒシヒシと肌にも感じた。


(秋まで……? コードネームも得て、骸の野郎……上手くやれそうなのかぁ…)


 スクアーロは、紅奈の顔を見たかったが、安全運転を心掛けて、前を向き続ける。


「マジでその目的のためにも、見付からないでくれる? 邪魔だから。

「…わ、わかった……」


 邪魔くさそうな眼差しを向けてくれる紅奈に、バルダはそそそっと身を引く。

 見付かった場合、邪魔と言う程度では済まないのだが。言わないでおこう。


「あたしの正体を明かすのは、その際。お前達のことをどうするかも、その時に告げる」


 大まかな流れは、決まった。


 ランチャーファミリーの屋敷に到着するまで、紅奈の質問を受けて、ダニー達は答える。





「まだコイツに寝ているのかよ…」


 バンを停めたあと、スクアーロはドアを開けて、ベルを引っ張り上げて背負った。


「……スク。あたしも、おんぶ」

「は!? 何を言って……意味わかんねーぞぉ」

「おんぶ。おんぶ」

「はぁあ!?」

なんか、スクにおんぶされたい気分。おんぶ

「わかったから! あとだ! ドアを開けろ!」


 全然意味がわからない。スクアーロはとにかく手が塞がっているため、紅奈は先に行って開けてやった。

 いきなり子どもらしくなり、ダニー達はポカンと目を瞬かせる。


 とりあえず、紅奈達についていく。


 一階にある一つの部屋に入り、一つのソファーにベルを寝かせた。

 そんなスクアーロに、紅奈はまたおんぶをせがんだ。


「なんなんだよ……これでいいかぁ?」


 しゃがんでから、背中に張り付いた紅奈を、持ち上げた。


   ドッ!


「ぐっ…!」


 衝撃を受けたスクアーロは、よろめく。踏み止まることも出来ず、意識がフッと遠退いた。


「おっと」


 前に倒れたスクアーロの顔が、床に衝突する前に、紅奈は先に足を着いてから、支えてやる。


 何故……???


 口をあんぐりと開くダニー達。
 紅奈が、スクアーロを気絶させた。


「まったく。暗殺者のくせに、簡単に気絶させられるとか……まだまだね」


 ひょいっと、紅奈はスクアーロを仰向けにする。


「あ、暗殺者っ…!?」


 バルダは、紅奈の独り言を聞き流さなかった。
 サァアッと、ダニー達の顔から血の気が引く。


あ、ヤベ。口が滑った。………聞かなかったことにして」
「いやそれは無理だろ!?」


 ミスしてしまった。

 紅奈はしょんぼりした顔をするが、絶対に聞き流せない単語である。


「そう顔を青ざめなくても、お前達に暗殺業はさせたりしないよ。コイツは元々、血の気の多い奴だから性に合ってて、暗殺者やってるけどね…」


 意識のないスクアーロの野球帽を外してやり、紅奈は前髪を撫でてやった。

 その顔が優しいようで、切なそうにも見える。


「カタギじゃないんだ。手が汚れることは、ある。子どものあたしだってね」


 さっき、血で塗れた自分の手を、紅奈に目を落とす。


 「オレの仕事だろうが!! よそのファミリーなんかのために、なんでてめーの手が血に汚れんだっ!!!」


 スクアーロが、先程、紅奈に向かっていた声が、過った。

 カタギではなくても、紅奈の手はまだ汚れていないのだろう。

 暗殺者であるスクアーロは、まだ汚させるつもりはなかった。だから、あの剣幕だったのだ。


でも、必要な時だけだ。無駄な殺しはしないって方針だから、無駄に汚させやしない。……あたしは、死が嫌いなんだ


 ギュッと手を握った紅奈は、宣言しては、そう呟く。


 だから、紅奈は一芝居を打った。


 クワトロファミリーの脱走者バルダを殺すわけでもなく、敵全員の口封じのために皆殺しにするわけでもない選択をしたのだ。


 …かっこいい……。


 そこにいる少女の異質が。強さが。

 かっこいいのだと、ダニー達の心に響く。


「……それで、なんで…部下を気絶させたんだ?」


 疑問でならないので、バルダは問う。


「ああ、コイツ、昨日から寝てないんだ。同盟ファミリーでもないからって、ここに泊まった昨日はずっと気を張ってた。どうせ、今夜も寝ないだろうと思って」


 紅奈は呆れ顔で指を差しておく。


 いや、だからって気絶させるとは……荒業すぎる。


「過保護で、声が煩い、第一部下なの」


 その、第一部下の扱いが……。

 やっぱり、この少女は怖いな………。


「そこの暖炉、火をつけてくれる? あたしは毛布を持ってくるから。床で寝かせても、平気だろうけれど、流石に寒いでしょ」

「あっ、はい。オレが」

「て、手伝うっ」

「いいよ、そこに座ってて」


 紅奈は、スタスタと部屋を出て行ってしまった。

 暖炉に火をつけて、部屋を暖めれば、紅奈が毛布の山を抱えて戻ってくる。

 慌てて、ガブリが持つ手伝いをした。


「お腹は空いた?」


 床のスクアーロにかけては、クッションを頭に乗せてやる紅奈が尋ねる。


「え、えっと」


 ぐぅううっ。ガブリのお腹から、虫が鳴く。


「テキトーに持ってくるね」


 次はソファーのベルに、毛布をかけてやった紅奈。

 手伝うとこちらが言い出す前に、紅奈がまた部屋を出てしまう。


 一同は、毛布を掛けられたスクアーロとベルを見る。


 二人とも紅奈に気絶をさせられたのだが、ちゃんと世話をしてやっているのだ。
 部下であろう二人に、紅奈は甲斐甲斐しい。


 …や、優しいな……。


 戻ってきた紅奈は、白い箱と大きな皿に盛り付けられたマフィンなどの菓子パンを抱えていた。


「ほら、ガブリ。食べていい」

「は、はい!」

「ダニーとサーラは、ちゃんと手当てな。あたしは、サーラを見る。バルダは、ダニーを頼む」


 白い箱は、救急箱だったのだ。


 や、やっぱり優しい……!


 散々と異質故の恐ろしさを見せられたあとからの、さらりとする優しさ。

 ギャップに、射止められる一同であった。








 ランチャーファミリーの6代目とランチアの二人だけではない。

 その部屋を覗き込んだ大人達は、呆けた。


 パチパチと暖炉から火が弾ける音が、静かに響く一室。

 毛布に丸まる子ども達がいた。

 ソファーに座って身を寄せた元ギャングの少年少女は、眠っている。

 端っこには、殺されたはずのクワトロファミリーの脱走者であるバルダが確かにいた。


 ランチアが、向かい側のソファーを覗き込めば、ホッと息をついて肩を下げる。


 ベルに膝を貸して、ひじ掛けの上にクッションを挟んで、頭を置いて眠っている、栗色の髪の少女。


 コーと名乗る少女だ。

 その左手には、包帯が巻かれていた。


 結局。昨夜は誰一人として、命を落とさずに済んだのだ。

 この助っ人として介入してきた紅奈のおかげで。











「う”お”ぉおおいっ!!!」


 床から飛び起きたスクアーロが、後頭部を押さえた。


「何しやがったてめぇーコー!? うぶっ!?
「…うるせぇーよ」


 紅奈はクッションをスクアーロの顔面にぶん投げたのだ。

 それから、栗色の髪を掻き上げては、大きな欠伸を零した。










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