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空色少女 再始動編
458 手を汚す




「あたしが決める」

「っ! お前には従うが! オレの意見は聞きやがれぇ!! 考え直せって言ってんだ!!」

「あたしが、決める」

「っ!!」


 紅奈も、強く告げた。


 ギリッと、スクアーロは歯ぎしりをする。


 張り詰めた空気の中の睨み合い。


っクソがぁあああっ!!!


 背を向けたスクアーロは、手当たり次第、車を叩き斬っては、箱を蹴散らして暴れた。


 その暴れっぷりに、一同は恐れをなす。


 先程の戦闘で暴れれば、敵など誰一人として、生き残れなかったはずだ。


 加減をして、戦っていたのだ。


 獰猛な猛獣が、暴れまくる。

 鬱憤晴らし。

 10歳近く年下の少女の意思を、変えることが出来なかったことに対する苛立ちや怒りや不満の大爆発。


 そんな猛獣の意見を一蹴した少女。猛獣を、従えている。


 一体、何者なのだ。


「手短に、簡潔に。事情を話せ」

「……っ!」


 紅奈はナイフで、少年の顎を持ち上げた。

「……っクワトロファミリーの親を持っただけで、ファミリーの一員にされた! あんなファミリーなんてごめんだ!! だから逃げた! 抜け出した!! それだけだ!!」

「…ふむ。別に、このギャングに潜入とかして、悪巧みしてたとかじゃない?」

「ちげぇよ!」

「ふぅん…? 髪、染めてるし……まー、隠れているってことは、間違いないのね」


 少年の髪を掴み、根元を見てみれば、緑色が見える。黒に染めている髪。長く伸ばして、顔をなるべく隠しているようだ。


「追手は?」

「……わかん、ねぇ…」

「そう……戦い方は? クワトロで仕込まれた? 足の筋肉からすると……足技も使いそうだけど」

「…あそこにいた時は、蹴り技が中心の戦闘スタイルだった……」

「抜け出したから、双剣使いに戦闘スタイルを変えた?」

「あ、ああ…」

「賢明じゃん」


 髪色も戦闘スタイルも変えて、逃げ隠れしている。

 紅奈は、悪逆非道のマフィアから逃げた少年だと、信じていいと判断した。


「名前は? 今使ってる名前」

「……バルダ」

「ダニー。バルダも、一緒がいい?」

「も、もちろんだ!! オレ達四人で助け合ってきたんだ! これからだって!」


 くるっと、紅奈は振り返ってダニーに尋ねれば、そう返事がくる。


「なんの話だってきーてんだよ!」

「そういうわけだから、6代目、よろしくー」

「おい聞けって!!」


 紅奈にスルーされ続けるバルダは、ジタバタした。

 ランチャー6代目だって、慌てふためく。


「だめだ! クワトロの人間なんて!!」

「頑張って隠し通して」

「丸投げか!?」

「リスキーなのは、よくわかる…」

「ならっ!」

だから死ぬ気で隠し通して


 グッと、親指を立てて見せた紅奈。


 やっぱり丸投げだ!!!


「だからっ」

拒否権はない。

「はっきり言ってきたな!? お嬢さん!!」


 露骨な暴君だ!!!
 逆らう権利なんて、まるでなしだ!!



「まさかクワトロの人間が、他のマフィアにいるなんて思わない。調べられたりしないから、バレやしない………あー、でもぉ……聞いちゃったねぇ?」


 その場は、凍り付いた。


 バルダと同じく、捕縛された敵ファミリーとギャングが、会話をしっかりと聞いていたのだ。


 冷たい眼差しで、紅奈は見回す。


 主導権は、完全にこの少女が握っている現状だと、敵一同はもう理解した。


 どんな決定が下されても、実行される。


 口封じをするのならば、殺されかねない。死人に口なし。

 悪逆非道なクワトロファミリーに知られる危険があるのだ。脱走したとは言え、結束が固いファミリーは、取り返しに来る。

 スクアーロの言う通り、火の海になりかねない。そんな危険を招くならば、殺して口封じをするのが先決なのだ。


「んー……」


 コクリ、と頷いた紅奈。

 一同は、決断に耳を傾けた。


めんどくさ


 そう息を吐く。


「やっぱやーめた。無駄な殺しはしない方針なんだよねぇ……でも、必要なら、しょうがない」


 紅奈の手に握られたナイフの先には、バルダ。


一人の死で、片付けようか

「うっ!!」


   ドッ!


「親は選べない。最悪よね」


 胸に衝撃を受けたバルダに、紅奈は耳打ちした。


――――…


 それから、立ち上がると同時に、どさっとバルダの身体を地面に落とす。


「バッ、バルダー!!」

「きゃあ!」


 ダニーが叫び、サーラが目を覆う。


 ビチャッ。


 ナイフについた血を振り払われて、地面に飛び散った。


「……手が汚れた」


 両手を見る紅奈は、淡々と呟く。血に濡れたそれ。


 その場の全員が、愕然として言葉を失う。

 さっきまで、弾丸飛び交う激しい戦闘だったが、死者は一人も出なかったのだ。

 なのに、たった一人の少女が、人を殺めた。


 一番幼い少女が、今夜の唯一の死者を出した。


う”お”ぉおおいっ!!!


 そこに轟くスクアーロの声。


「何しやがってる!! なんでてめーが手を下しやがんだ!!?」


 鬼の形相で駆け付けて、紅奈の肩を掴んだ。


オレの仕事だろうが!! よそのファミリーなんかのために、なんでてめーの手が血に汚れんだっ!!!


 スクアーロのとんでもない剣幕と怒号は、他の者達にも突き刺さるようだった。


「必要なら、あたしだって手を下す。いつまでも、ガキ扱いするな」

「納得出来るかよ!! オレがいたんだ! オレがそばにいたっていうのに!! なんで今っ!!


 ブチギレたスクアーロだったが、あることに気が付く。


お前はあたしの部下だ! 一生の忠誠があたしにあるのなら、もう喚かずに従え!!

「……くっ!」


 怒鳴り返されて、スクアーロは押し黙り、顔を背けた。その先にあるのは、動かなくなったバルダの身体。それをひたすら睨んだ。


「バルダの死体を運べ。ダニー達のダチだ。埋葬しろ」

「……ちぃっ!」


 スクアーロはそのまま、バルダの身体を持ち上げては、担いで歩き出す。


「ダニー、サーラ、ガブリ。行け」

「なんでっ…!」


 紅奈は、ダニー達に指示をする。

 しかし、ダニーは怒りで歪んだ顔を向けた。


「…あたしに従うと言ったよな?」

「逃げるとも言った! なんでダチを殺した奴に、ついて行かなくちゃいけないんだ!!」


 はぁ、と紅奈はため息をついて、肩を竦める。


「構わない。逃げてもいいが、ダチの埋葬が先だろ? 最後の言葉でもかけて別れを告げなさい」

「っ…!!」


 冷たい声。

 選択を誤った。ダニー達は、悔しげな表情でスクアーロの後を追うしかない。涙を浮かべながら。


「コー……!」


 ランチアに呼ばれて、紅奈は振り返るが、返事もないし、何も言わない。


 そんなランチアは、気が付く。紅奈の手から、ポタポタと血がやけに落ちる。止まらない。

 ハッとして、バルダの倒れた場所に目を向けたが、そこに血だまりはなかった。


「お嬢さん。血をこれで」

「ああ、ありがとう。そういうことで、あたし達は先に屋敷に戻らせてもらうよ。残りは、よろしく」


 ランチャー6代目に差し出されたハンカチを、紅奈は受け取る。


「元々あたし達は、ただの助っ人戦闘要員。片付けは、手伝わない。……その片付けだけど…まぁ、口封じは必要ないよね?」


 紅奈が冷たい目を細めて、捕まった者達を一瞥した。

 ゴクリ、と息を呑んでは、恐怖で身を強ばらせる。


「知らなかったとはいえ、クワトロファミリーの人間を使っては死なせたんだ。制裁の対象は、こっちだけじゃない、自分達もだから。フッ……敵同士で運命共同体になるとはねぇ…


 敵ファミリーも、ギャングも。クワトロファミリーの一員をバルダを、手下として使い、死なせた罪。全員が背負った。


 誰かが口にすれば、全員が標的になる、そんな運命共同体。


 紅奈は皮肉に笑って見せて、ベルを迎えに行く。

 よいしょっ、とベルを背負って、エンジンがかかった車に向かった。

 それを見送るランチアは、ランチャー6代目と目を合わせる。誰にも気付かれないように、小さく頷き合う。

 ランチャー6代目もまた、気が付いたのだ。


「よし! 片付けるぞ!!」


 そうランチャー6代目は、ファミリーに指示を飛ばした。












 

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