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空色少女 再始動編
457 悪逆非道の名




 一台の車のボンネットの上で、紅奈は銃弾が掠ったベルの腕の手当てをしてやった。


「……起きねーなぁ」

「寝かしておけばいいさ。ナイフは……ああ、そっかぁ、使い捨てだったなぁ」


 今回、ベルが戦闘で投げつけたナイフは、使い捨て。こんな時のために、持ち歩いていたものだ。これで、ベルの愛用のナイフが使われたとは痕跡は残らない。回収は、必要なし。

 そんなベルの意識は、未だ戻らなかった。息はあるので、放っておく。


 その車に寄りかかるスクアーロは、呆れてベルを見たが、視線を移す。近付く三人の少年達を見て、紅奈に知らせる。


「で? 選択は?」


 紅奈は振り返ることなく、尋ねた。

 ガブリに肩を借りて、ダニーはサーラの手を引いてやってきたのだ。


「……ついていく!」


 紅奈についていく。その選択をした。

 そんなことだろうと思った、とスクアーロは腕を組んで見据える。


「だが……逃げるかもな…!」


 ダニーは、警戒しているのだ。
 紅奈についていったあとに、どうなるのか。最悪ならば、逃げるまでだ。


「あ”あん!? てめーらっ!」


 紅奈についていくと言いながら、逃げるだとは身勝手だ。

 スクアーロが怒鳴ろうとしたが、紅奈が手を翳したため、舌打ちをして口を閉じた。


「いいよ。好きにしていい」


 紅奈は顔だけを振り返って、笑う。


「縛りはしないよ。嫌なら逃げて、好きに生きな。ただし、あたしについてくるなら、あたしの命令には従え」

「っ……。わかった…従う」


 紅奈についていく間は、従う。それは、承諾する。


「ええっと……お嬢さん。そいつらを預かるって話…なんだな?」

「そうそう。これで貸し一つ、消化」


 ランチャー6代目が近付いては、確認した。

 紅奈に作った貸しを、一つ返すために、ギャングの子どもを一時預かること。


「だが……子どもだと言っても、敵のギャングだ。ギャングになるしかなかったという生き方には、同情するが……罪がある。償うためにも、警察に任せるべきでは?」

「預ける間、こき使っていいよ。パシリにして」


 ランチャー6代目の真っ当な意見を、ケロッと紅奈はかわす。


 なんかマフィアのパシリにされるらしい!!!


 ダニー達は、少々ショックを受ける。


「今事情があって、お前らをどーこーしてやれないんだ。ちょっとランチャーファミリーに償いもかねて、パシられてよ。一時的だ」


 くるっと紅奈は振り返っては、はっきりと告げておく。


「い、いや…お嬢さん」

「貸し」

「そ、そうだが」

「貸し」

「う、ううっ」

「か・し」


 マフィアのボスに、貸しを押し付ける少女が、そこにいた。

 なんなんだ、この子。

 ダニーは、戸惑うが、今言わないといけないことがある。


「わ、悪いんだが……もう一人、頼みたいんだ」

「もう一人? 友だち?」

「あ、ああ。そうなんだ…」


 まだいるのか。

 紅奈はとりあえず、捕縛された中から、ダニーの友だちを見付けるために、向かった。


「アイツだ」


 ダニーが指差すのは、ボブほどの髪の長さの黒髪の少年だ。

 ダニー達に気付いて、ハッと顔を上げた。
 スクアーロ並みに、目付きが悪い。


「ランチアお兄ちゃんの攻撃にやられたんだ?」


 斬られてもいないし、刺されてもいない。もちろん、紅奈も攻撃してない。銃弾も受けた様子はない。

 ランチアの鋼球の打撃に、倒されたのだろう。

 左右の太ももには、ホルダー。紅奈が手を伸ばして、見てみる。

 そうすれば、自由な足を振り上げてきた。


「っ、うっ!」


 紅奈は容易く肘で、叩き落す。

 そのまま、手で太ももを押さえ付けて、紅奈は口元を緩ませた。


「スク、じゃなかった、スー。コイツは、使えるんじゃない?」

「あ”ぁ? …そうだなぁ…。でも、ウチには入れねーからな」

「コイツも、ダニー達と同じくランチアお兄ちゃんに面倒見てもらうよ」

「オレか!? オレなのか!?」


 他の捕縛者を確認していたランチアは、自分の名前を聞き、びっくり仰天した。


「お前が責任持て……お前がお嬢さんを連れて来た責任を負うんだ」

「え、えぇ……わ、わかりました…」


 もう諦めの境地に行ってしまっているランチャー6代目の眼差しを見て、ランチアも諦めることにする。


「なんの話だ!?」

「双剣使い、か。けっこー鍛えてるなぁ……ギャングの方だって言うし、主力だったはず、」

「だからなんの話だ!?」

「即戦力にも、なるよねぇ?」

「聞けよ! ぐぎっ!?

「やかましいなぁ。うるさいのは、一人で十分」


 目の前で喚く少年の顎を下から平手打ちして、口を閉じらせた。

 その少年の太もものホルダーの中身はないが、大きさからして双剣が入っていたに違いない。その辺に落ちているだろう。


「どこで覚えて……ん?」


 興味津々に紅奈が少年の顎を掴んで尋ねるが、あるものに目に留める。

 ぐいっと、少年の顔を右に向かせた。そしてハイネックを、紅奈に捲られる。

 顔色を変えた少年は、ビクッと強張った。

 紅奈は隠されたそれを見て、不機嫌にしかめっ面をする。


「……このタトゥー…」

「っ!!」

「おい。スー。これ……クワトロファミリーのものだよな?」

「はぁあ? ……ああ、間違いないなぁ。なんで、ここにいやがるんだぁ? クワトロファミリーのモンがよぉ……う”お”ぉいっ!


 覗き込んだスクアーロは、眉間のしわを深くした。そして、剣先を少年に突き付けた。


 周囲も、ざわめく。そのファミリーの名を、耳にして。


 ローマ数字のIVで描かれた物々しい黒いタトゥー。

 それが首にある少年は、ギロリとスクアーロを睨み返した。


「事と次第によっちゃあ……生かしてはおけねぇな…!?


 殺気立つスクアーロは、冷淡に睨み下ろす。


「や、やめてくれっ!! ソイツは、もうそのファミリーとは関係ないんだ!!」


 ダニーが、叫ぶ。


ほざくなガキどもがぁ!! わかってんのか!? 悪名高ぇマフィアは、ギャングのガキでも、知ってんだろうがよぉ!! 大昔から、クワトロファミリーは、どのファミリーと手を組んだとしても、散々裏切ってきては壊滅に追い込んできた悪逆非道のマフィア! その罪深い過去があるクワトロは、今や孤高のファミリー! よって、ファミリー内の結束が固い! 逆に言えば! その拘束力が強い!!


 スクアーロの声が轟くと、少年はわなわなと震えた。悔しげに、歯を噛み締める。


「関係ないだぁ!? 脱走者かなんかかよ!? だとしたら、今ここで殺しておくべきだなぁう”お”ぉいっ!! それは、首輪も同然! 飼い主が見付ける前に始末する!!」

「やめてくれっ!!」

「コイツ一人のために! クワトロがこの街を火の海にするぞ!? その前に!!


 スクアーロが腕を引いて、剣を突いた。

 首に刺さる。それを覚悟して、少年は目をギュッと閉じた。


   キンッ!


 紅奈がオレンジ色のラインが入った銀のナイフを両手で支えて、その剣の軌道を逸らした。


 自分の顔の横を通って、後ろの壁に食い込んだ剣を、少年は青ざめて見る。それから、目の前の紅奈に目を戻す。


「う”お”ぉおいっ! 教えたよなぁ!? クワトロには、関わるなって!!」

「…あたしが決める」

邪魔になるぞぉ!? アイツを救う目的を忘れんな!!


 紅奈が鋭く振り返った目で見るが、スクアーロは怒号のように言い放つ。


 クワトロファミリーについては、骸達を捜す最中に、聞いたのだ。

 相手にすべきじゃないファミリー。ボンゴレの人間だとバレれば、最悪の抗争の火種となる。


 さらには、このタイミングは悪い。


 XANXUSの救出のためにも動いている今、新たに阻む障害にしかならない。

 骸もコードネームを得て、大きな案件を手に入れようとしているのだ。


 それでも、だ。






 


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