[通常モード] [URL送信]

空色少女 再始動編
453



 ランチャーファミリーの朝食を取りながら、紅奈達は戦場に選ばれた工場について、詳しく聞いた。

 用意された手書きの工場の見取り図を見ては、作戦を立てる。

 単純な造りの工場。部下の配置。敵が入り込んだあとの動き。

 紅奈達も、口出しをしては、少し作戦を変えさせた。


「あ。そうだ。なんか、頑丈なロープくれない?」

「え? ロープ?」

「うん。頑丈でわりと持ちやすいやつ」

「みょ、妙な注文だな……こっちで選んでくれ。…でも、なんでオレに声をかけたんだ? お嬢ちゃん」

「さっきから武器を運んでるから、教えてくれると思って。……結婚できた?」

「え!? 唐突!」

「大晦日のトンボラやってる時に、子ども欲しいって言ってたお兄さんだよね? 子ども出来た?」

「いや確かに言ったけど! でも三ヶ月じゃあ結婚も難しいからな!?」


 大方の準備が終わる前に、紅奈は思い出して、ランチャーファミリーの一人を捕まえる。
 ベルと一緒に、ついていった。


「おい。最強の用心棒さんよぉ」

「……なんだ?」


 何故か、一人残ったスクアーロ。

 一人だけ武器を剥き出しにしたスクアーロを見張るべきだと思い、ランチアはその場に残ったのだ。


「頼みがある」

「頼み…?」

「極力、コーから目を放さないでくれ」


 これまた妙な頼みだと、怪訝な顔になるランチア。


「てめーと会った大晦日……アイツは、何も言わず、こっそりと一人行動したんだ。失踪癖がある。オレも目を放さないようにするが……乱闘になるようなら、見失わないでくれ。ちょっと目を放すと、すぐ消えやがるんだぁ…」


 深く被った野球帽の下で、スクアーロがうんざりした表情をしたのが見えた。


 失踪癖。一人行動。


 そう言えば、ランチアがほんのちょっと離れた隙に、紅奈は人身売買の被害に遭いかけたが……。

 しっかりと待てと言ったはずなのに、紅奈は一人でフラついたのだろう。そして、遭遇。


 ……あるな、悪癖。



「……それを、なんでオレに頼む?」


 紅奈が心配だから、引き受けるが…。

 何故、頼むのか。

 スクアーロが、こちらを完全に信用していないことぐらいわかっている。剣をしまわないのは、その証拠だ。


「ハン! 妹分になったコーのためなら、引き受けるだろうがぁ」

「……」


 ニヤッと口角を上げたスクアーロの言う通り。
 兄呼びをする紅奈のためと言われれば、断れやしない。だから、わざわざ言っては頼んだ。


「……お前も…コーに……その……目をつけられたようなものなのか?」


 同じく兄呼びをされたらしいスクアーロも、紅奈に目をつけられて、それから、つき従っているのか。


 ランチアは、少々自分の未来を気にして、尋ねた。

 自分も、スクアーロのように、つき従うことになるのだろうか……と。


「あ”あん?」


 小首を傾げたスクアーロは、片方の眉を上げたが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。


ちげぇーぞ。オレの方が、目をつけたんだぁ


 逆だ。先にスクアーロが、紅奈に目をつけた。


「光に吸い寄せられた……鮫の如く、になぁ」

「……鮫…?」


 吸い寄せられては食いついた鮫なのだ。


 そう。自分が最初なのである。


 スクアーロから、紅奈に目をつけては、近付いた。


………コーに目をつけられたからって、図に乗るんじゃねぇぞう”お”ぉおおいっ!

「図に乗るものなのか!?」


 意味がわからない! なんか張り合いをされているのか!?
 ランチアは、困惑した!


(あの青年……いや、少年か? 彼から、あのお嬢さんに付き従うことにした、のか…)


 成人しているかしてないかの年齢であるスクアーロを横目にしつつも、ランチャー6代目は僅かな情報で紅奈達の正体の見当をつけようとしていた。


 少しは、安心したいがためだ。


 下手したら10歳違いの少女に、スクアーロは付き従っているのかもしれない。

 それほど大物の娘だからなのか、あるいは本人そのものの魅力に惹きつけられたからなのか。

 どんな大物なのか。何故正体を隠すのか。こんな子ども達が、何故加勢しにやってくるのか。

 不鮮明すぎて、不可解だ。


「お。戻ってきた。コー。何に使うんだぁ? そのロープ。敵どもの捕縛用は、別に用意してあるんだろうがぁ」


 紅奈がロープを持って、戻ってきたため、スクアーロが用途を尋ねる。

 敵を制圧したあとに縛り付けるロープなどは、用意されているのだ。それとは、また違うのだろう。


「んー。まぁ、気にしなくていいよ」

「いや、気になるだろーがぁ……変なこと、企んでねぇよなぁ?」

「企んでないし……じゃあ鞭にして使う?」

「テキトーにはぐらかすなよ。鞭って……跳ね馬じゃああるまいし」

「…あん?」

「うっ! す、すまねぇ…失言した、忘れてくれ」


 パシパシパシッ!

 紅奈は頑丈さを見せつけるかのように、手にした細めのロープを伸ばして見せる。

 それを振り回されて当てられれば、鞭のように強打してはダメージを受けそうだ。

 スクアーロは、紅奈がリボーンとついでのようにディーノを嫌っていたことを、低い声を出されてから思い出す。


(は、跳ね馬……!? それって! キャバネッロファミリーの若きボスの二つ名!?)


 ランチャー6代目は、冷や汗をかく。


(そんな大物と繋がりがあるのか……!?)


 やはり、只者ではない!


「跳ね馬って……確か、キャバネッロファミリーの…?」


 そばで聞いたランチアが問う。
 ちょうどスクアーロと、近いか同じくらいの若者だと聞く。


「知り合い、なのか?」

「全然。あんなヘナチョコヘタレ野郎なんて、知り合ってもいない。」


 紅奈が鋭く強く突っぱねるように否定。

 その強すぎる否定と内容で、知り合いとしか思えない。


「お、おおう、そうか……なんか、すまん」


 紅奈の機嫌が悪くなってしまう質問をしてしまったと、ランチアは申し訳なさそうに謝ってしまう。


(いや、もっと探ってくれ! ランチア! 完全に絆されてるな!? お前!)


 最初からランチアは、紅奈に甲斐甲斐しかったため、仕方ないと言えば仕方ないのだが……。


「ほら、スク…違った、スー。ちょっと巻いてよ」

「腰にか? ホント、何に使うつもりなんだぁ?」

「むー。別名を決めたのに、うっかり本名を呼びそうだなぁ……。スー、ビー、スー、ビー……スビー」

「なんだ、スビーって」


 スクアーロはせっせと右手を使って、紅奈の手伝いをして、腰にロープを巻き付けてやった。


「カスとオージにすれば?」

「それ、最初に言ってほしかったよ」

「おいコラ、なんでカスになんだぁ!? せめて、サメだろ! そこぉ!!」


 スクアーロは、日本語でサメと発音し、ベルは王子だから、オージと発音。それなら、間違えにくかった。

 しかし、今更別名を変えてもしょうがない。すでにランチャーファミリーは動き出して、半分は出発している。

 うっかり、本名を呼び合わなければいい。


「そんなに素性を隠したいのか? ……今、明かしては、まずいのか?」


 ランチアは、首を捻る。


「だって…………ここぞって時に、驚かせたいじゃん?」

「驚かせたいだけなのか!?」


 そんな理由で隠しているのか。


「いや、冗談だよ。本当に今明かすのは、あたしにとって、都合が悪いんだ。……まぁ、驚かすけど」

「驚かせることに、間違いはないのか……」


 巻き付けたロープが動きの邪魔にならないことを、身体を捻って確認した紅奈は、そう言い退けた。


 絶対に、驚くような素性。


 正体を知りたいが、明かされた時が怖くもあるランチャーファミリーだった。







[*前へ][次へ#]
[戻る]

[小説ナビ|小説大賞]