空色少女 再始動編
451 乗り込まれた船
「お前の脅迫って、何人か目の前で殺して、生き残った奴に伝えさせるって手じゃないよな?」
紅奈は眇めた目を向けて、ベルは尋ねた。
「………。大丈夫だし。拷問に留めておくし。生かしておく」
バリバリ何人かを殺して脅迫材料にする気だったベルに、紅奈は呆れてため息を吐く。
幼い子ども二人が、物騒すぎる話をしている……!!
「お、おい……コー」
「大丈夫だよ、ランチアお兄ちゃん。無駄な殺しはやらせない方針だから」
物騒なことをしないでほしい、と顔に書いてあるランチアに、紅奈は手を振り下ろして宥めておく。
「心配なら、情報を流しての罠を仕掛けることも、そっちでやってくれてもいいよ。あたし達は、敵をねじ伏せておくための武器とでも思って」
「武器って……コー、あのな。強いとは思うが……子どもには」
「年齢は関係ないよ。こっちの世界に身を置いてるんだから……遊びじゃないさ。覚悟は、中途半端じゃない」
「っ…!」
子どもに、首を突っ込ませたくない。そう思うランチアに、紅奈は意思を伝える。
真っ直ぐと見据えた紅奈に、気圧されてしまいそうになるのだ。
決定打だ。この三人は、カタギではない。
ゴクリ、とランチャーファミリーは、息を呑み込む。
「そういうことで、明日、決戦ってことで」
やっぱり決定したーっっっ!!!
「いや、お嬢さん。話が違う。決断はオレに任せるって話だよな?」
「あれ? あたしの提案した作戦にするって流れじゃなかった?」
ランチャー6代目ボスは、ダメもと気味で確認する。
きょっとんと、首を傾げる紅奈。
「諦めろ諦めろぉ! コイツに目をつけられた時点で、逆らう権利はなくなったと諦めろや、う”お”ぉおおいっ!」
スクアーロが紅奈の椅子の背凭れに左腕を置いて、教えておく。
なんだ、逆らう権利って!?
「何それ。あたしをどんな暴君だと思ってんの? ちゃんと相手の意思を聞くし。
とりあえず、決定なわけだから、ハイ準備開始ー」
「コー!? 意思を聞くって話はどうしたんだ!?」
パンパン、と手を叩いて仕切る紅奈に、ランチアはツッコミを入れる。
逆らう権利を奪った暴君だ!
「覚悟決めろ、男ども。シマを守るために、奮い立ちやがれ! あたし達がついてる! 蹴散らしてやるよ!」
獰猛な光を灯す瞳と勝気な笑みを向ける紅奈。
少女に男として覚悟を決めろと叱咤されては、無理とは言えない。
本当に逆らわせない暴君であるっ!!!
叱咤しては奮い立たせるのだから、質が悪い。
本当にランチアは、とんでもない娘に目をつけられてしまったものだ。
頭を抱えたくなりつつも、ランチャー6代目は諦めて、細かい指示を下す。
人生諦めが肝心である。もう手遅れも同然。
乗り掛かった船。むしろ、乗り込まれた船だ。やるしかない。
紅奈の作戦に乗る。
もちろん、ファミリーの命を落とさせないためにも、身を守る盾も各自に用意させるように指示。激しい銃撃戦になることは、間違いないのだ。
「ああ、そうだ。念のため、目立つ色、身につけておいてくれない?」
「目立つ色?」
「んー、そうだな。オレンジ色のバンダナでも、腕につけておいてよ。目印。あたし達のことは覚えられても、ランチャーファミリーの戦闘要員を全員覚える自信ないから」
紅奈は少しだけ考えてから、色を指定した。
「そうだなぁ。敵味方を区別させろ。間違って叩き斬りかねないぜぁ? ランチャーども」
「うししっ! まー、斬られてもいいんなら、別にいいけどー?」
ニヤッと、スクアーロとベルが、からかう。
「ごめんねー、物騒な連中で」
紅奈が眉を下げた表情をして、代わりに謝っておく。
そんな二人を引き連れた紅奈こそ、一番、物騒なのだが……。
そう思いつつ、ランチャー6代目は、橙色の物を身につけるようにと指示も下した。
「(う”おい、コー)」
ランチャーファミリーが準備で慌ただしくなる中、スクアーロが日本語で紅奈に話しかける。
予め、紅奈から、日本語はわからないはずだと聞いていたため、いざという時は日本語で話すことにしていた。
「(言わなくてもわかってるはずだが、正体隠したいなら、本気出すなよ?)」
「(当たり前じゃん。戦闘中に、本気なんて出せば、それこそアイツらの耳に嫌でも入るんだから)」
紅奈も、日本語で返す。
本気。つまりは、死ぬ気モードになること。
ランチャーファミリーの方は口止め出来るだろうが、敵の方から漏れる可能性がある。口封じに殺す気もない。
長剣使いの少年、ナイフ使いの少年、死ぬ気の炎を額に宿す少女。
変装していようが、ボンゴレの者と発覚するし、そのまま正体が紅奈に行き着く。家光や、疑っているリボーンの耳に入る。
骸達の潜入が、台無しになりかねないのだから。
「(そんなリスキーを犯して、こんな介入する必要あんの?)」
「(しつこい)」
「(……わかったー。もう言わねー)」
あまりしつこく言うと、紅奈がキレてしまう。ベルは、やめておいた。
「……コー」
ランチャー6代目と話していたランチアが、紅奈の前に戻ってきては、身を屈めて顔を合わせる。
「…悪いが、オレがお前達を見張る役目をすることになった」
「いや、それをバカ正直に言わなくても……。わかってる、わかってる。ランチアお兄ちゃんが、一番あたし達の見張りに最適なんでしょ? いいよー」
疑って見張るなら、黙る方がいいだろうに。
紅奈は呆れてしまうが、ランチアとしては、正直に話しておきたいのである。
「ハン。舐められたもんだなぁ。コイツにオレ達を押さえられるとでも思ってんのかぁ? あ”あん?」
ギロリ、とスクアーロは睨みつける。
ランチアも、ギッと睨み返す。
「はいはい、いいよー。じゃあ、二人とも、そっち座って」
「「?」」
紅奈は椅子から降りると、ベルと違うソファーへと誘導した。二人を座らせると、ランチアの膝の上に頭を置いて、スクアーロの膝の上に足を置く。
「朝になったら、起こして」
「う”おい!? 足を置く必要あるか!? いて!?」
「お前が動かないためだよ。こうすれば、ちょっとは安心するでしょ。ベルも動き回らないで」
「…はーい」
スクアーロの膝に踵落としをしては、黙らせた紅奈はベルにも釘をさしておく。そして、目を閉じてしまった。
ベルとスクアーロを見てから、ランチアは膝の上の紅奈を見下ろす。
(まさか……こんな再会をすることになろうとは………。心配だ)
戦いに身を投じる気でいる紅奈の心配が拭えないランチアだった。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]