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空色少女 再始動編
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「話が逸れてごめんね。今後の動きは?」

「今のところ、防戦一方の現状だ……だが、しかし…このままでは、シマへの被害が悪化する。住民も、なるべく避難を呼びかけたが……限界だ。こちらから、仕掛けようと準備しているところだ」

「そう……」


 ランチャー6代目を聞いて、紅奈は周囲に視線を走らせた。
 武器を用意している一団。反撃の準備。


「なるべく一カ所にいるところで一網打尽には、出来そう?」

「それは、難しいな……。活動拠点は、いくつか把握出来た。一つずつ、潰していくつもりで、準備中だ」

「ふむ。地道に潰しにいく、か。どうしようかなぁ」


 地道に潰す。面倒でもあるし、紅奈には春休みという時間制限がある。

 肘掛けに頬杖をついて、紅奈はもう片方の手の指で自分の唇を叩いて思案した。

 それから、くるっとスクアーロを振り返る。


「果たし状を送って、敵全員、呼び出せないかな?」

「呼び出しに応じても……元からあっちの方が多いんだろぉ? それで劣勢になってやがる。地道に少人数がいる拠点を潰す方がいい」

「何それ。お前達は百人力には、ならないってこと?」

「なるぞう”お”ぉおおいっ!! オレが一人で千人力だぁあああっ!!!」

「うっさ。なら、いいじゃん。
 6代目さん、こちらの提案としては、なるべく多くの敵を集めて、ほぼ一網打尽にすることだ。数で負けても、強さでは勝る。あたし達は、強いから任せてくれていいよ?」


 足を組んでは、紅奈はそう大胆不敵な作戦を提案した。

 異質な少女が、強いと言い放つ。

 手を組んだマフィアとギャング相手に、三人だけでも勝てるという口ぶり。


 そんなわけがない。


 なんて、今更思っても遅い。

 マフィアのボスと対等に話す時点で、異質すぎるのだ。そして、左右に従えた少年二人も同じ。


 このマフィアの屋敷に、乗り込んだ三人は――――強い。


 三人は、好戦的にニヤリと笑って見せる。


「…いや、こちらの問題だ。お嬢さん達だけには、任せられん。そして、その作戦には乗れない。敵の数が多い戦いになるのなら……こちらも死を免れないからな………あまりにも危険な、その勝負は、出来ないんだ」


 ファミリーへの誰かの死を覚悟して、そんな戦いをする決断は出来ない。

 ランチャー6代目は、そう答えた。


「元々、人身売買の犯罪の件は、そっちが片付けるってことで、あたしに貸しを一つ作った。でもことは大きくなって、マフィアが参戦してしまって、現状に至るわけだ。こっちは手助けするだけだから、そっちの決断に任せるよ。地道に潰すってことを決定するなら、それに付き合うだけ。
 でも、先に言っておくけど、あたしは来月には帰国するから、長期戦は避けてほしいなー。中途半端な手伝いはしたくないもん。この二人も、残せないんだよねー。仕事あるし」


 紅奈はそう口では言うが、やんわりと自分の作戦を推している。

 ぷらぷら、と組んでいる上の足を揺らしながら、暗に一網打尽して早く片付けたいと言っているのだ。

 三人の助っ人は、時間が限られている。


「果たし状では、そう簡単に呼び出せないだろうから………なんか、広くて戦場になるところない? そこでランチャーファミリーが一同で決着をつける交戦準備するって、情報を流せば、あっちも一網打尽を狙って襲撃してくる。双方の戦闘要員が、一堂に会する場を作ろうじゃん」

「だから、お嬢さん」

「ファミリーの犠牲を懸念するなら、あたし達が前に出る。見たところ、武器はほぼ銃じゃない。援護射撃でいいよ。ちゃんと自分の身を守れるように、盾になる物陰からの攻撃。それなら、危険度は下がる」


 紅奈は人差し指を立てて、銃を構えて、バーンと撃つ真似を見せた。


「準備は一日で、よろしく」


 めっちゃくちゃ決定している方向で話してる!!!

 ランチャー6代目に決定権を譲ると言った口で、紅奈が一網打尽作戦を進めてしまう。

 少女が主導権を握ってしまっている状況。


「い、いや。だから、お嬢さん…………?」


 主導権を持つのは、自分のはずだ。ランチャー6代目が、言おうとしたのだが、紅奈の後ろにいるスクアーロが、ブンブンッと首を振る。
 右手まで振っては、激しく何かを訴えた。

 紅奈を指差して、コクコクと何度も頷いて見せる。

 ランチャー6代目達は、そのジェスチャーが何を伝えたいのか、わからない。

 スクアーロは、なんとか紅奈を指差しては、コクコクと激しく頷く。


(早く頷いておけぇええっ!! 紅奈がキレて強制的に従わせる前にな!!!)


 あまり拒み続けていると、イラッとしてはキレかねないのだ。


 今ならまだ間に合う。


 子どもぶってご機嫌な今のうちなのである。


 天使な子どもの顔が、悪魔な不機嫌顔に変わる前に、だ。


 当然、そんなジェスチャーだけでは、伝わりっこないのだ。


「ん?」


 ランチャー6代目達の視線を追いかけて、紅奈が振り返る。

 サッとスクアーロは、顔を背けては、野球帽を深く被って誤魔化す。


 じとり、と紅奈は見上げたが、追及はしないでおく。


「反撃するって決めたんだ。強い手を出そう。早く片付けるべきだし、一手で決める方が被害は少ない。違うか?」


 真剣に、威圧的に、告げる紅奈は、ランチャー6代目を見据えた。


 シマの被害を考えれば、早いに越したことはない。

 地道に片付け回ることは、それはそれで、あちらこちらで被害が拡大もする。

 大きな一手で、仕掛けるべきだ。


「………っ」


 一理あることは、ランチャー6代目もわかってはいる。

 しかし、被害は、ファミリーの命も避けたいのだ。

 紅奈達が強いのはわかるが、正確にはわかってはいない。だから、その作戦に乗り切れないのだ。


「……ボス。隣のシマ側にある工場なら、最適ですぜ」


 ファミリーの一人に、耳打ちされたランチャー6代目は、ファミリーまで紅奈の作戦について、考えてしまっていることに、額を押さえたくなる。


「うっしっしっ! 戦場の目星は、ついたじゃーん。あとは、上手く情報を流して、罠にはめるだけ。そこんとこ、上手くやれる自信あるー? コー、オレがやるぜ。あっち側の誰か取っ捕まえて、脅せばいいから、チョロいって」


 スラッ、とベルがナイフを出して、見せ付けた。


「自信あんの? 脅迫で罠に誘導」

「楽しょー♪」


 紅奈が振り返れば、ナイフを振っては、にんやりと歯を見せて笑って見せるベル。


そっちはそっちで、自分の命守るために盾でも用意してろよ、腰抜け


 なんて、ランチャーファミリーに挑発。
 紅奈は、呆れた目を向けた。


「べ、じゃなくて、ビーも邪魔するなら帰りなさいよ」

「帰らないし」

「なんかごめんね? 個性豊かすぎて」

「コー。自分を棚に上げてる?」

ああもう面倒だぁああっ! さっさとコーの作戦に賛成しやがれ!! どうせコイツの決定は、覆せねぇぞう”お”ぉおおいっ!!


 三人揃って、個性豊かである!!!

 むしろ、我が強すぎだ!!!



 とんでもない助っ人である。乗り込んできては、主導権を握ってきた。

 助っ人と言えるのだろうか……?
 不安である。大丈夫なのだろうか……。







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