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空色少女 再始動編
449 助っ人乱入







 その日の夜のうちに、紅奈はスクアーロとベルを引き連れて、ランチャーファミリーを訪ねた。

 隣のシマのファミリーと交戦状態で、屋敷内は緊張で張り詰めた空気だ。次の戦いに備えて、武器を揃えては、念入りの確認した。

 作戦会議もしていて、先陣を切る主要な戦力であるランチアは、しっかりとランチャーボスの指示を聞く。


 そこで、騒ぎが耳に届いた。


 敵襲かと、各々が構える。


「う”お”ぉおいっ!! 通しやがれ! コーが来たって、知らせりゃいいんだつってんだろうがぁああっ! う”お”ぉおいっ!! ランチャーファミリーのボスさんよぉ!! コーが来たぞ!!!」


 轟く声。


 コー。


 その名前を耳にして、目を見開いたランチアは、同じ反応したランチャーボスと顔を合わせた。

 念のために武器である巨大な鋼球を背負って、廊下に飛び出す。


「コー!?」


 ランチアが玄関フロアに行くと、そこには頭に浮かべていた栗色の髪をした少女はいなかった。

 野球帽を深く被り、その後ろから一つにまとめた白銀の髪を垂らす長身の少年は、パーカー姿。左腕に長剣をつけていたため、ランチアは身構えた。

 大きめのフードを深く被って、前髪で目元を隠している金髪の小柄な少年もいる。


 そんな少年の影から、ひょっこりと黒髪の少女が出てきた。


「ciao! ランチアお兄ちゃん。手荒に入ってごめんねー? 来たこと、知らせてもくれないから強行突破させてもらった」

「なっ…!」

「大丈夫大丈夫。大した怪我させてないから」


 黒髪は顔を包むように内側にはね、他は外はねしている。

 この場で明るく話しかけてくる異質に感じる存在の少女。

 その大きな瞳は、覚えがある。


こんなに早く再会するとは、予想外。でもまぁー……助っ人登場ってことで、喜んで歓迎してよ。ランチアお兄ちゃん?


 にっこりと笑って見せる少女の目は、橙色が込められたブラウンの瞳。

 去年の大晦日で出逢った少女だ。


「コー!? コーなのか!?」

「ciao ciao!」

「で、でもっ、髪が…!」

「これウィッグ。変装してきた。あっ、ランチャーボスさんも、去年ぶりー。状況、教えて。加勢、するよ?」


 身体を傾けて、紅奈がヒラヒラと手を振る相手は、愕然とした様子で見てくる初老のランチャーボス。


「お、お嬢さん……な、なんでまた…?」

「ん? 危機を聞きつけて、来ただけだよ。隣のシマのファミリーとギャングに押されてるなら、手がいるんじゃない? 貸し、二つ目。作っておこうよ」


 ピースをして見せる紅奈は、無邪気に笑いかけた。


「……どうして……」

「わざわざ言わなくても、わかってるでしょ? あたし達の手。いる? いらない?」


 どうして、危機を聞き付けて駆け付けたのか。

 その理由は、ランチアに目を付けているからだ。

 ゴクリ、とランチャーボスは、息を呑む。

 コーとしか名乗らない少女が、連れてきた二人の少年が、只者ではないこともわかる。明らかに、カタギではない。


 果たして、本当に味方だと、信用してもいいものか……?


「まぁ。いらないって言われても、敵ファミリーか、ギャング、どっちかを潰すけどね」


 ケロッと、紅奈は言い退けた。
 どちらにせよ、戦う気満々なのである。


「なっ!? コー! やめるんだ!! そんな危険を犯すな!」

「ランチアお兄ちゃんも、過保護ー。大丈夫だもん」


 ランチアが止めようとするが、紅奈の戦う意思は揺るがない。


「お兄ちゃんポジション、取られてやんのー」とベルが笑えば「兄ポジションになった覚えはねぇぞ!」とスクアーロは不機嫌に言い返した。


「……確かに、借りられる手は、借りたい。だが、一度会っただけの素性のわからないお嬢さんを、信用出来ない」


 ランチャーボスは、そうはっきりと告げる。


 当然だ。迷子として屋敷に入り込んでは、ファミリーを見定めて行った異質な正体不明の少女。

 ひょっこりとまた現れたかと思えば、これまた異質な存在の少年二人を連れてきた。

 助っ人と言われても、はいそうですか、と受け入れられない。


「正体不明を明かしてくれ」

やだ。


 真剣に素性を明かしてもらいたいと言ったのだが、紅奈は間入れず、拒んだ。


「っ! コー!」

「まだ明かさなーい。やだ。

「やだって……! それじゃあ、信用して味方につけられないんだ!」

「えー? ランチアお兄ちゃんは、信じてくれないの?」

「うっ…!」


 悲しげに上目遣いで見てくる紅奈に、ランチアは揺らぐ。


 あ。コイツは紅奈の小悪魔には、絶対に勝てないな。


 親しげに話しかける彼こそ、紅奈が唾をつけた最強の用心棒だろうと、スクアーロとベルは気付いた。そして、もうすでに、紅奈に絆されていることも、見抜く。


「信用出来ないって言うなら、さっき言った通り。勝手に、どっちかを潰すだけのこと。でも、さぁー。ランチャー6代目ボス?」


 ランチアの後ろの方に立つランチャーファミリーの6代目ボスに、向かって笑いかけた。

 子どもらしく可愛らしい笑みとは違う。

 不敵な笑みは、目を細めて、片方の口の端を上げている。


「ギャングの方は、なんか人身売買犯罪にも手を出してるとか………それって」


 カツリ。

 膝当てが銀に煌めくロングブーツで、紅奈は一歩近付いた。


「ぐーぜん、なのかなぁ?」


 ランチャー6代目は、顔を歪ませる。


 紅奈は問うが、ほぼ確信している目だ。


 見透かすような瞳に、たじろいでしまいそうになる。マフィアのボスとして、少女相手に物怖じする姿を、ファミリーに見せられない。だから、なんとか向き合った。


「もらいたいものを……奪うわけじゃ、ないんだな?」


 念のための確認。


 混乱に乗じて、紅奈が接触してきた目的であるランチアを奪う算段かどうか。


 ランチアを受け入れて育ててきたファミリーのボスとして、それは阻止するべきだ。ファミリーの誰であろうと、黙って奪われてたまるものか。

 とはいえ。こんな問いの答えを聞いても、無意味かもしれない。


「欲しけりゃ奪うよ」


 紅奈は不敵な笑みを深めた。


「でも、あたしはいい子じゃないけど、よそ様のファミリーを奪うような悪い子ではない」

「!」


 見透かす瞳は、真剣だ。

 その言葉には、嘘偽りはないだろう。

 ヒシヒシと、伝わってくる。


 この少女は、まさか―――。


 マフィア、なのか……?


 マフィアのファミリーの結束の固さを理解しての発言ならば。

 信用は出来ると思えた。


「………わかった。お嬢さん達は、戦闘要員として、加勢をしてくれる。それで間違いないな?」

「うん」


 腕を後ろで組んで、紅奈は頷いた。


「コー……」

「もーう。心配いらないって、ランチアお兄ちゃん」

「………」


 紅奈が、戦闘に参加する。ランチアは、心配する目を変えようとはしない。


「正体は明かさないってことだが……君達を、なんと呼べばいい?」


 ランチャー6代目に問われて、紅奈は大きな目をパチクリさせた。


「あー……やべ。別名、考えてなかった」

「「あ。」」

「「………」」



 しーん、とその場が静まり返る。

 軽い変装までして、正体を隠して来たというのに、本名を伏せるための別名を用意し忘れた。
 三人揃って、今の今まで気付かなかったのである。


「んーと」


 この場で、サクッと考えればいい。


「こっちが、スー。こっちが、ビー。あたしは変わらず、コー」


 スクアーロは、スー。ベルが、ビー。
 指差して教えてから、紅奈はランチャー6代目ボスと向き直る。


「…では、コーお嬢さん」


 呼び方に迷うが、別にお嬢さん呼びは、構わないらしい。


「加勢を頼む」

「いいよ。貸し二つ目ね」


 マフィアのボスの頼みを引き受けて、紅奈は二本指を立てて見せた。


 玄関フロアから、移動。武器をずらりと並べた部屋で、紅奈達に詳しく話した。


 人身売買の犯罪者を追えば、そのギャングに行き着いたという。潰そうとしたが、逃げられた挙句、隣のシマのファミリーに取り入ったらしく、逆にこちらを潰す行動を取り始めたのだ。

 結託すれば、こちらを負かす自信がある人数。実際、数では押されている。


 今月に入ってから、そんな交戦状態が続いているというわけだ。


「なんでまた、人身売買を追ってたんだぁ?」


 その経緯を聞いていないと、スクアーロが口を挟む。


 えっ。とした顔になって、紅奈が人身売買の被害に遭いかけたことを知る者達が、椅子に座っている紅奈に注目した。


 ちょうどスクアーロは、紅奈の背しか見えない後ろの位置にいるため、こっそりと口元に人差し指を当てて、言うなと伝える。


「……う”お”ぉおいっ!! コー! 何を隠してやがる!?」


 しかし、紅奈の言うなのジェスチャーが見えずとも、ランチア達の顔を見れば、察することが出来る。スクアーロは、がしりと紅奈の頭を鷲掴みにした。


いやんっ! えっち!

「んなっ!? だからそれで誤魔化そうとすんな!! 隠すんじゃねーっ!!」


 スクアーロのその様子からして、言わない方が賢明だと、ランチャーファミリーは悟る。

 しかし、隠し事はバレるものだ。


「フツーに考えれば、わかるじゃん」


 ソファーで寛いでいたベルが、そう口を開く。


「コーには関係あるってさっき玄関で話してたから、コーがその人身売買犯罪に関わった。それが貸し一つになったってことは……コーがその人身売買を見付けたとか、そんな助けをしたってことじゃん? でもなーんか、罪悪感みたいなの、ソイツらから感じるところを見ると………コーが、直接狙われたとか?」


 ギクリ。ベルに、言い当てられた。

 そこまで言えば、状況は予想が出来る。

 ランチャーファミリーのところで、人身売買の犯罪者の魔の手が伸びた。


んだとコラぁああっ!! よくもうちのボ、いや、コーをそんな目に!!


 物凄い剣幕で、剣先を向けて迫ってくるスクアーロに、ランチアはファミリーを守ろうと前に出る。

 しかし、紅奈の横を通り過ぎる前に。


 ドス。


 紅奈の拳が横っ腹に入れられて、スクアーロはよろめく羽目になった。


「別に自分の身は自分で守ったし、ランチアお兄ちゃんがしっかり成敗した。加勢にしに来たのに叩き斬ってどうすんの。邪魔するなら、ちゃっちゃと帰りなさいよ」

「ぐっ…!」

「スーが帰っても、別にいーけど? コーには、オレがついてるから♪」

「あたし一人でもいいけど?」
「「それはだめだろ」」


 にんやりと笑っていたベルも一緒になって、紅奈が一人になることをツッコミ却下をする。


 上下関係があるようで、ないような……。


 よくわからない三人である。

 ランチャー6代目ボス達は、困惑した。






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