空色少女 再始動編
448 再びの北イタリア
三年生は終わって、3月26日から始まった春休み当日。
迎えに来たスクアーロと、北イタリアへと出発した。
「…なんでいるの? ベル」
「キーングー♪」
ミラノに到着し、それから特急列車に乗れば、予約した座席には、真っ赤な耳当てマフラーをつけたベルが待ち構えていたのだ。
紅奈に抱き付いたそのベルに腕を回す。
首に腕を回して、抱き締め返してくれたのかと思ったのだが、ベルはげしっと足元を蹴り崩された。
バランスを崩されたベルは、紅奈に支えられるというより、ギシッと首を腕で絞められたのだ。
「なんでいるのかって訊いてんの」
「ギブーッ!」
早々に、音を上げたベル。
スクアーロは、紅奈に何も言われなかったため、ベルには声をかけなかったのである。ベルも同行するなら、紅奈は予め聞かされたはず。
そんなベルが、何故かいるのだ。
「なんでここがわかったぁ? てめぇベル!」
「ゲホッ! …バレバレだしー。他の連中に仕事回して、しっかりと春休みの間、しっかりと暇作ってたじゃん。ちょっと調べてみれば、北イタリア行きの列車のチケットを二つ買ってんだぜ? フツーに、コウを連れて行くってわかるじゃーん、しししっ。スクアーロに連れ回す恋人、いるわけねーし」
「うるせぇええぞ、う”お”ぉおいっ!」
恋人がいないのは、余計だ。
スクアーロは、青筋を立てた。
「スク。お前ってば……足がつくとか、大丈夫なの? 骸との連絡、大丈夫?」
紅奈は、じとりとスクアーロを見上げる。
ギクッと、肩を震え上がらせたスクアーロ。相手がベルだったからいいものの、他ならとんだ失態。認めるしかない。
「あ”あ!? くっ…! すまねぇ……! だが、骸の件は問題ねーよ! あっちからの一方的な連絡だし、下手を踏むなら、向こうだ!!」
「それを力強く言われても……。
ベル。お前は、スクの足取りを調べるんじゃなくて……隠蔽しておけ」
「ええー? めんどくさ。別にいいけど。……なんで、またオレに声をかけなかったんだよ。二人で動くとか……ムカつくんだけど」
むすーっと、ベルは唇を尖らせた。
「だって、十分だもん。なんなら一人でも、よかったし」
「一人にするかよ、う”おい」
ストン、と紅奈は座席に腰を落とす。その隣に、ベルは座った。
廊下を挟んだ向かいの席に、スクアーロは座るしかない。
「コウが、一人でもいいって………マフィアポーカー巡りを一人でやりたかったとか?」
「どんな予想だ、う”おい。ぜってーさせねぇぞ、そんな危険」
マフィアポーカー巡りと、命名かよ。絶対にさせない、とスクアーロは強く思った。
「ランチャーファミリーのとこに行くのよ。もめ事に介入しに」
「ランチャーファミリー? なんで? それって確かー……最強の用心棒がいるって言う有名なファミリーだよな? ボンゴレと関係なくね?」
「あ。ベルは、聞いてなかったね。大晦日であたしが、一人で会ったところのファミリーだよ」
「あっ。コウが失踪した時か。そういやぁ、失踪した時のこと、聞いてなかった。ほい、ジェラート」
頬杖をついたベルは、カップに入ったジェラートを差し出す。
「ん? おおー、ラズベリー味? やったぁ」
「う”お”ぉおい! またジェラートかよ! やめとけぇ!」
「大丈夫大丈夫。もう春先じゃん」
「まだ寒いからな!?」
「寒くなったら、オレがあっためるし♪」
「やめろやクソガキぃいいっ!!」
「「うっさ」」
食べることを止めるスクアーロを軽く流しては、プラスチックのスプーンで掬っては食べ始める紅奈。
甘酸っぱいジェラートを、ちまちまと口に運んでは、舌の上で溶かす。
「ベル、ありがと。……でも、あたしはコーンがいいから、次からはコーンにして」
「仰せのままにー、キング♪」
「冬はやめろぉ、冬だけは」
もうジェラートを用意するのはいいが、真冬だけはやめてほしい。紅奈が凍える。一応、釘をさしておいたスクアーロ。
「んで? なんでそのランチャーファミリーのもめ事に介入すんの? コウは、イタリア行き二回勝ち取ったと聞いたけど、それを一回使っちゃったんでしょ? その価値って何? あーん」
ベルが口を開ければ、紅奈はそこにスプーンを入れて食べさせてやった。
自由なタイミングでイタリアへ行ける権利は、たったの二回。大事なところで使うはず。
今回は、それほどの価値があるのか。ベルは疑問に思う。
「ん。未来への投資、かなぁ。せっかくの縁作りを台無しにするのは、もったいないからねー。実戦経験が出来る見込みもあるし」
「投資ぃ? ふぅん……最強の用心棒に、だろ? まぁ、いいーけど。てか、実戦があるなら、ますますオレも誘うべきじゃね? なんで鮫だけ…」
マジムカつく、と前髪の下から、スクアーロを睨みつけるベル。
紅奈が頼むのは、いつもいつも、スクアーロである。
眉間にしわを寄せたしかめっ面のスクアーロは、ギロリと睨み返す。
「じゃあ、ベル。そのティアラ。取ってくれるの?」
「は? やだ。なんで?」
「でしょ。そう言うと思った」
紅奈はペロリと、スプーンを舐めた。
「コーとしか名乗ってないし、今回も名乗るつもりもないもん。だいたい実戦するわけだから、正体を隠さないと」
「つまり、変装が必要ってこと? んー……まぁいいけど、隠すぐらいなら」
「でも、ナイフ使う金髪少年と長剣振るう白銀のうるさい少年……イタリアにあたしがいる間にそんな騒ぎがあったなんて、家光やリボーンの耳に入られると困るわ」
「うるさいは余計だぁ、おい」
正体を隠して、紅奈は派手に動くつもりなのだ。
ベルは、それを理解した。
「そう言えば、あのへなちょこキャバネッロのボスについてる最強のヒットマンのリボーンに、疑われてんだっけ? 確かにまずいよなぁ。うしししっ。なら、スクアーロじゃなくて、王子がついていく♪」
「あ”あ!? ふざけんな! てめーを連れて行かないのは、自分の血を見て、暴走するのが面倒だからだぞ!? よって、てめーが邪魔だぁ!」
「うししっ! そんなヘマしねぇーし!」
「コラ。車内でナイフ、投げようとしないでよ」
スクアーロに向かって投げようとしたナイフは、どうせ避けられるのだ。投げるだけ無駄。紅奈は、手首を掴んで止めた。
「オレも行くから! 絶対に行く!」
「帰れ! 仕事しろぉ!」
「ちゃんと片付けたし!」
「左右で、ワーギャー言わないでよ。もう来ちゃったもんは、しょうがない。ランチャーファミリーと会って、詳細を聞いて、臨機応変に立ち回ろう。しっかりと正体を隠し通してさ」
紅奈はそう二人を落ち着かせては、足を組んだ。
「詳細も知らずに行くわけ?」
「骸情報でごたごたしてるって聞いたから、スクに調べさせたら隣のシマのファミリーと交戦状態だって」
「理由まではわからねぇーが、どうやらギャングが敵ファミリーと手を組んで、ランチャーファミリーに仕掛けてるらしいぞぉ」
そういうことで、紅奈は介入しに向かうことにしたのである。
「ギャングと結託? それでランチャーの方は押されてるわけ? 紅奈はどうしたいん? 紅奈がランチャーに接触した狙いって最強の用心棒なんだろ」
紅奈の狙いは、北イタリアの最強の用心棒ランチアを引っこ抜くこと。それは、ベルも予想が出来る。
「いや、普通にランチャーファミリーを助けるけど?」
今回の目的は、手助けだ。ついでに、実戦もする。
原作だと、ランチャーファミリーは、骸に操られたランチアに壊滅されるはずだった。恐らく、その後にランチャーのシマをいただくはずだったマフィアだろうと、紅奈は推測する。
本来なら、起こり得なかった抗争。最悪の壊滅を人知れず回避したというのに、一難去ってまた一難か。
バタフライエフェクト。
何かを変えれば、何かが起きる。
原作と違う、何かの出来事を、全て対処するつもりはない。紅奈は、やりたいことをやるだけである。
「実戦出来るだろうし、借りをもう一つ作れるし、一石二鳥。…あ、さむっ」
「だから言ったよなぁ!? ジェラートを食べるなって!!」
ぶるっと肩を震わせた紅奈に、スクアーロは素早く自分のマフラーを膝の上にかけてやった。ニットのそれを、膝掛け代わりにしておく。
それでも、ジェラートを食べ続けるから「いや寒いならやめろよ!」とスクアーロは、制止のツッコミを入れた。紅奈は、スルーする。
「まぁ、そんなわけで………」
チラ。チラ。
紅奈は、ベルとスクアーロを見た。
「買い物、するか」
「え?」
「は?」
ランチャーファミリーの屋敷に行く前に。
紅奈は、買い物を提案。
もちろん、遊びではない。
変装用の服の購入である。
サクサク選んでは、軽い変装完了。
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