空色少女 再始動編
293 好きなタイプ
くかー。
アイマスクをして口を開けて寝息を立てるのは、シャマル。
そんなシャマルを紅奈はつついて起こした。
「ごめんね、イタリアまで付き合わせて」
「いやいや、オレはお嬢の主治医だからな」
アイマスクを外せば隣の席の紅奈が見上げていたから、シャマルは笑って見せる。
飛行機の機内の中。
ハワイ旅行から帰国し二週間後。
紅奈が「スキーはイタリアがいいな」と言ったため、イタリアスキー旅行となった。
紅奈は大丈夫と言い張ったが、両親が心配し念のためにシャマルも同行することになったのだ。
「オレもイタリアに用があったしな」
「イタリアに?」
「かわいこちゃんがイタリアでオレの帰りを待ってるのさ!」
「…………ふぅん」
決め顔で言うと紅奈が冷たい眼差しで反応した。
相変わらずのドライだ。
「気分が悪くなったらすぐに言えよ?」
「うん」
紅奈の様子からして飛行機事故のトラウマは大丈夫そうだ。
(どっちかって言うと溺れたトラウマってことか…)
家光からハワイ旅行中の様子を聞いていた。紅奈が飛行機の中で発作を起こすことはないと予測していたが、念には念を。
「ん?そりゃあ……日記か?」
「うん」
紅奈が分厚い赤いノートを広げて何やら書いている。
紅奈はなにも話そうとしないが、トラウマについて書いてあるかもしれない。
「見せてくれないか?」
「……日記は他人に見せるものじゃない」
紅奈から冷たい眼差しがまた向けられた。
拒否だ。
それでもシャマルは食い下がる。
「なんだ?見せられねぇことでも書いてあるのか?あ、好きな男の奴の名前が書いてるとか?」
「うん。」
紅奈はあっさり頷いた。
ま、まじか。
ここはあっさり否定されると思っていた。
シャマルは恐る恐る隣の通路の座席に目をやる。
奈々より奥に座る家光の形相といったら……。
(地獄耳…)
笑みをひきつらせてシャマルは顔を背けた。
「…あ、あれか。傷まで愛してくれるっつー男か?」
「ん?…ああ。冗談だよ、好きな奴いないから」
ぱたん、と紅奈は日記を閉じる。
以前紅奈が子供らしかぬ発言をしたものだ。
好きな奴は冗談か。
「じゃあお嬢の好きなタイプは?」
「好きなタイプ…?んー……………身体は華奢だけど筋肉質で俊敏」
(いきなり身体のタイプ!?)
流石は大人発言連発する紅奈。
絶対に精神年齢高いぞ、この娘。
盗み聞きしていた家光は密かにショックを受けていた。
「顔は整ってる方が好みかな、面食いだから。気まぐれな猫タイプより忠実な犬タイプがいいかな。しっぽ振る奴の頭撫でるの好きだし、気まぐれに離れたらそれで自然消滅するからね。多分好きになるより好きになられる恋ばかりをすると思うからその中からあたしが気に入る奴を見つけたいと思う。まぁ、あたしはまだ八歳だから気長に運命の人を探すわ」
八歳の発言じゃないっ!!!
シャマルは心の中で叫んだ。
え?なにこの娘。
なんなのこの娘。
猫タイプ?犬タイプ?
恋人はペットか!?
男はペットなのか!?
自分の恋愛パターンがわかる八歳ってなんだ!
気長に運命の人を探すわ、って絶対八歳は言わんわっ!!
なんつー恐ろしい娘なんだ!
…あ、でもグラマスでナイスバディーなら…このタイプに弄ばれたいかも。
そんなシャマルの思考は家光に筒抜けなため、睨まれるのであった。
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