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空色少女 再始動編
443 奮い立ちやがれ





〔内容は、今、全く伝えられないの?〕

「……危険、だな」

〔でも水の音がする。バスルームで、盗み聞きされないようにしているのに?〕

「…念のためだ。これも危険かもしれねぇ……すまねぇ…」

〔謝られてもねぇ? なんのことやら。今渡せるヒントも、なし?〕


 この通信も、安全とは言えない。

 一番盗聴の危険のない通信機ではあるが…。
 イヤホン型の通信機。紅奈の声なら、聞こえやしない。

 今謝ったところで、何に対してかは、わかりっこないだろう。


「……探られた…」

〔探られた、か。ふぅん……? 骸達に関して?〕

「…いや」


 声を聞かれないだろう紅奈から質問をして、どんな問題かを把握するつもりのようだ。


〔まぁ、家光はいないって確認してきたから、それは違うか。潜入を疑われた、わけではない?〕

「ああ」

〔なるほど。じゃあ……あたし達の関係?〕

「…そうだぁ……」


 紅奈との本当の関係を探られた。


〔……バレたわけ?〕

「まだ、わからねぇが……疑われているだろうな」

〔疑っている、か。誰かなぁ……?〕


 そう。問題は、相手だ。


〔ん〜〕


 紅奈は思い当たる人物を考えている。
 オレに探りを入れた人物を。


〔……あー。今、スクは、ホテルのはずだよな?〕

「おう」

〔そいつらは、今どこだ?〕

「! …知らねぇが……ホテルの部屋が…隣だ」


 そいつら。複数だってことに、なんでわかったんだ?
 心当たりが、アイツらだって、わかったのか?


〔何それ。意図的?〕

「いや……それは偶然だろうな」

〔最悪じゃん。まったく……二度と来るなって言ったんだけどなぁ………お返しを口実に来やがったのか?〕

「……そうだぁ」


 これは、もう…確信してやがるな……。


〔チッ。どういうことだ? 先月会った時には、別に探られはしなかったんだが……〕

「こっちも聞きてぇが……探ってきたのは、確かだ」

〔……考えられるとしたら、先月、会ったあとだな。偶然会ったシャマルと一緒にチョコ食べさせて帰ったんだが……帰りもシャマルと一緒。何か聞き出した、のか。この前の診察の際、シャマルの様子にちょっと違和感を覚えたんだよなぁ……妙な話でもしたんだろう。ちょこちょこと来やがって……目障りな奴ら


 あ。マジで紅奈はアイツらのこと……嫌ってやがるな…。


〔用事があるって聞いたはずなのに……とんだ邪魔が入ったな〕

「…一応、それを言っておいた。帰れとは言ったが……どうするかはわからねぇなぁ」


 明日のオレの祝いのためにも、ベルが来ねぇように仕事を調節しておいたし、幸い家光の野郎も来ねぇ。


 なのに……本当に、とんだ邪魔が入ったものだ。
 だが、オレの祝いなんて、どうでもいいんだよ。


 一番大事なのは、紅奈だ。

 紅奈なんだよ……!


「くっ……!」

〔何を悔しがってんだ? バレたとは、言い切ってない。疑われている段階。でしょ?〕

「…ああ、まぁ……誤魔化したが、時間稼ぎにしかならねぇかもな………」


 紅奈に、一目惚れ。そう叫んだはいいが、それで誤魔化せただろうか。

 恋路の邪魔をしないとは言ったから、家光にはチクらないだろうが……。


 ああ、そう言えば……!


「そうだぁ、なんか三人で他言しねーって約束をしているようだったぞ」

〔三人? シャマル、ディーノ、リボーンか?〕

「今のところはな。あとは……どこまでか、だ」

〔どこまで、疑っているかどうか…ね。他言、か……他言、他言………ふぅん。詳細を聞きたいが……部屋が隣。動いてこっちに今すぐ来るのは、愚策。明日まで、待つべきね。明日……何時にするか。日課通り、ジョギングして、そのタイミングで合流しておくかな〕

「…すまねぇ」

〔だから謝るなよ。まだわからないんだ〕

「……」


 ギリッと奥歯を噛み締める。


「そもそも……あの野郎と口を聞いたことが、オレのミスだぁ…」

〔ミスかどうかは、詳細を聞いてから、あたしが判断する。朝を待て。合流したのち、骸達の部屋で話そう〕


 朝を待て、か。

 ボスの邪魔になるなんて……っ!

 眠れそうにねぇな…朝まで素振りでもするか。


〔ちゃんと寝ろよ。身体を動かして、朝を迎えるな〕


 ……紅奈に読まれて、止められた。


〔明日の主役が、寝不足になるなよ。子守歌でも歌ってやろうか?〕

「一晩寝なくても倒れやしねぇぞ、う”おい」

〔寝ろって。気になるのはしょうがないが……相手はわかってる。他言しないってことなら、今わかってるリボーンどもをどうにかするべき。詳細を聞いて臨機応変に対処しようじゃないか。
 それに――――〕


 臨機応変? どう対処するつもりだ…?
 ……それに?


〔スクアーロ。お前が、大きなヘマをするなんて、思っちゃいない。このあたしの右腕になるって宣言しておいて、ここで弱気になってどうする。やわだなぁ、おい〕

「っ! なんだとっ!?」

〔ヘマしたなら、挽回しろ。
 あの雨の日の言葉。忘れてんの?


 ……っ!?

 雨の日って言えば。


「オレがお前を10代目にしてやるぞう”お”ぉおい!!」


 紅奈が10代目候補だって知るなり、オレが告げたやつか…?


左手見ろ。なんの証か、忘れてんの?


 言われて自分の左手を見る。切り落として、義手を嵌めたそれ。


「オレはお前を裏切らねぇ!! 10代目にして一生ついていく!! オレの誓いだ! それをお前に手っ取り早く証明したかったんだ!」


 本物を望む紅奈に、見せ付けたオレの忠誠。


〔お前の決意が、今後揺らがないってことを信じてる。本物の忠誠を貫くってことだって信じてる。
 ……それを裏切るつもりか? S・スクアーロ

「っ!」


 ざけんな!! オレはお前を裏切りはしねぇぞ!!


最強のボンゴレボスになるあたしの右腕になるなんざ、夢のまた夢だ。右腕の座を勝ち取りたきゃ、萎れてる場合じゃねーだろ?
 奮い立ちやがれ。叩っ斬れよ、阻むもんは全部。突き進むんだから、しっかり前向いてついてこい


 声を上げずとも、紅奈の声は強い。


 オレを奮い立たせるには、十分すぎるほどの強さがこもった声が、鼓膜を震わせ、心に響く。


 そうだ…。

 そうだ! そうだぞぉ!!


あっ。間違えた。
 今は奮い立たなくていいから、とりま寝ろって〕


 コロッと、紅奈は雰囲気を変えて、言いやがったもんだから、ずっこけかけた身体をプルプルと震わせた。


う”お”ぉおい!!! っ!?」


 バスルームだから、自分の大声が木霊して、キーンと耳にダメージを受けてしまう。


〔うるさ。ふぁああ。じゃあ、早朝の五時半までには合流。おやすみ〕


 オレの挨拶も聞かず、紅奈はプツリと通信を切りやがった。

 ガクリ、と頭を垂らす。


「………」


 だが、紅奈が言ったのは、事実。


 弱気になるなんざ、どうかしてたぜ。


 アイツの。最強のボンゴレボスになる紅奈の。


 右腕になる男が、やわになってる場合じゃねぇ!


 オレ達が進む道を阻むものがあるなら、叩っ斬る!


「…………マジで、奮い立たされたから、寝れる気がしねーぞ…」


 寝ろと言われたが、マジで奮い立たされた興奮が治らなきゃ、寝れやしねぇ……。


 ……努力だけは、しておくか。







 夢を見た。
 雨の日だ。
 公園のトンネルの中。
 紅奈を10代目にしてやると、宣言を轟かせた。

 いや、紅奈の方だったか?
 雨の日のオレの言葉を繰り返し、トンネル内に響かせ、再び惹き付けた。

 紅奈の夢を。
 本物を手に入れる望みを。
 叶えることが、紅奈の幸せだと。

 告げたあの瞬間。









 ピリリリッ。
 フッと目を覚ます。設定したアラームに、起こされた。


「朝か………うっし」


 案外、寝れたな。

 紅奈と合流して、詳細を報告して、対処すべきだ。

 チェックアウト。

 部屋を出る際に、隣の部屋を一瞥したが、変に気にすべきじゃない。だが、警戒は怠らねぇ。

 追跡されていないか、気配を探りながら、紅奈の家へ向かった。


「…おう。紅奈。待たせたか、ってう”おい!

「ハッピーバースデー!」


 家の前で汗を拭いていた紅奈が飛びついて、腹に顔を埋めてきたから驚く。


「尾行は?」

「ねぇな…」


 小声で、確認のためか。
 紅奈も周囲の気配でも探っているのか、少しの間、オレにしがみ付いたまま。


「静かに入って」


 紅奈は離れると、家へと入った。オレも不用意に周囲を見ることなく、続く。








 着替えを終えた紅奈に、骸達に与えた部屋で、昨日会ったことを細かく報告した。


 ベッドに腰かけて聞いていた紅奈は――――必死に大声を上げて笑うことを堪えている。







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