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空色少女 再始動編
442 一目惚れ




「そうかよ。言っておくが、紅奈の好感度なんて上がりはしねーぞ。お返しのチョコも、用事の邪魔も、紅奈の機嫌を損ねるだけだぁ。さっさと自分のシマに帰りやがれ、跳ね馬」

「おい。話を切り上げるな。まだ終わってねーぞ」

「あ”ん!? なんでだ!?」


 おろすぞこのクソアルコバレーノめ!!


「お前は、紅奈がいつ泣いたのかって質問をした。だから、今度はこっちの質問に答えてもらうぞ」

「あ”あ”ん!? 堂々巡りか!? いい加減にしやがれ!!」

「これで最後にしてやる」


 クッソが!! なんなんだよ!!


「おい! リボーン!! あれは他言しない約束だろ!?」


 跳ね馬が慌てた様子で頭の上のリボーンをとっ捕まえようとするが、ぴょんぴょんと飛び跳ねては、避けられてやがる。

 ”あれ”……? なんの話だ?

 気になるが、これ以上、質問をされては面倒だ。次の質問に答えて、しまいにする。
 情報を聞き出されているだけじゃねーか、クソ。


「ああ、あれは他言はしねーぞ。確認してーところだが……他の質問をする」


 それを聞いて、跳ね馬は肩の力を抜いて、とっ捕まえることをやめた。


「で? 質問は!?」

「お前こそ、なんで紅奈と関わるんだ?」

「……なんだと?」


 オレは顔をしかめる。


「そもそも、お前は見ず知らずの少女を助けるほど、優しい人間じゃねーだろ? 二日も寝込んだ少女が起きるまで待っては、元気だったから頭を撫でたなんて、おかしいと思うぞ」

「…喧嘩売ってんのか?」

「純粋に疑問を言ってるだけだ。血を好んで暗殺部隊にも入った。獰猛な暗殺者が……幼い少女に懐かれたからって、連れ回すか? フツー」


 オレへの侮辱じゃねーな、これ。


 紅奈への探りだ。


 オレ達と紅奈の、本当の関係を確かめようと、探ってやがる。


「しょっちゅう紅奈の家に出入りしてるみてーだな。去年も、この時期にベルフェゴールと鉢合わせぞ。骸って奴だって、紅奈の頼みで捜し出した。今だってそうだ。お前だって、紅奈に会いに、イタリアから来たんじゃないのか? 喧嘩の仕方なんて教えず、突き放せばよかったじゃねーか。それは不可能じゃなかったはずだ。
 S・スクアーロ。何故、お前は沢田紅奈に関わってきたんだ?」


 コイツと喋ったこと自体が、オレの失敗か?

 跳ね馬はなんとか始末できるだろうが……流石に、アルコバレーノは難しいだろう。


 最強の殺し屋、リボーン。


 認めたくはねーが……挑むには、実力不足だ。


 言葉で乗り切るしかねぇが……。

 なんて答えるのが、正解だ?

 迂闊な嘘は、見破られるのがオチ。

 なるべく。事実を――――。


「それは――――オレがっ……」


 言い放って、押し切る!!!


紅奈に、一目惚れしたからだ!!!

「は?」
「へ?」

う”お”ぉおおいっ! なんだ悪いか!? トラブルの一回目に助けた時に惚れ! 二回目は惚れた奴だから助けに飛び込んだ! 三回目だって同じ理由だぞ!! 文句あんのか、あ”あ”んっ!!?

「……」
「え…」

「言っとくが、アイツは……! アイツはっ!! くっっっっっっそ可愛いぞぉぉぉおおおおっ!!!!!!


 腹の底から全力で声を出して言い放てば、ホテル中が震えた気がした。

 ぜぇぜぇっと、全力疾走したあとみたいに息が上がってしまった。


 跳ね馬も、リボーンも、耳を押さえているが、しっかり聞いたはずだ。


「う”お”ぉおおいっ! まさか、人の恋路を邪魔するような野暮な真似をしねぇだろうな!?」

「……おう。そんな野暮はしないぞ」

「だったら今すぐに帰りやがれ!! 紅奈の用事はっ……! 明日、オレの誕生日を祝うことなんだう”お”ぉおおいっ!!!

「「!!」」

「その邪魔をすんならキャバネッロファミリーに乗り込んでやるからな!? わかったな跳ね馬!! 帰りやがれ!!!」


 バッタン!!


 オレは入った部屋のドアを壊しかねない勢いで閉じた。


 あっっっつー!!!


 顔が火照っている! トマトみたいに真っ赤になっているに違いねぇ!!

 クソが!! あんなこと言わせやがって!!

 あんのアルコバレーノ!! ぜってぇに許さねーぞ! 跳ね馬め!! いつか二人まとめて、三枚におろしてやる!!


 乗り越えたか? 乗り切ったか!?


「おい、ディーノ。いつまで呆けてやがる。正気に戻れ」


 ドアに耳を当てて、廊下の会話をなんとか聞き取る。


「ハッ! お、お前リボーン!! 他言しないってシャマルに約束したのに!! 結局、探ろうとしたな!?」

「他言してねーだろ。…探っただけだ」

「約束を破りかねなかっただろうか!!」

「ほら、帰り支度をしろ。人の恋路に首を突っ込むと馬に蹴られるぞ。跳ね馬が、馬に蹴られたら……目も当てられねーな」

「笑うなやめろ!!」


 まだ何か喋っているようだが、聞こえたのは、その程度だ。


 やっぱり、紅奈とオレ達の本当の関係を探ろうとしたな…?

 シャマルの野郎も、関わってやがる……!

 だが、他言しない。つまりは、誰にも話さないように、約束をした。


 それは、誰まで知っていやがる!?
 そして、どこまで疑ってやがるんだ!?


 オレが紅奈と関わる理由だって、本当に鵜呑みにしたのかわからねー!

 くっ……! 一目惚れは一目惚れでも、オレは別にっ…………べつに………………。


「クッソがぁ………熱すぎるっ……」


 しゃがみ込んでは、ぐしゃぐしゃと頭を掻く。

 耳まで熱すぎる。ジャケットを脱ぎ捨てて、一度深呼吸をする。


 考えろ。


 今は、探られているって危機に集中だ。

 紅奈は、骸に例の案件を探らせることに決めた。

 もう骸達は元マフィアだってことを、家光は知っていやがる。事実確認として、オレがヴァリアーの仕事として骸達のいたファミリーを潰したことも、調べられた。真っ当な理由でヴァリアーとして動いたが、紅奈の頼みだとわかればまずい。

 紅奈とオレ達の本当の関係がバレてみろ。骸達の潜入だって、気付かれるのは必然と言える。


 水面下の動きは、全部台無しにされるじゃねぇかっ!!

 今後の動きも、阻められかねない!


 紅奈の目の前の目的であるXANXUSの救出がっ……!


 最強のボンゴレボスになるアイツの道を、邪魔させるわけにはいかない!

 疑っているであろう跳ね馬も、シャマルも、そしてリボーンも叩き斬れれば、こんな問題なんて片付けられるのにっ…!


「チッ!!」


 今すぐに紅奈に会って、報告すべきだなっ!
 そう思って、脱ぎ捨てたジャケットを掴んだ。

 だが、動きを止める。


「いや、待て…」


 今動いたら、それこそ怪しまれかねない。

 ホテルの部屋に、入ったばかり。奴らが、本当に日本を発つなら問題はねぇーが……。


 今すぐの接触は、命取り。

 荷物から通信機を取り出して、部屋の中を警戒。

 あのアルコバレーノは、最強のヒットマンだ。ドアに鍵をかけていようが、油断はならねー。
 廊下に気配はない。気配を感じないだけ……かもな。

 通信機を持って、バスルームに入る。
 蛇口から水を出して、音を誤魔化す。しないよりは、マシだ。

 通信機をかける。

 この時間だと、寝ているかもしれねーな……。
 あの二人が、今から帰国前に、紅奈に会いに行かないといいが……。


「!」
〔何?〕


 幸い、紅奈は出た。


「問題発生だ」


 声を抑えて、告げる。


〔明日、来れないってこと?〕

「いや行く。早朝がいい」

〔…稽古場〕

「だめだ。家光がいねぇなら、部屋が一番安全だろ?」

〔……今は?〕

「動くのは、賢明じゃねぇな…」

〔そう…〕


 今は動けない。紅奈に伝わっただろう。どれほど大きな問題が発生したか。

 紅奈の声は、静かだ。子どもなんて、寝ている時間。そばで綱吉が寝ているせいかもしれない。








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