空色少女 再始動編 440 スクアーロと遭遇者 三月。 日本も、まだ春前で、肌寒い気温。 右手はジャケットのポケットに入れていたが、白銀の髪を揺らしながら、オレはホテルの部屋のカギを取り出しては、鍵穴に差し込んだ。 ガチャリ。 鍵を回して外すとほぼ同時、隣の部屋から出てきた人物を目を合わせて、瞠目した。 「跳ね馬!?」 「S・スクアーロ!?」 金髪の少年、キャバネッロファミリー10代目ボスのディーノ。 肩には、家庭教師のアルコバレーノのリボーンが乗っていた。 「う”お”ぉおおいっ! なんでてめぇが、日本にいやがる!?」 「い、いや、お前こそ!!」 「あ”あ”んっ!? てめぇにはかんけーねぇだろうがぁ!!」 「なっ! だったら、お前にだって関係ないよな!?」 ギロッと、オレは睨みつける。負けじと言い返す跳ね馬。 同級生であっても、同盟ファミリーであっても。どこにいようが、関係はない。 「確かになぁ……。チッ。運悪く、同じホテルで、てめぇの隣の部屋になるとはなぁ…。気分が悪いぜ」 まぁいい。どうせ、今夜寝るためだけの部屋である。 それだけを吐き捨てて、別れの挨拶もなく、ドアを開けて中に入ろうとした時。 ディーノが、胸を撫で下ろした。 それを見て、ピンとくる。 オレは、バタンッとドアを閉じては、廊下に留まった。 「おいコラ……跳ね馬。…てめぇ、まさか……紅奈に会いに来たわけじゃねぇだろうなぁああ?」 吊り上げた笑みの端が、ひくりと痙攣させては、青筋を立てる。 ギクリ、と跳ね馬の肩が強張ったことを、見逃さなかった。 「ふざけんじゃねぇぞてめぇ!! 紅奈を車で轢いては、病気にして返して、その上、連れ去りやがって!! よくも顔を出せんな!?」 「うぐっ!」 胸を押さえる跳ね馬は、ちゃんと罪悪感を持っているらしい。 「正確に言えば、連れ去ったわけじゃないぞ? 紅奈が誘いに乗ってついてきただけだぞ?」 「言い訳すんじゃねぇぞう”お”ぉおおいっ!!」 アルコバレーノの野郎が、些細な指摘をするが、関係ねぇ! 「沢田家に行く許可なら、家光からもらっているぞ」 「…その家光に、紅奈を車で轢いたことは、言ったのか?」 「「……」」 アルコバレーノのリボーンが、許可をもらっているなんて言うから、それを確認しておく。 跳ね馬は斜め下を向いては、リボーンはすいっと顔を背けた。 当然、言ってねぇよなぁ……? 沢田家光の愛娘を、車で轢いたなんてな…!! 「お前こそ。紅奈にヴァリアーのコスプレをさせたこと。家光に言ってもいいのか?」 「………」 ……そうだった。 紅奈がヴァリアーの任務に連れて行った際に、ヴァリアーの隊員として変装させたのだ。 紅奈は、オレの趣味でコスプレをさせた、とかコイツらにほざきやがった。 まぁ……はぐらかすためだ、仕方ねー…。 それで紅奈の秘密が隠せるなら、コスプレさせる変態趣味を持っていると思われても、甘んじて受けてやる。…クソがぁ。 だがしかし、ヴァリアーの格好なんかさせたと家光の耳に入れば、雷が落ちるだけではない。二度と紅奈を、ヴァリアーの屋敷に連れていけなくなるだろう。まだ表舞台に上がれない今、それは困る。 「痛み分けだな」 「……クソッ」 互いに、それを家光に黙ることになってしまった。 「で!? 紅奈に、なんの用だぁ!? キャバネッロファミリーのボスさんが、なんでカタギの少女に付きまとってやがる!?」 紅奈は、自分では明かしてはいないのだ。 XANXUSの件を知っていようとも、紅奈が10代目ボスになるつもりだとまでは、家光にだって知られていないはず。 だいたい、紅奈が10代目候補だということは、まだ表沙汰になっていない事実。 それなのに、何故、跳ね馬は紅奈と関わろうとするんだ? 何が目的だ!? 「そ、それは……」 跳ね馬の目が泳ぐ。 「ホワイトデーでお返しを渡すために来たんだぞ」 跳ね馬の代わりに、リボーンが答えた。 「は? ……お返し?」 「聞いてねーのか。先月、紅奈の手作り生チョコをもらったんだ。そのお返しをしないわけにはいかないだろ。日本のイベントだ、知ってるだろ?」 「いや、知ってるがぁ……。は? 紅奈が、てめーらに、あの手作り生チョコを……渡したことが、解せねーぞ?」 ポカンとしてしまう。 確かに、聞いてはいない。 去年から生チョコを気に入って、自分で作ったと胸を張っていたのだ。それをオレとベルは、もらった。ついでに、ルッスーリアやマーモンの分も受け取ったのだ。余ったから、本当に本当のついでに、ベスターの世話係の労いにレヴィの分も。 「イベントを面倒くさがるが、生チョコ食べたさに自分で作っただけ………ついでにオレ達の分を用意してくれただけだが……なんでてめーらの分があるんだ? 車で轢いては、病気にさせやがったてめーらに」 「うぐ!」 「なんでお前はそれを、そんなに根に持ってやがるんだ? 紅奈本人は、もう気にしてねーのに」 「親から預かってたのに、そんな目に遭わせられたんだぞ!? 目を離した自分の非を認めるが、てめーらが悪い!!!」 根に持つに決まってるだろ!! オレのボスが、そんな目に遭わせられたんだからなぁ!!! 跳ね馬は罪悪感を覚えているようだから、遠慮なくそこを突いてダメージを与えてやるぜ!! 「責任転嫁すんなよ、親から直接預かったお前が責任者だ。よって、全部お前が悪いぞ、S・スクアーロ」 「それこそ責任転嫁だろうがぁああっ!!」 「お、おい! リボーン! 流石にそれは無茶苦茶すぎんぞ!!」 どんっと、責任を丸投げしやがるリボーン。 クソだなコイツ!! 「チッ! なんであれだ! 紅奈にチョコのお返しでも渡しに来たのか!? やめとけ! 嫌がられるだけだぞ」 しっしっと、手を振って見せる。 「え? なんでだよ?」 「紅奈は、もうチョコにうんざりしてんだよ。学校で山ほどチョコもらって消化に困ってやがったんだ。家光が帰って来なけりゃ、オレ達に押し付けただろうよ」 「山ほどチョコ!?」 「なんだ? 逆チョコブームを起こして、学年中の男子からもらったのか?」 ぴくり、と眉が動いてしまう。 目を眇めて、リボーンを見る。 何故、それを……。些細な情報ではあるが…。 どこまで紅奈のことを、知ってやがんだ……? 「いいや。大半は女子生徒からのもんだとよ。お返しはしない宣言しておいたのに……それでも、学校の人気者にやりてーってことで、勝手に机に積み上げられては詰め込まれたらしいぞぉ」 「マジかよ!?」 腕を組み、ドアに凭れて、オレはそれを話す。 ……探りを入れておくか。 紅奈に関わろうとする理由を。 オレ達の邪魔になるのか否か。 「へぇ……とんでもないほどに人気者なんだな」 くい、と片方の口の端を上げるリボーン。 意味深だな……この野郎。 「…だいたい、ホワイトデーって14日だったろうが。二日前に来てどうすんだ」 「いや、知ってるが……紅奈が用事があるって言ってたし」 「!」 オレは思わず、目を見開いてしまった。 ……その用事。オレだな。 「お。なんだ? お前、紅奈の用事、知ってんのか?」 リボーンに、見抜かれた。 オレは、横に目を背ける。 「っ。…ーーねぇだろうがぁ……」 「「ん?」」 「関係ねぇだろうがぁ!!!」 「うお!? ビックリした!!」 全力で声をぶつければ、跳ね馬も、リボーンも、耳を押さえた。 [次へ#] [戻る] |