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空色少女 再始動編
438 もったいない




「付き合っている連中は、暗殺者。暗殺部隊の屋敷にだって、前々から出入りしているらしい。主治医は、殺し屋で闇医者だ。父親に連れられて、ボンゴレ本部にも連れて行かれたことがある。今は絶賛嫌われ中だが、ボンゴレ9代目には祖父のように懐いていたらしいぞ。こんなにも裏社会に関わっている紅奈が――――本当に何も知らないと思ってんのか?」


 ぴたり、と一同の足が止まる。

 リボーンは、真剣な雰囲気のままだ。黒いつぶらな瞳は、シャマルを見据えている。


「……紅奈ちゃんが、オレ達の正体を知っている、だと?」


 シャマルは、目を眇めた。


「ああ。紅奈は、賢い。周りが裏社会の人間ばっかなんだ。もう知ってるんじゃないか? 父親の家光も含めて、バレバレじゃねーか?」

「……いや、そんなことは、ないはずだが…」


 ポンポン、とリボーンが、ディーノの頭を叩く。

 ディーノの正体さえも、紅奈は知られているのかもしれない。
 ディーノは、口をあんぐりと開く。


「ボンゴレ本部の屋敷でも、紅奈は罵倒の最中で9代目だと呼んでた……。
 オレは、マフィアを知ってると思うぞ」

「なっ……!」


 確かにディーノも、紅奈がボンゴレ9代目であるティモッテオに向かって、9代目と叫んでいた声を聞いていた。


「9代目の息子と親しかったらしい。まるで兄妹みたいだったと。……ソイツから、聞いたかもしれないぞ? ボンゴレってマフィアであり、9代目はそのボスだってな」


 9代目から息子のXANXUSと紅奈の親しさは、詳しく聞いていないが、リボーンはそう推測する。


「……例え、そうだとしたら、それがなんだ? リボーン」


 シャマルが、しかめっ面で問う。


「スーパーの中で聞いただろう? 紅奈ちゃんは、父親との関係も最悪だ。祖父のように懐いていたボンゴレ9代目にも、お怒り中なんだろう? 正体を知っていても、紅奈ちゃんはその二人と接するつもりはない。心を開いている友人のスクアーロ達も、そんな縁で親しくなったとしても………それがなんだ?
 まぁ、それだと納得出来るわな。紅奈ちゃんはボンゴレ9代目に対して、ブチギレた。そうだろう? 9代目と親しい父親も、そんでもって関わりの深いリボーンと跳ね馬のボーズも、嫌っているってわけだ。ありゃあ、はっきり言って拒絶反応だな」


 紅奈がボンゴレ9代目に、ブチギレた理由。
 それをリボーンは言わないと察して、ただシャマルはそう嘲笑って見せた。


「オレは殺し屋だって知られてても、お前らと違って拒絶はされてねーが……好感度を上げたいお前達には、都合が悪いな?」


 刺々しく言い放つ。


「なんだ? シャマル。やけに刺々しいじゃねーか」

「…そうか?」



 ピリピリ。シャマルとリボーンが、空気を張り詰めさせている。

 ディーノも、ロマーリオも、動くことを躊躇した。


 殺し屋同士の威圧。


「………」

「………」



 先に目を背けたのは、シャマルだ。ガシガシと自分の頭を掻いた。


「オレは紅奈ちゃんの主治医だ。変なことに巻き込むんじゃねーぞ、リボーン」

「別に紅奈を巻き込むつもりはねーぞ。……ただ…」


 リボーンは、知っているのだ。


 紅奈は、超直感を持っているらしい。


 9代目は断言しなかったが、紅奈には超直感がある。

 沢田家は、ボンゴレの初代ボスの直系。

 紅奈には、ブラッド・オブ・ボンゴレがある。

 つまりは――――ボンゴレボスになる資格を持っているのだ。


「男一人を気絶させるは、年上相手に喧嘩しては勝つ、腕っぷしを持っている。大パニックする大人達を、一喝して落ち着かせて救った。言動にはカリスマ性もあって、番犬のように暗殺者を手なづけてやがる。まだ10歳にもなってねーんだろ? アイツは、強ぇぞ。希望を掴み取るまでの意志がとんでもなくかてぇーんだ。このままカタギだなんて、もったいないだろ?」


 紅奈がいるであろう方角を、リボーンは振り返った。

 正式に発表されていないことを、リボーンが言っていいはずがない。だから、それは口にしないでおく。


「……おいおい。それ……
 絶対に沢田家光の前で言うんじゃねーぞ? 殺し合いになるぞ? アイツと。絶賛嫌われていようが、あの愛娘と修復を試みているんだ。こじらせようとすんな。何かしようもんなら、オレはチクってお前と殺し合いをさせるからな!」

「そ、そうだぞ!? 万が一にもマフィアを知っていても! 紅奈は関わりたくないって思ってるかもしれないのに! 何考えてんだ!!」

「………」


 シャマルが強く釘をさす。本気さを、感じ取れた。

 紅奈を裏社会に引き込ませる前に、家光に伝えては阻止させる。家光とリボーンのとんでもない衝突となってもだ。


 ディーノだって、家光の娘への溺愛っぷりはハワイで思い知っている。それに、わざわざ表社会にいる少女を巻き込むなど、反対だ。


 家光の逆鱗にも触れる。家光は家族に裏社会の人間だと、打ち明けていないのだから。

 紅奈を守ろうとする殺し屋とマフィアのボスが、ここにいる。

 カリスマ性がある証じゃないか。
 だから、もったいない、と思うのだ。


「……そうカリカリすんな。オレだって、大物になり得る原石であろうとも、裏社会に放り込んだりはしねーぞ」


 もったいない。

 そう思っても、紅奈は家光も9代目も拒絶中。マフィアだと知っていたとしても、どうやら関わる気はないらしい。

 ボンゴレの次期ボスの候補者は、紅奈よりも年上が三人もいる。問題は多い。


 だとしても、だ。


 リボーンには、紅奈を超える者がいるとは思えない。


 ボンゴレボスの資格を持つ逸材な少女。


(まぁ……オレが決めることじゃねーけどな……)


 ボンゴレボスを指名するのは、リボーンではない。

 いつか、紅奈がその気になればいいのに。

 そうなれば、シャマルが主治医に志願したように、リボーンは……。


(……前から、思ってはいたんだがな)


 紅奈が10代目候補の可能性がある。それが過っては、ちらりと思った。

 もしかしたら、ディーノの次に……。


「何ニヤけてんだ? おい、リボーン!」

「なっ!? 企んでるのか!? リボーン!」


 シャマルから聞いて、頭の上にいるリボーンをディーノは咎めるように呼ぶ。


…企んでなんかいないぞ? 未来に期待しているだけだ
「「やめろって言ってんだ!!」」


 紅奈が裏社会に入る。そんな期待などするな。
 シャマルもディーノも、声を合わせては怒鳴った。


「あんないい女……大物になるに決まってんだろ。そんな未来に期待だ」


 それは、否定出来ない二人。


 裏社会に入らずとも、何かしら偉業を成し遂げてもおかしくない少女なのだ。


 そういう意味の期待、ということにしておいたリボーン。

 もう一度、振り返っては、ハットを深く被り直した。


「紅奈の手作り生チョコ。美味かったな」


 そう独り言のように零せば、同意の声を聞く。


 とろけた甘いチョコの味が、口の中に残っている気がする。

 ぺろりと唇を舌で舐めれば、ココアパウダーの苦味を感じた。


 親指で拭っては、そのまま、それを舐めた紅奈を思い出す。


「……おい、シャマル」

「これはオレが紅奈ちゃんから、もらったものだ。やらねーぞ」

「……ちっ」


 サッと、シャマルは要求されるよりも前に、紅奈から受け取った生チョコの入ったタッパーを隠した。


「…だが、リボーン。一つ、頼みを聞くって言うなら、分けてやってもいいぞ」

「頼み? なんだ?」


 少しだけ考えて、シャマルは提案を持ちかける。


「今の紅奈ちゃんが、オレ達の正体を知っているって仮説。家光も含めて誰にも、言うな」


 真剣に、告げた。


「……なんでだ?」

オレの患者のためだ。それしか言えねーな


 患者のため。医者の守秘義務だ。


 紅奈がスクアーロ達が暗殺者だと知りながらも会っていたなどと知れば、引き離すに違いない。家族のためにも、裏社会の繋がりを絶たせる。

 そうなれば、紅奈と家光の軋轢は悪化。

 紅奈がまた塞ぎ込む可能性がないとは、言い切れないのだ。

 せっかく調子がいい日常を送っていって、安定しているというのに、ベッドの上で苦しみ、パニックを起こしては、水の中で溺れるように呼吸が止まりかける。
 そんな最悪な日々に逆戻り。

 そうはさせない。

 紅奈の弱さを守ると決めた主治医として、予防するのだ。


「……わかったぞ。さっきの話は、他言しないと約束する」


 リボーンに、シャマルの意志が伝わった。

 主治医が言うのだ。紅奈にとって、害になり得るのだろう。そう正しく受け取ったのだ。


「だから、それを全部寄越せ」

「いや分けてやるって話だぞ! おい!!」



 チョコを全て要求されたが、シャマルは全力で却下した。













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