[携帯モード] [URL送信]

空色少女 再始動編
430 年越し







 紅奈は、むぎゅっと骸の腕をきつく抱き締めては、コートのポケットに手を入れてくる。


「さっむー」

「謝罪をしてください、紅奈…。どれほど捜し回ったと思っているのですか?」


 腕を抱き締めてくれるからと言って、許すと思わないでほしい。

 ……許す。


「ベルは、どこ?」

……撤回します

「え? 何を?」


 何故、恋敵の所在を問われなければいけないのか。

 許すことを撤回した骸。

 すぐに、千種と合流。


「ベルは?」

「…それなら……紅奈が消えた大通り」

「やっぱりブローチ、探してる?」


 言い当てると思わなかった千種は、目を丸くした。

 ブローチを探しているとは、言わない方がいいと、気を遣おうと思ったのに。


「じゃあ、あたし、大通りに戻る。骸と千種は、犬とスクアーロと合流して、こっち来てね」

「待ってください! 紅奈が一人行動をしないでくださいっ……! って、紅奈!?」


 骸は追いかけたが、あっという間に見失ってしまった。


 なんてボスだ!


 一人行動して、何かあったらどうするのやら。

 紅奈を見付け出そうとしたが、スクアーロの大声が聞こえた気がして、振り返る。


「う”お”ぉおおいっ!」


 やっぱり、スクアーロの声だ。

 今回は紅奈の行き先は、わかっている。スクアーロと、そして犬と合流しておこう。


「……おや?」


 紅奈が手を入れていたポケットからカサッと音がしたため、探ってみれば。

 チョコレートが入っていた。

 チョコレート好きな骸のご機嫌直しだろうか。

 これで許すと思わないでほしい。

 ……許しましょう。

 骸は、口の中に入れたチョコレートを、転がした。







 宿泊施設から、何往復したのやら。


「どこだしっ……!」


 苛立ちは募りに募って、爆発寸前である。

 借りた部屋の中も隅々まで探したが、ない。

 歩いた道を探しながら、往復してもない。

 紅奈からもらったブローチが、どこにもないのだ。

 誰かが拾ってしまった可能性が高い。


「……サボテンの刑にしてやる」


 その誰かを見付けたら、絶対にナイフをザクザクと突き刺してやる。

 しかし、その誰かを見付け出すのは、不可能に近い。

 もう一度。諦めきれずに、ベルは大通りを歩きながら、キョロキョロと下を見回す。


 特別なだ。
 特別な贈り物
 特別なからの。


 誕生日の祝福をされた物。

 それを失くしてしまうなんて――――。


 いつの間にか、足が止まる。

 俯いたまま、動けなくなった。

 どうしたら。
 取り戻せるのか。


「ベール」


 弾んだ声で名前を呼ばれたかと思えば、後ろに引っ張られた。

 マフラーを引っ張られたらしく、首が絞まる。


「コウ」


 顔だけ振り返れば、間近に紅奈の笑顔があった。


「王子のお探し物は、こちらですか?」

「!」


 目の前に翳されたのは、ずっと探していたブローチだ。


「……コウが、持ってたの?」

「いや? 拾った人と会って、偶然取り返せた」

「………」


 ベルはそれを受け取る。そして、ギュッと握り締めた。

 取り戻した、と安堵を覚える。


「……落として、ごめん。絶対もう、失くさない」


 本当に取り戻せてよかった。


「謝らなくてもいいよ。安物だし、ピンのせいじゃない? いっそ、縫い付ける?」


 冗談を言う紅奈は、わかっていない。

 わかっていないのだ。


 どれほど、これが大切なのか。
 どれほど、紅奈の誕生日プレゼントが、大切になるのか。
 どれほど、紅奈が特別なのか。


 振り返ったベルは、紅奈の頭の後ろに手を回して引き寄せてから、唇を強く重ねた。

 それから、目を見開く紅奈を、抱き締める。


……絶対に失くさない


 ぎゅーとキツく、両腕で締め付けた。


う”お”ぉおいっ!! 一度ならず二度までも!! ざけんなクソガキ!! 三枚におろす!!


 バッと紅奈が奪われると、スクアーロの怒号を浴びる。

 しっかりと、紅奈の唇を奪ったところを見られた。


「スクアーロ、あたしの手袋知らない? めっちゃ、手が冷たい。凍傷になりそう」

「お前はキスされたことを気にしろ!! お前の手袋は右のポケットだ!!」

「いいよ。不意打ちしたんだから、それ相応の仕返しを受ける覚悟したんだろ。悪戯王子には、きっちり罰を受けさせる」


 スクアーロのポケットから、手袋を取り出した紅奈は、右手にはめながら、そう笑顔で宣言する。


「それはもちろん、もう二度と唇を奪うことを考えさせないキツい罰ですよね?」


 同じく目撃した骸は、黒いオーラをまとった笑みだ。

 ゴゴゴ、と音を鳴らすような、険悪な雰囲気で対立する骸とベル。


 犬はそそっと骸から離れて、千種の後ろに離れた。


 ドドドンッ!


 そこで響く爆音。ピカッと光る。
 空には、花火だ。


「あれ? もう新年? そんなに時間経った?」

「そうだ!! お前紅奈! 一体どこ行って!!」

「あけましておめでとう」


 スクアーロが説教してやろうとしたが、どこ吹く風である。


今年もよろしく! 我がファミリー


 振り返った紅奈は、無邪気な笑みを見せた。


「今年の抱負は、派手な活躍して10代目候補として表舞台に上がり、アイツを救い出すこと!」


 ドン、ドドン!


 色とりどりの花火を背に、紅奈は表明する。

 逆光になると言うのに、紅奈の瞳は光が宿って見えた。


 強く惹きつける

 紅奈の決意表明。


 ならば、こちらだって、負けじと強い表明をしてやる。

 そうスクアーロは、宣言したのだが。


 ドドドドーン!


 本格的に、鳴り響く花火の音が、スクアーロの声さえも遮る。連続で響き渡る爆音に、ビリビリと振動まで感じさせた。


うるせぇええっ!!!


 紅奈に決意表明が伝わらないと、スクアーロは年明けの花火に向かって怒鳴る。それさえも、爆音であまり聞こえない。

 スクアーロが負けてやんの、と紅奈は笑った。








[*前へ][次へ#]
[戻る]

[小説ナビ|小説大賞]