空色少女 再始動編
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「お腹空いたー。スクー、カフェどこー?」
混み合う人気カフェで食べたいと駄々をこねる紅奈のために、なんとか席を確保。
そこで、朝食を済ませた。
「ううっ。寒い、スク、抱っこ」
「だから、ジェラートは食べるなって言っただろうがぁ……ちょっと待て、抱っこってなんだ、うお!?」
あれこれ頼み、人気商品を堪能した紅奈が最後にジェラートを食べたのだ。
冷えてしまった紅奈は、店を出るなり、抱っこを要求。マフラーを巻き直したスクアーロの首に、紅奈はしがみついた。
久しぶり、すぎる。
戸惑いつつも、紅奈の要求に応じて、抱き上げた。
「うおっ!? 手を入れんな!! う”お”ぉおいっ!」
紅奈の手が、スクアーロのコートの隙間に張り込んだ。
冷たい手。人間カイロにされている。
「寒いぃ…」
「…自業自得だろうがぁ……」
じとーっと四人の子どもに見上げられるが、スクアーロはそのまま紅奈を横にするように抱えたまま、歩くことにした。
そのうち、二人は殺気立っている。
暖を取られながらも、スクアーロは紅奈の重さを気にした。
当然、6歳の時より、体重は増えたはず。身長だって、伸びた。
それでも、記憶が曖昧のせいか、重さが変わらない気がする。
「お前……身長、どれくらい伸びたんだ?」
「あ?」
「6歳からいくつ伸びたかを聞きたいだけだ、キレんな…」
身長については、迂闊に触っていけないのだった。低い声を間近で聞きつつも、スクアーロは確認する。
「確か……15センチくらいしか伸びてないはず。不健康な一年があったせい、むぅ…」
健康的に過ごしていれば、もっと伸びていたのか。
確か紅奈が6歳だった頃は、やっと100センチ超えた程度だったはず。
つまり、今現在、120センチ未満ぐらいだろう。
「スク」
「あ”?」
「それ以上、伸びるなよ」
「……なんでだぁ」
「お前もちょっと伸びただろ、170センチ台で留めろ」
「無茶言うな」
「じゃあ縮め」
「もっと無茶だろうがぁ。う”っ!? 背中に冷たい手を入れんな!」
「寒い」
「だからジェラートを食うなって言っただろうが!」
「ミラノに来ておいて、ジェラートを食べないとかあり得ないでしょ!」
「季節を考えろ!」
他の季節ならまだしも、真冬でジェラートを食べるな、である。
我慢の限界が来たベルが、手に持ったナイフで切りかかってきたため、ひょいっと紅奈を抱えたまま、避けた。
その先で、骸が足を引っかけようと待ち構えていたので、それもひょいっと飛んで避ける。
「ちっ。紅奈の理想の身長は、どのくらいですか?」
「180くらい」
キリッと言い退ける紅奈。
それは現実的に無理だろう。
一同の心の声を聞き取ったように、紅奈は嫌そうに舌打ちした。
「わかってんだよ……どう足掻いても最高でも170センチだろうな……」
努力しても、きっと紅奈の身長は170センチに届くかどうかだろう。
じっと、スクアーロと目を合わせる。
現在はきっと180センチ、または未満であろうスクアーロ。
むむっと唇を尖らせる。
近距離で睨まれる形になるスクアーロは、理不尽な八つ当たりを受けるのかと、少々身構えた。
「なぁー……キング。逆に、恋人の理想身長はいくつなん? 相手は、低い方がいいわけ?」
紅奈に気を取られている隙にスクアーロに切りかかろうとしたが、ベルはまたかわされてしまう。
「んー……理想って言われてもなぁ……」
紅奈は、首を傾げた。
自分の身長が定まらないと、比べようにもないのではないだろうか。
「15センチ差?」
「15センチ差…?」
「その差があれば、紅奈の理想の相手の身長になるのですか?」
ベルと骸も、首を傾げて、スクアーロに抱えられたままの紅奈を見上げる。
「いや、確か……キスしやすい身長差が、それくらいじゃなかったっけ? って、ふと思って」
キスしやすい身長差!!?
「まぁ、そんな差。気にしないけどね。こうやって抱えられれば、ちゅっ、出来るし」
さらっと紅奈は、スクアーロの頬に唇を押し付けた。
ぴしりっと、固まるスクアーロ。
殺気立つベルと骸だったが、紅奈が爆弾発言を落とす。
「頭撫でやすければ、いいかな。お前らの頭、撫でるの、好きだし」
ぽんぽん、と固まったスクアーロの頭を撫でてやった紅奈は笑って見せた。
お前らの頭、撫でるの、好き?
だから頭撫でやすければいい身長が理想?
「「「………!?」」」
つまりは、自分達は、恋愛対象では!!?
「ほら、スク。歩いてよ。マフィア探し始めないと、陽が暮れるじゃん」
ぺしぺしっと、紅奈は肩を叩いて急かした。
ハッと我に返るスクアーロ。
「へ? マフィア探しって何?」
目的を聞かされてなかったベルは、きょとんとした。
「ワクワクドキドキのアポなし北イタリアのマフィア巡り!」
どーんっと、紅奈は言い放つ。
ベルは余計わからなくなって、首を捻った。
「北イタリアのマフィアの把握をしようかと」
「っていうのは、建前だぁ…」
「中には同盟もいるから、こっそり覗いてみようかと」
「っていうのも、建前だぁ…」
「骸達の諜報能力の確認で、フラッとしつつも、探して見付けようかと」
「というのも、建前だぁ…」
「なんだかんだあれば、実戦をしようかと」
「これが、真の目的だぁ」
「そういうわけで、ワクドキのアポなし北イタリアのマフィア巡り!」
ぽっかーんと、ベルは口を開く。
やがて、呑み込めて、ポンと手を叩く。
「ああ、だから、紅奈。オレにウィッグ、持って来させたのか」
「変装して喧嘩売る気満々か!? う”お”ぉおおいっ、ぶっ!」
「うるさい、耳が死ぬ」
紅奈はスクアーロの大声を嫌がって、顔を押し退けると、一人で地面に着地した。
「ボンゴレと抗争の火種にならないように、上手く立ち回っては、正体は隠せばいいじゃん」
「そう簡単に言うなぁ……」
にぃっと笑って退ける紅奈に、スクアーロは頭痛を覚える。
紅奈の決定を、そう簡単に覆せないのだ。ついていって、フォローするしかない。
「面白そー♪ んで? アジトは把握してんの?」
「全然」
乗り気なベルに、紅奈はケロッと言い退けた。
「ああ、そうだ。骸達は、CEDEFに送ることにした。諜報スキルを磨いてもらって、好機を探してもらう。その準備運動がてら、今回の捜索」
ぺしっと、紅奈は骸の背中を叩いて見せる。
「…へぇー。じゃあ、居候生活しゅーりょー? うしし」
それは朗報だと、ベルは満面の笑みになった。
もう恋敵が紅奈の同居人でなくなるのだ。
バチバチ、と今日も今日とて、火花を散らすベルと骸だった。
「ということで、今年中にはミラノのファミリー、一つ、見付け出して」
「ノルマは、四つにしておこうぜ? キング♪」
もう今年はあと四日しかないので、一日一ファミリー。無理である。
そこで、パーン。
破裂音が響いた。
サッと、スクアーロはその方角から守るように、紅奈の前に立つ。
「まだ朝なのに、銃声? ……まぁ、行ってみよー!」
「あっコラ! 勝手に行くんじゃねぇええっ!」
紅奈が駆け出すと、スクアーロ達も追った。
すれ違う人々が、逆走するように走っていく。
口々に聞こえるのは、銃撃戦だ、という言葉だ。
さらには、マフィア、という単語まで聞こえた。
「マフィアって、こんな簡単に見付かるものなの?」
呆れの眼差しを、紅奈はスクアーロに向けた。
「……偶然だぁ」
現場に駆け付ければ、本当に銃撃戦だ。
ザッと目を走らせたところ、どうやら、二つの勢力の争いっぽい。
「片方は、ギャングのようだなぁ」
「どうすんの、キング。めちゃくちゃに引っ掻き回す? しししっ」
流れ弾に当たる前に、物陰に押し込んだスクアーロが見る限り、ギャングとマフィアの対立のもよう。
乱入する気満々なベルは、もうナイフを出していた。
「…骸。幻覚であたし達の姿、変えてくれる?」
「はい。それだけでいいですか?」
「うん。余裕があるなら、犬と千種と一緒に、人命救助して。流れ弾でも食らったのか、あそこのテラスカフェに倒れてる一般人が二人、車のそばに一人。他にもいるかも。流れ弾に当たんなよ。安全なところまで引きずってけ」
「! …了解しました、ボス」
「酷いようなら、すぐ手当て。んでもって、ケータイ借りて救急車」
紅奈は膝にプロテクターをつけながら、そう骸達に指示する。
ちゃんと他者を気遣う。
やはり、優しい人なのだ。
そう骸は再認識しては、フッと笑みを零す。
「わかってると思うが」
「わかってるぜぇ、ボス」
「無駄な殺しは、ナッシー♪」
骸の幻覚をまとった紅奈とスクアーロとベルで、双方をあっという間に制圧させた。
重傷者はいなかったため、さっさと引き上げる。
その前に、しっかり、マフィアの方から近所のマフィアの情報を。
ついでに、ギャング事情も聞き出しておく。
こうして、イタリア到着一日目から、マフィア巡りが始まったのだった。
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