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空色少女 再始動編
424 誕生日プレゼント




 イタリア、ミラノ。
 空は、薄灰色気味の寒空だ。
 もちろん、気温は低く、吐く息は白い。


「しゃむい……」

「だから言ったろぉがぁ……風邪引くなよ? 主治医はいねーんだし」

「先生から念のために解熱剤もらってある。へーき、へーき」


 身を縮める紅奈に、しっかりとマフラーを巻いてやるスクアーロ。モコモコした耳当てもつけて、防寒。
 冬のミラノは、なかなか寒いのである。


「あ? それはなんだ?」


 紅奈が何かを持っている。赤いマフラーのようだ。


「ああ、これは……」


 そこで駆けてくる足音が、後ろから迫った。


「キ〜ン〜、グッ!?」


 抱き付こうとしたが、逆に胸に衝撃を受ける抱き付きをされたベル。


「Buon Compleanno」


 イタリア語で、誕生日おめでとう。

 12月22日は、ベルの11歳の誕生日だった。しかし、長期任務の準備もあって、今日まで会えなかったのだ。

 ちゅっと、ベルの冷えた頬に、紅奈の唇が押し当てられた。

 そして、ぽふっと耳と首元が何かに包まれる。


「何これ、マフラー?」


 離れて、首の前でキュッと結ぶ紅奈に尋ねた。


「うん。耳当てとマフラーがくっついたやつ。可愛いでしょ?」


 赤い耳当てマフラー。


「ベルはティアラがトレードマークだから、帽子マフラーじゃなくて、偶然見つけたこれにしてみた。あと、じゃーん。王冠ブローチ付き」


 紅奈はマフラーの端っこにつけた煌めく王冠デザインのプレゼントを、ベルの目の前にずいっと見せてつけた。


「まー、安物だけど」

「……」


 その端を持って、ベルは大冠のブローチを観察。


(……ルビーじゃん)


 確かに高い宝石ではないだろう。それでも、王冠の真ん中を飾るのは、ルビー。

 多分、ジュエリーショップで買ったに違いない。

 ティアラではなく、王冠。

 王がつけるもの。王、すなわち、キング。


「うしししっ。Grazie di cuore!


 心の感謝を込めたありがとうをイタリア語で伝えては、紅奈の頬にちゅっと口付けた。

 安物だろうが、絶対に大切にする。

 紅奈からの初めての誕生日プレゼントだ。


キスしていい?


 気が高ぶりすぎて、頬に口付けだけでは足りない。

 ベルは、紅奈の頬に手袋をはめた両手を添えた。

 唇へ、キスがしたい。

 不意打ちをしたら仕返しをされたが、許可を求めればいい。


 断られても、仕返しを受ける覚悟で、しちゃうけど。


 そのつもりだったのだが、スクアーロに額を押し退けられた。


「いいわけあるかーっ!!」


 邪魔された、とベルは舌打ち。


「まったく。年下の女の子の唇を奪うなど、下種です」


 骸も紅奈の肩を掴んでは、ベルから引き剥がした。


「ただでさえ、貴方は紅奈のファーストキスを不意打ちで奪った罪人です。紅奈に近付かないでください」


 いつもの貼りつけた笑みも忘れ、軽蔑の眼差しをベルに一直線に注ぐ骸。
 そんな骸を横目で見て、紅奈を思う。


 自分を棚に上げている……。


 再会した際に感極まっていきなり唇を奪った骸は、年下の女の子の唇を奪ったベルと同じ穴のムジナなのだが。


 紅奈はまた空気を読んで言わないでおいた。


 あたし、空気読んで、えらい。


 自分で自分を褒めておいた。


「ファーストキスは、別にベルじゃないけど」


 でも、訂正しておく。


「「「……はっ?」」」


 素っ頓狂気味の声を、骸とスクアーロとベルが上げた。


「よし、じゃあーミラノのファミリーを巡ろー!」

「いや待て! 誰だう”お”ぉおおいっ!!」

「誰だし、ファーストキス!!」

「どこの誰ですか!?」



 紅奈はルンルンと犬と千種の腕を取って歩き出す。
 後ろで喚く三人。


 ハッ!? 綱吉か!!?


 思い浮かぶのは、もう綱吉しかいない一同。
 常日頃、ベッタリしている片割れの綱吉ならば、あり得る!


「綱吉じゃないから」


 その心の声を聞き取ったように、紅奈は呆れ顔を後ろの三人に向けた。
 ファーストキスを捧げた相手は、綱吉ではない。


 では、娘のファーストキスを奪う父親……?


 一同の頭の中に、嫌われていようが娘を溺愛する家光の顔が浮かんだ。
 しかし、紅奈の様子からして、嫌悪感を露にしていないため、その線はないだろう。


「それって…紅奈がしたの? されたの?」


 紅奈に腕を引かれてしまっている千種が、めんどくさそうながらも尋ねた。

 ナイス質問、千種!


「ん? いきなりされた」


 ファーストキスは奪われた!


「あたしって唇が無防備すぎなのかな…? 敵意感じないと反射的に避けれないもんなぁ……」


 困った困った、と紅奈は一人呟く。

 まぁ、唇を奪われても、損はないけれど。


「だから誰だよソイツーっ!!!」


 ベルからタックルの抱き付きを受けた紅奈は、呻く羽目になる。

 てっきり、自分が紅奈のファーストキスを得たとばかり思っていたベルは、面白くないと膨れっ面を続けた。








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