空色少女 再始動編
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「…売り込みに失敗したら?」
「マフィアのファミリーを内部破壊しようと目論んだ奴が、潜り込めないと?」
スクアーロの問いに、ニヤリと紅奈は質問で返した。
内部破壊。つまりは、内側に入っては、そこから壊していくつもりだった。
「予定していたのは、幻覚を使ったマインドコントロールをしての潜入でしたけれどね。それは家光さん達に使わない方がいいと思います。それが気付かれてしまう要因になりかねませんし」
迂闊なことはしないに限る。
「CEDEFに入れてもらえなかった場合は、居候生活は終了させて、どこに骸達が暮らせる場所を用意するだろう。その際は、仕方ないからヴァリアーとは違う方向で情報収集しながら、機会を窺ってもらおうかと。でも、まぁ……やっぱりCEDEFの潜入が一番好ましい。今の案件が終わろうとも、骸達が諜報スキルを磨けて、今後役に立つ。そこから得られる情報網で、望んでいる案件を見付けるのが得策」
顎に手を添えて、紅奈は足を組んだ。
CEDEFの潜入には、色々と利益がある。
紅奈の密かなマフィア活動さえバレなければ、十分なものは得られるはず。
「娘の紅奈に激甘い野郎ではあるがぁ……CEDEFに、本当に入れるのか? 元マフィアで戦闘能力があるとわかれば、即刻あの家から追い出すのは想像が出来るし、ついでに住む場所の提供はするだろう。自分の組織に入れるっていうのは、可能性が高いことかぁ?」
「クッフッフッフッ」
「…やめろ、骸と同じ笑い方すんな」
「違いますよ、僕の笑い方はクフフフフです」
「んなツッコミはいらねーんだよう”お”ぉおい」
紅奈は、先程よりも深い笑みをニヤリと浮かべた。
「家光には、骸達の過去をぼかしたまま。未だに追い出さないのは、骸達自身が元マフィアだってことにまだ気付いていないからだ。そんな暇もないのか、スクアーロがあたしの家に連れて来たから、それほど心配していないのか、どっちでもいいけど。とにかく、打ち明ける。ここは情を使ってやればいい」
悪い顔である。スクアーロ達は、思った。
「あたしに救われた恩、平穏な居候生活を送らせてもらった恩、その恩返しのためにも、働かせてほしいと頼む。自分達の能力を活かせるように。まだ未熟だけれど、努力をするって訴える。そう言えば、教育するってことも考えてくれるだろう。家を空けた日が多いとはいえ、自分の家に居候して、家族と過ごした子どもを、他所に預けるか? 情は湧いてるはず。沢田家の恩返しだって、強く主張する。ダメ押しで、家光の仕事はカタギではないと言い当てて、そして家光の下で働かせてほしいって懇願だ。ポイントは、情を刺激」
父親をわかっているからこその利用。
容赦ない、とスクアーロ達の心の声は、一致していた。
「紅奈…思ったんだけど」
「何? 千種」
「自分達の正体を明かしたら……今後、紅奈と接触をする機会を奪われない? その危険はないって言えるの?」
元マフィアの子ども達。紅奈はもちろん、綱吉と奈々にも、会わせないように遠ざけるだろう。
千種の危惧を、紅奈は鼻で笑い退けた。
「ハン。あたしのお母さんは、どんなに君達を可愛がっているか、わかってなかったの? 綱吉だって懐いてるんだ。二人が会いたいってせがめば、また家に来れるさ。イタリアで三週間も捜し回った友だちのあたしにすら、会わせないようなら……」
紅奈は、最後まで言わない。
だが、わかっている。
家光が痛い目を見ることだけは、わかるのだ。
その点は、あまり心配ないということである。
「情の刺激となると……僕達の今までの境遇も使えますね。悪いマフィアのせいで、苦しめられる子ども達を救うためにも、未然に防ぐためにも、何かがしたいって訴えてみれば、悪党退治関連の仕事に携われる可能性が上がるでしょう」
「おお、ナイスじゃん、骸。そういう案件を待ってるんだから、それがいい」
こえーな、この大人びた子どもコンビ。
大人の情を容赦なく利用する悪魔二人を、スクアーロは遠い目で眺めてしまった。
「第一プランは、CEDEFの潜入。教育を受けて、情報を得る。第二プランは、衣食住を得ることだ。第二となると、独自で情報収集を任せたいんだが……どんな環境に置かれるか、わからないから、どう動けるか……。そういう方向にしたいわけだが、異論ある? まだ居候生活したい?」
「紅奈…居候生活は、もういいとあれほど言ったじゃないですか……大丈夫です」
居候生活の終わりに躊躇してしまうと思っていることに、骸は苦笑してしまう。
「半年近くもいれば、我が家同然だと思わない? 居心地よすぎたでしょ? 寂しくならない?」
「やめてください、紅奈。沢田家から出にくくなります。特に、犬が」
標的は、骸ではなく、犬と千種だった。
確かに居心地がよすぎた居候生活。否定はしない。犬の目が、激しく泳ぐ。
「まぁ、遊びに来たい時は、また来なさい」
紅奈は、そう笑って見せた。
「お、おうっ! 友だちの少ない綱吉の遊び相手にもなってやるぴょん!」
「…うん」
犬と千種の頷きを見た骸は、紅奈を横目で見る。
一番、居候生活が終わることに残念がっているのは、案外自分なのかもしれないと思ってしまう骸。
紅奈のそばから、離れるのだ。
本当に会えなかった分の一年を埋めるように、一年同居すればよかった。なんて。
「オレはコイツらが下手踏まずに上手くやれるなら、異論はねぇーぞぉ、ボス。暗殺部隊ヴァリアーと門外顧問チームCEDEFを利用するなんざ、とんでもねーボスだなぁ、う”お”ぉおい」
「骸達を勧誘してから、稽古尽くし。そろそろ、動かないとね」
夏休みも、稽古しかしていない。
XANXUS解放のためにも、動くべき。
ニヤリ、とスクアーロは高揚を隠せない笑みを見せるので、紅奈も好戦的な笑みを返す。
「クフフ。ポーンを大きく動かすのですね」
「自分をポーン扱い? 謙虚ね」
「妥当では? ナイトには、まだまだ程遠いでしょう?」
「……ナイト…」
チェスの駒を例えにする骸に笑い返すと、そんなことを言われてしまった。
紅奈は、目を瞬く。
そして、ローナの記憶の中の骸と顔立ちの似た騎士を思い出す。
孤独なローナに、寄り添った騎士。
……私の姫君様…。
ジョットの霧の守護者。名前は、スペード。
彼は、確か………。
「紅奈?」
「んあ?」
「どうしました? いきなり、ぼんやりして…」
「んー。眠いだけよ。ちょっと寝るね、起きたら話を詰めよう。北イタリアのマフィア巡りについての詳細も」
「そうだった!! 本気なのか!?」
「おやすみぃ〜」
「う”おい!」
すっかり今回のイタリア滞在目的が意識の外に行ってしまったスクアーロは、思い出したが、紅奈は毛布にくるまっては眠り始めてしまった。
スクアーロは、しぶしぶ引き下がって、同じく寝ることにして腕を組んで目を瞑る。
骸は、紅奈の寝顔を見つめた。
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