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空色少女 再始動編
420 クリスマス





 小学三年生の二学期が終わる。
 12月25日のクリスマスに、スクアーロは迎えに来た。


「なんでサンタクロースの格好しないの?」

「するかう”お”ぉおおいっ! サンタクロースは24日の夜に来るもんだろうが!」

「え!? なんで知ってるの!?」

「常識だろうが!!」


 さっそく紅奈の洗礼、もとい、からかいを受けるスクアーロ。


「いつもいつも、ありがとうね! スーくん!」

「あっ、いえっ。責任持って、紅奈を預かりますんで」


 紅奈の荷物を背負えば、奈々に感謝を言われたので、スクアーロはおずっと低姿勢を見せる。


「あ。お母さん。スクアーロお兄ちゃん、お母さんともっと仲良くなりたいから、みんなと同じ喋り方にしたいって言ってたの」

「まあ! スーくんが、わたしともっと仲良く? ステキね!」


 ギョッとしてしまうスクアーロ。
 奈々は目を爛々と輝かせて待つ。

 去年から散々どう接するべきかわからず、低姿勢で話してきた奈々に、普段通りに話す。

 い、今更……な、何を言えばいいんだ……!?


「……娘は預かったぞう”お”ぉおいっ!
「誘拐犯か」


 スクアーロ、言葉のチョイスを誤る。

 奈々への接し方に、大混乱してしまうスクアーロ。


「ふふっ! 楽しんできてね! コーちゃんも、骸くんも、犬くんも、千種くんも!」

「いってくるぴょん!」

「いってまいります、奈々さん、綱吉くん」

「…いってきます」


 コントだと思ったのか、笑っては奈々は骸達にも声をかける。


「行ってくるね、ツナくん」

「…うん。コウちゃん、帰ってきてね?」

「うん、帰ってくるよ」


 ずっとギュッと手を握り締めていた綱吉を、紅奈はギュッと抱き締めた。

 綱吉も、むぎゅーっと抱き締め返す。


「んあ? 綱吉、泣いてんのか?」

「泣いてないもん!」


 涙目で綱吉は、強がった。
 からかおうとする犬の首根っこを掴み、骸は先に出る。千種も続いた。


「いってらっしゃい! 紅奈ちゃん!!」


 大きな声で、綱吉は見送ってくれる。

 レンタルしたミニバン型の自動車の窓から、紅奈は手を振り続けてやった。

 ちなみに、空港まで運転したのは、雇われ運転手。

 イタリアでは、普通にスクアーロが無免許運転をしていたが、流石に日本で捕まってはもみ消しが面倒。だいたい、紅奈を預かっては無免許運転で捕まってはまずいのである。

 プライベートジェットに乗り込む前に、発信機や盗聴器の類がないか、念入りにチェック。

 家への連絡用と家光に持たされた携帯電話の中にあり。レンタカーに置いていったことにしよう、と放り投げておいた。

 奈々への連絡など、スクアーロで十分である。





 快適な椅子の背凭れを倒して、毛布にくるまってすやすやと眠る紅奈をスクアーロは確認。

 よし。寝ている、今のうちだ。


「う”お”ぉい、お前ら」


 骸達を振り返り、こっそりと呼びかける。
 顔を向けたところで告げた。


「オレ達のボスには、失踪癖がある。くれぐれも目を放すんじゃねぇぞ」
「誰が失踪癖のあるボスだ」


 紅奈本人から、ツッコミが来てしまう。

 バッチリと、聞かれてしまった。

 振り返れば、紅奈は起き上がって、ぐーっと背伸びをする。


「事実じゃねぇかぁ、う”お”ぉい」

「……今まで一人行動した理由は、骸達と会うためだった」

「…本当かぁ?」

「んー……じっくり考えたけど、やっぱり骸達と会うためだった」


 じっくりと思い出してみたが、失踪ではなく一人行動したのは、骸達と会うためだった。

 失踪させた元凶をスクアーロは、ギロリと睨んだ。

 理不尽である。でも、言わないでおく骸達。


「それで? 今回はヴァリアーに寄らないで、本当に北イタリア巡りをするわけじゃねぇんだろ? 今回は何を企んでいるんだぁ?」

「……え?」

「……は?」


 寝ることをやめて、骸からもらった携帯ゲーム機の電源をつけた紅奈が、きょとんとした。


 いや、待て。なんだ。その反応。


「お前……本当に、観光する気なのか? カモフラージュじゃなく?」

「…ええっと……だめ?」


 きゅるんっ
と目を潤ませて見上げる紅奈。
 すっかり女の子らしくなった紅奈は可愛いとは思うが、ここは怯まない。


う”お”ぉおおいっ! いいのかそれで!? 焦りはどうした!? 稽古もせずに遊ぶのかぁああ!!?


 肩を掴んで揺さぶった。紅奈は嫌そうな顔を背ける。


 必死に仕事を片付けて冬休みをもぎ取ったスクアーロは、このまま四人の年下の子どもと北イタリア巡りをしなければいけないのか。現地集合するベルも含めれば、五人である。
 なんて休みだ!


「なんだ、その顔はっ」


 骸がなんとも言えない顔をしていることに気付いたため、スクアーロは睨みつける。


「いえ……弄ばれる貴方に同情をすべきか、それとも紅奈の演技力の高さに慄くべきか……どちらにすべきか迷ってしまいまして」

「はっ……?」


 弄ばれている? 紅奈の演技力?


 肩を掴んでいた紅奈を見てみれば、んべーっと赤い舌を出された。


 だ、騙された!?


「騙す必要あるか!?」

「ほら、あたし、猫被りをやめたから……演技力を取り戻そうかと思って」

「なんのための演技力だ…!?」

あそ、ゴホン、交渉とかの場面で必要でしょ?」

「今遊ぶって言いかけたよな? なあ!?」


 絶対に、主に自分達を弄ぶための演技力である! 振り回されるのは、小悪魔っぷりで十分だ!






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