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空色少女 再始動編
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「では、配りますよ」


 裏返しのままのトランプを、交互に配られた。

 チラッとカードをめくって確認した紅奈は、無表情だ。
 家光も自分のカードを見たが、悪くない。ツーペアだ。

 通常、52枚のカードでやるポーカーは、揃う確率が低い組み合わせのものが強い。

 弱い順で言えば、ハイカード。
 ワンペア。
 ツーペア。
 スリー・オブ・ア・カインド。
 ストレート。
 フラッシュ。
 フルハウス。
 フォー・オブ・ア・カインド。
 最強が、ストレートフラッシュである。

 最弱な組み合わせのハンドであるハイカードは、50パーセントの確率。

 紅奈のハンドは、高い確率でハイカードのはずだ。普通は。


 だがしかし、家光の愛娘、紅奈は普通ではないのである。


 五枚のカードを、ひっくり返して見せた紅奈はハンドを明かす。


「ストレート」


 ずらりと数字が綺麗に並んだカード。

 目を点にして、家光は固まった。


「…………」

「失礼します」


 骸がスッと家光のカードを捲る。


「おや、ツーペアですか。紅奈の勝ちですね」

「まあ! これ、コーちゃんが勝ったの? すごいわ、コーちゃん!」


 のほほんと笑っては、紅奈の勝利にはしゃぐ奈々。


「じゃあ、コーちゃん達のイタリア旅行は」

「ま、待ってくれ! 三回勝負! 頼む、紅奈! 三回勝負しよう!? あと二回で、父さんが勝ってみせる!」


 なんとか冬のイタリア旅行を阻止したい家光は、三回勝負を提案。あと二回で、ジョーカーを勝ち取るという宣言。

 普通ならば、すでに勝敗は決まっていて、紅奈はイタリア旅行に行く権利を勝負で得たのだが。


「……いいけど。その代わり、そっちが次に賭けるのは」


 家光の前から、ジョーカーを引き寄せた。

 チップ代わりに賭けたジョーカーが、紅奈の手に二枚。

 勝負を続けるなら、チップ代わりに何かを出さないといけない。


「骸達の旅行費、全額」


 デカい要求がきた。

 紅奈の旅行費は、もちろん家光が出すが、骸達の分は責任持って連れて行くスクアーロと、せめて割り勘。


「いや、でも……紅奈? 頭がいいからわかるだろうが、骸達の生活費だってお父さんが出してるから、ちょっと全額はキツいかなぁー」

「今年はずいぶん仕事に行っているのに、稼いでいない、と?」

「あなた、生活費は十分、やりくり出来てるわよ?」


 やんわりと全額回避したい家光だったが、否定出来ないことを紅奈と奈々に尋ねられて、答えられなくなった。

 稼ぎは十分だし、家計を任せている奈々の言う通り、大丈夫なのである。


「ま、まぁ、いい。父さんが頑張ろうっ」

「あの、家光さん」


 要は勝てばいいのだ。

 勝負に挑もうとしたが、カードを集めた骸が名を呼ぶ。


「差し出がましいとは思いますが……居候の身として、言わせてもらいますと」


 紅奈に目を向けたが、紅奈は無反応であったため、骸は家光に警告してやった。


「やめた方がいいですよ。勝負を持ちかけた紅奈は、必ずと言っていいほど勝ちますから」


 控えめに、にこりと笑いかける。


 それは……もしや……超直感を使っている、のか……?


 いやいや、まさか。トランプゲームの勝利を直感で確信するなど……。
 まだまだ、紅奈は子どもだ。


「あと、紅奈が計画してくれたイタリア旅行……冬休みを丸ごと使って、北イタリアを巡るという観光なので……負担が大きいかと」


 骸が少々同情の目になっていた。

 それを聞かされては、逆効果である。


 嫌だと拒めないではないか。金銭問題を骸に気を遣われてしまったし、まだ未成年であるスクアーロにそれを負担させるだんて、大人のプライドが傷付く。(日頃、大人げないが)


「いや、大丈夫だ! 旅費全額を賭けに出そう!」


 プライドで、それを賭けに出した。
 プライドだけを示して、勝てばいいのだ。

 家光はチップの代わりに、腕時計をテーブルの上に置いた。


「そうですか。では、シャッフルをしますが……これは、本当に一回限りの運になります。公平に、二人もシャッフルに参加しませんか?」


 手元に来た五枚のカードで、勝敗が決まる一発勝負。

 公平さを示したい骸は、カードをザックリと半分に分けると、紅奈と家光の前に置いた。

 紅奈が先に、シャッフルをするので、家光もシャッフル。

 骸の手に戻せば、それを合わせて、またシャッフル。


「では、配ります」


 交互に配られた五枚のカード。


 いい手よ来い。念じて、家光は捲って確認。


 スリー・オブ・ア・カインド。さっきのツーペアより、いいハンドである。


 これは勝てる!


 だいたい、最弱ハンドのハイカードは、50パーセントの確率。
 今度こそ、紅奈はハイカードに違いない。


「8のカードが三枚! スリー・オブ・ア・カインドだ! 悪いな、紅奈」


 愛する妻の前だ。キリッとかっこつけては、表にしたカードを開いて置いた。


「フルハウス」

「!?!?」


 紅奈がスチャッと置いたのは、10のカードが三枚とAのカードが二枚揃ったハンド。
 目が飛び出るかと思った。


(だから警告をしたのですがね……)


 骸は突っ伏した家光を憐れむ。


 トランプゲームだけの話ではないのだ。

 紅奈は稽古でも自分の調子がいいと思った時に、一対三を持ちかけては低い確率で出来る死ぬ気モードになっては勝つし、イケると思ってスクアーロの真剣を蹴り折った。

 自分の勝利を直感した紅奈には、勝てる見込みは低いのだ。
 最早、予知の領域かもしれない。





 

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