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空色少女 再始動編
417 ポーカー




 これでは、紅奈が一人で、またイタリアに行くことになる。


 またもや! 暗殺者のスクアーロに連れられて!

 阻止! 阻止せねば! もれなく、ベルがついてくるに違いない!

 要注意人物トップのベルと、他男子がぞろぞろと紅奈と旅行!


「お母さんも弟も、家にいるのに、お姉ちゃんが行くのか? コウ」


 なるべく、なるべく、優しく声をかける。


「骸達にも、イタリアにいい思い出を作ってほしい…」


 イタリア愛、強し。
 静かでいて、意志の固さを感じる紅奈の声。


「で、でも! ほらっ! 骸達を狙う悪い大人と会ったら、危険だしな!」

「あら。それはもう大丈夫だって、スーくんが言ってたわよ? 警察がしっかり逮捕してくれたのかしらねぇ?」


 スクアーロが、大丈夫だと言った。


 骸達が一体どんな目に遭い、どんな相手に追われていたのか。

 子どもの危うい部分に迂闊に触ってはいけないと、紅奈で学んだ家光には、深く探ることは出来なかった。

 大人びた骸でさえ、俯いては言葉を詰まらせて、黙り込んでしまうほどの体験をした三人。

 奈々と綱吉から聞く限り、いい子ども達である。家事を手伝うし、綱吉とも遊び、一緒に勉強をした。

 長らく暗くなってしまった家を、賑やかにしてくれた居候。

 調べさせたが、イタリアで骸達が関係しそうな子ども関連の犯罪事件は、見当たらなかった。

 スクアーロが手を下した……わけではあるまい。いくら血を好むとはいえ、それはあり得ないだろう。


 家光はまだ、ヴァリアーがとあるファミリーの残党を処理した情報を手に入れていなかった。


「双子クイズ」


 何か阻止する理由はないかと頭を働かせていたが、紅奈の声を聞いて止まる。


「覚えてる?」

「あ、ああ……ツナとコウを見分けて当てる……ゲームだったな」


 帰る度に仕掛けられた双子クイズ。
 間違えれば、紅奈が要求を突き付けてきた。


「コーちゃんとツーくん、時々間違えちゃってたものね!」


 奈々の言葉を聞きつつ、懐かしい、としんみりする。

 あの頃は冷めた目をしつつも、ちゃんと家光と目を合わせてくれていたのだ。そっくりな綱吉と一緒に、見上げてきた紅奈。

 今、紅奈は、目を伏せていて、家光と目を合わせようとしない。


「それと同じ。勝負しよう。あたしが負けたら、冬のイタリア、諦める」


 ホッとした。紅奈は諦めてくれるらしい。
 それならば、しぶしぶながらも紅奈は引き下がってくれて、穏便に解決だ。


「それはいいな! なんの勝負だ? 今は双子クイズなら、父さん勝てちゃうぞ!」


 冗談を言って笑ってみせたが、紅奈は笑わない。


「骸、呼んできて、ツナくん。あと、トランプ」

「あっ、うん!」


 紅奈の頼みを引き受けて、綱吉はとととっと部屋で待機中の骸達がいる二階に向かった。


「お! トランプゲームか? 何で勝負だ? ババ抜き? 七並べ? 神経衰弱か? どれも強いぞ!」


 勝負だとしても、紅奈とゲームをするのだ。一歩仲直りへと前進した気がして、家光ははしゃいでしまう。

 紅奈は綱吉の椅子に移って、家光と向き合うと告げた。



「ポーカー」



 思わぬゲームに、目を点にした家光。


「へっ?」

「ルール。知ってる?」

「も、もちろんだ! 父さんに知らないことはない!」


 胸を張ってしまったが、家光は後悔する。ここで知らないと嘘をつけば、ポーカーをしないで済んだかもしれない。


「まあ! ポーカーってあれ? テレビのドラマでカジノとかでやるトランプゲーム! コーちゃんってば、そんなゲームまで覚えたの!?」


 奈々がすごいわー、だなんて、目を輝かせてしまう。

 本当に先月9歳になったばかりの娘は、何故ポーカーを知っているのやら。


 スクアーロか!? ……いや、アイツはトランプゲームなんてするだろうか…?

 一瞬にして、疑いが晴れるスクアーロだった。


「骸。ディーラー、よろしく」

「はい。任されました」


 やってきた骸が、トランプをテーブルの上でパラパラとシャッフルする。

 手慣れすぎているトランプの扱いを見て、家光は察した。

 大人びた骸が教えたに違いない。いきなりディーラーと言われても、全然躊躇なく引き受けた。犯人はコイツだ。

 骸は家光の視線に気付かないふりをした。


「ハッ! コウ! ポーカーっていうのはな、先ずはチップとかを用意して、勝負する大人のゲームだから」


 他のゲームにしよう、と提案しようとしたのだが。


「単純にハンドだけで勝負。賭けるは、この二つ」


 紅奈は骸が外したジョーカーを二枚、自分と家光の前に置いた。


 揃ったカードをハンドと呼び、その種類によって強い弱いがあるトランプゲーム。


 本来なら、チップを出し合っては、そのチップの数や表情や仕草で心理戦を行う、駆け引きをするゲームなのだが。


「先に二枚手に入れた方が、望みを叶える。一回の勝負」


 チップの代わりに、ジョーカーのカードを賭ける。

 シャッフルしたあとに、一度配られたカードだけで挑む。

 運だけで、一発勝負。

 勝った方が、要求に応えてもらう。

 父と娘のイタリア旅行を賭けたポーカーゲームである。


「………」

「おや? 家光さん。僕は公平にトランプを配りますよ? クフフ」


 勝負の行方は、シャッフル次第。
 家光から疑いの目を向けられた骸は、笑って見せた。

 娘にポーカーを教えた奴が、ズルしないとは限らないではないか。


「なんなら、家光さんがシャッフルしますか?」

「…いや、信じよう」


 さっきから念入りにシャッフルをする骸に、怪しい動きはない。子どもがイカサマするなど、警戒することないだろう。




 



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