空色少女 再始動編
415 チェックメイト?
翌日は、ベルと対決。
森の中で、木々を駆けては、幹を蹴り上げ、枝を飛び移る。
ベルが放つワイヤー付きナイフをかわし、叩き落とし、攻撃の隙を狙う。
接近戦を避けたいベルの怒涛の攻撃は、止まない。それを掻い潜る紅奈。
しかし、ピリッと紅奈の腕に切り目がついて、動きを止めた。
「うしし!」
「……」
殺しの天才ベル。
紅奈がかわしては跳ね除けたナイフについたワイヤーで、包囲。動き回りながらも、計算された動きで追い詰めたのだ。
「これってキングに初勝利? うししっ! チェックメイト!」
動きは、封じた。
ベルの完全勝利。
そう思われたが。
スパパパンッ!
紅奈は一回転をすると、ワイヤーがピンッと弾けるように切れた。包囲されたはずの紅奈が、自由の身。
「詰めが甘い。ベル」
「っ!」
紅奈の手には、ベルの贈ったナイフ。
銀とオレンジ色のラインが煌めいた。
あげるべきじゃなかった、とちょっと後悔するベル。
的確に動きを邪魔するワイヤーが、切断されたのだ。
「で? なんだっけ?」
紅奈は、ひょいっとナイフを一つ、拾った。
「キングをチェックメイト? 笑わせんなよ。プリンス・ザ・リッパー」
ニヤリ、と笑う紅奈。なんとも凶悪的に、目がギラついていた。
ゾクッと感じたベル。
恐怖か、または興奮か。ゴクリ、と息を呑む。
ナイフを両手に構えて身を引くする紅奈に合わせて、ベルもずらりとナイフを出しては身を引く構えた。
ピクリ。
目を覚ましたベルは、痛む身体で起き上がった。
「オレ……記憶ねー」
「ちゃんと手当てしたよ」
ぴとっと、頬に当てられたのは、冷えた缶ジュース。
それを受け取ってから、ベルは怪我した場所を探す。右腕に包帯が、巻かれた。
「……紅奈は?」
「大抵、避けた。三ヶ所、大きな絆創膏で済んだよ」
「………そ」
紅奈を見上げてから、ベルは改めて身体を確認。相当ボコボコにされた痛みを感じた。
本当に、叩きのめされたらしい。
一人称オレが出ていた紅奈を、両親にバラした罰。
ベルは自分の血を流すと、さらなる本領発揮をするというのに、それでも通常モードの紅奈にも勝てない。
何度手合わせしても、勝てないのだ。せっかく、初勝利が出来たかと思ったのに。
「……結局、どっちなの?」
「何が?」
「紅奈のオレ口調って、前世からなの?」
「……んー。いや、わからん。覚えてないって。性格も、口調も」
首を傾げて見上げるベル。
「なんでベルって、そんなにあたしの前世を知りたがるの?」
「……気になるじゃん」
好きな人のこと。知りたいじゃん。好きな女の子のこと。
「今のとこ、ボス以外で知ってんの、オレだけだしぃ。ボスの代わりに、聞く役する。ずっと、これからも、オレが聞くし」
にぃっと笑って見せた。
「だって、オレは紅奈の王子だもん♪」
ベルを見下ろした紅奈は、骸もベルから盗み聞きして知っているという話は、しないでおこうか。
元々、ベルもXANXUSに話しているところを聞いただけなのである。
紅奈は、水を差さないでやった。
よしよし、と頭を撫でておく。
「ベルって自分の血を見れば、トブじゃん? 任務中も、やるの?」
「あー。夏休みの任務中に、一回トンだ」
「……めちゃくちゃにした?」
「………任務は、無事完了したし」
めちゃくちゃにはしたか。でも一応、任務完遂。
「マーモンのフォロー?」
「……」
むっすーっと唇を尖らせるベル。図星だ。
お目付け役マーモンのフォローか。
どんなフォローをしたのやら。今度会ったら、聞いてみよう。
「失敗はしてないから!」
「ん? いや、疑ってないけど」
「ヴァリアークオリティ」
「はいはい、ヴァリアークオリティ」
「いっ…」
バシッと、紅奈に背中をはたかれたベルは、痛みが走った。泣き言は堪える。
「じゃあ、また来月」
「…ええー? っ」
またもや、紅奈にはたかれたベルは、呻きを飲み込んだ。
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