空色少女 再始動編
414 新たな装備
沢田家、家族会議。
と称した大黒柱の家光の宣言がされた。
「春休みと夏休み! 旅行に行けなかったが! 冬休みは行くぞーっ! おおーっ!!」
一人で気合いを入れている。
「父さん、頑張るからな!!」
「頑張って! あなた!」
「がんばれ!」
「……」
奈々と綱吉が、エール。
イタリア旅行一択な紅奈は、ただただ黙って聞いていた。
銀色に煌めく膝のプロテクター。ルッスーリアも使っているためその意見を取り入れて、スクアーロが作らせた特注品。
軽めだとは思えるが、戦闘用の装備である。重さは十分。
そのプロテクターをつけた紅奈の膝蹴りを受けた栄えある第一号は、ベル。
かわし続けるという選択肢もあったのだが、あっという間に、間合いを詰められては、思いっきり溝に食い込まされて、撃沈。
ベルが蹲る傍らで、紅奈はひゅんひゅんと蹴りの仕方を確認した。
「紅奈の戦闘能力の向上が……著しいなぁ…」
再始動してからというもの、スクアーロは思っていたのだ。
今年の始めに、一年ぶりに剣を交えたが、その斬撃は想像以上に重かった。
紅奈がキレていたせいもあるだろうが、それから今日まで、成長が早すぎる。
「もう追い抜かれそうですか? 紅奈に」
「ハンッ! まだまだだぜぇ」
骸の軽口に、スクアーロは鼻で笑い飛ばす。
「……やはり、焦っているせいですかね」
「…それがないとは言えねぇが……」
強くなるために、焦っている。早くXANXUSを救い出すための焦り。
それがないはずはない。
だが、それだけじゃないはずだ。
スクアーロは、ニヤリと好戦的に笑った。
「覚悟がちげぇんだよ。最強になる覚悟がなぁ」
成長するごとに、近付く目標。
実現させる意志と覚悟の強さは、増すばかり。
「う”お”ぉおいっ!! 紅奈! オレも相手しろぉ!!」
早く立てと言わんばかりに、蹲るベルをげしげしと軽く足で揺さぶっていた紅奈に、声を張り上げた。
スクアーロが贈ったシュシュで髪の毛を丸くまとめた紅奈が、くるっと振り返る。
次の瞬間、紅奈は上から膝を叩き付けようとした。
スクアーロは、プロテクターを剣で受け止める。そして押し退けた。
「いいね、これ。……威力を増したら、スクアーロの剣、折れる?」
「オレの剣を折るだぁ? やれるもんなら、やってみやがれ!」
「へぇ? いいの? んじゃあ、その稽古用の替えの剣、持ってる?」
地面に着地した紅奈は、ニヤリと挑発的に笑いかける。
「は? 一本予備があるが?」
「ふぅん。じゃあそれ――――死ぬ気で、蹴り折る」
ペロリ、と自分の唇を舐めては、屈むように構えた紅奈の様子が変わった。
フッと灯る橙色の炎。
死ぬ気モード。
ゾクリ、とスクアーロは、興奮を覚えた。
紅奈と死ぬ気モードで戦うのは、二年前以来なのだ。
成長した紅奈のさらなる本気。ゾクゾクする。
「死ぬ気で来い!!!」
笑みをつり上げて、スクアーロは剣を振り上げた。
昔と変わらず、紅奈は俊敏である。
素早すぎる上に、隙を突くことが上手く、さらには強烈な一撃をかます。
紅奈のその強烈な一撃である膝蹴りを受け続けた剣は、本当に折れた。
最早、剣を折るために、一カ所を狙い続けた攻撃ばかりだったのだ。
自分との戦いの最中で、剣を折る目的だけを果たした。
「ふぅー。やっぱ、スクの剣を折るのは、しんどいね」
「うしし。コウ、全然スクアーロに、剣振らせないように立ち回ってたじゃん」
「流石に切られちゃうもん」
「剣は振れば切れるものなのですが……本当に蹴り折りましたね」
コンコン、とプロテクターを意味もなくノックしてみる紅奈に、ベルと骸が話しかける。
「蹴りを入れてからの、押し返される前にスクアーロの頭を掴んで後ろに回った時なんて、いい動きじゃん」
「そこで顔面に入れたかったんだけど、かわされたぁー」
「身軽にかわしては、突撃するように間合いを詰めるので、懐に入られると長い武器で対応するのは難しいのですよね」
「身軽さも武器にしなきゃ。接近戦なら、詰めて詰めて攻撃だよ」
同年代同士が、今の戦いについての話で盛り上がっていた。
「う”お”ぉおおいっ! 紅奈! もう一回やるぞぉ」
「え? 無理。今日の死ぬ気モードは、もう閉店しました」
「再開店しろぉお!!」
予備の剣も折ってみろ、とスクアーロが言い出すため、紅奈はきっぱり断る。
「負けたから、リベンジに燃えてやんの」
「負けてねぇぞう”お”ぉおいっ!」
「負けですよ、紅奈に剣を折られるか否かの勝負だったのですから」
嫌なコンビのからかい。
負け負け言われて、青筋が立つスクアーロ。
だが、しかし。確かに、剣を折った紅奈の勝ちなので、スクアーロの負けのようなもの。
「マジで無理〜。死ぬ気モードじゃないと、スクの斬撃はまだ避け切れない〜。血を出さない木剣にしといて。通常モードで、やるよ」
「…ちぃ」
目立つ怪我を避けたいのだ。ザックリ切っては、主治医のシャマルに気付かれてしまう。
今日はプロテクターで、スクアーロの真剣相手の戦い方を把握したいと言い出した紅奈のために、つけていたのだ。
「で? 紅奈は死ぬ気モード、どれぐらい発動出来るようになったんだぁ?」
「ん? いや、てんでバラバラ。直感でイケるって思った時には、なれるようになった感じ。その頻度は、少ないわね。自由自在は、まだまだ先」
「……そうかぁ。じゃあ、自由自在に死ぬ気モードになれた頃には、オレの斬撃をかわせなくしてやるぜぇ!」
「言ったな? やってやろうじゃん」
挑発的で好戦的な笑みを向け合う二人。
そこに、どーんっと割って入るのは、ベルだ。
紅奈を、横から抱き締めた。
「今日の稽古相手は、オレがメイン!!」
「バッ! てめーは、いい加減にやめねぇか! ボスにベタベタすんじゃねーよ!!」
「嫉妬ーっ!」
「嫉妬じゃねぇえ!!」
ベルが今日の稽古相手は自分だと主張したが、ガッと頭を掴まれて紅奈に引き剥がされる。
「今日はスクを相手にしたい気分」
ガーン。ベル、気分により、スクアーロに敗北。
「スク、もう数日、ベルを借りてていい?」
「!」
「あ? 稽古相手に日本に残せって言うなら…まぁ構わねーが」
「それでよろしく」
滞在延長の許可が下りたとベルは、パッと明るさを取り戻しては、抱き付き直す。
今度は、スクアーロに首根っこを掴まれて引き剥がされた。
「家光の野郎が、冬休みに向けて仕事を片付けるつもりだから、その分、家を空けるが多いだろう。その間、この戦闘スタイルを、しっかり身体に慣れさせる」
屈伸した紅奈は、スクアーロと再び手合わせをする。
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