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空色少女 再始動編
410 10月14日





 そして10月14日。

 沢田家の双子、紅奈と綱吉の誕生日。

 7歳の誕生日は、紅奈が事故に遭った直後で、危険な状態が続いたため、祝えることはなかった。
 8歳の誕生日も、紅奈はまだ寝伏せっていたため、祝えなかった。

 だから、二回分も含めた誕生日会だと、奈々も家光も気合いを入れる。


 ルンルン気分で、リビングを飾り付け。

 ポッカーンとしてしまう骸達は、まともに誕生日を祝ったことがないため、飾り付けなどわからない。
 なので、紅奈と綱吉で教えた。


「おいおい、主役はどーんっと構えてればいいんだぞ〜」


 なんて家光が、主役は飾り付けをせずに見ていればいい、と言ったのだが。


「ツナくんのため」


 紅奈は目を合わせることなく、ツンッと言い返した。

 主役は、一人ではないのだ。同じ誕生日である綱吉のために、飾り付けをする。


「ぼ、ぼくも! コウちゃんのために、キラキラにする!」


 横で紅奈の発言を聞いた綱吉は、息巻いた。

 そして、ベルがサクサクと切っていったキラキラの紙を、輪っかにしては繋げる作業を続ける。

 紅奈は近付くなと言わんばかりに、しっしっと手を振っては家光を追い払った。

 誕生日の主役に追い払われた家光は、シクシクしながらも、千種が黙々と膨らませる風船を壁の上に飾る。


「紅奈……この輪っかの長いの、なんて言うんら?」

「これは……なんだっけ」

「わっかのかざり!」


 犬が作っているものはなんなのか、と尋ねてきた。

 そういえば、これの名称はなんだったか。

 紅奈が首を傾げれば、綱吉がどやっと言い切った。
 違う、そうじゃない。


「これはな!」

「ガーランドって言うんだよ、うしし」


 家光が振り返って教えてやろうとしたが、ベルが先を越す。


「元々、勝利とかのしるしでプレゼントする花かんむりのことを言ってたけど、今じゃあこうやって飾り付けるやつのことを言うようになったんだぜ。ワイヤーで吊るして飾るやつな。ハッピーバースデーって文字を書いた紙を並べて吊るしたりするし、花だってつけたりしてキレーに飾ったりするんだぜ。
 まぁ、オレは流石にこんな手作り感たっぷりに飾り付けするのは初めてなんだけどー」

「ベルくん、すごい!」

「へぇ、知らなかった」

「だって、オレ王子だもん♪」


 にんまり。得意げに知識披露。綱吉だけではなく、紅奈にまで感心されて、上機嫌でベルは骸に勝ち誇った笑みを向けた。

 イラッとする骸だったが、顔に出さないでおく。


 家光も、自分よりもしっかりと教えたベルに、敗北感を覚えた。


「そう言えば、イタリアでは自分でパーティー開くんだよね? スクアーロお兄ちゃん」

「あ”? ああ、そうだったなぁ。子どもの頃は流石に祝ってもらう側だが、大人になればもう自分で主催するって感じだぞぉ」

「スクアーロお兄ちゃんは、開いたことなそう……」

「ねぇが……その憐みの目をやめろ」


 絶対に呼ぶ人がいないと憐みの目を向けているだろう、と壁の飾りつけをしていたスクアーロは、ぴくぴくと眉を震わせた。

 骸も笑いを堪えているし、ベルはオープンに笑っている。
 稽古で叩き潰す! と決めておいた。


「なんで我が子の誕生日会にまで来やがるんだ! スクアーロ!」

「あ”あ? なら追い出すかぁ? 紅奈はキレるだろうし、綱吉は泣くぞぉ?」

「うぐっ!」


 風船を壁に貼る作業をしながら、こっそりと家光はスクアーロに苦情を言うが、今更追い出せない。


「どうせ居候もいるんだから、変わんねーだろうがぁ」

「ぐうっ……!」


 居候がいる時点で、家族のみの誕生日会など無理なのである。


「お前は……ふてぶてしくなったな」

「うるせぇぞぉ……オレを差し向けた自分を恨むんだなぁ」


 躊躇なく出入りするようになったスクアーロだが、発端は家光。

 イタリアに行く度に、べったりするほど懐いていたスクアーロに、紅奈に会ってほしいと頼んで、送り込んだ。

 紅奈は立ち直ったし、奈々も大喜び。

 我が家の恩人と言っても、過言ではないのだ。

 家光も、邪険には出来ない。

 また笑い声が消えて暗くなった我が家になってしまうことは、避けたいのだ。

 こうして、賑やかな方がいいのだろう。
 諦めて、息を吐いては、肩を竦めた家光。


 スクアーロは横目で見たが、何も言わずに作業を続けた。

 紅奈を立ち直らせたのは、スクアーロでないのだが、都合のいい思い込みは、そのままにしておく。



「てかバースデーケーキって、一個? この人数じゃあ足りなくない? ロウソクの願い事、どうすんの?」


 ベルがもう紙を切らないように紅奈が止めておくと、それを尋ねた。思い浮かぶのは巨大なケーキである。

 どうせ、すでに大量の料理が並べられているのだ。ケーキはこじんまりで十分だと思う。骸達一同は、切に願った。


「昨日作ったのが、二個ある」


 紅奈は二本指を立てて教える。
 サイズはどのくらいだ。


「一個は、あたしが作ってみた」


 !!?


 ついに、紅奈がケーキを作った!
 紅奈の手作りケーキ!

 別腹である!


「願い事ってなんら?」


 きょとん、と犬が問う。


「は? 何? 知らないの?」


 ベルは、呆れた。


「ケーキのロウソクの火にフーしてお願いするの! 言っちゃだめなんだよ!」

「日本は、普通お願い事をしないんだよ。犬達が知らないのも、無理ないんじゃない」

「えっ!? そうだったの!?」


 日本にない習慣だと知り、びっくり仰天してしまう綱吉。


「一息でロウソクの日を消せれば、一年以内に叶う。二息で、二年以内。吹き消す時に願ったことは、誰かに言ってはいけない。日本以外の国では、みんなやってるんじゃないかな?」

「そうでしたか……イタリアにいても、まともに誕生日を祝っていないので、全く知りませんでしたねぇ」


 しみじみと骸は、部屋を見回す。着実と飾られるパーティー会場となるそこ。


「は? 何それ。同情を誘う発言? うっぜー」

「クフフ。そう聞こえますか? 変な耳ですね」



 バチバチ。今日も今日とて、ベルと骸は火花を散らせ合う。


「あん? ケーキが二つあるってことはぁ、紅奈と綱吉の分か? 別々なのか?」


 それなら、間違いなく綱吉の方が紅奈が作ったケーキに違いない。
 そう思った一同だが。


「違うよ。いつもは、一つ。今日はパーティー参加者が多いから、その分」


 紅奈はカサカサとガーランドを持っては、質問したスクアーロに渡した。


 つまり、片方は家族の分であり、片方は、パーティー参加者。

 つまり、つまり。紅奈のケーキは、家族の方だろう。

 家光がニヤッと勝ち誇った笑みを、ベル達に向けた。物凄く大人げない。


「イタリア流にもてなして、お客さんの分は今日の主役であるあたしが作ったものだよ」


 !!!


「初めてのケーキ作りだから、ご愛嬌でよろしく」


 パーティー参加者の方が、紅奈のケーキだった。
 家光、撃沈。


「紅奈は相変わらず、イタリアが好きですね。クフフ」

「アモーレイタリア。今年はもう一回、イタリア行きたいなぁ」


 紅奈の希望を耳にして、家光はぴしりと固まった。

 紅奈が冬休みにイタリア旅行をご所望するに違いない。

 目が激しく泳ぐ家光。

 大丈夫か、コイツ。スクアーロは、不審者を見る目で家光を見た。








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