空色少女 再始動編
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沢田家に帰ると、家光の靴があった。
連絡なしに帰ってきたらしい。出迎えた骸は苦笑し、犬と千種はげんなりしている。
奈々は絶賛、大量の料理作りをしているに違いない。
朝の稽古は、お預けだ。
それぐらいしか、二人になれないため、骸は前世について訊き出せないと落胆した。
翌日。
昼食を終えたあとの休み時間。
本日は、サッカー。紅奈とは敵チームである生徒は必死にドリブルをする紅奈に食らいつこうとするが、かわされてかわされて、死屍累々と化す。
そのまま、シュートである。
「沢田〜! オレ達にもボールを回してくれよー」
「えー。なら、ゴールの手前にいてよ。パスするから」
味方チームには、味方チームで悩みがある。紅奈がいるだけで勝ちが決まったも同然だが、活躍が出来ない。
主に身体を動かしたい紅奈だが、チーム戦。協調性を示しておく。
続けていれば、ガコンッとゴールのクロスバーに当たって、あらぬ方向に飛んで行ってしまうサッカーボール。
「あたし、取ってくるー」
どうせ紅奈の方が、足が速いのだ。
ダーッと駆けては、ボールを拾う。
そこで植木の後ろに、ひくひくと肩を震わせて泣いている女子生徒を見付ける。
「…どうしました?」
見たところ、高学年の女子生徒のようだ。声をかければ、びくっと震え上がった。
「具合悪いんですか?」
顔を覆っていて、よくわからない。女子生徒は答えなかった。
とりあえず、遊び友だちが待っているので、紅奈はサッカーボールを蹴り上げて、コートの方に飛ばす。
「どうしたの? コウちゃん」
観戦していた綱吉と正一が、駆けつけた。
「わかんない。
保健室、行きますか?」
ぽん、と肩に手を置いて、紅奈はまた声をかける。
やはり、女子生徒は答えようとしなかった。
「……誰かに泣かされたの?」
具合が悪いのではないと判断して、紅奈は前の方に回り込んではしゃがんで尋ねる。
女子生徒は、またしくしくと泣きじゃくった。
「ハンカチ」
紅奈はハンカチを取り出しては、顔を拭わせてほしいと促す。
ゆっくりと顔を上げた女子生徒の顔は、涙でぐちゃぐちゃである。
丁寧に拭ってはもう一度何があったのか、尋ねた。
ぽつりぽつり、と女子生徒は話す。
五年生である女子生徒は、好きな男子に呼び出されて告白された。自分も好きだと言ったら、笑い出されては、嘘だと言われてしまったのだ。
また嘘コクである。
「その男子。どこにいます?」
「コウちゃん! 悪いことだめーっ!」
「ええ? でも、こんなに泣いてるんだよ? シメ上げよう?」
くりん、と首を傾げて見せるが、言っていることは物騒だと、綱吉にもわかった。女子生徒は、震え上がったくらいだ。
正一も、慌てて止める。
「で、でも、五年生だし…! コウちゃんが危ないよ!」
「大丈夫大丈夫。中学生が九人いても、負けないから」
「そうなの!?」
たかが、小学生。怪我を負うのは、あっちだけだ。
「あー、でもぉ……お母さんに迷惑かかるかぁー」
ぶん殴って反省させるって、本当に楽だけど、カタギ相手はそうはいかない。
昨日も、暴力沙汰ギリギリだった。奈々が呼び出されてしまう。今ならもれなく、家光まで来る。面倒だ。
今回は年上だから、言葉責めによる精神攻撃が効くだろうか?
しかし、紅奈としては、挑発の言葉しか思いつかない。そして、喧嘩をする流れである。
そこで、後ろをグスンと鼻を啜りながら、歩く男子生徒が通った。
四人で目を追ってしまう。
「お兄さんも、嘘コクされたの?」
「うっ! うるさいっ!」
直感で言えば、年上であろう男子生徒は、声を上げて逃げ去ってしまった。
流行りの嘘コク。
深刻なもよう。
イラッとした紅奈であった。
「好きになった奴が悪かった。泣いて泣いて、すっきりしておけばいいよ。もっといい男はいるから、安心して忘れちゃいなさい。そいつだけじゃないから、男なんて」
ぽんぽん、と二学年上の女子生徒の頭を撫でて励ます紅奈。
ポカン、としてしまう女子生徒だった。
とりあえず、コクコクと頷いて見せる。
そして、昼休み終了のチャイムが鳴り響いた。
その放課後。
いつものように、綱吉と正一と合流しては、帰ろうと廊下を歩いていたが、ふと開いている窓から怒鳴り声のようなものが聞こえた。
覗いてみれば、ちょうど男子生徒が女子生徒に突き飛ばされたところを目撃。
ランドセルを背から落としてから。
「コウちゃぁあーんっ!!?」
三階から飛び降りた。
流石にこのまま着地は足を痛めると思い、二階の窓縁を掴んでは一度勢いを殺しては、そのまま地上に着地。
「何してるんですか?」
パンパンッと窓縁を掴んだ手をはたいて、紅奈は二人に歩み寄る。
突き飛ばされた女子生徒は、泣いていた。
「な、なんだよっ、お前っ」
男子生徒は、三階から降ってきた紅奈に動転。
「なんで突き飛ばしたんですか?」
紅奈はもう一度、威圧的に尋ねた。
「だ、だって! コイツが嘘コクしてきたから!」
カッとなって、突き飛ばしたということ。
また嘘コクかよ。
呆れる紅奈。
「だって! だって! 罰ゲームだからっ…! しないとっ! わたし、仲間外れにされちゃうっ!」
泣きじゃくる女子生徒は、罰ゲームで強制的に嘘コクをさせられた、と。
これまた深刻である。
「ねぇねぇ。お兄さん、お姉さんを許してあげて? だめ?」
紅奈は上目遣いで優しく声をかけた。多分、彼らは六年生だろう。
「えっ」
「だって、仲間外れ、怖いもん。お姉さんも怖かったと思うの。お姉さんも嘘ついて、ごめんなさいして、仲直りして? ね?」
ちょっと悲しげに眉を下げて、二人に言う。
二学年も年下の女子生徒に言われては、そう簡単に抗えない。
しぶしぶと男子生徒は、女子生徒に手を差し出す。
突き飛ばしたこと、そして嘘コクをしたこと、互いに謝った。
「ありがとう!」
紅奈は無邪気に笑ってから、綱吉達が慌てて出てくるであろう昇降口へと走る。
「コウちゃんケガない!?」
「大丈夫!?」
「大丈夫だよ。持ってくれてありがとう」
落とした荷物をしっかり持って来てくれた二人に、感謝して受け取った。
「ど、どうしたの? 何があったの?」
「ん? また嘘コク問題」
「ま、また?」
正一も、呆れてしまう。
「な、なんか、ひどいね」
「そうだねー。来週の朝礼で解決させよう」
「へっ?」
帰り道を進みながら、そう話した。
「紅奈ちゃん…? 解決って?」
「見てるとイライラするから、解決する」
にこっとだけ、紅奈は笑って見せる。
怒っているな…、と綱吉と正一にはわかった。
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